《月刊靖国・天皇制問題情報センター通信 巻頭言【偏見録その84】》
◆ 女系天皇・女性天皇は実現するか
代替わり諸儀式は始まったばかりだが、マスメディ等の関心は「皇位継承」問題に移ってきている。天皇制度に反対の者にはどうでもいいことだろうが、本稿ではこの問題について簡単にふれておく。
大日本帝国憲法時代には、憲法自体が天照大神の神勅により皇位は初代の神武天皇から「萬世一系」である子孫が継承することを定めるとともに(一条)、歴史的には女性天皇が存在したにも拘わらず「男系男子」が継承するとしていた(二条)。
それを受けて、政務法の最高法規である憲法と並ぶ宮務法の最高法規である皇室典範が、皇位の継承順位と摂政の継承順位を「直系(現天皇の子孫優先)・長系(兄弟では兄優先)・長子」を原則に定めていた。
これに対し、日本国憲法は皇位が「世襲」であることを定めただけで、①誰が初代の象徴天皇に即位するか、②その皇位をどういう条件に合致する者が継承するかをまったく白紙とし、その決定は憲法の下位法である、名称はかつてと同じだが、国会の議決する法律に過ぎない皇室典範(したがって、憲法に違反する内容は無効)にまかせた。
その結果、①ではなぜか当然のごとく裕仁氏が就任し、彼の子孫が皇位を世襲することになったが、②皇室典範は継承資格者を「男系男子」に限定し(一条)、直系長系の継承順位を定めた。
他方、憲法十四条は性別による差別を禁止しているので、「男系男子」への限定は違憲の疑いが出てくる。
憲法の基本原則を重視し、また十四条を人権規定であるとともに「平等原則」を定めたものと理解する筆者は、かねてより違憲と断じてきた(女系・女性天皇を認めることは天皇制を延命させるものだという当然の批判がありうるが、憲法解釈の一貫性からはそうなる)。
これに対し、「世襲」自体が差別だからその上で性別差別を論じるのは筋違いだとか、二条は「憲法の飛び地」だから憲法原則は適用されないとか、天皇・皇族に人権はないとかといった論で、「男系男子」限定を合憲とする憲法学説が有力である。
しかし、「男系男子」に限定すれば、現在の制度でその資格者は、秋篠宮・悠仁・常陸宮の三者しかなく、実質的には悠仁のみである。これでは天皇制度は自然に消滅する可能性がある。
そこで、安倍首相など「男系男子」にこだわる人たちは、戦後「臣籍降下」した皇族の子孫(もはや旧皇族でもない)を皇族に復帰させようと策謀したり、皇族にも「養子」制度を認め養子として皇族化し資格者とするとか、皇族女子と結婚させるとかを主張している。
だが、これらはいまの国民意識からは受け入れられないばかりか、国論を二分化し、彼(女)らの思惑に反して天皇制を揺るがすことになろう。
女系天皇は伝統に反するなどと「男系男子」に固執していれば、奇跡でも起こらない限り、将来、天皇制度は消滅するだろう(大体、「女系天皇は伝統に反する」という認識自体間違っていると、保守派の天皇研究者の中からも異論が出ている)。
ただし、「男系女子」天皇に反対する彼(女)らの主張はもっともである。
男系女子天皇の子は女系男子であって継承権はないから、一代限りとなり根本的解決ではないからだ。
そもそも、彼(女)らの多くは、「男系女子」天皇にも
・「女性の配偶者の取り扱いに困る」
・「女性の公事担当能力は男性に劣る」
・「配偶者の男性に引きずられる」
・「軍のトップになれない」
などとして反対なのであるが、かつてはともかく、こんにちこうした論には説得力はまったくない。
まして、
「宮中祭祀の祭主になれない」
は公的天皇とは関係ない。
そこで、天皇制度を維持しようと考えれば、女系・女性天皇を認めるしかなかろう。
それでは「女系・女性天皇」を認めるかというと、結構この制度設計にも困難がある。
先ず、皇族女子は結婚しても皇族に止まるということが前提となる。これには資格者が増えて国庫負担が増大するという問題がある。
その上で、継承順位を「男系男子優先」にするか、「一般的に男子優先」にするか、「兄弟姉妹間では男子優先」にするか、といった男性優位論者からの主張が予想される。
この各場合を採用した際どういうことになるか、具体的にシミュレーションを試みたが、明確さを欠いたり順位が不安定になったりで、途中で分からなくなりこの試みは放棄した。
結局、「直系・長系・長子」が差別が少なく(長系・長子は産れ順差別)、安定的で明確であろう。
また、この場合も、女性天皇・皇族女子の配偶者の取り扱いの検討が必要である。
なお、一部野党から「女性宮家」なるものの創設が主張されているが、女系・女性天皇を認めない限り皇位継承の危機を乗り越えることはできないし、自民党の一部が主張している結婚後の元皇族の女性が皇族の役割を果たすという構想も皇位継承とは関係ない。
ともあれ、安定的な皇位継承をどうするかについては議論が分かれているし、その解決には時間がかかる。そうこうしているうち、眞子さんなど皇族女子は結婚して皇族ではなくなるが、その日を案外「男系男子」固執者は待っているのかもしれない。
『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信No.186』(2019年7月7日)
◆ 女系天皇・女性天皇は実現するか
