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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

トリチウム水放出の危険は風評ではない。線量率を下げるには時間を掛けるのが一番確実。

2018年06月28日 | フクシマ原発震災
  《たんぽぽ舎です。【TMM:No3393】【TMM:No3394】》
 ▼ トリチウム汚染水を海洋投棄しないで
   核の汚染を拡大してはいけない
   100年貯蔵をすれば線量率は6%程度にまで下がる
山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)

 ◇1.「トリチウム汚染水海洋放出」を迫る原子力規制庁と抵抗する東京電力
  しかし、トリチウムの環境や健康への影響などは一切話題になっていない

 ◎ 福島第一原発事故の汚染水を巡り、こんな事態が進行中だ。
 5月30日に開かれた規制庁の臨時会合で、東電の小早川智明社長と規制委との間で福島第一原発の廃炉の進め方などの「意見交換」(電力各社トップから事故対策などを聞き取る定期的な取り組みの一環とされる)が行われた。
 最大のテーマは、「アルプス」などで浄化後に貯蔵されているトリチウム(三重水素)汚染水約85万トン(2018年2月現在)の処分方法
 ◎ 更田豊志委員長は東電に「主体的な判断」を行うよう求めた。
 その判断とは「薄めて海洋放出」。つまり「早く海に捨てよ」と迫った。更田氏は汚染水を「基準値以下に希釈して海洋放出するのが唯一の選択肢」との見解を持っている。
 これに対し小早川社長は「(現在は処分方法を検討している段階で)国の小委員会での結論を待つ」との立場を維持したため、規制委と厳しいやりとりとなったと報じられた。
 更田氏は「東電が自ら選択肢を示したくないから、先頭に立つ覚悟がないから、国に判断を委ねていると言われてしまう」「困難な廃炉作業と闘っている大勢の仲間への裏切りになる。リーダーシップを示してほしい」などと発言した。
 小早川社長は「廃炉を推進する主体者として意見を肝に銘じるが、現段階では風評(が生じないこと)に最大限配慮し、私どもが判断すべきではない」と、放出の判断時期などは答えなかった。
 ◎ 「福島民友」など地元紙は大きく取り上げたが、東京ではほとんど話題になっていないこのやりとり。
 この議論では、トリチウムの環境や健康への影響などは一切話題になっていない。

 ◇2.トリチウムの危険性

 ◎ トリチウムは宇宙放射線により大気圏上層でも生成されるため、一定の割合で地球上に存在する。規制庁などは、その影響を受けている地球環境や生物は、原子力施設からのトリチウムの放出があっても、排出規制以下ならば影響はないとの立場だ。
 しかし問題はそう単純ではない。環境中に存在するトリチウムは、希薄に拡散した状態で存在するが原子力施設からのトリチウムは、放出される地域では高い濃度で存在する
 ◎ 例えば原子力施設からのトリチウムの放出の規制基準は1リットルあたり6万ベクレルだが、自然界にはこんな高濃度では存在しない。さらに大量の水で希釈して放出すればよいと考えるかもしれないが、6万ベクレルをどこまで希釈するのか。その倍数だけ海水が必要となり、その分長期間かかる。
 トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため、生体内では様々なところに取り込まれる。特に問題なのがDNAの中にも存在することだ。
 ◎ DNAの構成分子となったトリチウムは半減期12.3年で別の元素に変化するが、その際にベータ線を出して化学活性が全く異なるヘリウムになる。ベータ線被ばくの影響に加え、ヘリウムではDNAの鎖は維持できないので切断される。この影響も無視できない。細胞のガン化はDNA鎖の切断が一つの原因だからだ。
 その他にもベータ線被ばくを含む影響を生体内の各所で受ける可能性がある。
 高い濃度でトリチウムが存在する環境中にいると、生体内のトリチウム濃度も上がるので、DNAなど生体組織内に存在する確率も高まる。
 ◎ 大量のトリチウムを放出する性質のあるカナダ型重水炉(CANDU炉)ピカリング原発周辺で白血病が多発したとの報告があった。
 このためカナダ・オンタリオ州の飲料水諮問委員会は州環境省長官に対して、飲料水に含まれるトリチウムの上限値を1リットルあたり20ベクレルとする内容の報告書を提出した。日本では1万ベクレルである。
 福島第一原発のような沸騰水型軽水炉よりも玄海原発のような加圧水型軽水炉のほうがトリチウムの生成と放出量は大きい。玄海原発の周辺で白血病が増えているとの報告もある。
 ◎ なお、原子力研究開発機構の文書によると、トリチウムは放射線等により自然界で生成されるのが約7京ベクレル/年。自然界での存在量は地球全体で約100~130京ベクレル。
 日本周辺(領土領海と排他的経済水域)での自然由来の生成量は年間約110~670兆ベクレル。環境中へのトリチウム排出量は、自然由来と原子力施設由来がこれまでは同程度とされてきた。
 事故前の原発近隣海域のトリチウム濃度は0~21ベクレル/リットルという。
 過去の核実験により生成したのは約18,000京~24,000京ベクレル(1945~1963年)。このうち、日本周辺においても今なお、最大約1.4~10.9京ベクレル程度が残留する。
 ◎ 一方、福島第一原発に溜まるトリチウム汚染水は約800兆ベクレルで事故時には100~500兆ベクレルを放出した。未だ燃料中などに残るのは1800兆ベクレルとされる。
 核実験由来はいずれ消滅するが、自然由来は変化しないと仮定すれば、主に原子力関連からの排出が増加要因となる。
 今は再処理工場も大半の原発も停止しているため減りつつあるが、これらが稼働したら増加に転じ、相対的に影響が大きくなる。
 ◎ 自然生成と人工生成の最も大きな違いは、発生場所が面か点かだ。原発などからの放出位置の濃度に対して約10km下流では約1桁低下、約50km下流では約2桁低下、約100km下流では約3桁低下とされるから、放出点から6万ベクレル/リットルの汚染水を流すと100キロ先でも600ベクレルあり、天然の存在量よりも高い濃度だ。
 ◇ 3.風評被害だけではない

