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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「家庭生活支援」は国が大いにやるべきだが「家庭教育支援」はやらせてはならない

2018年06月12日 | こども危機
  =家庭教育支援法案と家庭科学習指導要領=
 ◆ 国が家庭教育にふみこんでよいのか
(教科書ネット)
和田哲子(教科書シンポジウム世話人)

 2月17日、表記のテーマで第44回教科書を考えるシンポジウムが開かれました。
 「最初に法案名を聞いたときには、何か子育てを助けてくれるものかと思ったのですが…」。報告者の知識明子さん(家庭科教育研究者連盟)は、そう話を始められ、「家庭教育支援法案のねらい」について報告されました。
 まず家庭に向けられたおもな政策・動きとこの法案準備までの歴史的背景を話されました。とても似ている戦中と現在1872(明治5)年の学制発布以来・時の政権は着々と家庭教育に関する政策を進めてきていました。
 1930(昭和5)年「家庭教育振興に関する件」(文部省訓令)では「家庭は子供の心身育成や人格を完成させるための苗床」といい、1938年には文部省主催の「家庭教育講座」が開始され、1942年には「戦時家庭教育指導要項」が公表されました。
 この要項の原文はとても読みにくいものなので、弁護士さんたちが作られた「超訳」が資料として提示されました。驚いたことに、それが今回の法案ととても似ているのです。
 今回の法案は基本理念として「父母その他の保護者の第一義的責任」「子育てに伴う喜びを実感できるように」を強調し、国を初めとする各関係者の連携を求めています。そして基本方針は文部科学大臣が定めるとしています。
 法案にはくわしい内容は書いていないのですが、この法案を先取りする形で制定されている各地の「家庭教育支援条例」を見ると、祖父母まで含めて古い形の家庭が想定され、地域も動員して「連携」といいつつ「監視」を強める内容になっています
 父母などに対する「親としての学び」まで盛り込んでいるのも「戦時家庭教育指導要項」(こちらでは特に母親を重視)と共通します。
 「明治150年」で明治礼賛の雰囲気があるなか、公助より自助・共助・自己責任、家族の助け合い、伝統・あるべき姿が強調されていること、北朝鮮のミサイル攻撃と少子高齢化が「国難」とあおる安倍政権によって進められる「教育再生」の仕上げとして「子どもには道徳、おとなには家庭教育支援法案」と位置づけられていることが問題の核心だと指摘されました。
 ◆ 帰属意識と伝統の強調
 海野りつ子さん(家庭科教育研究者連盟)は「次期学習指導要領で家庭科はどうなるのか」を報告されました。特徴として
①家族・地域の位置づけの強化で「帰属意識」を育てること・「だんらん」の大切さが強調されること
②衣食住領域の縮小で、命を守ること・生活を営む力・知識や技能の獲得の軽視が起きていること
③伝統の強調で米飯・みそ汁・だしが重視され、「日本人として」が強調されていること
④持続可能な社会では消費者の責任と権利について正しくふれない内容であること・家庭生活だけに媛小化され、社会や世界全体を見る視点がせばめられていること
 などの問題点が指摘されました。
 そしてさまざまな価値観の対立、たとえば「健康に生きる」(自己実現・健康寿命)と「健康でいさせる」(社会保障費の削減・国防のできる身体作り)などがある中で、子どもたちに自分で考える力をつけることが大切と強調されました。
 二つの報告を聞いてどちらも根は同じ「生まれた時から生涯にわたって、一人ひとりの人格の豊かな成長・発達ではなく、国の求める人材をつくること」が企まれているのだと思いました。
 参加者の討論の中ではフィンランドでは出産すると必要品が一式支給され同じ人がずっと支援してくれるシステムがあること、高齢者にもさまざまな条件整備があることが紹介されました。
 そのような「家庭生活支援」は国が大いにやるべきだが「家庭教育支援」はやらせてはならない、惑わされてはならないことだとみんなで確認し合いました。
 (わだてつこ)

『子どもと教科書全国ネット21ニュース119号』(2018.4)

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