《都構想の罠-転換期を迎えた大都市制度21》
■ 児相移管前に出来ること 綱引き
江戸川区で2010年、小学1年生の児童が両親から暴行を受けた虐待死事件は記憶に新しい。区立小学校と子供家庭支援センター(区)、墨田児童相談所(都)がそれぞれ当事者意識を欠き、都区の連携不足が浮き彫りになる事件だった。
児童相談所は「都区のあり方検討委員会」で区移管の方向性が一致したが、事件を契機に、区長会は「連携不足などから、あってはならない事故が発生した」として「早急に区に一元化して体制を整えるべき」と先行移管を提案。「都区のあり検」幹事会とは切り離した形で、都区の実務者レベルによる議論が始まった。
児童相談所を取り巻く現状の課題や問題点、その改善策などが議題となっている。
■ 実力差
児童相談所は都道府県と政令指定都市のほか、06年から中核市も置けるようになり、全国では横須賀市、金沢市が設置。
都内に児童相談所は11カ所あり、23区は7カ所を分担して担当している。このうち、杉並児童相談所は杉並、中野両区のほか、武蔵野市、三鷹市も受け持つ。
児童相談所が専任の児童福祉司を配置し、専門知識・技術を要する事例の対応や地域支援などを担う一方、区市町村の子供家庭支援センターは児童福祉法上、子供・家庭の相談対応が業務として位置づけられ、両者の間には法令上も役割分担がある。ただ、実務的には重なる部分も多い。
児童虐待対策は、義務教育や地域保健、生活保護、家庭内暴力(DV)対策など、区の業務に関わりが深いのも確か。
都庁内にも「その意味では区が一体的に担う考え方は正しい」という意見がある。しかし、現実には課題が山積している。
「あるべき論は分かるが、児童相談所を移管しただけで改善するわけではない。それよりもまず、双方にやるべきことがある」(都幹部)。先行移管の議論は、江戸川区の事件が契機になったが、いざ実行するとなると職員の身分切り替えや関係機関との調整に追われ、膨大な時間と労力がかかる。
区の子供家庭支援センターはと言えば、各区の実力差が鮮明だ。
学校長OBや児童心理を履修した新卒者が必ずしも即戦力になるわけではなく、熟練した専門職がいないと、判断力の鋭敏さに欠けるという。
「頭数をそろえればいいわけではない」(児童相談所長経験者)。各区がそれぞれ児童福祉司や児童心理司の手厚い体制を敷ければ理想的だが、都でさえ専門職の確保に難渋しているのが実情だ。
人口数万人の区に何人の職員が必要なのか、というスケールメリットの問題もある。
児童相談所が移管できれば、清掃移管以上のインパクトはあるだろう。ただ、足立区や葛飾区のように体制を充実させる区がある一方、現状ではレベル不足の区も。
器だけ移管しても「絵に描いた餅」になるー。児童相談所関係者はこう見ている。
■ 半人前
仮に児童相談所の区移管が進んでも、それだけで済む話ではない。
2010年4月に政令指定都市に格上げされ、児童相談所を手に入れた神奈川県相模原市(人口約72万人)は、今なお「半人前」だ。
虐待や家出など緊急時やカウンセリングが必要な時に子供を保護する一時保護所などを県の施設に頼る。
一時保護所は児童相談所に付設されることが多いが、児童相談所の区移管が行われた場合、一時保護所をどうするか。
近年は定員超過の上、被虐待児と非行児童をそれぞれ保護する必要もあり、一定のボリューム感がないと回らない。
児童養護施設や児童自立支援施設、里親制度との関係もある。都区がある限り、どこかで溝を埋める努力が必要になる。
都では今年度内に子供家庭総合センター(新宿区)を整備するとともに、墨田児童相談所の移転・改築に合わせて一時保護所を開設するなど、定員増を計画的に行う予定。
ただ、一時保護所の定員超過は慢性的だ。都としても、子供家庭支援センターの要請に基づいた十分な対応が取れるよう、体制を一層、充実させる必要がある。
大阪都構想ではどうか。現在は大阪市と堺市がそれぞれ一カ所、府が6カ所、児童相談所に当たる施設を有する。
「特別区に中核市並みの権限を」と言う橋下徹市長のことだから、全区に児童相談所を置くのかと思いきや、広域行政として轄理する方向という。
「大阪維新の会」のマニフェストでは各特別区の事務として検討する考えも示していたが、行政レベルで現実的な選択をしたのだとしたら、延々と綱引きを続けている都区にとって、それこそ「罠」と言えるかも知れない。
『都政新報』(2012/7/3)
■ 児相移管前に出来ること 綱引き
