● 築地市場の移転、本当にこれでいいのか? (多面体F)
築地市場の豊洲移転は半年後の11月7日と公表されている。
しかし以前から問題になっていた土壌汚染問題は、昨年夏ベンゼン検出700区画のうち300以上の区画で調査も行わないまま「汚染なし」と「偽装」していたことが報道された。この問題をはじめ33の公開質問を2月に提出しているのに、都はいまだに一言も回答していない。
その他、豊洲市場の床は700kg/平方m(7街区は1t/平方m)と積載荷重が低く、これでは床が抜けるという問題、豊洲の1ユニットの間口は1.4mしかなく、マグロの解体もできないという問題など次々に問題が発覚している。
また開業当初、道路は晴海通り1本しかなく、渋滞は必至だ。ある運送会社のシミュレーションでは、新宿池袋、浅草への午前配送は絶望的だそうだ。
いったいだれのための新市場かという話になる。こういうことになっているのは、都が、築地市場で働くひとの話をまったく聞こうとしないからだ。
5月21日(土)午後、築地市場内3階講堂で「緊急シンポジウム in 築地市場――築地市場の移転、本当にこれでいいのか?」が開催された(主催:築地市場有志の会、守ろう ! 築地市場パレード実行委員会 参加150人)。
この日のシンポジウムは仲卸の人が中心の「有志の会」との共催だった。
有志の会は、2週間で農水大臣宛ての請願署名を集めた。署名の内容は、11月7日のスケジュールを撤回せよ、仮に都から認可申請が出ても、市場のいうことに耳を貸さないので認可しないでほしい、都は説明責任を果たしていないので、マスコミもいる公開の場で説明せよ、というものだ。
5月20日時点で仲卸業者591事業所のうち過半数の320筆が集まった。
● 講演 豊洲新市場の汚染は除去されたのか?
畑明郎さん (日本環境学会顧問・元会長、大阪市立大学大学院・元教授)
東京ガスでは、石炭を原料にコークス炉でガス化させて都市ガスをつくっていた。そのときに副成分としてシアンやベンゼンが発生する。石炭には、もともと鉛、水銀、ヒ素、六価クロムなどが含まれている。また脱硫化するときに触媒としてヒ素を利用していた。これらがその後の汚染源となるが、東京ガスの調査の段階で、土壌でも地下水でもとくにベンゼン、ヒ素、シアンの濃度が高かった。
東京ガスは地盤から2mまでで汚染基準を超える地点(30mメッシュ)のみ処理し、2m以下は基準の10倍以上の場所のみ処理することになった。また新たな盛り土は2.5mだが、これは主として高波対策用で、このあたりは地下水の水位が-2mと、海抜より高いので、盛り土や処理ずみ土壌も汚染地下水により再汚染される可能性がある。汚染地下水は汲み上げて処理することになっているが、土壌の深いところで汚染されているので、処理しきれない。また地下水は平面ではなく高低差があり、また雨が降ると上がってくるし、常に動いているのでコントロールが難しい。
2007年の都知事選で土壌汚染が問題になり、専門家会議を設置し、10mメッシュの調査にしたことは改善点だった。このときベンゼンが土壌で基準の43000倍、地下水で10000倍、シアンが860倍と2008年5月、日本最高の汚染区域であることが発表された。
なお都は基準の100倍以下は公表しないので、発表済みマップよりもっと汚染されていることが推測される。この会議で2mまでは基準の1-9倍も入れ替えることになったことは前進だった。
しかし深部(有楽町層)の調査が不十分なので、いくら上を処理しても、地下水は下から汚染される。有楽町層は粘土層だが砂も入っているのでその下まで汚染されている。
