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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 歴史の改ざんとフェイクニュースに覆われた虚構の世界

2025年01月04日 | 平和憲法

  《フランス発・グローバルニュースNO.15》
 ★ 歴史の改ざんとフェイクニュースに覆われた虚構の世界

土田修(ジャーナリスト、元東京新聞記者)

 世界はフェイクニュースであふれかえっている。主要メディアを掌握する者たちは歴史を書き換え、自らの利益に適ったストーリーを錬金術のように作り出し、そのストーリーに沿った世論を形成するのに大いに貢献してきた。
 さらに、権力に従順なメディアがフェイクニュースを増殖してきた結果、IT技術とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の進展によって恐ろしいスピードで偽情報や誤情報が拡散する時代になった。
 フランスの月刊評論紙ル・モンド・ディプロマティークは、編集責任者ブノワ・ブレヴィル氏の論説記事「操作された歴史に騙されるな」(2024年10月号、日本語版は11月号)を掲載し、歴史の改ざんに貢献してきた主要メディアを批判している。

 ブレヴィル氏は、国際社会の集合的記憶が「時代のパワーバランス、その時々の利害に応じて変化する」と指摘する。
 第2次世界大戦で最も戦死者数の多かった国はソ連だった(連合国軍の戦死者数1600~1700万人のうちソ連軍の戦死者は860万人~1140万人といわれる)。戦後間もない1945年の世論調査で、「ドイツの敗北に最も貢献した国は?」との質問に対する回答は「ソ連57%」「米国は20%」だったが、2024年の調査では「米国60%」「ソ連25%」と逆転している。
 戦後、『史上最大の作戦』『プライベート・ライアン』『パットン大戦車軍団』など数多くのハリウッド映画が米兵の英雄的行動を称賛し、「アメリカを世界の救世主に仕立て上げた」結果だ。

 戦後の長い期間、ノルマンディー上陸作戦は重要視されておらず、毎年6月6日に催される記念式典の規模も小さく、米大統領が参加したことはなかった。
 1964年にはシャルル・ドゴール将軍が「新たな占領のきっかけとなるところだった彼らの上陸を記念するために行けというのか、冗談ではない」と、ノルマンディー行きを拒否した。
 それが米ソ間の緊張が高まった80年代になって大きく変わった。
 フランソワ・ミッテラン大統領がアメリカの大統領はもちろん、英国の女王、カナダの首相らを招待することで、「記念式典は『自由世界』が団結を示し、自らを民主主義の守護者であるとアピールする場になった」

 冷戦終結後はロシアの代表者も記念式典に招待されていたが、2024年6月の式典に招待されることはなかった。
 代わりにウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席し、「ノルマンディー上陸作戦とウクライナ国民の正義の戦いが重なり合っている」と訴え、称賛の拍手を浴びた。

「このようにして、スターリングラードでヒトラーの戦力を粉砕したロシアは、いつの間にかナチス政権と同列に置かれた」(同記事)。

 第2次世界大戦の歴史の書き換えはそれだけにとどまらない。
 中東欧や北欧でソ連兵を称える像や記念碑の破壊が進んだほか、第2次世界大戦は「ドイツとソ連に共同の責任がある」とする考えが西欧にも徐々に広がった。
 2019年に欧州議会は東欧諸国の提案に従って、「戦争は悪名高い独ソ不可侵条約の直接的な結果だった」とする決議を採択した。

 一方のプーチン大統領も負けてはいない。
 反ロシア的な修正主義を非難し、戦争勃発に対する西側の責任を追及するだけでなく、「ウクライナの非ナチス化」を正当化し、「ソヴィエト政府がソヴィエト・ウクライナを作るより前にウクライナは存在しなかった」と、ウクライナ独自の歴史を否定することに執着している。

 ブレヴィル氏はこう指摘する。

紛争を煽るために操作されている歴史は、本来、それらを理解し、その根源や争点を把握するために利用されるべきだ」。

 だが、主要メディアの解説者は現在起きていることを都合よく説明することに終始している。日本の各チャンネルに持ち回りで出演する米国ネオコン情報の信奉者のような学者や専門家も同じだ。
 単純明快な善悪二元論に終始し、地政学的・歴史的背景を踏まえたコメントを開陳することはない。

彼らにとっては、すでに結論が出ているのだ。すなわち、ウクライナ戦争は2022年月24日に始まり、ガザの戦争は2023年10月7日に始まったということだ」(ブレヴィル論説記事)。

 

 ★ ウクライナ戦争が明らかにした「西洋の敗北」

 事実はこうだ。
 ウクライナ戦争は、ソ連崩壊後も米国が北大西洋条約機構(NATO)を存続させ東方への拡大を進めたこと、2014年にウクライナの親ロシア政権が崩壊した後、ロシア語話者の多い東部ドンバス地方で内戦が始まったことを抜きして語ることはできない。
 フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は著書『西洋の敗北』(文藝春秋)の中で、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授の2023年2月の分析を引用し、こう書いている。