江戸川区で2010年、小学1年生の児童が両親から暴行を受けた虐待死事件は記憶に新しい。区立小学校と子供家庭支援センター(区)、墨田児童相談所(都)がそれぞれ当事者意識を欠き、都区の連携不足が浮き彫りになる事件だった。
児童相談所は「都区のあり方検討委員会」で区移管の方向性が一致したが、事件を契機に、区長会は「連携不足などから、あってはならない事故が発生した」として「早急に区に一元化して体制を整えるべき」と先行移管を提案。「都区のあり検」幹事会とは切り離した形で、都区の実務者レベルによる議論が始まった。
児童相談所を取り巻く現状の課題や問題点、その改善策などが議題となっている。
■ 実力差
児童相談所は都道府県と政令指定都市のほか、06年から中核市も置けるようになり、全国では横須賀市、金沢市が設置。
都内に児童相談所は11カ所あり、23区は7カ所を分担して担当している。このうち、杉並児童相談所は杉並、中野両区のほか、武蔵野市、三鷹市も受け持つ。
児童相談所が専任の児童福祉司を配置し、専門知識・技術を要する事例の対応や地域支援などを担う一方、区市町村の子供家庭支援センターは児童福祉法上、子供・家庭の相談対応が業務として位置づけられ、両者の間には法令上も役割分担がある。ただ、実務的には重なる部分も多い。
児童虐待対策は、義務教育や地域保健、生活保護、家庭内暴力(DV)対策など、区の業務に関わりが深いのも確か。
都庁内にも「その意味では区が一体的に担う考え方は正しい」という意見がある。しかし、現実には課題が山積している。
「あるべき論は分かるが、児童相談所を移管しただけで改善するわけではない。それよりもまず、双方にやるべきことがある」(都幹部)。先行移管の議論は、江戸川区の事件が契機になったが、いざ実行するとなると職員の身分切り替えや関係機関との調整に追われ、膨大な時間と労力がかかる。
区の子供家庭支援センターはと言えば、各区の実力差が鮮明だ。
学校長OBや児童心理を履修した新卒者が必ずしも即戦力になるわけではなく、熟練した専門職がいないと、判断力の鋭敏さに欠けるという。
「頭数をそろえればいいわけではない」(児童相談所長経験者)。各区がそれぞれ児童福祉司や児童心理司の手厚い体制を敷ければ理想的だが、都でさえ専門職の確保に難渋しているのが実情だ。
人口数万人の区に何人の職員が必要なのか、というスケールメリットの問題もある。
児童相談所が移管できれば、清掃移管以上のインパクトはあるだろう。ただ、足立区や葛飾区のように体制を充実させる区がある一方、現状ではレベル不足の区も。
器だけ移管しても「絵に描いた餅」になるー。児童相談所関係者はこう見ている。
■ 半人前
仮に児童相談所の区移管が進んでも、それだけで済む話ではない。
2010年4月に政令指定都市に格上げされ、児童相談所を手に入れた神奈川県相模原市(人口約72万人)は、今なお「半人前」だ。
虐待や家出など緊急時やカウンセリングが必要な時に子供を保護する一時保護所などを県の施設に頼る。
一時保護所は児童相談所に付設されることが多いが、児童相談所の区移管が行われた場合、一時保護所をどうするか。
近年は定員超過の上、被虐待児と非行児童をそれぞれ保護する必要もあり、一定のボリューム感がないと回らない。
児童養護施設や児童自立支援施設、里親制度との関係もある。都区がある限り、どこかで溝を埋める努力が必要になる。
都では今年度内に子供家庭総合センター(新宿区)を整備するとともに、墨田児童相談所の移転・改築に合わせて一時保護所を開設するなど、定員増を計画的に行う予定。
ただ、一時保護所の定員超過は慢性的だ。都としても、子供家庭支援センターの要請に基づいた十分な対応が取れるよう、体制を一層、充実させる必要がある。
大阪都構想ではどうか。現在は大阪市と堺市がそれぞれ一カ所、府が6カ所、児童相談所に当たる施設を有する。
「特別区に中核市並みの権限を」と言う橋下徹市長のことだから、全区に児童相談所を置くのかと思いきや、広域行政として轄理する方向という。
「大阪維新の会」のマニフェストでは各特別区の事務として検討する考えも示していたが、行政レベルで現実的な選択をしたのだとしたら、延々と綱引きを続けている都区にとって、それこそ「罠」と言えるかも知れない。
『都政新報』(2012/7/3)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます