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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

まだある、コース別賃金制度に名を借りた、性を理由とする賃金差別

2018年08月03日 | 格差社会
  《連載 労働弁護士事件録(15) 労働情報》
 ◆ コース別雇用制度による性差別
山岡遙平(日本労働弁護団事務局員 神奈川総合法律事務所)

 依頼者で組合員のAさんとBさんは、機械メーカーの子会社で、機械のメンテナンス等を行っているY社に入社して約10年ですが、入社時に驚いたのは、65人ほどいる総合職に女性は全くおらず、Aさん、Bさんを含む一般職社員5人は全て女性だったこと。しかもAさんは、総合職の指導を行うことが業務として指定されることもありました。
 そこで二人は、女性に対しても総合職の道を開くよう、毎期末の要望書に書き続けました。しかし、会社はこれにとりあいませんでした。
 それどころか、形式上は就業規則にある、総合職への転換制度を使うべきことや、どうやったら転換制度を使えるのかについて、教えることもしませんでした。
 二人は、労働組合を通じて、男女の格差の解消を求めてきましたが、十分な回答を得ることはできませんでした。
 そこで、二人は、コース制度やその運用が男女差別であるとして、会社に対し、総合職との間の差額賃金等を請求するべく、労働組合の支援を受けて、会社を訴えることにしました。
 ◆ 均等法違反で提訴

 この訴訟において、原告は、実態として男女別のコース制である、と主張しています。そもそも、募集及び採用や、労働者の配置、昇進、降格及び教育訓練、労働者の職種及び雇用形態の変更等にあたって性を理由として差別することは違法です(雇用機会均等法5条、6条各号)。
 コース別雇用管理についての厚生労働省の指針において、「形式的には男女双方に開かれた制度になっているが、実際の運用上は男女異なる取扱いを行うこと」が「法に直ちに抵触する例」とされています。
 このような取扱いを行った場合、賃金差別については労働基準法4条により無効、賃金差別に留まらない部分については、男女雇用機会均等法に反する等として、公序良俗違反(民法90条)で無効となります。
 これを前提に、この訴訟では、
  ①総合職の規定が適用されるべきであるという地位確認請求、
  ②総合職と一般職の差額賃金請求、
  ③予備的に②と同額の損害賠償請求、
  ④慰謝料請求を行っています。

 ①と②は、Y社の取扱いが性を理由とする賃金差別であって、一般職・総合職の名目のもと差別をしているのだから、労働基準法4条または男女雇用機会均等法に違反し、一般職の賃金について定めた規定が無効で、総合職の規定が適用され(①)、これまで適用されるべきであった総合職の規定が適用されず、一般職の給与しか貰えなかったのだから、この差額を未払いの賃金として請求する(②)、というものです。
 ③については、差額請求を認めない裁判例も見られること等もあり、差額賃金相当額を不法行為に基づく損害賠償として構成したものです。
 ④については、②、③とは別個に、長年にわたって女性であることを理由に取扱い上差別を受けてきた精神的苦痛の慰謝料を求めています。
 ◆ 参考になる裁判例

 コース別賃金制度による取扱いが男女差別であって無効であるとした裁判例(東和工業事件・金沢地判平27・3・26)があります。
 この事件でも、形式的には、一般職と総合職が存在していますが、「事実上、男女の区別として運用されていたか」について裁判所が検討を加えました。
 裁判所は、従前、男性が全員総合職であること、女性が全員一般職であることも踏まえ、従前の男性職、女性職がそのまま総合職、一般職になったものであると強く推認されるとしました。
 その上で、合理的なコース転換(一般職から総合職に転換する制度)や、コース転換を勧められることがなかったことから、実態において性別の観点によって一般職と総合職を区別して取り扱っていたと認定し、さらに、転勤が必要である等の総合職の条件は合理的である、能力により振り分けた等の被告の主張を排斥しました。
 そして、労働基準法4条に基づき、被告と女性労働者との労働契約のうち、一般職の賃金表を適用する部分は無効であり、総合職の賃金表によって補充される(労働基準法13条)としました。
 ◆ 性による差別をなくすために

 今回の訴訟は、提起したばかりの事件で、これからY社の反論が具体的になされることになります。
 事前の交渉においては、賃金格差は、男性の仕事との違いに基づくものである等の主張がされていました。
 そもそも、私たち代理人は、仕事の重要度について、総合職と一般職(男性と女性)で大きな差はないと考えていますし、仮にある程度の違いがあったとしても、それは違法な差別による差であるから重視すべきではないと考えています。
 この訴訟を通じて、Aさん、Bさんの損害の回復のみならず、Y社において、AさんやBさんをはじめとした女性が活躍しやすい環境を作る端緒にできればと思っています。
 男女雇用機会均等法も、平等取扱いの義務を広げる方向で、1997年、2006年と改正がされてきましたが、現実には、大きな賃金格差があります。
 この背景には、女性の多い非正規労働者と正規労働者との格差、女性の管理職登用の不十分さ、女性が出産を機に退職せざるを得ないことが多いこと等が挙げられます。
 性に関係なく活躍できる社会になるためには、家事労働の負担や、性に関係ない能力活用の推進、労働形態ごとの格差の是正が必要でしょう。
 『労働情報』(2018年6月)

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