専門家会議に引き続き、都は2008年技術会議を設置した。処理済土壌を再利用してコストを大幅に下げることにした。しかし処理土壌の安全性が確認されていないので、再汚染の危険性がある。また盛土は地下鉄工事など公共工事の残土をもってきているが、もともと汚染されている可能性もある。
その他2009年には強力な発がん物質であるベンゾ[a]ピレンが検出されたのに都は隠していた。
2010年、現地実証試験をして、処理後土壌がきれいになったと発表した。
ところが処理前のデータを出さない。一部は処理前がわずか2.7倍のベンゼンで初期値が低いものをきれいになったと説明するインチキなデータであった。
この土地は軟弱なので、2011年の東日本大地震で液状化し108か所で砂が噴き上げた。汚染土壌が地下でかき回された証拠であり、再調査する必要があったのにやっていない。
処理費が土地購入費の2割を超えると、アメリカではブラウンフィールド(塩漬け土地)とし、使い道のない土地の扱いになる。豊洲はすでに対策費が用地費の46%に達している。
その他、活魚のセリ場の水は海水を使うことになっている。しかし取水する場所は汚染地下水に近い場所なのである。ろ過処理だけして使うので海水の汚染の可能性がある。
それに加え、昨年、底面調査を300か所(6割)以上やっていなかったことが発覚した。これは土壌汚染対策法違反である。それにもかかわらず都は汚染区域の指定解除など見切り発車し、市場の建屋をつくっている。
ベンゼン、シアン、水銀は揮発性物質なので、気化して大気を汚染する。1954年のビキニ水爆実験の汚染マグロは築地市場に埋められ、いまプレートが設置されている。それと同様のパニックが発生する可能性がある。
● 討論 本当にこれでいいのか?
パネリストからそれぞれスピーチがあった。
宇都宮健児さん (日本弁護士連合会・元会長、弁護士)
仲卸業者の理解と支援を得られなければ市場をうまくやっていけない。しかしアンケートで、都の土壌汚染対策はまったく信頼できないという人が約8割、できれば築地でやっていきたいという人が8割以上という結果が出ている。移転計画には大きな問題点がある。また土壌汚染は働く人たちばかりでなく、市民の食の安全にもかかわる問題なので、333か所の未調査はとんでもないことだ。問題山積の市場移転をこのまま進めるわけにはいかないと、改めて確信した。
三國英實さん (広島大学名誉教授・農学博士)
都は、豊洲移転の理由として、施設の狭隘・老朽が取扱い量を大きく減らしたことを挙げる。しかし全国中央卸売市場の水産物が425万トン(1989年)から192万トン(2013年)へと減少したのに対し、築地は78万トンから48万トンで減少率は小さい。鮮魚だけみれば15.7万トンが15.5万トンと維持している。減ったのは冷凍品や塩干物だ。卸売市場の規模縮小は、輸入品が増えたことと、量販店や外食チェーンが市場外で直接買い付けするようになったことによる。
都は、豊洲でも築地のにぎわいを継承するというが、築地のにぎわいは仲卸の目利きに負うところが大きい。また約1万人の買出し人の存在も大きいが、豊洲では4階まで上がる必要があること、総合食品店や飲食店など水産物も野菜も買う人にとり場所が遠く離れていて、買出し人の便宜をまったく考えていない。
築地は交通の便がよく場外市場も発達していて消費者や観光客にも人気スポットになっているが、豊洲は大和ハウス、すしざんまいが撤退し、11月には「千客万来」施設オープンは不可能だ。
都は、大手スーパー、外食産業のため豊洲に通過型大規模集配物流センターをつくろうとしているようだ。しかし物流と流通は異なる。流通における人間関係こそまさに流通だ。その点を軽視した計画だから、仲卸の半分以上が納得できない結果となっているのだ。
斎藤悠貴さん(豊洲用地購入・公金支出訴訟弁護団 弁護士)
