永尾俊彦 著『ルポ「日の丸・君が代」強制』緑風出版 定価2970円(税込)
=戦後最大の思想弾圧事件=
◆ 30年間で「日の丸・君が代」強制に抗う996人が処分 (週刊金曜日)
永尾俊彦(ながおとしひこ/1957年、東京都生まれ。ルポライター。)
『国家と石綿』『干潟の民主主義』(ともに現代書館)、『ルポ 諌早の叫び』(岩波書店)など公害や自然破壊の取材で、なぜ健康被害や環境破壊に平気で手を貸す官僚が生まれるのか疑問を持つ。教育に原因がありそうだと取材を始め、とくに「日の丸・君が代」強制こそ教育の根幹にかかわる大問題だと気づいたという。
大手マスコミは本書をほとんど黙殺。「日の丸・君が代」強制に抗い処分され、裁判で闘っている原告教員らへの仕打ちと同じだと著者は話す。
- 仕打ちとは何でしょう?
この問題は天皇制ともつながるのでマスコミはタブー視して取り上げず、一般的にも理解されないことです。
しかし本書で取り上げた教員らは担任を外されたり、遠隔地に飛ばされたり、減給や再任用拒否をされたりしても、教員への「日の丸・君が代」強制は最終的に子どもへの強制につながると身を挺して教育の暴走を止めようとしています。
最高裁は、思想良心の自由の間接的制約になると認めたものの、制約の必要性があり違憲ではないとしました。東京「君が代」裁判第5次訴訟ではその突破が課題です。
- 強制が金儲けとつながっていることも明らかにされました。
東京都や大阪府の教育委員会などは「日の丸・君が代」を踏み絵に、文部科学省や教育委員会などに従順な教員かどうかを判断しています。財界はこれを支持しています。労働者が権利意識をもつて労働運動などをしては困るので、子どものころから教育で自己責任を植え付け、低賃金でもガマンする従順な労働者をつくりたい。「日の丸・君が代」をテコに教育を支配したいのです。
コロナ禍の今年の卒・入学式でも、都教委はCDの「君が代」を起立して聴くよう通知を出しました。
- この30年間に996人の教員が懲戒処分。これは思想弾圧事件だというとらえ直しが必要だとあらためて認識しました。
日本学術会議の任命拒否以前に、すでに思想弾圧はこのように起きていました。じわじわと思想良心や学問の自由が狭められているのです。
よく問題になる日本人の同調圧力の根本はここにあるのではないかと思います。子どもたちはまず「日の丸・君が代」に迎えられて入学、そこから毎年教員が壇上で「日の丸」に礼をしている姿を見せられ、刷り込まれ……、同調圧力を教えているのは学校ではないでしょうか。いじめや不登校、自殺とも結びつけて考えるべきだと思います。
- 希望はどこにありますか。
1960年代、ベドナム反戦運動が高揚し、米国で国旗焼却事件が続発して国旗冒涜処罰法が89年に国旗保護法となって処罰範囲が広げられました。これに抗議した人が星条旗を焼いて逮捕され、後に無罪となる事件がありました。
このときの連邦最高裁判決には「国旗冒涜を処罰することは、国旗を尊重させている、および尊重に値するようにさせているまさにその自由それ自体を弱めることになる」(出典/土屋英雄筑波大学大学院教授の「意見書」)とあり、日本もそうあるべきだと。
思想良心の自由を至上価値とするなら、他者の不愉快な言動も尊重する寛容が必要。自由と寛容は表裏一体という理想が広まるのが希望です。
文・写真/吉巴亮子(編集部)
『週刊金曜日 1347号』(2021年10月1日)
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