◎ 院内集会:条約に沿った労働基準法4条の適用を実現しよう!
均等待遇アクション21と三組合は、2月8日参議院議員会館において、報告集会を開催した。参加者は約60人、日本で初めての申し立てに対して出されたILO勧告には関心が高かった。
最初に各申立て組合から、ILOへの申立の経過と思いが述べられた。
商社ウィメンズユニオン委員長の逆井征子さんは、「裁判での判決は満足できる内容ではなかったが、勧告で主張が認められ、悔しさが晴れる思い。この勧告を活用していきたい」と語った。
「結論と勧告のもつ意味」というテーマで話した浅倉むつ子さん(早大大学院教授)は、「裁判でも、行政的な監督、指導、調停でも、職務や職種、雇用管理区分を超える広い範囲で、男女の労働の価値で比較されなければならない。すべての企業に職務給制度の採用を強制することは難しいが、そこへ誘導していくことが重要。また同一価値による判断は全面的でなくても一部でもよく、客観的に評価することがポイントである」と、職務評価の必要性を改めて強調した。
中野麻美さん(弁護士)は、「賃金格差の根拠のコアとして仕事の内容があるが、格差は本当に合理性があるのかを問わなければならない。差別を可視化するツールとして、客観的職務評価が必要である。厚労省ができることは、告示や通達で明記し、事業主に対して指導すること。使用者に挙証責任を課すことも重要だ。これまでの能力、業績評価は女性に不利になる。職務評価専門委員会を作り、トレーニングをする必要がある。介護など公共分野でのモデルケースを作るべきだ」と具体的な取組みのために専門委員会の設置が必要と述べた。
「日本は何をなすべきか」というテーマで中嶋滋さん(ILO前労働側理事)は、「次回の政府報告では、08年、10年を含めた内容が必要で、政府だけではなく連合、経団連も含めて、具体的な状況を報告しなければならない。100号条約を遵守することと併せて、175号(パートタイム労働に関する)条約、183号(母性保護に関する)条約の批准も重要事項である。183号条約では、出産休暇後の職場復帰については、賃金は同額であることを前提として、同等の職位に戻れることを保障している。さらに使用者が雇用を終了する場合は、解雇理由が母性と無関係であることを証明する挙証責任は使用者側にあるとしている」と各ILO条約の役割や重要性について力説した。
会場から、「職務遂行能力をベースにした職業能力評価制度が取り入れられており、労働側も『積極的に活用すべき』と述べている。職務評価制度が職業能力評価制度にすり替えられるのではないかと危惧している。客観的分析的評価制度の実現を労働側から強く主張していくことが大事である」との意見が出された。
(略)
■ 職務評価制度と職業能力評価制度はまったく異なる
パート労働法の改正を審議している雇用均等分科会は、論点「賃金に関する均衡(法第9条)」のひとつとして、「職務評価制度又は職業能力評価制度の導入」をあげている。
「職務評価制度」については、パート労働法に基づき、単純比較法による「職務分析・職務評価実施マニュアル」(厚労省2010年4月)が作成された。
「職業能力評価制度」とは、職業能力を客観的に評価することを目的として、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したもので、すでに04年以降、電気機械器具製造業、ホテル業、スーパーマーケット業など46業種で評価基準が策定されている。
しかし、「職務評価制度」と「職業能力評価制度」は、手法も目的も全く異なる制度である。
■ 職業能力評価制度の問題点
(職業能力評価制度の中心が職業能力評価基準で、その活用ツールが職業能力評価シート)
1 「職務遂行能力」の評価は「職務」ではなく「人」の評価であり、考課者の主観的、恣意的要素によるため、客観的かつ公正な評価がおこなわれるとは言い難い。
2 職業能力評価基準は、仕事の内容を「能力細目」という単位で細分化する。「能力細目」では、成果につながる行動例を「職務遂行のための基準」とし、仕事に「必要な知識」と共にレベルをチエックする。レベルは、企業において期待される責任・役割の範囲と難易度により4段階に設定を行う。