石原元都知事らを相手取り2012年5月公金返還請求訴訟を提訴した。これは土壌汚染がひどいことがわかっていたのに、汚染がないことを前提にした価格で東京ガスから土地を購入し、除去費用を都が税金から負担したのは税金のムダ遣いだという裁判で、都が2011(平成23)年に購入した分を取り上げている。都の反論は2002年に「売買価格は、売買時の適正な時価とする」という東京ガスとの合意があった。また「東京ガスは合意した対策を実行した。それ以降新たに判明した汚染の分は請求できない」というものだ。
しかしこの当時すでに都の専門家会議の汚染調査で高濃度ベンゼン汚染などがわかっていた。こちらは土壌汚染に詳しい不動産鑑定士の「汚染処理は汚染者負担の原則がある。購入した当時、すでに586億円の対策費が確定していたのだから、土地代からその分を控除すべきだった」という意見書をもらい提出した。
都の反論を聞いても、なぜこんなに高いカネで買ったかという答えにはなっていない。10回以上の書面のやりとりを経て現在、裁判は証人尋問を請求する段階に来ている。2002年にだれが主体的に決済に関与したか、2011年にだれが売買の実務を担当したか、次回6月9日13時20分(東京地裁703号)の期日で都が明らかにする。その1か月後くらいに陳述書が提出され、その後証人尋問することになる。一人でも多く傍聴に来ていただきたい。都民の目が必要である。
請願署名を過半数集めた仲卸の2人の女性、山口タイさん、石塚千枝子さん
通勤の足もなく、しかも時期が年末前の商売の好機に、「毒市場」かもしれない不安な土地になぜいかなければいけないのか、先代や先々代に顔向けできない。いま守らないといけないと思い、市場のなかで仲卸業者の署名を集めた。
また移転説明会に出て、あまりにみんなが従順なのに驚いた。もっと都にものをいうべきだ。先祖だけでなくこれからの人たちへの責任も感じる。もし引っ越さないといけないにしても、お客さまに迷惑をかけないよう、また商売も立ち行けるようにしてから引っ越すようにしたい。
この日のシンポジウムはフロアからの発言に90分も時間を取り、充実していた。そのなかでわたくしが注目したものを紹介する。
●豊洲の店舗は1ユニットの間口が1m40cmしかない。マグロの冷蔵庫(ダンベ)の大きいものは1m10ある。残り30cmでは買った魚も置けない。売った魚も置けないし、客も入れない。奥行も1畳しかないので帳場を半分置くと終わりだ。前に解体機も置かないといけない。また衛生上、シンクや手洗い、掃除機を置く場所も必要だ。これではお客さまの市場にはならない。
●間口1.4mでは、マグロの解体もできない。解体には2人がかりでのこぎりを使って行うが、人間の足だけでも26センチあるのだから2人で立つこともできず、包丁を引く作業はできない。
また豊洲の床の積載荷重限度は、仲卸が700キロ/平方m、卸が1トン/平方mしかない。たとえば1m立方の水槽を置くと床が抜ける。都は70センチ立法にしてほしいという。現状1~1.5トンの水槽を使っているにもかかわらずである。
またフォークリフトをつかう場所は1.5トンが常識なのに、どうしてこんなことになったのか根拠を知ろうと情報開示請求した。すると「文書は存在しない」という結果だった。
●底面調査を90%以上やっていなかった問題について、都はどうやってこの事実を隠していたのか調べてみた。すると指定調査機関がはじめから、ベンゼンに汚染されていない区画として分類していた、つまり「偽装」していたことがわかった。
これは2005年に発覚した構造計算書偽造の姉歯事件と同じ構図だ。しかも都が指定調査機関と結託してやっていた。おそらく調査費を削減することが目的だったのではないかと考えられる。
