◎ 日本初の100号条約違反申立にILOから是正勧告
日本政府は男女の賃金格差是正を積極的に取組むべきと、ILOやCEDAW(女性差別撤廃委員会)から繰り返し勧告され、とりわけILOからは100号(同一価値労働に対する男女労働者の同一報酬)条約(日本は1967年批准)の適用状況について厳しい指摘を受け続けてきた。
しかし労働現場の実態は、男性を100とした場合の女性の賃金はいまだに7割に満たず、2010年は09年に比べて0.5ポイント格差が拡大して69.3となった。
厚労省の研究会は「配置や昇進、人事評価の基準があいまいで制度の整備が不十分。仕事と家庭との両立が困難な働き方を前提とした制度設計であるため、採用や配置で男女差が生まれ、賃金格差につながっている」と分析している。
つまり日本では性差別賃金の是正に向けた施策は具体的に打ち出されておらず、国際社会から取り残されているということだ。
去る2009年7月、ユニオン・ペイ・エクイティ(UPE)、商社ウィメンズユニオン、全石油昭和シェル労働組合の三組合が、日本政府のILO100号条約違反についてILO憲章第24条に基づく申立てを行った。(注)
順調に審理は進み、11年11月、ILO理事会は申立審査委員会の報告を承認し、ILO全体の公式見解として、日本政府に対する「結論と勧告」を公開した。
この結果、ILO100号条約の適用に関し、条約勧告適用専門家委員会、総会・基準適用委員会、申立審査委員会のすべてにおいて、労働基準法4条の「適用実施に問題あり」とされた。
◆申立の趣旨(概要)◆
労働基準法4条が罰則を付して性差別賃金を禁止しており、一方、1967年にILO100号条約を批准して国内的効力を生じるに至った。
しかし、監督行政も司法も、異なる担当職務や職種の間の男女間賃金格差には労働基準法4条を適用しないとする法の運用や判断を行ってきた。
この傾向は、特に1985年の男女雇用機会均等法制定後強まっている。
均等法は、同一の雇用管理区分(職種・就業形態・契約形態・キャリア開発など活用区分)にある男女間の格差のみを性差別とし、同様の運用は労働基準法4条にも及んでいる。 (中略)
男女間の賃金格差が「担当職務」や「職種」に基づく雇用管理区分の違いによる場合であっても、性中立的な職務評価基準の適用なしに労働基準法4条に違反しないと判断することは、ILO100号条約に違反すると考える。また、労基法4条に違反するとしながら、是正を命じないことについても、同様と考えられる。
■ ILOの勧告
●結論で提起された事項に十分留意し、100号条約に関して憲章22条に基づく詳細な情報を次回の報告に含めることを日本政府に要請する。
●フォローアップを、条約勧告適用専門家委員会に一任する。
■ ILOの結論(抜粋・要約)
47 男女雇用機会均等法は同一価値労働同一賃金原則を直接扱わず、労働基準法は同一価値労働に対する男女同一報酬の要件については言及していないので、ILO100号条約の原理を完全には反映していない。
48 申立人は、異なる担当職務や異なる職業に従事する男女が同一価値労働をしているか決定する客観的職務評価の重要性を強調している。
政府は、異なる職種にも労基法4条が適用されたケースがある(日ソ図書、京ガス、内山工業、兼松)ことを理由に、条約に違反していないと主張してきた。これに対して、
50 労基法4条の裁判所での解釈に関しては、異なる担当職務や職業に4条が適用された件数が少なく、具体的には二つの地裁判決しかない(京ガス事件と内山工業事件)。いずれも「異なる雇用管理区分、異なる仕事に従事している男女が、同一価値労働と認定された事案」ではないように見える(仕事は違うが雇用管理区分は同じ)。異なる雇用管理区分で比較した事案でも、裁判所が、異なるが同一価値だと職務を比較したようにはみえない(兼松事件)。
51 労働基準法4条違反で労働基準監督署が指導を行った定期監督の数が少なく(10万536件中6件・09年)、性質が異なるが同一価値のある労働に従事している男女の賃金差別を認定するために採用されている方法についての詳細が欠落している。同じことは都道府県労働局や紛争調整委員会の調停についてもいえる。
52 「同一価値労働」概念は、「同一」「同じ」「同様」な労働に対する同一報酬を含み、全く性質が違うが価値は同じ労働も含むものである。労基法4条が、異なる職務、職種、雇用管理区分に対しても適用されていることを示す情報が欠落している。したがって、本委員会は、「実際の法律の履行において、同一の職務・職種・雇用管理区分を超える広い範囲での比較は一般的に行われていない」という結論に達した。
53 日本政府は労基法4条違反を判断するには、職務内容、権限、責任などや能率、技能の差などから賃金格差が説明できるかを判断する必要があると認めているが、どのようにしてそのような評価がされるのかその詳細を提供していない。
54 条約は職務価値の比較のための特定の技法を定めるものではなく、客観的な評価から生じる差異に対応する賃金差は認められる。しかし本委員会は、「日本政府は、同一価値労働か否かを決定するために職務の相対的価値がどのように判断されているか、情報提供していない」、という結論に達した。
※注:使用者または労働者の産業上の団体は、憲章第24条及び第25条に基づき、ある国が批准している条約を遵守していないという申立てをlLOに提起することができる。申立ての処理には理事会が当たり、政労使3人の理事から構成される委員会が設けられる。
(続)
『労働情報』(838・9号 2012/5/1&15)
屋嘉比ふみ子●ペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス(PECO)
