《月刊救援・人権とメディア》
☆ サミットで予防拘束・不当逮捕を容認した翼賛メディア
私は五月一七日から二一日まで広島に滞在し、先進七力国首脳会議を取材した。
二十日夜には広島弁護士会館で、人権と報道・連絡会主催で「サミット“大本営発表報道”検証」をテーマに学習会を開いた。広島サミットについては「紙の爆弾」七月号に書いた。
全国から動員された警察官(制服、私服)が広島を制圧し、戒厳令下のようだった。警察当局はデモを弾圧した。
一八日に広島大学の学生Aさん、二一日に学生Bさんが公務執行妨害で現行犯逮捕された。
共同通信は二人の逮捕を記事にしている。一八日深夜に配信した「G7警備警察官蹴った疑い反対デモの参加者逮捕」という見出しの記事(市川太雅記者)はこう書いた。
「警備をしていた警察官を蹴ったとして、公務執行妨害容疑で住所、職業いずれも不詳の○○□□容疑者(26)を現行犯逮捕したと発表した。逮捕容疑は、18日午後7時半ごろ、広島市中区の路上で、サミットの警備に当たっていた警察官の足を蹴った疑い。調べに黙秘している」(記事では実名)
二一日午後四時半過ぎの記事(記者の署名なし)は「県警によると、黙秘しており、男の氏名や年齢は不明。逮捕容疑は21日午前11時55分ごろ、広島市中区の路上で男性警察官(26)の肩を手で殴った疑い。デモは過激派『中核派』のメンバーら約100人が参加し『サミット粉砕』などと訴えた」と報じた。
警視庁などは二九日、「中核派の活動拠点『前進社』を捜索した。中核派全学連幹部の男が広島県警に公務執行妨害の疑いで逮捕されたことを受け行われた」(日本テレビ)。
デモは、8・6ヒロシマ大行動実行委員会と改憲・戦争阻止!大行進実行委員会が共催。
私は二十日に南区民文化センターで開かれた集会・デモを取材したが、警視庁機動隊が重装備で警備に当たった。
二一日の逮捕は、英BBCが現場で撮影した動画を付けて詳しく報道した。公安刑事らが学生に狙いを定めて逮捕するまでのやりとりを、市民がしっかり聞いていて、SNSで発信した。
不当逮捕を伝えた二二日の朝日新聞と中国新聞は県警の広報を垂れ流しているだけだ。
朝日記事には、「日本でこんなことが起きるとはと驚いている」という仮名の会社員のコメントがあったが、平和的なデモをしている大学生が何もしていないのに投獄されることに驚くべきだ。
中国新聞記者は「過激派」なら逮捕されても当然と考えているのだろう。記事を書いた記者は氏名を書くべきだ。
記者クラブで広報した県警本部と広島中央署の広報担当者(公務員)も氏名、役職を明らかにすべきだ。
デモ実行委はAさんが広島大学の学生で、氏名と全学連副委員長だと明らかにしている。
逮捕後、森川文人弁護士(第二東京弁護士会)がすぐに接見し、弁護人には本田兆司弁護士(広島弁護士会)が就いた。
本田氏によると、Aさんは二十日付で勾留され、二九日に六月八日までの勾留延長がされたため、準抗告を申し立てた。Aさんの勾留請求をしたのは広島県警本部警務部留置管理課の司法警察員。勾留状を発付したのは広島簡裁の裁判官。Aさんの勾留理由開示裁判は広島地裁(茂木明裁判官)。
茂木明裁判官は、弁護人の求釈明に真摯に対応せず、傍聴人の批判に退廷を命じる訴訟指揮を取り、弁護人の意見も時間制限を行う審理の状況だった。
本田兆司弁護士は「全学連副委員長を狙い撃ちにした不当逮捕だ」と話している。
Aさんの逮捕を報道したテレビ、新聞はなかった。
Bさんには、八丁堀法律センター(代表・山田延廣弁護士)がついた。
工藤氏は「Bさんは完全黙秘している。逮捕当時のビデオがあるようだ。完全にでっち上げ事件である。交流開示請求している」と話している。
サミットの事前弾圧もすさまじかった。
四月下旬、京都大の学生ら二人が五年前の「事件」で逮捕・監禁された。森川氏は、「デタラメな国家犯罪であり、釈放された」と述べた。
また、千葉県警と警視庁、神奈川県警の合同捜査本部は五月11日、「公務執行妨害などの疑いで、過激派『中核派』の幹部△△▽▽)容疑者(36)=東京都§区$1丁目=ら男6人を逮捕した。捜査本部は同日、中核派の拠点『前進社』(江戸川区)などを家宅捜索した」(共同通信)。
六人の逮捕容疑は二月一六日未明、今年二月、三里塚での強制執行阻止闘争でのでっち上げ逮捕だ。
私は五月二九日午後、千葉地裁第三刑事部(島田環裁判官)で開かれた六人の勾留理由開示裁判を取材した。
二回に分けて、地裁で一番狭い法廷で開かれたが、午前中に傍聴券の抽選があり、一八人しか入れず、廷内取材はできなかった。
キシャクラブメディアの社員記者の取材はゼロ。記者席も用意しない裁判で傍聴券の抽選などあり得ない。
島田裁判官は、強制執行の内容は「知らない」と言い放った。法廷の廊下で、被疑者たちが裁判官を激しく糾弾している声が聞こえた。
勾留請求した検事、勾留を許可した裁判官の氏名、肩書は公表されない。
サミットに反対する民衆を「過激派」として、逮捕・勾留する国が「法の支配」を語る資格はない。
私は一九九〇年に『過激派報道の犯罪』(三一新書)を出版したが、まさに警察・裁割所・メディアが共謀した過激派報道の再犯だ。(浅野健一)
『月刊救援 650号』(2023年6月10日)
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