 ◎ 東電は、トリチウム水の放出は風評被害を引き起こす可能性があるので、おいそれとは流せないと言っている。地元の漁業関係者や農業関係者をはじめ多くの人々が大きな危機感を持っている。
 「風評被害」とは、実態としての害はないのに、うわさや誤った前提に基づき起こる悪い評判により経済的被害を受けることだが、トリチウムの放出については風評とは言えない
 福島第一原発事故で大量の放射性物質が放出され、今でもキノコや山菜類からは100ベクレル(1キロあたり、以下同じ)を超えるセシウムが検出されている。
 魚も同様で、福島第一原発専用港内で捕れるにはしばしば100ベクレルを超える高い汚染が見つかる。
 基準の100ベクレルも安全な値とはいえない。99ベクレルならば問題はないのか。そう考えない人は多いし、実際に証明できるわけでもない。摂取した量に比例して影響があると考えるならば、10ベクレル以下で管理すべきだ。
 ◎ 福島第一原発事故は海外で起きた事故ではないので、基準値の近傍の食品を摂取し続ける可能性がある。その場合、体内存在量は増加する。
 トリチウムの場合、体内濃縮はないとされるが、取り込まれたものは滞留する。摂取する食品の濃度が高ければ、体内濃度はそれに比例して上がる。トリチウムの影響を多く受けるのは、必然的に放出点により近い人々だ。
 また、海洋表面から大気中への拡散も起きるので、空気中の濃度も上がる。
 雨が降れば飲料水などにも混入する。最近の降水中のトリチウムは0.5ベクレル/リットルを下回っているが、これが再び上がるかもしれない。
 ◎ 先のカナダの例のような健康被害を指摘する報告は多い。日本では玄海原発や泊原発の周辺地域でがんや白血病の増加を指摘する報告もある。これを国や事業者は認めていない。
 しかし水俣病やイタイイタイ病などの公害病も、当初は原因物質を認めていなかった。健康被害の規模が大きくなり、沢山の人が犠牲になるまで。
 トリチウムも、そのような事態になりつつあると考える。

 ◇ 4.トリチウム汚染水は100年貯蔵を

 ◎ 一般に放射性物質は、半減期の10倍の時間が経過すると線量率は3桁下がる
 トリチウムの場合は123年後には、800兆ベクレルは8000億ベクレルになる。これでも高いが、85万トンの水に含まれるから、1リットルあたり1000ベクレル以下だ。
 半減期の10倍の時間をかければ、海に流せる濃度(50倍に希釈すれば20ベクレル程度)にまで下げられる。
 東電はサブドレン水などの海洋放出基準を1500ベクレルで管理している。その水準に下げるには時間をかけることが最も確実だ。
 燃料と瓦礫の混ざった「デブリ」も100年貯蔵をすれば、線量率は6%程度にまで下がる。
 ◎ 時間をおくことは地元の人たちにとって、一見その間何も変わらないように見える。だからこそ丁寧な説明をし、津波等でも放射性物質の拡散を引き起こさないような対策を取ることで納得を得るほかはない。
 場当たり的に中をいじり、拡散のリスクを招いたり、トリチウム汚染水を海に投棄するような対策は、責任ある後始末の方法ではない。 (了)
*大きな数の表記の意味は以下の通りです。
 「億」…10の8乗、「兆」…10の12乗、「京(けい)」…10の16乗

  (2018年6月10日発行「脱原発東電株主運動ニュース」No275より転載)

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