横田耕一(憲法学)
代替わり諸儀式は始まったばかりだが、マスメディ等の関心は「皇位継承」問題に移ってきている。天皇制度に反対の者にはどうでもいいことだろうが、本稿ではこの問題について簡単にふれておく。
大日本帝国憲法時代には、憲法自体が天照大神の神勅により皇位は初代の神武天皇から「萬世一系」である子孫が継承することを定めるとともに(一条)、歴史的には女性天皇が存在したにも拘わらず「男系男子」が継承するとしていた(二条)。
それを受けて、政務法の最高法規である憲法と並ぶ宮務法の最高法規である皇室典範が、皇位の継承順位と摂政の継承順位を「直系(現天皇の子孫優先)・長系(兄弟では兄優先)・長子」を原則に定めていた。
これに対し、日本国憲法は皇位が「世襲」であることを定めただけで、①誰が初代の象徴天皇に即位するか、②その皇位をどういう条件に合致する者が継承するかをまったく白紙とし、その決定は憲法の下位法である、名称はかつてと同じだが、国会の議決する法律に過ぎない皇室典範(したがって、憲法に違反する内容は無効)にまかせた。
その結果、①ではなぜか当然のごとく裕仁氏が就任し、彼の子孫が皇位を世襲することになったが、②皇室典範は継承資格者を「男系男子」に限定し(一条)、直系長系の継承順位を定めた。
他方、憲法十四条は性別による差別を禁止しているので、「男系男子」への限定は違憲の疑いが出てくる。
憲法の基本原則を重視し、また十四条を人権規定であるとともに「平等原則」を定めたものと理解する筆者は、かねてより違憲と断じてきた(女系・女性天皇を認めることは天皇制を延命させるものだという当然の批判がありうるが、憲法解釈の一貫性からはそうなる)。
これに対し、「世襲」自体が差別だからその上で性別差別を論じるのは筋違いだとか、二条は「憲法の飛び地」だから憲法原則は適用されないとか、天皇・皇族に人権はないとかといった論で、「男系男子」限定を合憲とする憲法学説が有力である。
しかし、「男系男子」に限定すれば、現在の制度でその資格者は、秋篠宮・悠仁・常陸宮の三者しかなく、実質的には悠仁のみである。これでは天皇制度は自然に消滅する可能性がある。
そこで、安倍首相など「男系男子」にこだわる人たちは、戦後「臣籍降下」した皇族の子孫(もはや旧皇族でもない)を皇族に復帰させようと策謀したり、皇族にも「養子」制度を認め養子として皇族化し資格者とするとか、皇族女子と結婚させるとかを主張している。
だが、これらはいまの国民意識からは受け入れられないばかりか、国論を二分化し、彼(女)らの思惑に反して天皇制を揺るがすことになろう。
女系天皇は伝統に反するなどと「男系男子」に固執していれば、奇跡でも起こらない限り、将来、天皇制度は消滅するだろう(大体、「女系天皇は伝統に反する」という認識自体間違っていると、保守派の天皇研究者の中からも異論が出ている)。
ただし、「男系女子」天皇に反対する彼(女)らの主張はもっともである。
男系女子天皇の子は女系男子であって継承権はないから、一代限りとなり根本的解決ではないからだ。
そもそも、彼(女)らの多くは、「男系女子」天皇にも
・「女性の配偶者の取り扱いに困る」
・「女性の公事担当能力は男性に劣る」
・「配偶者の男性に引きずられる」
・「軍のトップになれない」
などとして反対なのであるが、かつてはともかく、こんにちこうした論には説得力はまったくない。
まして、
「宮中祭祀の祭主になれない」
は公的天皇とは関係ない。
そこで、天皇制度を維持しようと考えれば、女系・女性天皇を認めるしかなかろう。
それでは「女系・女性天皇」を認めるかというと、結構この制度設計にも困難がある。
先ず、皇族女子は結婚しても皇族に止まるということが前提となる。これには資格者が増えて国庫負担が増大するという問題がある。
その上で、継承順位を「男系男子優先」にするか、「一般的に男子優先」にするか、「兄弟姉妹間では男子優先」にするか、といった男性優位論者からの主張が予想される。
この各場合を採用した際どういうことになるか、具体的にシミュレーションを試みたが、明確さを欠いたり順位が不安定になったりで、途中で分からなくなりこの試みは放棄した。
結局、「直系・長系・長子」が差別が少なく(長系・長子は産れ順差別)、安定的で明確であろう。
また、この場合も、女性天皇・皇族女子の配偶者の取り扱いの検討が必要である。
なお、一部野党から「女性宮家」なるものの創設が主張されているが、女系・女性天皇を認めない限り皇位継承の危機を乗り越えることはできないし、自民党の一部が主張している結婚後の元皇族の女性が皇族の役割を果たすという構想も皇位継承とは関係ない。
ともあれ、安定的な皇位継承をどうするかについては議論が分かれているし、その解決には時間がかかる。そうこうしているうち、眞子さんなど皇族女子は結婚して皇族ではなくなるが、その日を案外「男系男子」固執者は待っているのかもしれない。
『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信No.186』(2019年7月7日)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます