国連自由権規約第6回日本政府審査が7月15日からジュネーブで開催される。私たちの会は、日本政府の『第6回報告書』(2012年4月)に「板橋高校卒業式事件」が引用されたことに対して、『カウンターレポート』(2013年7月)で反論しさらにこの『追加レポート』を国連に提出した。日本政府が制限を設けなければならないのは、「公共の福祉」であって「表現の自由」ではない。
◎ 政府回答(184~186)の根本的な誤りを指摘する(1)
~板橋高校卒業式事件から「表現の自由」をめざす会
1,政府回答批判と人権の理念
(1) List of Issues 政府回答(184~186)の根本的な誤り
1. 「人権」と「公共の福祉」とは、本来対立概念ではないにも関わらず、政府回答は両者を対立させて、あたかも「人権」を「公共の福祉」の下位概念に位置づけているようである。「人権保障と言えども絶対無制約ではない」(『List of Issues政府回答』para184)というが、「公共の福祉」こそ絶対無制約ではない。
2. 「人権」と「公共の福祉」が逆立ちしている結果、わが国では現実に板橋高校卒業式事件の最高裁判決文及びそこに引用された過去の4つの最高裁判例(提出済み『IFEレポート』D3(1)参照)のように、「表現の自由」よりも「公共の福祉」が優先する扱いを受けており、政府回答とは裏腹に、まさしく「国家による人権の恣意的な制限を許容する根拠としての役割を果た」(『List of Issues政府回答』para185)しているのが実態である。
3. 人権は、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利」(『規約』前文)である。わが国は締約国として、「人権及び自由の普遍的な尊重及び遵守を助長すべき」(『規約』前文)義務を負っている。
ところが、日本政府は、「固有の尊厳」(『規約』前文)と対立する「固有の制限」(『第6回政府報告』para6)という、『規約』にはない独自の概念を持ち出してきて、あたかも「人権及び自由」よりも「公共の福祉」の方をを尊重及び遵守しようとしているかのようである。
(2) 人権の理念に反する「公共の福祉」の運用
4. 権利が保障されるためには、制限は厳密になされなければならない。その制限を明文化したのが『規約』19条3項である。「制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。(a)他の者の権利又は信用の尊重。(b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護。」(『世界人権宣言』29条2項も同趣旨である)
この場合、「権利への一般的留保」は「規約の目的及び趣旨」から外れるので許されず(『一般的意見34』para6)、また「権利と制限との関係、および規範と例外との関係が逆転してはならない」(『一般的意見34』para21)ことは、言うまでもない。
5. 日本政府は、『規約』19条3項の(a)(b)に存在しない「公共の福祉」を、曖昧で無制限で、かつ厳密な定義と明文化された立法のないまま用いている。(『第5回日本審査総括所見』para10)
一方日本政府は、「公共の福祉」を「基本的人権相互間の調整を図る固有な制約である」(『第6回政府報告』para6)と説明しているが、それは「固有の尊厳」(『規約』前文)を蔑ろにする解釈と言わなければならない。
その結果わが国では「公共の福祉」は、しばしば「他人の迷惑」とか「社会通念」のような「権利」とは相容れない概念と同義に使われ、「権利への一般的留保」(『一般的意見34』para6)として機能し、表現の自由のような正当な権利の方をあたかも特定個人の特権のようにみなして制限するという、権利と制限との逆転現象(『一般的意見34』para21)をもたらしている。
「公共の福祉」の恣意的適用によって、「人類社会のすべての構成員に平等でかつ奪い得ない人権」(『規約』前文)がいとも簡単に奪われる事態は、明らかに「規約で許容される制約を超えて」(『第5回日本審査総括所見』para10)いる。
(続)
*注
『List of Issues政府回答』
184. 「公共の福祉」概念の意味するところは、人権とは何の制約も受けずに絶対的に保障されるものではなく、主として様々な人権が互いに対立する場合には調整を行う必要性が生じることから、一定の制約を受けるものであると考えられる。
185. ゆえに、「公共の福祉」概念は、人権を最大限に尊重する一方で、社会全体の調和と秩序を保つために必然的に要求されるルールであり、国家による人権の恣意的な制限を許容する根拠としての役割を果たすものではない。
186.したがって、「公共の福祉」を根拠として規約の許容範囲を超えるいかなる制限も課されるような状況は想定しえないのであり、「公共の福祉」を根拠として課される宗教、意見および表現の自由に対するいかなる制限も規約で許容される制限を超えることがあってはならないと規定する新法を制定する必要性を(我々は)認めない。
『規約』前文から
The States Parties to the present Covenant,
Considering that, in accordance with the principles proclaimed in the Charter of the United Nations, recognition of the inherent dignity and of the equal and inalienable rights of all members of the human family is the foundation of freedom, justice and peace in the world,
Recognizing that these rights derive from the inherent dignity of the human person, (略)
the obligation of States under the Charter of the United Nations to promote universal respect for, and observance of, human rights and freedoms,
『第6回政府報告』para6 から
Typical judicial precedents concerning "public welfare" being an inherent restriction which coordinates the conflicts among fundamental human rights are mentioned in the previous periodic reports. One of the recent rulings worth summarizing here is a judgment rendered by the Petty Bench of the Supreme Court on July 7, 2011.