職業能力評価シートの目的は「人材育成」であり、現実に従事している「職務」を評価するものではない。
3 自己評価と考課者評価の齪館を埋めるためのフィードバックが不十分であるため、考課者の一方的評価によって賃金決定がなされ、不平等が生じている。
4 職業能力評価制度を活用している某百貨店では、評価項目は①成果、②勤務態度、③行動基準の3つで、情意考課に重点を置き、直接的な仕事の評価はなされていない。
5 階層別の人材育成が目的であるため、評価の手法が上下階層関係を前提としており、均等待遇をめざすものではない。
■ 国際基準に基づく職務評価制度
国際的な職務評価は同一価値労働同一賃金原則を実施するためのツールであり、「得点要素法」に基づき、ジェンダー平等の視点で①知識・技能、②負担、③責任、④労働環境の4大ファクターを用いて客観的に評価する。
仕事は、どのような職種、職務であっても、4大ファクターを活用しなければ遂行できない。とりわけ、女性職の大半が対人サービス業であることから、負担(精神的、肉体的、感情的)のファクターが重要である。
職務評価は、雇用形態や職務を問わず、共通のシートを使って職務分析・職務評価をする手法である。
正規・非正規の均等待遇には、縦割の企業社会を前提とする職業能力評価基準ではなく、国際的な職務評価基準を運用し、総合的に評価することが重要である。
■ 国際基準を無視している政府
厚労省は12年度、パート労働者を対象とした職務分析・職務評価の導入を支援する「雇用均等コンサルタント(仮称)」を全国配置する方針を出した。
社会保険労務士、中小企業診断士その他企業OBなどを活用し、企業の人事労務担当者向けの研修会やガイドラインの作成などを手掛けるが、厚労省が10年に発表した単純比較法による「職務分析・職務評価実施マニュアル」を用いるようだ。
このマニュアルは、「業務の内容」と「責任の程度」のみを評価項目とし、ひとつでも異なれば同一と見なさず、正規とパートの職務の違いを指摘するだけの手法であり、異なる職務の価値評価を目的とした国際基準に反している。マニュアルを得点要素法にし、職種例を増やすなど改訂すべきである。
また、「望ましい働き方ビジョン」(厚労省/2012年3月)の「4 非正規雇用に関する施策の具体的方向性(5)正規・非正規問の均等・均衡待遇を効果的に促進する」では、
「日本的な格差是正のアプローチとして、『均衡』という考え方により対応が図られてきている」「具体的な手段としては、労働者のニーズ等の実情に合わせ、客観的かつ公正な職務評価や職業能力評価の手法を一層活用することが重要である。なお、実際に職務評価を活用するに当たっては、職務の内容を基本としつつも、職務の成果、意欲、能力又は経験等も加味して均等・均衡待遇を促進することが重要である。」と述べている。(抜粋)
日本的「均衡」とは、パート労働法第8条の「人材活用の仕組み」を判断要素とするものである。性別や雇用形態にかかわらず、賃金に反映する要素は「労働の価値」でなければならない。
■ 勧告を受けた政府が行うべきこと
均等待遇の実現には、法整備はもちろんであるが、労働審判申立てなどを活用して速やかに是正するための独立専門機関が必要である。
また職務評価を職場で具体的に実践するためには、企業側のコンサルタントではなく、都道府県労働局が職務評価のスキルを会得するために人材育成を行い、スキルを持つ人が職務評価専門委員会を設置することが有効である。
この専門委員会は労働組合や企業の労務担当者および労働者自身が活用できる機関として機能しなければならない。
企業の利益を優先する職業能力評価制度ではなく、国際基準に則った公正でジェンダー中立な職務評価制度の確立こそが、男女賃金格差や雇用形態による賃金格差を是正する道である。
何よりも、労働組合の正しい認識と積極的な取組みがなければ実現できない。
ILOの結論と勧告を活用し、全国で同一価値労働同一賃金原則への関心を高め、実効性ある法整備と職務評価制度を実現させるために、さらに運動が広がることを期待したい。
『労働情報』(838・9号 2012/5/1&15)
