「宝塚キキ沼に落ちて vol2」の続きです。
「宝塚キキ沼に落ちて vol1」において、明日海さんが月組時代、オスカルを演じたことは、書きました。同時に、役代わりでアンドレイもなさっているんですが、私から見れば、ですが、どちらもお人形さんみたいで無駄に美しい!んです。「春の雪」をなさった時期ですし、もちろん、演技もすばらしかったのですが、存在にリアリティがないんです。
いや、だったら誰がやればリアリティがあるのか、といわれると、アンドレイはともかく、オスカルはまったく思いつきもしませんけれども。
オスカルが革命軍の側に加わる場面は、どうやってもふわふわしたファンタジーにはなりませんし、かといって、逞しいばかりのオスカルでは、フェルゼンに恋し、アンドレイに愛されたことの方に、リアリティがなくなってしまうんです。
しかし、ですね。明日海さんの花組トッププレお披露目公演(キキちゃんがオスカルをやったものです)「ベルサイユのばら」、フェルゼン役はすばらしく、我ながらなぜ???と自問自答したのですが、DVDを見ただけで、生でみたわけでもないのに、泣けました!!!
フェルゼン編ならいいのかと、和央ようかさん&花總まりさん、壮一帆さん&愛加あゆさんのものも見てみたのですが、泣けません。それどころか、明日海さんの相手が代わり、花乃まりあさんがマリー・アントワネットをなさった台湾公演で、すでに泣けなかったんです。
ですから、もしかして、一つには、蘭乃はなさんのマリー・アントワネットが、情感あふれていたことがあったのだと思うのです。
処刑直前のマリー・アントワネットは、娘息子の消息も知り得ません。なにもかも無くし、愛する子供たちの命が助かる確証もないみじめな状況で、死んでいくしかないんです。
誇りを失うまいと、「私はフランスの女王ですから」と胸を張りながら、しかし、心残りがないということはありえないわけでして、哀れなその心情は、言葉ではなく、声の調子や目の動きで、表現されるべきものでしょう。蘭乃さんは、そうなさっていました。
それに対する明日海さんのフェルゼンは、その人並みはずれた美しさで、滅びゆく旧体制の象徴となるしかなかったか弱い女性への、揺るぎなく、純粋な愛を体現していたんです。
この二人が醸し出していましたのは、もはや男と女の情愛ではなく、滅びゆくものへの哀惜の情だったのではないか、と思います。
蘭乃はなさんにとって明日海さんは、3人目のトップ相手役で、「ベルサイユのばら」「エリザベート」といいます大作が明日海さんのお披露目公演だったがため、この2作のヒロインを務めるべく、残ったトップ娘役さんでした。前の蘭寿とむさんとのコンビが一番長く、演目もあるとは思うのですが、蘭乃さん自身は、明日海さんとよりも、蘭寿さんと組んでいるときの方がしっくり似合って、のびのびしていらしたと思います。
といいますか、蘭寿とむさんは明日海さんとまったくタイプがちがい、いかにも宝塚の男役さんらしく、相手役さんへの包容力にあふれ、アダルトな色香を漂わせた方でした。
男役さんの包容力は、身長が高い方が見せやすいと思うのですが、蘭寿とむさんは小柄で、明日海さんとほとんどかわりません。にもかかわらず、しっかりと、女を受け止めてくれる頼もしい男性像を、現出されていたと思います。
キキちゃんが、「いかに相手役を大切にし、自由に動いてもらうかが、男役道の基本。自分の相手役から愛情を込めて見てもらうことで、男役自身がステキに見える」というようなことを語っていまして、実際、いまのキキちゃんは、娘役さんのエスコートがものすごく上手いんですが、これは、主に、蘭寿さんから学んだことではなかったか、と思います。
また、花組版「オーシャンズ11」で、長身のキキちゃんと並んでも、蘭寿さんは頼もしい大人の男にちゃんと見えて、やんちゃそうな少年スリを演じるキキちゃんへの「男にしてやる」という言葉が、自然な実感をもってひびきました。
蘭乃さんは、蘭寿とむさんと添い遂げなかったことで、ファンから相当な批判を浴びたようですが、私は、あのマリー・アントワネットだけは、蘭乃さんならではだった、と思います。
そして、明日海さんの次のお相手、花乃まりあさん。
この方、素顔が綾瀬はるかさんに似た美人さんでした。明日海さんのお相手として宙組から呼び寄せ、抜擢されたのですが、96期(学校時代にいじめ裁判があった期だそうです)だったことも手伝い、早々からパッシングを受けたんだそうです。
お披露目公演は『Ernest in Love』。
実は私、最近になって、このDVDを買いました。
キキちゃんが、「『Ernest in Love』のアルジャーノン・モンクリーフが、一番自分の地に近い役だった」 と言っているのを知り、しかたない、見てみよう!と買ったわけなんですが。
「リーズデイル卿とジャパニズム vol5 恋の波紋」をご覧になってみてください。
『Ernest in Love』は、オスカー・ワイルドの戯曲「真面目が肝心」をもとにしたミュージカルですが、ストレート・プレイで「アーネスト式プロポーズ」という映画になっています。
コリン・ファースが主人公のジャック・ワージング、ルパート・エベレットがアルジャーノン・モンクリーフ。
つまり明日海さんがコリン・ファースで、キキちゃんがルパート・エベレット???!!!
