【羽田衝突事故 続報】
☆ 航空機数は右肩上がり、管制官数は右肩下がり
日本の空を危険にさらした国交省の責任を追及せよ (レイバーネット日本)
/安全問題研究会
羽田空港でのJAL機と海上保安庁機の衝突事故発生から6日経過し、閉鎖されていたC滑走路が8日から再開となった。3連休も終わる明日からは混乱も次第に収まり、通常体制に復帰していくだろう。
だが、犠牲者が出なかったからこれで終わりでよいわけがない。
海上保安庁機が管制官の指示を聞き間違えたのではないかとの疑いは依然として消えていない。その一方、管制塔で管制官が監視するレーダーには、滑走路への誤進入があった場合に警報を発信する機能が備わっているとの報道も先週末あたりから出てきている。
滑走路への進入許可を受けていない航空機が誤進入した場合、滑走路を黄色に、誤進入機を赤色で表示する機能がついているというものだ。誤進入から40秒間、警報が出ていたのに管制官が気づかなかったとの報道もある。
巡航速度に達したジェット旅客機の場合、時速800km程度で飛行している。1分間に約13.3km、1秒間に約222m進む計算になる。40秒間なら約8.9kmも進む。
それだけ長時間、管制室にいる管制官の誰ひとり、警報に気づかなかったとすれば日本の航空管制史上前例のない失態といえる。
「いくらなんでもそれはあり得ないだろう」と私も思っていた。--「あるデータ」を見るまでは。
ここに驚愕のデータがある。
国土交通省みずからホームページで公表している「管制取扱機数と定員の推移」だ。
2020年からはコロナ禍で大きく航空機数が減っているため、コロナ直前の2019年までのデータで見る。
日本の空を飛ぶ飛行機の数は「右肩上がり」で増え続け、H16(2004)年には年間463万1千機だったものが、H31(2019)年には695万3千機になった。1.5倍もの増加だ。
一方、航空管制官の人数は、同じ期間に定員ベースで4961人から4134人になっている。これだけ航空機数が増えているのに、国交省は航空管制官の数を増やすどころか、逆に17%も減らしているのだ。
管制官1人当たりが受け持つ航空機数も爆発的に増えている。
2004年には年間933機/人だったのが、2019年には年間1682機/人。なんと1.8倍になっているのである。
念のため繰り返すが、この数字は定員ベースである。官公庁が定員を満たしていることは実際にはほとんどない。航空管制官には「専門行政職俸給表」が適用されていることからもわかるように、特殊な技能を要求される専門職であるため民間委託なども行われていない。当然、実員ベースでは管制官はもっと少なく、1人が受け持つ航空機数はもっと多いということになる。
これだけの過酷な実態に対して、もちろん現場は沈黙していたわけではない。
国交省職員で構成する「国土交通労働組合」はこの間、「国土交通行政を担う組織・体制の拡充と職員の確保を求める署名」に取り組んできた。
署名運動の「解説」には「相次ぐ定員削減により、災害の対応が困難になったり、公共交通機関の事故トラブルの恐れが高まったりして国民の安全や生活が危ぶまれる状況になっています」との悲痛な訴えが掲載されている。
国土交通労働組合の懸念は今回、現実になった。
2024年は新年早々から能登半島地震が起きた。
震度7を記録した能登半島では、地震の揺れの目安となる最大加速度で2828ガルを観測したが、これは東日本大震災(2011年)の際の最大加速度(2933ガル)に匹敵する。
国交省が直接の担当である災害対応のため、一刻も早く被災地に向かわなければと海上保安庁(国交省の外局)に焦りが生まれ、滑走路誤進入が引き起こされた。
そこに、折からの定員削減で疲弊した航空管制官のミスが重なる。
多くの職員が正月休みで出勤していなかった年末年始の巨大災害というタイミングも災いし、通常ならあり得ないはずの人為的ミスが、ドミノのように連鎖する
--今回の事故の輪郭が、おぼろげながら見えてきた。
事故原因は今後、運輸安全委員会によって明らかにされるだろう。だが、これだけの過酷な実態を知ってしまった以上、「すべてが運輸安全委員会の事故調査報告書待ち」でいいのだろうか? もちろんそんなわけがない。
定員削減を続け、疲弊する現場の破たんが今回の事故で示された。このような事態を招いた国交省の責任を追及すべきである。
<関連資料>
・「国土交通行政を担う組織・体制の拡充と職員の確保を求める署名」(国土交通労働組合)
・「国土交通行政を担う組織・体制の拡充と職員の確保を求める署名」の解説(国土交通労働組合)
(文責:黒鉄好)
『レイバーネット日本』(2024-01-09)
http://www.labornetjp.org/news/2024/1704728541653zad25714
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