均等待遇アクション21と三組合は、2月8日参議院議員会館において、報告集会を開催した。参加者は約60人、日本で初めての申し立てに対して出されたILO勧告には関心が高かった。
最初に各申立て組合から、ILOへの申立の経過と思いが述べられた。
商社ウィメンズユニオン委員長の逆井征子さんは、「裁判での判決は満足できる内容ではなかったが、勧告で主張が認められ、悔しさが晴れる思い。この勧告を活用していきたい」と語った。
「結論と勧告のもつ意味」というテーマで話した浅倉むつ子さん(早大大学院教授)は、「裁判でも、行政的な監督、指導、調停でも、職務や職種、雇用管理区分を超える広い範囲で、男女の労働の価値で比較されなければならない。すべての企業に職務給制度の採用を強制することは難しいが、そこへ誘導していくことが重要。また同一価値による判断は全面的でなくても一部でもよく、客観的に評価することがポイントである」と、職務評価の必要性を改めて強調した。
中野麻美さん(弁護士)は、「賃金格差の根拠のコアとして仕事の内容があるが、格差は本当に合理性があるのかを問わなければならない。差別を可視化するツールとして、客観的職務評価が必要である。厚労省ができることは、告示や通達で明記し、事業主に対して指導すること。使用者に挙証責任を課すことも重要だ。これまでの能力、業績評価は女性に不利になる。職務評価専門委員会を作り、トレーニングをする必要がある。介護など公共分野でのモデルケースを作るべきだ」と具体的な取組みのために専門委員会の設置が必要と述べた。
「日本は何をなすべきか」というテーマで中嶋滋さん(ILO前労働側理事)は、「次回の政府報告では、08年、10年を含めた内容が必要で、政府だけではなく連合、経団連も含めて、具体的な状況を報告しなければならない。100号条約を遵守することと併せて、175号(パートタイム労働に関する)条約、183号(母性保護に関する)条約の批准も重要事項である。183号条約では、出産休暇後の職場復帰については、賃金は同額であることを前提として、同等の職位に戻れることを保障している。さらに使用者が雇用を終了する場合は、解雇理由が母性と無関係であることを証明する挙証責任は使用者側にあるとしている」と各ILO条約の役割や重要性について力説した。
会場から、「職務遂行能力をベースにした職業能力評価制度が取り入れられており、労働側も『積極的に活用すべき』と述べている。職務評価制度が職業能力評価制度にすり替えられるのではないかと危惧している。客観的分析的評価制度の実現を労働側から強く主張していくことが大事である」との意見が出された。
(略)
■ 職務評価制度と職業能力評価制度はまったく異なる
パート労働法の改正を審議している雇用均等分科会は、論点「賃金に関する均衡(法第9条)」のひとつとして、「職務評価制度又は職業能力評価制度の導入」をあげている。
「職務評価制度」については、パート労働法に基づき、単純比較法による「職務分析・職務評価実施マニュアル」(厚労省2010年4月)が作成された。
「職業能力評価制度」とは、職業能力を客観的に評価することを目的として、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したもので、すでに04年以降、電気機械器具製造業、ホテル業、スーパーマーケット業など46業種で評価基準が策定されている。
しかし、「職務評価制度」と「職業能力評価制度」は、手法も目的も全く異なる制度である。
■ 職業能力評価制度の問題点
(職業能力評価制度の中心が職業能力評価基準で、その活用ツールが職業能力評価シート)
1 「職務遂行能力」の評価は「職務」ではなく「人」の評価であり、考課者の主観的、恣意的要素によるため、客観的かつ公正な評価がおこなわれるとは言い難い。
2 職業能力評価基準は、仕事の内容を「能力細目」という単位で細分化する。「能力細目」では、成果につながる行動例を「職務遂行のための基準」とし、仕事に「必要な知識」と共にレベルをチエックする。レベルは、企業において期待される責任・役割の範囲と難易度により4段階に設定を行う。
職業能力評価シートの目的は「人材育成」であり、現実に従事している「職務」を評価するものではない。
