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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 自治体による自衛隊への名簿提供の危険な動き

2024年07月29日 | 平和憲法

  《百万人署名運動全国通信から》
 ☆ 自治体による自衛隊への名簿提供は徴兵制の土台となるのか

吉田敏宏さん(ジャーナリスト)

 ☆ 個人情報を自衛隊へ提供

 岸田政権は「安保3文書」改定以降、米軍と自衛隊の共同作戦など大軍拡を進め、「国家安全保障戦略」では自衛隊の「人的基盤の強化」を、「防衛力整備計画」では「少子化による募集対象人口の減少の中で優秀な人材の安定的確保」を掲げ、自治体との連携強化を言っています。
 自衛隊は以前から自衛官募集のダイレクトメール用に、各地方協力本部の職員が市区町村の役所・役場に出向き、住民基本台帳を閲覧して18歳と22歳を迎える若者の氏名、住所、生年月日、性別の4項目の個人情報を書き写し、入手していました。
 住民基本台帳法第11条に、国又は地方公共団体の機関は必要な場合、「住民基本台帳の一部の写し」の閲覧を請求できるとあるからです。

 しかし最近、該当する若者の4項目の個人情報を自治体職員が名簿にして自衛隊側にEメールで送る、CD-ROMに焼いたり、紙に印刷したり、タックシールにして提供するといった方法が広がっています。自治体側が多大な便宜を図っているわけです。
 各種報道から、2022年度の場合、全国の1747市区町村のうち1068が名簿を提供しています。閲覧に留めた市区町村は534で少数となっています。
 自治体が閲覧以上の便宜をするきっかけは2019年2月、自民党大会で当時の安倍首相が、自衛隊員募集に自治体が非協力的な「状況を変えよう」、「憲法9条に自衛隊を明記して違憲論争に終止符を打とう」と発言したからです。
 それを受けて2020年12月に、当時の菅内閣は「市区町村長が防衛大臣から自衛隊員募集に必要な資料の提出を求められた場合、住民基本台帳の一部の写しの提出は可能だ」として、防衛省と総務省の連名で、各地方自治体に、「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)」(2021年2/5付)を出しました。
 でもその末尾に「本通知は、地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言である」と書いています。後で触れますがここは重要です。

 他方、自衛隊法第97条第1項と自衛隊法施行令第120条で、「防衛大臣は、自衛官の募集に関し」、都道府県・市町村の首長に対し「必要な報告又は資料の提出を求めることができる」とし、資料には名簿も入るとしています。
 情報提供は違法・違憲の訴訟名簿提供に関しては全国各地で反対運動がおこり、地方議会でも、国会でも取り上げられたりして、福岡市、神戸市、奈良市では訴訟も起こされました。
 福岡市の裁判は「若者の個人情報4情報を本人の同意なしに提供したのはプライバシー権の侵害で、憲法第13条や個人情報保護法などに違反する」とし、市役所の名簿提供用の公金支出に対し福岡市長は損害賠償せよ、という住民訴訟です。
 奈良市では18歳の高校生が自分の承諾なしに個人情報を自衛隊に提供しへ自衛官募集のはがきを自分に送付したのは違法・違憲だと、市と国に対し賠償請求の訴訟をおこしました。
 それで、各自治体は「自衛隊への情報提供を希望されない方へ(除外申請の受付)」という「お知らせ」をホームページや広報に載せたりしていますが気付かない人が多いようです。
 『平和新聞』編集長の有田崇浩さんが防衛省に開示請求をしたら、自衛隊志願者が募集を知った第1位は自衛隊・防衛省のホームページ、2位は親や親戚から、3位は学校や教師の進路指導からでした。自衛隊からのダイレクトメールで知ったのは1.4%で、名簿提供の効果は薄いのに、それを自治体に求め続けるのは自治体に自衛隊の下請け的な業務を担わせる仕組みづくりをして、将来的に徴兵制のようなものの導入を視野に入れているからではないかと有田さんは推測し、私もそう思います。

 福岡市の訴訟の原告の荒木龍昇さんは、「名簿提供は法定受託事務ではない。法定受託事務ならそのように明記するはず」で、「防衛省と総務省の2021.2.5の通知には『本通知は地方自治法に基づく技術的助言とあるではないか」と主張しました。
 地方自治法247条3項では「国の助言に従わなくても国は自治体に対して不利益な取扱いをしてはならない」と定めている。「義務ではないので法定受託事務ではない」と主張しました。
 辻元清美参院議員(立民党)は「自衛官の募集事務」について、「防衛大臣から求めることができるとあるのは命じているわけじゃない」し「求められても応じる義務はないですよね」という旨の質問主意書を出しました(23.12.1)。
 政府答弁書「強制するものではない」「助言に従わなくても不利益な取扱いはしない」と答えています。
 また、「個人情報を提出できる根拠は自衛隊法上の規定で、住民基本台帳法上の規定ではない」とも言っています。
 「技術的助言」とは自治体が独自に判断できるということなんです。