「ロシアは何年もの間、ウクライナがNATOに加盟することは許容できないと言い続けてきた。その一方でウクライナの軍隊は同盟国、つまりアメリカ、イギリス、ポーランドの軍事顧問たちによって軍備強化が進められ、NATOの「事実上」の加盟国になろうとしていた。だから、ロシアは以前から予告していた通りに戦争を始めた

 ミアシャイマー氏は「ロシアは戦争に勝つだろう」と早々と予測していた。ウクライナ戦争の原因は「ウクライナ人を介したアメリカとロシアの対立」にある。
 ウクライナロシアにとって「自国の存亡に関わる死活問題」だが、アメリカにとってはそうでない。「ワシントンは、八〇〇〇キロも離れた地で、わずかな利益のために戦争をしているにすぎない」からだ。しかもロシアは国際決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除されるなど西側諸国から厳しい経済制裁を受けているが、金融・経済面での自立を進めてきたロシアの抵抗力は強く、反対に「西側金融の全能性」に対する信頼が揺らいでいる。

 だから、ウクライナ戦争によって現実になりつつあるのは「ロシアの敗北」ではなく、「西洋の敗北」なのだ。
 ドイツはエネルギー供給の要だった天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム」の破壊を抵抗もなく受け入れた。米国の調査報道記者シーモア・ハーシュ氏はCIAがNATO加盟国のノルウェーと組んでパイプライン爆破の秘密作戦を実行したと指摘しているが、ドイツだけでなく世界が沈黙を守っている(ハーシュ記者のブログ記事「米国はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したか」を参照)。

「西洋の危機、とりわけアメリカの末期的な危機こそが地球の均衡を危うくしている。その危機の最も外部の波が、古典的で保守的な国民国家ロシアの抵抗に突き当たったというわけだ」(トッド『西洋の敗北』)。

 日本においても、権力に依拠した偏向報道を続けてきたマスメディアのあり方そのものが、メディアを批判的に読み解く能力である「メディアリテラシー」を否定してきたのではないか。いまだに新聞やテレビはバイアスのかかったフェイクニュースを平気で流し続けている。
 例えば、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員がノーベル平和賞の授賞式での演説で世界に広がる「核の脅威」を強調したが、日本のメディアは「プーチン氏は2022年2月のウクライナ侵略開始以降、核兵器使用に繰り返し言及してきた」(12月11日付読売新聞)、「これは22年のロシアによるウクライナ侵攻後、プーチン露大統領らが度々「核使用」を示唆する現状への警鐘でもある」(同日付毎日新聞)などと、「核の脅威」の責任を一方的にロシアに押し付ける報道を繰り返した。

 だが、ウクライナ戦争をめぐって最初に「核兵器の使用」という脅しをかけたのは欧米側だったことはあまり知られていない。
 2022年8月24日、英国のリズ・トラス外相(後の首相)はロシアに向かって「必要であれば核のボタンを押す準備をしている」と宣言した。
 2023年2月にはスペインに配備されている米国の核戦略爆撃機B-52H4機がポーランド国内の基地を出発し、ヘルシンキ西の上空まで飛び、そこでUターンしてポーランドの基地に帰還するという、ロシアを標的にした「核攻撃シミュレーション」を実施した。
 ヘルシンキからサンクトペテルブルクまではB52でひとっ飛びの距離だ。その2週間後にプーチン大統領がベラルーシ国内への核兵器配備を求めるルカシェンコ大統領の申し入れを受け入れたのは、自国防衛のためだった。

 真っ先に「核の脅し」をロシアに仕掛けたのは英国のトラス外相であり、米国のバイデン大統領なののだが、日本を含む西側メディアはその事実を隠蔽し、「核兵器をベラルーシに配備する」との声明を出したプーチン氏を、核兵器で欧米や世界を脅しまくる悪魔に仕立て上げることに成功した。
 このように、事実を隠蔽し捏造する偏向報道が当たり前になった社会の中で、真実を伝えようとしない主要メディアに対する信頼が低下するのは当たり前のことだ。
 その代わり、SNSや動画サイトを情報源とする人々が増えているが、そこでは主要メディアが発生源となっていることの多い偽情報誤情報が急速なスピードで、しかも人目を引くように誇張されて拡散している。それに対し、マスコミは反省し検証するどころか、SNS上を飛び交っている単純な敵味方論や歴史修正主義の言説にあっけなく取り込まれているようだ。

 FacebookやX(旧ツイッター)などSNSが人々の日常生活や価値観、感情をコントロールするデジタル社会の進展がそれを後押ししているのは間違いない。確かにSNSは感情に強く訴える情報や扇情的な内容を拡散させやすい
 ネット社会は「情報社会」を大きく発展させてきたが、その一方で、ネット上の情報を真偽不明のまま言葉通りに受け取る人々を生み出し、偽の情報や誤った情報を大量に流布・拡散させるのに大いに貢献し ている。

 