3 自己評価と考課者評価の齪館を埋めるためのフィードバックが不十分であるため、考課者の一方的評価によって賃金決定がなされ、不平等が生じている。
4 職業能力評価制度を活用している某百貨店では、評価項目は①成果、②勤務態度、③行動基準の3つで、情意考課に重点を置き、直接的な仕事の評価はなされていない。
5 階層別の人材育成が目的であるため、評価の手法が上下階層関係を前提としており、均等待遇をめざすものではない。
■ 国際基準に基づく職務評価制度
国際的な職務評価は同一価値労働同一賃金原則を実施するためのツールであり、「得点要素法」に基づき、ジェンダー平等の視点で①知識・技能、②負担、③責任、④労働環境の4大ファクターを用いて客観的に評価する。
仕事は、どのような職種、職務であっても、4大ファクターを活用しなければ遂行できない。とりわけ、女性職の大半が対人サービス業であることから、負担(精神的、肉体的、感情的)のファクターが重要である。
職務評価は、雇用形態や職務を問わず、共通のシートを使って職務分析・職務評価をする手法である。
正規・非正規の均等待遇には、縦割の企業社会を前提とする職業能力評価基準ではなく、国際的な職務評価基準を運用し、総合的に評価することが重要である。
■ 国際基準を無視している政府
厚労省は12年度、パート労働者を対象とした職務分析・職務評価の導入を支援する「雇用均等コンサルタント(仮称)」を全国配置する方針を出した。
社会保険労務士、中小企業診断士その他企業OBなどを活用し、企業の人事労務担当者向けの研修会やガイドラインの作成などを手掛けるが、厚労省が10年に発表した単純比較法による「職務分析・職務評価実施マニュアル」を用いるようだ。
このマニュアルは、「業務の内容」と「責任の程度」のみを評価項目とし、ひとつでも異なれば同一と見なさず、正規とパートの職務の違いを指摘するだけの手法であり、異なる職務の価値評価を目的とした国際基準に反している。マニュアルを得点要素法にし、職種例を増やすなど改訂すべきである。
また、「望ましい働き方ビジョン」(厚労省/2012年3月)の「4 非正規雇用に関する施策の具体的方向性(5)正規・非正規問の均等・均衡待遇を効果的に促進する」では、
「日本的な格差是正のアプローチとして、『均衡』という考え方により対応が図られてきている」「具体的な手段としては、労働者のニーズ等の実情に合わせ、客観的かつ公正な職務評価や職業能力評価の手法を一層活用することが重要である。なお、実際に職務評価を活用するに当たっては、職務の内容を基本としつつも、職務の成果、意欲、能力又は経験等も加味して均等・均衡待遇を促進することが重要である。」と述べている。(抜粋)
日本的「均衡」とは、パート労働法第8条の「人材活用の仕組み」を判断要素とするものである。性別や雇用形態にかかわらず、賃金に反映する要素は「労働の価値」でなければならない。
■ 勧告を受けた政府が行うべきこと
均等待遇の実現には、法整備はもちろんであるが、労働審判申立てなどを活用して速やかに是正するための独立専門機関が必要である。
また職務評価を職場で具体的に実践するためには、企業側のコンサルタントではなく、都道府県労働局が職務評価のスキルを会得するために人材育成を行い、スキルを持つ人が職務評価専門委員会を設置することが有効である。
この専門委員会は労働組合や企業の労務担当者および労働者自身が活用できる機関として機能しなければならない。
企業の利益を優先する職業能力評価制度ではなく、国際基準に則った公正でジェンダー中立な職務評価制度の確立こそが、男女賃金格差や雇用形態による賃金格差を是正する道である。
何よりも、労働組合の正しい認識と積極的な取組みがなければ実現できない。
ILOの結論と勧告を活用し、全国で同一価値労働同一賃金原則への関心を高め、実効性ある法整備と職務評価制度を実現させるために、さらに運動が広がることを期待したい。
『労働情報』(838・9号 2012/5/1&15)
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