日本政府は男女の賃金格差是正を積極的に取組むべきと、ILOやCEDAW(女性差別撤廃委員会)から繰り返し勧告され、とりわけILOからは100号(同一価値労働に対する男女労働者の同一報酬)条約(日本は1967年批准)の適用状況について厳しい指摘を受け続けてきた。
しかし労働現場の実態は、男性を100とした場合の女性の賃金はいまだに7割に満たず、2010年は09年に比べて0.5ポイント格差が拡大して69.3となった。
厚労省の研究会は「配置や昇進、人事評価の基準があいまいで制度の整備が不十分。仕事と家庭との両立が困難な働き方を前提とした制度設計であるため、採用や配置で男女差が生まれ、賃金格差につながっている」と分析している。
つまり日本では性差別賃金の是正に向けた施策は具体的に打ち出されておらず、国際社会から取り残されているということだ。
去る2009年7月、ユニオン・ペイ・エクイティ(UPE)、商社ウィメンズユニオン、全石油昭和シェル労働組合の三組合が、日本政府のILO100号条約違反についてILO憲章第24条に基づく申立てを行った。(注)
順調に審理は進み、11年11月、ILO理事会は申立審査委員会の報告を承認し、ILO全体の公式見解として、日本政府に対する「結論と勧告」を公開した。
この結果、ILO100号条約の適用に関し、条約勧告適用専門家委員会、総会・基準適用委員会、申立審査委員会のすべてにおいて、労働基準法4条の「適用実施に問題あり」とされた。
◆申立の趣旨(概要)◆
労働基準法4条が罰則を付して性差別賃金を禁止しており、一方、1967年にILO100号条約を批准して国内的効力を生じるに至った。
しかし、監督行政も司法も、異なる担当職務や職種の間の男女間賃金格差には労働基準法4条を適用しないとする法の運用や判断を行ってきた。
この傾向は、特に1985年の男女雇用機会均等法制定後強まっている。
均等法は、同一の雇用管理区分(職種・就業形態・契約形態・キャリア開発など活用区分)にある男女間の格差のみを性差別とし、同様の運用は労働基準法4条にも及んでいる。 (中略)
男女間の賃金格差が「担当職務」や「職種」に基づく雇用管理区分の違いによる場合であっても、性中立的な職務評価基準の適用なしに労働基準法4条に違反しないと判断することは、ILO100号条約に違反すると考える。また、労基法4条に違反するとしながら、是正を命じないことについても、同様と考えられる。
■ ILOの勧告
●結論で提起された事項に十分留意し、100号条約に関して憲章22条に基づく詳細な情報を次回の報告に含めることを日本政府に要請する。
●フォローアップを、条約勧告適用専門家委員会に一任する。
■ ILOの結論(抜粋・要約)
47 男女雇用機会均等法は同一価値労働同一賃金原則を直接扱わず、労働基準法は同一価値労働に対する男女同一報酬の要件については言及していないので、ILO100号条約の原理を完全には反映していない。
48 申立人は、異なる担当職務や異なる職業に従事する男女が同一価値労働をしているか決定する客観的職務評価の重要性を強調している。
政府は、異なる職種にも労基法4条が適用されたケースがある(日ソ図書、京ガス、内山工業、兼松)ことを理由に、条約に違反していないと主張してきた。これに対して、
50 労基法4条の裁判所での解釈に関しては、異なる担当職務や職業に4条が適用された件数が少なく、具体的には二つの地裁判決しかない(京ガス事件と内山工業事件)。いずれも「異なる雇用管理区分、異なる仕事に従事している男女が、同一価値労働と認定された事案」ではないように見える(仕事は違うが雇用管理区分は同じ)。異なる雇用管理区分で比較した事案でも、裁判所が、異なるが同一価値だと職務を比較したようにはみえない(兼松事件)。
51 労働基準法4条違反で労働基準監督署が指導を行った定期監督の数が少なく(10万536件中6件・09年)、性質が異なるが同一価値のある労働に従事している男女の賃金差別を認定するために採用されている方法についての詳細が欠落している。同じことは都道府県労働局や紛争調整委員会の調停についてもいえる。
52 「同一価値労働」概念は、「同一」「同じ」「同様」な労働に対する同一報酬を含み、全く性質が違うが価値は同じ労働も含むものである。労基法4条が、異なる職務、職種、雇用管理区分に対しても適用されていることを示す情報が欠落している。したがって、本委員会は、「実際の法律の履行において、同一の職務・職種・雇用管理区分を超える広い範囲での比較は一般的に行われていない」という結論に達した。
53 日本政府は労基法4条違反を判断するには、職務内容、権限、責任などや能率、技能の差などから賃金格差が説明できるかを判断する必要があると認めているが、どのようにしてそのような評価がされるのかその詳細を提供していない。
54 条約は職務価値の比較のための特定の技法を定めるものではなく、客観的な評価から生じる差異に対応する賃金差は認められる。しかし本委員会は、「日本政府は、同一価値労働か否かを決定するために職務の相対的価値がどのように判断されているか、情報提供していない」、という結論に達した。
※注:使用者または労働者の産業上の団体は、憲章第24条及び第25条に基づき、ある国が批准している条約を遵守していないという申立てをlLOに提起することができる。申立ての処理には理事会が当たり、政労使3人の理事から構成される委員会が設けられる。
(続)
『労働情報』(838・9号 2012/5/1&15)
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