☆ 声明:G7ホストの日本政府は世界の政府からの人権勧告を誠実に受け入れるべきです
5月19日のG7開催を目前に控えた今、反差別国際運動と人種差別撤廃NGOネットワークは、世界の政府が日本政府に向けた人権保護・伸長のための勧告、とりわけマイノリティの権利のための勧告を受け入れ、誠実に実施するよう求める。
今年1月31日、日本にとっては4回目となるUPR(普遍的定期的審査)が国連人権理事会において行われた。UPRは193の国連全加盟国の政府が、それぞれの国の人権状況を国際人権基準に沿ってお互いに審査する制度である。
今回の日本の審査には世界115カ国の政府が関わり、300余りの勧告を出した。
これら勧告は、今や世界から大きく水をあけられた日本の貧弱な人権保障制度の底上げに関するものと、マイノリティをはじめとした社会的に立場の弱い集団や人びとに向けられた人権侵害への政府の対応に関するものである。
私たちはそのなかで、特に2つの課題に関する勧告の受入れと早急な実施を日本政府に求める。
■ 政府から独立した国内人権機関の設置
今回の審査で最多となる29カ国の政府が指摘したのが政府から独立した国内人権機関の設置である。
国内人権機関は現在193ある国連加盟国の内130カ国(2022/11/29現在)に設置されている。
過去、日本では国内人権機関の設置に関する法案が国会に2度提出されたが、いずれも廃案となった苦い経験がある。
人権の主流化が言われて久しい国際社会において、人権理事国を5期も務めた日本は、いつまで国内人権機関のない63カ国の一つに留まるつもりなのか。
私たちが国内人権機関を求める理由はいくつもあるが、最も切実で重大な理由は人権侵害の放置である。
ネットにあふれるヘイトスピーチは、確認されることも救済されることもない被害を日々生み出している。
入国管理局による人権を無視した取り扱いは、訴えるすべをもたない移民や難民を苦しめている。外見だけで警察に呼び止められて職質をうけ、屈辱的な思いをする人は後を絶たない。
これら人権侵害の被害者にアクセスしやすい救済の窓口を提供するのが、国連パリ原則*のもとでの国内人権機関の役割の一つである。
被害者に立証責任を負わせる現行の裁判制度や法務省人権擁護局の人権相談は、人権侵害の被害者にとって決して頼みの綱であるとは言えない。
国連人権制度において、国家以外に重要なプレーヤーとして位置付けられているのが、パリ原則に沿った国内人権機関であり、私たちのような市民社会組織である。
アジア地域を見ても、韓国、モンゴル、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、ネパールを含む多くの国に国内人権機関があり、相互に連携を図りながら、地域人権機構が世界で唯一不在のアジア・太平洋地域において、人権をキーワードとした域内協力のための重要な役割を果たしている。
こうした事実は、残念ながら、日本国内においてほとんど知られていない。
世界の政府が日本に設置を求めるのは、地域および世界の人権を底上げするためには、日本での国内人権機関の設置は今や必要不可欠となっているからだ。G7のホスト国として、日本政府は世界の政府の声に真摯に耳を傾けるべきだ。
■ 包括的差別禁止法の制定
UPRでは差別禁止法の制定を促す勧告が22の政府から出された。
今年は「ヘイトスピーチ解消法」および「部落差別解消推進法」制定から7年となる。このように、日本には個別の人権問題に関する法律はあるが、そのほとんどは啓発を目的としており、個々の差別事件や人権侵害に対する実効性のある法律にはなっていない。
G7を目前にして自民党が作成した「LGBT理解増進法」案は、差別という言葉の取り扱いをめぐり党内で紛糾した。
入管収容施設における在留資格をもたない難民や移民の拘留は、ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件(2021年)をはじめ、さまざまな人権侵害を生み出してきた。その背景には非ヨーロッパ系の人びとに対する優越意識、人種差別意識があると私たちは考える。
日本が批准した人種差別撤廃条約を含む主要な国際人権条約のほとんどは、さまざまな背景をもつマイノリティに対する差別の禁止を条約の重要な柱の一つとしている。これら条約の実施に関する国別審査において、日本は繰り返し「差別禁止」の法制定を促す勧告を受けてきた。
しかし、誰もが差別をしてはならないとする規定や罰則規定を盛り込んだ国内法は未だ一つとして成立していないし、包括的に差別を禁止する必要性については議論すらされていない。
昨年12月に国連が発表した「包括的反差別法制定のための実践ガイド」は次のように述べている。
国家は、すべての人の平等と非差別の権利を尊重し、保護し、充足するという国際人権法で定められた義務を果たすために、包括的な反差別立法を制定しなければなりません。あらゆる形態の差別の禁止と平等の実現は、マイノリティの保護に関する国際法の中心でもあるため、このような法律の制定はマイノリティの権利保護のためにも必要な要素です。
近年のヘイトスピーチの広がりや、世界各所で起きているマイノリティに対する人権侵害や迫害への一つの対抗手段として、包括的反差別法の制定や施行を導くために本ガイドは作られました。
最近、日本においても、社会で最も周縁に追いやられている人びとの人権を守り実現することが、社会全体の人権の保護と伸長につながり、ひいては平和で公正な社会に導く道となる、という議論が聞かれるようになった。
そのためには、違いを見つけて排除や差別の言い訳にするのではなく、違いを認めてともに存在する道を模索する努力が求められる。
G7のほかの6ケ国にはすべて差別禁止法があり、日本は人権分野で決定的に遅れている。G7ホスト国として、そして国連人権理事国を5期(通算15年)務めた国として、日本政府は世界の潮流である「包括的な差別禁止法」制定のために勇気ある一歩を踏み出さなくてはならない。
6月に始まる国連人権理事会53会期において、日本政府はこの二つの課題を含む300余りのUPR勧告に対して、受け入れの可否を示す回答を発表することになっている。
人権を標ぼうする国でありたいならば、日本政府はこれら勧告に誠実に向き合い、一つひとつの勧告の実施に着手するよう私たちは強く求める。
2023年5月17日
反差別国際運動(IMADR)
人種差別撤廃NGOネットワーク
1)*パリ原則:正式名は国内人権機関の地位に関する原則。独立性と自立性および多元性の保証を求めている。
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi_010525_refer05.html#:~:text= (法務省)
2)UPR審査関連のIMADR情報: https://imadr.net/upr-jpn-4th/ https://imadr.net/upr-furtherinfo/
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