◆ 訴訟まで発展する非正規公務員問題 (都政新報)
- ご無沙汰をしています。本紙ご登場は2012年10月12日号以来です。非正規公務員を巡るこの間の状況変化は?
規模も割合も拡大しました。13年3月に公表された総務省「臨時・非常勤職員調査」では、08年から12年の4年間で約2割、10万人増加して60万3582人となった。全職員に占める割合(非正規率)も、17%から18%に拡大しました。
- 東京の状況も同様ですか。
そうですね。08年から12年にかけ、東京都は1万5514人が1万6281人に、23区は1万7236人が2万597人に、市町村部は1万885人が1万1558人にそれぞれ増えています。非正規率も23区で24・9%、すなわち職員4人に1人は非正規公務員、市部で31・4%、3人に1人は非正規公務員になりました。
- やはり拡大しているのですね。
はい。だけど、これらの数字は過少申告と考えています。
12年総務省調査に、東京都は「臨時職員はゼロ人」と回答している。ところが公立小中学校の臨時教員だけでこの年1450人が任用されている。
- どういうことですか?
総務省調査の対象は4月1日現在に在職する勤務期間6カ月以上が見込まれる臨時・非常勤職員、教員に関する統計は文部科学省の学校基本調査で5月1日に在職する職員です。東京都は虚偽報告しているのではありません。
臨時教員、非常勤講師に関して、4月1日を含む春休み期間を任用の「空白期間」としている。だから4月1日には確かに「ゼロ人」。
- なぜ「空白期間」を置くのでしょう。
例えば福岡県も臨時職員はゼロ人と総務省に報告している。11カ月勤務してーカ月空ける、2カ月勤務して2カ月空けるという取り扱いの自治体もある。
臨時職員の任用形式を定める地方公務員法22条は「6月をこえない期間で更新することができるが、再度更新することはできない」と規定し、1回の更新は出来るが、再度更新することは出来ないと読める。
だから都合1年に満たない期間で雇い止めし、一定の空白期間(=クーリング期間)を置いた後に再度任用するという運用を行っていると説明されている。
- 地公法の定めなら仕方ないですね。
いえ、先の説明は取り繕いです。なぜなら「期間の更新」と「任用」は違うのです。
「期間の更新」とは、引き続く任用ということで、都合1年の期間終了後、改めて任用することは更新ではない。
直近の総務省の運用通知でも、「任期の終了後、再度、同一の職務内容の職に任用されること自体は排除されるものではな」く、「あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理されるもの」であり、空白期間を置く必要はないとしている(平成21年4月24日総行公第26号「臨時・非常勤職員及び任期付短時間職員の任用等について」)。
- そうすると多くの自治体は法解釈を誤った。
そうです。別の意図があって、都合良く解釈し運用してきたのでしょう。
例えば常時勤務の臨時職員が6カ月以上勤務すれば、条例に特別の定めを置かなければ、通常、退職手当請求権が発生する。実際、都合任期1年未満の臨時教員に毎年、東京都は月額報酬の0・6月分に当たる退職手当を支払ってきた。
空白期間を置かなければ、継続した在職期間とみなされ、長期勤続報酬の性格が色濃い退職手当制度の下、一層の負担が必要となる。
従って「空白期間」を置き、名目上の退職を繰り返してきた。
2カ月任用後の「空白期間」も同様の効果です。引き続いて任用すれば、継続雇用期間とみなされ、自治体の側に事業主負担が生じる社会保険に加入させねばならない。2カ月以下なら自己負担の国民健康保険、国民年金です。
- あまり良い方向にはいってないようですね。
いや、そうでもない。何より非正規公務員問題が可視化し始めた。
とりわけ主要ローカル紙でこの問題を取り上げ始め、福岡の主要ローカル紙の西日本新聞は、今年元旦の1面トップが非正規公務員問題でした。
しかし、問題の深刻さに比べると、いまだ認知度は低く、「布教活動」が必要です。
- なるほど、変化の兆しがあるということですね。
より重要な変化は、非正規公務員の当事者が表面に出てきた、主張し始めたということです。
例えば、大分県の市立中学校図書館で非常勤の司書として33年間勤めた男性(60歳代)が、勤務時間や日数など一般職と同様に働いたのに退職手当を支給されないのは違法として、その支払いを求める訴訟を起こしました。
昨年12月の福岡高裁判決では、1092万8632円の退職金の支払いを市に命じています。
今年5月には、長崎県の臨時職員の40代女性が、仕事内容や勤務場所も変わらないのに、県と外郭団体との間でーカ月ごとに雇用主が切り替えられ、約7年も社会保険に加入させてもらえなかったのは違法として、裁判を起こしています。
今やブラック自治体は、訴訟リスクを抱えているのです。非正規公務員をないがしろにしてきたつけですが。(このインタビューは、筆者自身によるものです)
『都政新報』(2014/6/17)
(公財)地方自治総合研究所研究員 上林陽治
- ご無沙汰をしています。本紙ご登場は2012年10月12日号以来です。非正規公務員を巡るこの間の状況変化は?