 ★ マスコミが醸成してきたSNS上の偽情報

 こうした感情に訴える不確かな情報が蔓延する社会を選挙にうまく利用したのが、東京都知事選挙で大躍進した石丸伸二氏であり、兵庫県知事選挙で再選を果たした斎藤元彦氏ではなかったか。
 特に兵庫県知事選挙ではSNSを使った斎藤陣営の選挙戦略が話題になったが、ネット上でこの「SNS選挙」の「監修者」を名乗った広報・PRコンサルティング会社の女性社長O氏は、選挙期間中に自ら撮影した斎藤氏の演説のライブ配信を行い、斎藤氏のフォロワーは選挙前の約7万8000人から24万3000人に増えたという。

 実はO氏はフランスの高校を卒業し、慶應大学に在学中、フランスでも有数のビジネススクールであるエセック・ビジネス・スクール(高等経済商業学校)に留学している。慶應大学卒業後はフランス大手銀行BNPパリバに就職し、営業職を通してグローバルな視点でのコミュニケーション能力を身に付けたといわれる。フランスの金融・投資会社は政治と密接な関係を取り結んでいる。
 フランスの金融・経済界も政界もエリートたちはこぞって、エコール・ポリテクニーク(高等理工科専門学校)、国立行政学院(ENA)、パリ政治学院(シアンスポ)などグランゼコールの出身者で占められている。輝く将来を保証するエリート製造工場に目をつけたのがフランスの大富豪たちだ。

 O氏が留学したエセック・ビジネス・スクールも欧州ランキングでトップ10に入る商業系の名門グランゼコールだ。
 同校はフランス財界に多数の人材を輩出しており、彼らがロスチャイルド銀行出身のマクロン大統領の支持基盤の一角を占めている。
 マクロン氏大富豪によって買い取られたメディアによる選挙戦略によって大統領選挙を勝ち抜いたが(ホアン・ブランコ『さらば偽造された大統領~マクロンとフランスの特権ブルジョワジー』岩波書店)、フランスの選挙は広告事業・マーケティングの世界最大手オムニコムの影響を受け、ネットを駆使したSNS戦略がごく普通に行われるようになった。
 アメリカの大統領選挙もそうだが、フランスでも選挙のたびに偽情報や誤情報がネット上を飛び交い、中傷合戦が始まるようになった。O氏が行った「チームさいとうLINE」のSNS選挙は、まさにフランスのネット戦略を彷彿とさせる。

 兵庫県知事選挙で斎藤氏が再選を果たした際、新聞各紙は「マスコミがネットに負けた」と書いた。斎藤氏の街頭演説の場でマスコミ記者が聴衆から「偏向報道」と罵声を浴びたこともあった。
 NHKの出口調査で、「何を参考に投票したのか?」という問いへの答えは「SNSや動画」(30%)が一番多く、「新聞・テレビ」(24%)を上回った。
 こうした状況に対し、マスコミの多くは「メディアリテラシー」の重要性を叫びだしたが、日本のマスメディア・ジャーナリズムは記者クラブ制度に依拠し政府や官庁、行政のプロパガンダ・フィルターの役割を果たしてきた。それは戦前の大政翼賛体制に時代から変わっていない。

われわれが報道しなければ、その事実は存在しない」というゲートキーパー論に基づき、権力に都合よくニュース価値を差別・選別してきたのが日本のマスメディア・ジャーナリズムの実態だ(土田修『調査報道?公共するジャーナリズムをめざして』緑風出版)。

 「マスコミがネットに負けた」のではない。マスコミ自らが培ってきたメディアのあり方をネット社会が受け入れ、増幅・拡散・蔓延させてきたのだ。だから、「マスコミがネットに負けた」というのは責任逃れの言説でしかない。
 ブレヴィル氏の記事に戻ろう。彼は「歴史はこのように広範囲にわたって操作されている」と端的に指摘する。

「自らの利益にかなう物語に沿って世論を形成する戦いにおいて、主要メディアを掌握する者たちは強力な武器を持っている。彼らの主な力は、議論の範囲を設定し討論の枠組みを定義することから成るので、自由民主主義のイメージを傷つける可能性のある出来事を『埒外』にとどめておこうとする」(ブレヴィル論説記事)。

 ル・モンド・ディプロマティーク紙は、固定観念を打ち破りフェイクニュースや意図的な偽情報を見極める「メディリテラシー」の道具として、増刊号Le Manuel d’autod~fense intellectuelle(知的自己防衛の手引き)を発刊した。
 「(ギリシャ神話に登場する)歴史の女神クレイオも、この手引きをオリンポスの売店に並べたいと思うに違いない」というブレヴィル氏の言葉に、同書を世に出す自信のほどがうかがえる。ル・ モンド・ディプロマティーク日本語版(https://jp.mondediplo.com)では来春、この手引きの日本語訳を出版する予定だ。
 この10数年、リーマンショックやコロナ禍、それにネット社会の進展によって経営が低迷している日本の新聞・テレビは、「公共するジャーナリズム」をかなぐり捨て、ネオリベ資本主義と権力に奉仕することで生き残りを図っている。同書が日本型マスメディア・ジャーナリズムの悲惨な現状に一矢報いることを期待したい。

『レイバーネット日本』(2024-12-24)
http://www.labornetjp.org/news/2024/1224tutiya

 


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