パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ いま、埼玉県南部で起こっていること――クルド人差別の現状

2025年01月02日 | 暴走する都教委と闘う仲間たち

川崎市役所が作成したネットヘイト禁止チラシ

 ☆ 安田浩一が語る「クルド人差別の現状」 (多面体F)

 12月1日(日)夜、王子の北とぴあで、安田浩一さんの「いま、埼玉県南部で起こっていること――クルド人差別の現状」という講演集会が開催された(主催:差別・排外主義に反対する連絡会)。

 クルド人差別というと、つい最近もさいたま地裁のヘイトスピーチ(憎悪表現)を禁じる仮処分決定に対するいやがらせで、グーグルマップの地裁の表示が「さいたまクルド民族裁判所」と一時的に書き替えられた「事件」が話題に上った。
 カルデロン一家へのヘイト・デモ(2009年)と同じようなことがクルドに対し行われていることを知り、心が暗く寒くなる。また昨年4月ごろ入管難民法「改悪」法反対の議員会館前抗議集会に、多くのクルドの家族連れが参加していたことを思い出す。

 安田浩一さんはヘイト・スピーチに関し、多数の著書をもつノンフィクションライターで、最新刊は関東大震災時の中国人・朝鮮人虐殺事件をテーマにした『地震と虐殺 1923-2024』(中央公論新社 2024.6)だ。
 この著書の関連で、「殺さない」「殺されない」「殺させたくない」から声を上げ、何をすべきか考えたいという安田さんの熱いアピールから始まった。取材した人のお話や安田さん自身が調査した事実に基づく1時間あまりの講演だった。
 なおこの日のテーマから、ヘイト団体の攻撃も考慮されるため、録音録画はいっさい禁止だった。そのため、聞き違い、解釈違いもありうるので、予めお詫びしておきたい。

 ☆ いま、埼玉県南部で起こっていること――クルド人差別の現状

安田浩一さん(ノンフィクションライター)

 クルド人は、主にトルコ、シリア、イラン、イラクにまたがる山岳地帯に住み「国を持たない最大の民族」といわれる。各国で差別され、トルコではクルド語も音楽も使用が禁止されている。
 そこで海外に移住する人も少なくなく、日本にも3000人が居住するといわれる。クルド人が埼玉県南部(川口、蕨、越谷など)で暮らし始めたのは1990年代前半からだ。

 解体業のTさんは、とにかくトルコから逃げたかった。そこでビザの相互免除協定を結び、かつ安全な日本を目指した。
 成田から東京駅八重洲口に到着したとき出会ったパキスタン人が自分のアパートに泊めてくれた。それが川口市だった。川口には中小の工場が多く、労働者を必要とし、取締りがなかった。
 建物解体業夏は暑い屋外、冬は寒い屋外で働く厳しい仕事だ。
 わたしも解体工事に同行したが、首都高が混む9時より前に都心を通り抜けたいということで早朝5時集合で出発する。元請けの人にも取材したが、クルド人を悪くいう人はいなかった
 解体は、壊せばよいというものではない。コンクリートはガラに粉砕し、木材はチップにし、金属スクラップは鉄筋・鉄骨・電線などに破砕分別する。分別した多くのものはリサイクルされるので知識や技術も必要だ。
 近隣住民に配慮し、作業は養生シートを貼ることから始まる。近隣に駐車している車を汚さないようシート掛けをする。問題を起こすと生きていけない、また手抜きすれば仕事を切られるので必死に働く。
 帰りに足立区と川口の境界・首都高鹿浜橋出口を出ると街並みや夜景がみえホッとする、力がわいてくるという。自分を待つ家族、子ども、友人がいるからだ。