規模も割合も拡大しました。13年3月に公表された総務省「臨時・非常勤職員調査」では、08年から12年の4年間で約2割、10万人増加して60万3582人となった。全職員に占める割合(非正規率)も、17%から18%に拡大しました。
- 東京の状況も同様ですか。
そうですね。08年から12年にかけ、東京都は1万5514人が1万6281人に、23区は1万7236人が2万597人に、市町村部は1万885人が1万1558人にそれぞれ増えています。非正規率も23区で24・9%、すなわち職員4人に1人は非正規公務員、市部で31・4%、3人に1人は非正規公務員になりました。
- やはり拡大しているのですね。
はい。だけど、これらの数字は過少申告と考えています。
12年総務省調査に、東京都は「臨時職員はゼロ人」と回答している。ところが公立小中学校の臨時教員だけでこの年1450人が任用されている。
- どういうことですか?
総務省調査の対象は4月1日現在に在職する勤務期間6カ月以上が見込まれる臨時・非常勤職員、教員に関する統計は文部科学省の学校基本調査で5月1日に在職する職員です。東京都は虚偽報告しているのではありません。
臨時教員、非常勤講師に関して、4月1日を含む春休み期間を任用の「空白期間」としている。だから4月1日には確かに「ゼロ人」。
- なぜ「空白期間」を置くのでしょう。
例えば福岡県も臨時職員はゼロ人と総務省に報告している。11カ月勤務してーカ月空ける、2カ月勤務して2カ月空けるという取り扱いの自治体もある。
臨時職員の任用形式を定める地方公務員法22条は「6月をこえない期間で更新することができるが、再度更新することはできない」と規定し、1回の更新は出来るが、再度更新することは出来ないと読める。
だから都合1年に満たない期間で雇い止めし、一定の空白期間(=クーリング期間)を置いた後に再度任用するという運用を行っていると説明されている。
- 地公法の定めなら仕方ないですね。
いえ、先の説明は取り繕いです。なぜなら「期間の更新」と「任用」は違うのです。
「期間の更新」とは、引き続く任用ということで、都合1年の期間終了後、改めて任用することは更新ではない。
直近の総務省の運用通知でも、「任期の終了後、再度、同一の職務内容の職に任用されること自体は排除されるものではな」く、「あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理されるもの」であり、空白期間を置く必要はないとしている(平成21年4月24日総行公第26号「臨時・非常勤職員及び任期付短時間職員の任用等について」)。
- そうすると多くの自治体は法解釈を誤った。
そうです。別の意図があって、都合良く解釈し運用してきたのでしょう。
例えば常時勤務の臨時職員が6カ月以上勤務すれば、条例に特別の定めを置かなければ、通常、退職手当請求権が発生する。実際、都合任期1年未満の臨時教員に毎年、東京都は月額報酬の0・6月分に当たる退職手当を支払ってきた。
空白期間を置かなければ、継続した在職期間とみなされ、長期勤続報酬の性格が色濃い退職手当制度の下、一層の負担が必要となる。
従って「空白期間」を置き、名目上の退職を繰り返してきた。
2カ月任用後の「空白期間」も同様の効果です。引き続いて任用すれば、継続雇用期間とみなされ、自治体の側に事業主負担が生じる社会保険に加入させねばならない。2カ月以下なら自己負担の国民健康保険、国民年金です。
- あまり良い方向にはいってないようですね。
いや、そうでもない。何より非正規公務員問題が可視化し始めた。
とりわけ主要ローカル紙でこの問題を取り上げ始め、福岡の主要ローカル紙の西日本新聞は、今年元旦の1面トップが非正規公務員問題でした。
しかし、問題の深刻さに比べると、いまだ認知度は低く、「布教活動」が必要です。
- なるほど、変化の兆しがあるということですね。
より重要な変化は、非正規公務員の当事者が表面に出てきた、主張し始めたということです。
例えば、大分県の市立中学校図書館で非常勤の司書として33年間勤めた男性(60歳代)が、勤務時間や日数など一般職と同様に働いたのに退職手当を支給されないのは違法として、その支払いを求める訴訟を起こしました。
昨年12月の福岡高裁判決では、1092万8632円の退職金の支払いを市に命じています。
今年5月には、長崎県の臨時職員の40代女性が、仕事内容や勤務場所も変わらないのに、県と外郭団体との間でーカ月ごとに雇用主が切り替えられ、約7年も社会保険に加入させてもらえなかったのは違法として、裁判を起こしています。
今やブラック自治体は、訴訟リスクを抱えているのです。非正規公務員をないがしろにしてきたつけですが。(このインタビューは、筆者自身によるものです)
『都政新報』(2014/6/17)
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