『第5回日本審査総括所見』para10
委員会は、「公共の福祉」が、恣意的な人権制約を許容する根拠とはならないという締約国の説明に留意する一方、「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれないという懸念を再度表明する。(第2条)
締約国は、「公共の福祉」の概念を定義し、かつ「公共の福祉」を理由に規約で保障された権利に課されるあらゆる制約が規約で許容される制約を超えられないと明記する立法措置をとるべきである。
※「レポート全文(英文)」
http://wind.ap.teacup.com/people/html/20140602repliestothelistofissues.pdf
※「レポート全文(和文)」
http://wind.ap.teacup.com/people/html/20140602repliestothelistofissuesjapanese.pdf
◎ 政府回答(184~186)の根本的な誤りを指摘する(1)
~板橋高校卒業式事件から「表現の自由」をめざす会
1,政府回答批判と人権の理念
(1) List of Issues 政府回答(184~186)の根本的な誤り
1. 「人権」と「公共の福祉」とは、本来対立概念ではないにも関わらず、政府回答は両者を対立させて、あたかも「人権」を「公共の福祉」の下位概念に位置づけているようである。「人権保障と言えども絶対無制約ではない」(『List of Issues政府回答』para184)というが、「公共の福祉」こそ絶対無制約ではない。
2. 「人権」と「公共の福祉」が逆立ちしている結果、わが国では現実に板橋高校卒業式事件の最高裁判決文及びそこに引用された過去の4つの最高裁判例(提出済み『IFEレポート』D3(1)参照)のように、「表現の自由」よりも「公共の福祉」が優先する扱いを受けており、政府回答とは裏腹に、まさしく「国家による人権の恣意的な制限を許容する根拠としての役割を果た」(『List of Issues政府回答』para185)しているのが実態である。
3. 人権は、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利」(『規約』前文)である。わが国は締約国として、「人権及び自由の普遍的な尊重及び遵守を助長すべき」(『規約』前文)義務を負っている。
ところが、日本政府は、「固有の尊厳」(『規約』前文)と対立する「固有の制限」(『第6回政府報告』para6)という、『規約』にはない独自の概念を持ち出してきて、あたかも「人権及び自由」よりも「公共の福祉」の方をを尊重及び遵守しようとしているかのようである。
(2) 人権の理念に反する「公共の福祉」の運用
4. 権利が保障されるためには、制限は厳密になされなければならない。その制限を明文化したのが『規約』19条3項である。「制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。(a)他の者の権利又は信用の尊重。(b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護。」(『世界人権宣言』29条2項も同趣旨である)
この場合、「権利への一般的留保」は「規約の目的及び趣旨」から外れるので許されず(『一般的意見34』para6)、また「権利と制限との関係、および規範と例外との関係が逆転してはならない」(『一般的意見34』para21)ことは、言うまでもない。
5. 日本政府は、『規約』19条3項の(a)(b)に存在しない「公共の福祉」を、曖昧で無制限で、かつ厳密な定義と明文化された立法のないまま用いている。(『第5回日本審査総括所見』para10)
一方日本政府は、「公共の福祉」を「基本的人権相互間の調整を図る固有な制約である」(『第6回政府報告』para6)と説明しているが、それは「固有の尊厳」(『規約』前文)を蔑ろにする解釈と言わなければならない。
その結果わが国では「公共の福祉」は、しばしば「他人の迷惑」とか「社会通念」のような「権利」とは相容れない概念と同義に使われ、「権利への一般的留保」(『一般的意見34』para6)として機能し、表現の自由のような正当な権利の方をあたかも特定個人の特権のようにみなして制限するという、権利と制限との逆転現象(『一般的意見34』para21)をもたらしている。
「公共の福祉」の恣意的適用によって、「人類社会のすべての構成員に平等でかつ奪い得ない人権」(『規約』前文)がいとも簡単に奪われる事態は、明らかに「規約で許容される制約を超えて」(『第5回日本審査総括所見』para10)いる。
(続)
*注
『List of Issues政府回答』
184. 「公共の福祉」概念の意味するところは、人権とは何の制約も受けずに絶対的に保障されるものではなく、主として様々な人権が互いに対立する場合には調整を行う必要性が生じることから、一定の制約を受けるものであると考えられる。
185. ゆえに、「公共の福祉」概念は、人権を最大限に尊重する一方で、社会全体の調和と秩序を保つために必然的に要求されるルールであり、国家による人権の恣意的な制限を許容する根拠としての役割を果たすものではない。
186.したがって、「公共の福祉」を根拠として規約の許容範囲を超えるいかなる制限も課されるような状況は想定しえないのであり、「公共の福祉」を根拠として課される宗教、意見および表現の自由に対するいかなる制限も規約で許容される制限を超えることがあってはならないと規定する新法を制定する必要性を(我々は)認めない。
『規約』前文から
The States Parties to the present Covenant,
Considering that, in accordance with the principles proclaimed in the Charter of the United Nations, recognition of the inherent dignity and of the equal and inalienable rights of all members of the human family is the foundation of freedom, justice and peace in the world,
Recognizing that these rights derive from the inherent dignity of the human person, (略)
the obligation of States under the Charter of the United Nations to promote universal respect for, and observance of, human rights and freedoms,
『第6回政府報告』para6 から
Typical judicial precedents concerning "public welfare" being an inherent restriction which coordinates the conflicts among fundamental human rights are mentioned in the previous periodic reports. One of the recent rulings worth summarizing here is a judgment rendered by the Petty Bench of the Supreme Court on July 7, 2011.
『第5回日本審査総括所見』para10
委員会は、「公共の福祉」が、恣意的な人権制約を許容する根拠とはならないという締約国の説明に留意する一方、「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれないという懸念を再度表明する。(第2条)
締約国は、「公共の福祉」の概念を定義し、かつ「公共の福祉」を理由に規約で保障された権利に課されるあらゆる制約が規約で許容される制約を超えられないと明記する立法措置をとるべきである。
※「レポート全文(英文)」
http://wind.ap.teacup.com/people/html/20140602repliestothelistofissues.pdf
※「レポート全文(和文)」
http://wind.ap.teacup.com/people/html/20140602repliestothelistofissuesjapanese.pdf
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