<国連の日本審査 私が見て感じたこと> 第5回
■ 裁判官への規約の教育
今回の審査に当って、自由権規約委員会から、裁判所若しくは行政当局で自由権規約の条項が直接援用された事例とその結果についての情報提供が求められました。これは日本の司法機関や行政機関で、規約がどれほど活用され定着しているかと密接に結びつく問題なのです。
■規約活用した裁判
日本政府はこれに対し最高裁及び下級裁判所では規約を肯定的に適用した例がないと答弁しました。
残念ながら、沢山ある裁判のなかで弁護士が規約を用いて闘う例はまだまだ少ないですし、裁判所がこれにまともに応えることもこれまであまり例がありませんでした。裁判官、検察官、弁護士らの法律専門職の人たちも、率直に言って国内法の理解に較べて、規約には疎いというのがこれまでの実情でした。
しかし、祝、中村、大石さんらの公職選挙法違反事件、堀越、宇治橋さんらの国家公務員法違反事件では、規約を用いて勝利への道を拓こうという本格的な取り組みがなされてきました。
これに対し、裁判所の目覚しい対応はまだありませんが、規約適用の是非の判断は辛うじてするようになりました。これは以前の状態に較べれば、一歩前進なのです。
■遅れた規約の教育
さて、この遅れた状況は裁判官をはじめ人権に携わる専門職の人たちに対する規約の教育が遅れていることと無縁ではありません。
最近は行政機関でも人権教育の機会は増えているといいます。しかし、自由権規約の教育はと言えばお寒い限りです。司法研修所でも判事補研修でも国際人権のカリキュラムは設けられましたが、まだ十分な時間が与えられているとはいえません。
私たちはカウンターレポートで、この実情を調査して、説得力のある報告をしました。そうしたこともあって、総括所見では、規約の国内適用例がないことを懸念し、「締約国は、規約の適用及び解釈が、裁判官、検祭官及び弁護士に対する専門職業的研修の一部となること、規約に関する情報を、下級裁判所を含め、司法のあらゆる段階に広めることを確保するべきである」と勧告しました。
■ひとつの光明
昨年6月4日、最高裁は、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子につき、出生後に父の認知があった場合、父母の婚姻を要件として国籍を認めるとする国籍法は違憲である、と判決しました。
この中で、はじめて自由権規約と子どもの権利条約の存在を積極的に取り上げ、国際的な流れから見て、このような児童への差別は許されないとしたのです。直接適用の例ではありませんが、規約の精神に触れたわけですから、ひとつの光明がここにあると言えます。(つづく)
日本国民救援会「救援新聞」より
■ 裁判官への規約の教育
鈴木亜英(国際人権活動日本委員会代表)
今回の審査に当って、自由権規約委員会から、裁判所若しくは行政当局で自由権規約の条項が直接援用された事例とその結果についての情報提供が求められました。これは日本の司法機関や行政機関で、規約がどれほど活用され定着しているかと密接に結びつく問題なのです。
■規約活用した裁判
日本政府はこれに対し最高裁及び下級裁判所では規約を肯定的に適用した例がないと答弁しました。
残念ながら、沢山ある裁判のなかで弁護士が規約を用いて闘う例はまだまだ少ないですし、裁判所がこれにまともに応えることもこれまであまり例がありませんでした。裁判官、検察官、弁護士らの法律専門職の人たちも、率直に言って国内法の理解に較べて、規約には疎いというのがこれまでの実情でした。
しかし、祝、中村、大石さんらの公職選挙法違反事件、堀越、宇治橋さんらの国家公務員法違反事件では、規約を用いて勝利への道を拓こうという本格的な取り組みがなされてきました。
これに対し、裁判所の目覚しい対応はまだありませんが、規約適用の是非の判断は辛うじてするようになりました。これは以前の状態に較べれば、一歩前進なのです。
■遅れた規約の教育
さて、この遅れた状況は裁判官をはじめ人権に携わる専門職の人たちに対する規約の教育が遅れていることと無縁ではありません。
最近は行政機関でも人権教育の機会は増えているといいます。しかし、自由権規約の教育はと言えばお寒い限りです。司法研修所でも判事補研修でも国際人権のカリキュラムは設けられましたが、まだ十分な時間が与えられているとはいえません。
私たちはカウンターレポートで、この実情を調査して、説得力のある報告をしました。そうしたこともあって、総括所見では、規約の国内適用例がないことを懸念し、「締約国は、規約の適用及び解釈が、裁判官、検祭官及び弁護士に対する専門職業的研修の一部となること、規約に関する情報を、下級裁判所を含め、司法のあらゆる段階に広めることを確保するべきである」と勧告しました。
■ひとつの光明
昨年6月4日、最高裁は、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子につき、出生後に父の認知があった場合、父母の婚姻を要件として国籍を認めるとする国籍法は違憲である、と判決しました。
この中で、はじめて自由権規約と子どもの権利条約の存在を積極的に取り上げ、国際的な流れから見て、このような児童への差別は許されないとしたのです。直接適用の例ではありませんが、規約の精神に触れたわけですから、ひとつの光明がここにあると言えます。(つづく)
日本国民救援会「救援新聞」より
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