●この問題は、住人である中央区民や江東区民にも大きな影響がある。豊洲のタワーマンションには子どもたちがたくさん住んでいる。いまでも交通量増加で大気汚染がひどいのに、ベンゼンやシアンが気化して空気を汚すという話を聞いてたいへん心配している。ぜんそくが増えて医療費がかかると、住民や働く人だけでなく、都も医療費が増えなにもよいことはない。健康を守る意味でもこの状態はなんとかしたい。
●11月まで時間も差し迫っているので、集団訴訟をして移転差止や、仮処分申請をして中止や延期を図ってはどうか。
(畑明郎さんは、高浜原発差し止めの29人の原告の1人だが「仮処分で豊洲への移転差止めをさせる方法も考えられる。大津で成功した例もあるので紹介したい」とコメントした)
●この問題を一般の従業員に自分の問題と受け止めてもらえるよう、広げる方法についてという質問に、宇都宮弁護士から次のようなコメントがあった。
ヨーロッパの国々と比較して日本では市民が声を上げていく点で弱い。憲法の「人権」がまだ定着していない。権利の行使の仕方を学校で教えていないからだ。
たとえば憲法21条(表現の自由)では、ビラのまき方、集会のやり方を、憲法28条(勤労者の団結権)では、組合のつくり方、団体交渉の仕方を教えてから子どもを社会に出すべきだ。
憲法25条(生存権)に関しては、生活保護申請方法やブラック企業に就職したときの相談窓口や闘い方を高校段階で教えるべきだ。
一方で、一般の人が参加しやすい方法を工夫することも必要だ。昨年のシールズ、ティーンズ・ソウル、ママの会の運動スタイルは参考になる。
最後に「ええじゃないか、ええじゃないか、築地でええじゃないか、築地がええじゃないか」という「築地でええじゃないか」の合言葉を、パネリストも含め、会場の人全員で叫び、閉会した。
『多面体F』(2016年05月29日)
http://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/e/1da45f962eff9627a1780a4f1ea3833a
築地市場の豊洲移転は半年後の11月7日と公表されている。
しかし以前から問題になっていた土壌汚染問題は、昨年夏ベンゼン検出700区画のうち300以上の区画で調査も行わないまま「汚染なし」と「偽装」していたことが報道された。この問題をはじめ33の公開質問を2月に提出しているのに、都はいまだに一言も回答していない。
その他、豊洲市場の床は700kg/平方m(7街区は1t/平方m)と積載荷重が低く、これでは床が抜けるという問題、豊洲の1ユニットの間口は1.4mしかなく、マグロの解体もできないという問題など次々に問題が発覚している。
また開業当初、道路は晴海通り1本しかなく、渋滞は必至だ。ある運送会社のシミュレーションでは、新宿池袋、浅草への午前配送は絶望的だそうだ。
いったいだれのための新市場かという話になる。こういうことになっているのは、都が、築地市場で働くひとの話をまったく聞こうとしないからだ。
5月21日(土)午後、築地市場内3階講堂で「緊急シンポジウム in 築地市場――築地市場の移転、本当にこれでいいのか?」が開催された(主催:築地市場有志の会、守ろう ! 築地市場パレード実行委員会 参加150人)。
この日のシンポジウムは仲卸の人が中心の「有志の会」との共催だった。
有志の会は、2週間で農水大臣宛ての請願署名を集めた。署名の内容は、11月7日のスケジュールを撤回せよ、仮に都から認可申請が出ても、市場のいうことに耳を貸さないので認可しないでほしい、都は説明責任を果たしていないので、マスコミもいる公開の場で説明せよ、というものだ。
5月20日時点で仲卸業者591事業所のうち過半数の320筆が集まった。
● 講演 豊洲新市場の汚染は除去されたのか?