映画がけっこう気に入っていましただけに、最初ちょっと、見る気がしなかったんです。
コリン・ファースとルパート・エベレットといえば、「リーズデイル卿とジャパニズム vol2 イートン校」に書いておりますが、「アナザー・カントリー」でも共演。イギリス紳士と言えばこの二人、という極めつけの役者さんで、私は大好きでした。
『アーネスト式プロポーズ』 予告編
コリン・ファースについては、「映画『プライドと偏見』」にも書きました。BBCドラマ「高慢と偏見」のダーシー役で全英の女性を熱狂させ、そのパロディ映画で、すばらしいコメディセンスをも披露しています。
明日海さんに、英国紳士というイメージはまったくなく、いったいどうなの???と、疑問いっぱいで見始めたのですが、見ているうちに慣れてきたんでしょうか、これもありかもね!と、楽しく見終わりました。
明日海さんが、その卓越した演技力と確かな歌唱力でコメディを演じられると、「人でない」オーラは消え、とてもかわいらしくなるんです。
コリン・ファースは、ほとんど表情を動かすことなくコメディを演じますが、明日海さんの表情は、コロコロコロコロ変化し、目が離せません。
いや、かわいらしい英国紳士だっていますよ、絶対!!!
で、これを見たのは最近ですから、私の関心はキキちゃんの方に傾き、最初は、ルパート・エベレットとはえらくちがうよねえ、と違和感を持って見ていたのですが、次第に、かわいいっ!!! コメディセンスよすぎっ!!! 見えるわよ、イギリス紳士に。ただ、まだオックスフォード在籍中みたいだけど。と、夢中になってしまう始末、でした。
歌も悪くないですし、珍しく、最後に2組でデュエットダンスをする構成なのですが、手足が長いだけに、こればっかりは明日海さんより上手い! と思ったのはひいき目でしょうか。
映画では、最後にジャックが弟でアルジーが兄とわかるんですが、宝塚は反対。明日海さん演じるジャックの方が兄で、キキちゃんは弟です。
しかしね、そうなると、弟が家を継いでいた、ということで、現実には、相続に問題が起こるはずです。
まあ、それはフィクションだからいいとしましても、キキちゃんのヴィジュアル(特に髪型)をもう少しアダルトによせて、映画と同じく兄でもよかったかなあ、と。
雰囲気的にも、ルパート・エベレットによって、オックスフォードは出ていそうに見えたと思うんですけど(笑)
ヒロイン・グエンドレンを演じました、トップ娘役、花乃まりあさんも、溌剌として、役にあってました。
ただ、確かに、蘭乃はなさんにくらべれば、明日海さんとの並びがよくなく、デュエットダンスの出来がキキちゃんの方がよく見えた、というのは、それもあったように思います。蘭乃さんは、蘭寿さんの薫陶もあったんでしょうか、相手役さんに寄り添うことがお上手な方でした。
次が、大劇場トップ娘役お披露目公演の『カリスタの海に抱かれて』。
これ、私、テレビで見た記憶が、かすかにあるんです。テレビドラマの脚本家・大石静が書いたオリジナル作品だったそうなんですが、花乃まりあさんどころか、キキちゃんも明日海さんも、さっぱり印象に残っていません!!! ただ、この3人は、三角関係の主役ですので、なんとなく覚えているんですが、柚香光さんがナポレオンをやったとか、まったく記憶にありません。
DVDを買う予定はあるので後日見てみますが、明日海さんに似合った役ではなかったのではないか、と思います。
続いては台湾公演の「ベルサイユのばら フェルゼン編」。先に書きましたが、花乃さんのマリー・アントワネットはいただけませんでした。しっとりと、哀れを誘わなければいけないような役には、向いていなかったのではないでしょうか。
続く『新源氏物語』は部分的にしか見ていなくて、とばします。そして、『Ernest in Love』役代わり再演。無難ですけど、明日海さんは全体に再演が多いような印象です。
そして、『ME AND MY GIRL』 。宝塚定番の海外ラブコメミュージカルですが、以前、テレビで見たときに、キキちゃんがジョン卿というアダルトなジェントリーを演じていまして、ものすごく似合っていて、このころはまだキキ沼に落ちていたわけではないのですが、かわいらしい明日海さんよりも印象に残りました。現在は、キキちゃんの役代わりも見たいと、ブルーレイを買って堪能しています。明日海さんは、ほんとうに芸達者で、実に楽しいコメディです。
余談ですが、要するにキキちゃんは、イギリス上流階級の紳士が似合います。もし幕末維新を宝塚で舞台にするとすれば、キキちゃんにはぜひ、イギリス外交官・アルジャーノン・バートラム・ミッドフォード、後のリーズデイル卿を!(笑)
次の『仮面のロマネスク』。これがまた、短期間で再演していまして、今までに私が見たのは、花乃さんが退団なさった後のものです。
主人公はいわゆるプレイボーイですが、明日海さんに似合っていなくもなかったように記憶しています。なにしろ、芸達者ですから。
ただ、ですね。これも私、コリン・ファース主演の映画をdvdで見ていて、明日海さんの印象は薄いんです。
監督がミロス・フォアマンのわりに、おもしろかったか、といわれると、いまひとつの映画でしたが、なんで明日海さんは、コリンがやった役ばかりなさるのかと、首をかしげました。
これもキキちゃんが出ている方のDVDを、いずれ買う予定です。
そして、いよいよ次回、花乃まりあさんの退団公演で、二人への当て書き、明日海さんの本質をもっとも突いていました「金色の砂漠」について、語りたいと思います。