 住民基本台帳の管理は実施主体の自治体の自治事務です。住民基本台帳の管理事務と自衛隊員募集事務を混同してはいけません。防衛省と総務省の通知に自治体が追随して法定受託事務に含めることはできないのです。
 福岡市は資料の提出、名簿の提供は地方自治法に基づいて国から自治体に委託された法定受託事務で違法性はないと主張します。
 法定受託事務は、本来は国の役割だが自治体に委託されたものですが、「自衛隊員募集の名簿提供」は地方自治法上、法定受託事務とは明示されていません。だから、自治体の方が忖度して、「法定受託事務」と判断するのは拡大解釈です。

 ☆ 「指示権」を行使する事態とは?

 今国会に地方自治法改正案が出されています(6/19成立)。地方自治を否定する違憲の法案です。
 改正案は個別法を飛び越えて、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態、またその恐れがある事態については、政府が必要な指示を出す」という「指示制度」を設けています(第14章を新設)が、例えば有事には「国民保護法」という個別法で自治体の対処を定めています。
 政府側は感染症のパンデミックや自然災害への対処を改正の理由に持ち出していますが、武力攻撃事態や存立危機事態などの有事での適用も除外されないという説明もしています。
 この点が改正法案の要なのですが、政府は指示権を行使する事態や指示の内容について具体的に明らかにしません
 有事での自衛隊や米軍への自治体の協力については、1999年の周辺事態法(現重要影響事態法)、2003年の武力攻撃事態法(現事態対処法)、04年の特定公共施設利用法や米軍行動円滑化法、15年の安保法制などの有事法制で、飛行場・港湾の使用、人員・物資輸送への協力、施設・物品の貸与、給水などが規定されています。
 つまり武力攻撃事態やそのおそれがある事態で政府は空港、港湾の管理者である自治体に、自衛隊や米軍など外国軍隊による優先的利用を要請できる仕組みはすでにあります。でも強制力まではないので、自治体が要請に応じない場合は、総理大臣の権限でより効力の強い指示(地方自治法改正案にある「指示」とは異なる)を出せるようになっています。
 自治体が国の要請に従わない問題では、沖縄県の辺野古新基地建設の公有水面埋め立て取り消し訴訟が数年も続きました。
 沖縄県による自治体の独立性、対等性を根拠にした抵抗で重要な闘いですが、地方自治法改正案の「指示権の創設」はそうした問題にも適用する狙いがあるとも考えられます。

 今年4月に自治体が管理する空港・港湾に対し、政府は「特定利用空港・港湾」16ケ所を指定しました。例えば高知県では高知港と須崎港と宿毛(すくも)湾港が指定され、受け入れた高知県と国が確認書を交わしました。
 自衛隊も海上保安庁も港湾法等の関係法令等に基づき、入港する際に管理者である自治体から許可を得るわけですが、確認書には、「高知県は平素において自衛隊や海上保安庁の運用や訓練等による港湾施設の円滑な利用について、港湾法その他の関係令等を踏まえ、適切に対応する」とあり、優先的にとは書いていませんが、平素から利用し、緊急性が高い場合においては民生用に配慮しつつ、柔軟かつ迅速に施設を利用できるようにするという内容です。

 ☆ 公共インフラ整備のQ&A

 「特定利用空港・港湾」については、内閣官房のホームページの「総合的な防衛体制の強化に資する公共インフラ整備」のQ&Aに、どういう運用をするか説明があります。また、有事法制の一つに「特定公共施設利用法」もあります。
 武力攻撃事態と武力攻撃予測事態、直接日本が攻撃された、あるいはされそうだという時に、本部長(国土交通大臣など)が自治体に自衛隊や米軍など外国軍隊による空港や港湾の使用を要請し、従わない場合は総理大臣から指示を出すという仕組みです。
 しかし、台湾有事が起きたが日本はまだ攻撃を受けていないケースや、その恐れもまだないケースでは、自衛隊や米軍は空港・港湾を優先的に利用できません
 だからそのようなケースでも、平素から「特定利用空港・港湾」指定をしておくことで、自衛隊や米軍が優先的に利用できるようにしようという目論見があると考えられます。
 「特定公共施設利用法」と「特定利用空港・港湾」というのは名称が似ているから混同しますが、内閣官房のQ&Aに、特定公共施設利用法の対象は「特定利用空港・港湾」に限らないとあります。
 全国どこの民間港・民聞空港でも武力攻撃事態・予測事態になれば政府は利用を要請できます。

