
《教科書ネット21ニュースから》
◆ 学校再開で今こそ大切なこと
~少人数:学級の実現を
乾 彰夫(いぬいあきお・東京都立大学名誉教授)
日本教育学会の緊急提言日本教育学会「9月入学・始業制」問題特別委員会は5月22日、「9月入学よりも、いま本当に必要な取り組みを」を緊急提言しました。
そこでは学校再開にあたって、長期休校期間中の学びの遅れや学びの格差の拡大への対応、子どもたちの不安やストレスへの十分なケアなど、そしてそのため十分な予算・人員配置を行うことを提起しました(提言全文は日本教育学会HPに掲載)。(http://jera.jp)
長期休校は学びの機会を奪うとともに、その間の家庭学習ではそれを十分にサポートできる家庭とそうでない家庭との間に大きな格差が生まれました。
子どもたちは突然の休校と外出自粛で友だちや先生などにも会えず、感染する/させてしまうことに怯え、不安とストレスを募らせました。
一方教職員は学校再開にあたって、こうした課題に応えるばかりでなく教室の清掃・消毒、毎日の検温をはじめとした感染防止にも忙殺されることが予想されました。
そうした中で提言では、きめ細やかな指導とケアを行う必要があり、できるだけ少人数の学習集団にし、学習補充教室を設置すること、そのために教員や学習指導員等のスタッフの思いきった増員(教員10万人、学習指導員等13万人〉を緊急課題として提起しました。
1クラス40人の学級定数の抜本的見直しを早急に議論することも求めました。
また学びの遅れの回復については、教育課程の精選や最終学年以外は数年かけて取り戻すことなど、拙速な取り戻しを避けるよう提起しました。
6月12日に成立した第二次補正予算では、学習指導員等については8万人分と一定の予算が確保されましたが、教員については3千人あまりに留まりました。
◆ 学校再開で生じていること
6月に入り、各地で学校再開が進みました。子どもたちの多くが久しぶりに友だちや先生と会えたことを喜びました。
分散登校の間は1クラス10~20人程度で、子どもたち同士の間隔も十分にとれ、一人ひとりにも目が届きました。
いままで分からなかったところが、1対1で丁寧に教えてもらえ分かるようになったという声も聞かれました。
不登校気味だった子どもが登校するようになったとの報告も各地から聞かれました。
しかし、6月後半、各地の学校が通常登校に戻りはじめると、そうした様相は大きく変わりはじめました。
40人近くの教室では、子どもたち同士の距離も60センチ程度しか空けられません。
感染に怯える子どもも出てきました。
7月20日の教育再生実行会議に倉田哲郎委員(箕面市長)が提出した資料は、分散登校から通常登校に進んでいく学校の様子がとても分かり易く示されています。
1クラス9人の分散登校時には子ども同士の間隔は3メートル、20人分散登校では2メートル確保できたのに、40人の通常登校になったら60センチ程度しか確保できない。
また昨年度不登校気味だった児童生徒のうちで、9人の分散登校時には約半数が登校できていたが、通常登校に戻るとその割合は3分の1に低下しているといいます。
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai46/yusikisha.pdf)
文科省も学びの遅れは数年かけて回復すればいいとしていますが、各地の学校は今年度中に休校期間中の授業時数を取り戻そうと・夏休み短縮、土曜授業、7時間授業、行事削減など、超過密な授業スケジュールとなっています。
文科省の調査(6月23日時点)では、半数以上の学校が夏休みは例年の半分から3分の1、中には9日(小・中学校)4日(高校)というところもあります。
詰め込み教室に詰め込み授業では、子どもたちのストレスは一層高まるばかり、不登校の増大や荒れた学校の出現などが強く懸念されます。
◆ 高まる少人数学級化の声
こうした中で、少人数学級化を求める声が再び広がってきました。
コロナの収束が容易に見通せない中で、感染予防のためにも少人数学級化が必要という声です。
全国連合小学校長会長が日経新聞(6月22日)上で「ウィズコロナ時代では20~30人が適当では。1学級20人なら分散登校もいらないし、丁寧に目配りできる」と表明、7月2日には全国知事会長・全国市長会長・全国町村会長連名の「新しい時代の学びの環境整備に向けた緊急提言」で「少人数編制を可能とする教員の確保」が提起されました。
こうした動きの中で7月17日閣議決定された今年度の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2020)」では、「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」という文言が加えられることとなりました。
財務省の強い抵抗もありやや曖昧な表現になっていますが、伝え聞くところでは、少なくとも文科省の理解としてはこれは少人数学級を指すとのことです。
7月22日の衆参両院の文部科学委員会休会中審議では立憲民主党・公明党・日本共産党の各議員が少人数学級化を求める質問を行いましたが、文科省もこれに前向きの答弁を行っていました。
◆ 少人数学級化が必要な理由
現在のコロナ感染症は収束までに3年程度かかるといわれています。またいつ新たな感染症が発生しないとも限りません(専門家は過去の経験からも新たな感染症は数年おき程度に発生するともいいます)。
そうした中でもできる限り休校にすることなく学校を続けるためには、どうしても学級規模を縮小し、子どもたちが教室の中で適度な距離を保てることが絶対に必要です。
2月末からの長期休校は、日本の学校のICT化の遅れも浮き彫りにしました。
確かにやむを得ず休校にせざるを得ない場合など、ICTの利用は重要で、その整備は急がれます。
しかしICTよるオンライン授業などに頼ることは、とりわけ小中学校等においては危険な側面もあります。
仮に端末などが平等に確保できても格差は拡大します。例えば教室では、学習が遅れがちな子どもほど、先生の指示ばかりでなく、隣の子のやり方を見たり、隣から教えてもらうなどでその不足を補っています。でもオンラインではそういうことは不可能です。
そうしたことも含んだ共同的な学びの豊かさは、教室でなければ実現できません。
そういう意味でもできる限り休校にすることを避けられる条件の確保が重要です。
少人数学級化は、もちろん感染対策のためばかりではありません。何よりも教育の質を変え、高めていくために必要な措置です。
日本の学校が、一斉授業を中心とした知識の伝達・詰め込み型であることへの批判は長らく続いています。長く批判され続けながらそれが改善できなかった大きな要因は学級規模の大きさです。
学級規模を20人程度にすれば、そのような授業形式から抜け出すことも可能になります。またこの程度の人数であれば、子どもたち一人ひとりの違いに目を向け、お互いにその違いを認め合う、そういうことを授業の内外で行うことも可能になりますし、また積極的に進める必要があります。
実現へ力を合わせて少人数学級の必要性は、このようにいま再び広く共有され、その声も広がっています。しかし一方で、政府の中には財務省や総務省などを中心に、依然として強い抵抗があります。
こうした抵抗を打ち破るためには、どうしても広範な国民の声が必要です。私も他の教育研究者の方たちとともに有志で「コロナの危険の中で学ぶ子どもたちに、少人数学級と豊かな学校生活を保障してください」という全国署名をインターネット上で立ち上げ、広く賛同を呼びかけています。ぜひご協力ください。
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 133号』(2020年8月26日)
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