 ところがここ1-2年、そういう気分になれないともいう。というのは、県外からヘイトデモをするためにやってくる集団が登場したからだ。
 クルドは「犯罪者」「寄生虫」と決めつけ「クルド人は出ていけ!」「クルド人を日本から叩き出せ!」「難民は本国に帰れ!」「クルド犯罪偽装難民!」「死ね!」などと、大音量スピーカーを使い、殺害を煽る脅迫のヘイトスピーチをして川口や蕨の街を差別デモするグループだ。
 「クルド人により暴力支配されている」「銃や薬物があふれ、日本人へのリンチや強姦が頻繁に発生している」とありもしないデマを流す。
 SNSには「20人ぐらいでチーム作ってクルド人をボコしに行きませんか?」などの言葉があふれている。
 クルド料理店には、ニセの大量注文電話がかかってきたこともある。
 だが、クルド人により犯罪が増えたというデータはない。川口市の外国人住民は、この約20年間で1万4679人(2004年)から3万9553人(2023年)と2倍以上に増えている。逆に同時期の刑法犯認知件数は1万6314件から4437件へと激減している。

 ジン・リアンさん(仮名 クルド語で女性の人生という意味)はシリア国境に近いトルコで生まれ育った。
 16歳のとき家族とともに日本にやってきた。川口で哺乳瓶の口をつくる工場で働いた。そのころのことを思うと、ジンさんはとてもよかったという。
 周りで働く日本人はみなジンさんにやさしく、気遣ってくれた。この工場で、作業手順だけでなく、日本語や日本の風習も覚えた。まさに工場がジンさんの学校だった。
 あるときジンさんがクルドの友人とタクシーの車内で話をしていた。それを聞いていた運転手が「どこの言葉ですか」と聞いたので「クルドの言葉」と答えると「美しい言葉だ。音楽を聴いているみたいです」といった。ジンさんはとてもうれしく、誇らしかった。
 ただいまから思うと「自分はメガネを掛けていたのかもしれない。ピンクのメガネだったので、風景や世界が美しく見えた」「おとなになり、毎日どれだけつらく醜悪な風景を見ていることか」と嘆いた。

 4歳の少女が万引き常習犯とされた動画がウェブに流れたこともあった。大型スーパー2階の100円ショップで撮影されたが、商品に手を触れたシーンはまったくない。この少女の親は被害届を出した。この店の広報に万引きの有無を取材したが「確認されなかった」とのことだ。
 この家族にも取材すると、じつはこの動画を見つけたのは中学3年の姉だった。聞くと、毎日ヘイト動画をチェックしているという。自分が被害にあうかもしれないからだ。そして実際に自分の妹が盗撮されていた。
 14歳の少女にこんなことをさせていいのか! わたしたちがそんなことをさせている。許容できない!
 多くのクルド人が、スマホの隠し撮りがいちばん怖いという。また前出の解体業の男性も、横浜なら自分はただの外人だが、川口に戻ると「川口のクルド人」になってしまい怖いという。どういうイメージなのかよくわかっているからだ。
 怖がっているのは絶対的に優越した立場にいる日本人ではなく、クルド人のほうだ。

 安田さんの講演を聞き、クルドの人々にとって日本で生活することが、生命の危機を感じる「恐怖そのもの」となっていることがよくわかった。
 こんなことが21世紀の日本で起こるとは! 100年前の関東大震災のころと同じだ。許されてよいはずがない。
 安田さんの熱いスピーチを、ウェブ上で再現できるとよかったのだが、かなわず、残念だ。

 川崎でも在日韓国朝鮮人に対するヘイトデモがすさまじかったが、2019年12月罰則付きの「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」を制定(施行は20年7月)し、一定の成果を上げている。
 埼玉でも今年11月さいたま地裁が「日本クルド文化協会」周辺でのヘイトデモ禁止の仮処分を認めた。
 地元の川口・蕨でも、条例制定条例制定を求めたり、ヘイトに反対しカウンターデモをする市民グループがあるそうだ。

『多面体F』(2024年12月06日)
https://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/e/7d9d3d894434fc198b9ef1857995f276

 


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