 ☆ 『赤紙と徴兵』のこと

 私は『赤紙と徴兵』という本で、戦前の兵事書類を詳しく分析しました。
 戦前は大日本帝国憲法第20条に「日本臣民ハ法律ノ定ムル所二從ヒ兵役ノ義務ヲ有ス」とあり、兵役法には「帝国臣民タル男子ハ本法ノ定ムル所二依リ兵役二服ス」とありました。徴兵制です。
 全国の市町村役場に兵事係が置かれ、20歳の成年男子の名簿を戸籍から抜き出した「壮丁連名簿」を作って軍に提供し、徴兵検査を受けさせました。
 「在郷軍人名簿」という召集の基本台帳もつくり、戦時の動員の際はその名簿から人員を選んで、召集令状「赤紙」を交付し戦場へ送りました。
 兵事係は徴兵制にかかわる全てのことをしました。徴兵検査を受ける人の事前調査、検査通知の発送、在郷軍人のリストづくり、出征者の見送り、召集令状の交付や戦死公報の通知、武運長久祈願祭の開催、慰問袋の取りまとめ、戦死者遺族の援護、銃後の守りの体制づくり、志願兵募集など。国家に個人情報が収集・集積され、監視・統制・動員の戦時体制が作られて戦争が遂行されました。
 アジア・太平洋戦争での敗戦後、憲法9条の戦争放棄のもと兵事係もなくなりました
 戦前は帝国憲法下で地方制度はあったが地方自治はなかったのですが、日本国憲法には「第8章地方自治」が設けられ、地方自治法も制定されました。
 地方分権改革以来、国と自治体は対等です。
 政府はこれまで、徴兵制は憲法第18条の禁じる「意に反する苦役」に当たるので、その導入はありえないと繰り返し国会答弁をしています。
 ところが、2012年の自民党「憲法改正草案」では自衛隊を国防軍にするとあります。今日、自民党は「憲法9条に自衛隊を明記する」という改憲案を出しています。
 明記されると自衛隊は公共性を持ち、徴兵は苦役ではないと、政府は解釈変更するかもしれません
 日本は急速に「軍事優先社会」になり、アメリカの軍事戦略に従って戦争する国へと前のめりに進んでいます。

 ☆ 軍事優先社会を阻むために

 戦争には兵士、自衛隊員が不可欠ですが、少子高齢化で自衛隊員になる年齢層が減少し、自衛隊内でのセクハラ、パワハラ、いじめによるイメージ悪化もあり、応募者は減る一方です。
 しかも本当に戦争になって戦死者が出る危険性が高まっている今の自衛隊は、専守防衛の自衛隊ではなくなっていますから、定員割れは深刻です。
 政府は格差社会での若者の貧困、非正規労働者の現実につけこんで、経済的徴兵制といわれるような手法で、学資金を貸与したり、隊員の獲得に必死です。
 すぐには徴兵制の導入はできませんが、アメリカのように選抜徴兵制に若者を登録させていくことは考えられます。
 2023年8月15日のNHKスペシャル「Z世代と“戦争”」で、3000人に「戦争に巻き込まれたらどうするか」というアンケートをしたら「戦闘に参加せず戦争反対の声をあげる」(36%)、「逃げる」(10%)、戦争に参加する(5%)、わからない(22%)という結果だったそうです。
 しかし徴兵制が法制化されてしまえば、日本社会は同調圧力が強いので、「法律なんだから」と従う人が多いだろうと思います。
 福岡市の裁判で市側は、「自衛隊は災害時の救援活動など市民が安心して生活する上で欠かせない存在」という点を強調しました。自衛隊にお世話になるから名簿提供で協力するのは当然という発想でしょう。
 東京の練馬駐屯地の即応体制訓練は戦闘服の行軍スタイルで、災害時に交通手段がない時にどういう道を通るかとか、役所との連携のためにとかいう理由で千代田、中央、港、品川、大田区の各区役所に「立ち寄り」ました(3頁参照)。自衛隊を社会的存在として認知させ、浸透させようとする狙いでしょう。
 その一環として名簿提供の要請もあります。自治体労働者や組合はそのことを看過してはいけないと思います。
 役所の「戸籍住民課」や「危機管理課」が戦前の「兵事係」に舞い戻らないよう、再び赤紙を配る時代にさせないよう、自治体労働者や地域住民が「戦争協力はしない」意識を高めることが重要です。(文責事務局)

『百万人署名運動全国通信 第320号』(2024年7月1日)

 


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