畑明郎さん (日本環境学会顧問・元会長、大阪市立大学大学院・元教授)
東京ガスでは、石炭を原料にコークス炉でガス化させて都市ガスをつくっていた。そのときに副成分としてシアンやベンゼンが発生する。石炭には、もともと鉛、水銀、ヒ素、六価クロムなどが含まれている。また脱硫化するときに触媒としてヒ素を利用していた。これらがその後の汚染源となるが、東京ガスの調査の段階で、土壌でも地下水でもとくにベンゼン、ヒ素、シアンの濃度が高かった。
東京ガスは地盤から2mまでで汚染基準を超える地点(30mメッシュ)のみ処理し、2m以下は基準の10倍以上の場所のみ処理することになった。また新たな盛り土は2.5mだが、これは主として高波対策用で、このあたりは地下水の水位が-2mと、海抜より高いので、盛り土や処理ずみ土壌も汚染地下水により再汚染される可能性がある。汚染地下水は汲み上げて処理することになっているが、土壌の深いところで汚染されているので、処理しきれない。また地下水は平面ではなく高低差があり、また雨が降ると上がってくるし、常に動いているのでコントロールが難しい。
2007年の都知事選で土壌汚染が問題になり、専門家会議を設置し、10mメッシュの調査にしたことは改善点だった。このときベンゼンが土壌で基準の43000倍、地下水で10000倍、シアンが860倍と2008年5月、日本最高の汚染区域であることが発表された。
なお都は基準の100倍以下は公表しないので、発表済みマップよりもっと汚染されていることが推測される。この会議で2mまでは基準の1-9倍も入れ替えることになったことは前進だった。
しかし深部(有楽町層)の調査が不十分なので、いくら上を処理しても、地下水は下から汚染される。有楽町層は粘土層だが砂も入っているのでその下まで汚染されている。
専門家会議に引き続き、都は2008年技術会議を設置した。処理済土壌を再利用してコストを大幅に下げることにした。しかし処理土壌の安全性が確認されていないので、再汚染の危険性がある。また盛土は地下鉄工事など公共工事の残土をもってきているが、もともと汚染されている可能性もある。
その他2009年には強力な発がん物質であるベンゾ[a]ピレンが検出されたのに都は隠していた。
2010年、現地実証試験をして、処理後土壌がきれいになったと発表した。
ところが処理前のデータを出さない。一部は処理前がわずか2.7倍のベンゼンで初期値が低いものをきれいになったと説明するインチキなデータであった。
この土地は軟弱なので、2011年の東日本大地震で液状化し108か所で砂が噴き上げた。汚染土壌が地下でかき回された証拠であり、再調査する必要があったのにやっていない。
処理費が土地購入費の2割を超えると、アメリカではブラウンフィールド(塩漬け土地)とし、使い道のない土地の扱いになる。豊洲はすでに対策費が用地費の46%に達している。
その他、活魚のセリ場の水は海水を使うことになっている。しかし取水する場所は汚染地下水に近い場所なのである。ろ過処理だけして使うので海水の汚染の可能性がある。
それに加え、昨年、底面調査を300か所(6割)以上やっていなかったことが発覚した。これは土壌汚染対策法違反である。それにもかかわらず都は汚染区域の指定解除など見切り発車し、市場の建屋をつくっている。
ベンゼン、シアン、水銀は揮発性物質なので、気化して大気を汚染する。1954年のビキニ水爆実験の汚染マグロは築地市場に埋められ、いまプレートが設置されている。それと同様のパニックが発生する可能性がある。
● 討論 本当にこれでいいのか?
パネリストからそれぞれスピーチがあった。
宇都宮健児さん (日本弁護士連合会・元会長、弁護士)
仲卸業者の理解と支援を得られなければ市場をうまくやっていけない。しかしアンケートで、都の土壌汚染対策はまったく信頼できないという人が約8割、できれば築地でやっていきたいという人が8割以上という結果が出ている。移転計画には大きな問題点がある。また土壌汚染は働く人たちばかりでなく、市民の食の安全にもかかわる問題なので、333か所の未調査はとんでもないことだ。問題山積の市場移転をこのまま進めるわけにはいかないと、改めて確信した。
三國英實さん (広島大学名誉教授・農学博士)
都は、豊洲移転の理由として、施設の狭隘・老朽が取扱い量を大きく減らしたことを挙げる。しかし全国中央卸売市場の水産物が425万トン(1989年)から192万トン(2013年)へと減少したのに対し、築地は78万トンから48万トンで減少率は小さい。鮮魚だけみれば15.7万トンが15.5万トンと維持している。減ったのは冷凍品や塩干物だ。卸売市場の規模縮小は、輸入品が増えたことと、量販店や外食チェーンが市場外で直接買い付けするようになったことによる。
都は、豊洲でも築地のにぎわいを継承するというが、築地のにぎわいは仲卸の目利きに負うところが大きい。また約1万人の買出し人の存在も大きいが、豊洲では4階まで上がる必要があること、総合食品店や飲食店など水産物も野菜も買う人にとり場所が遠く離れていて、買出し人の便宜をまったく考えていない。
築地は交通の便がよく場外市場も発達していて消費者や観光客にも人気スポットになっているが、豊洲は大和ハウス、すしざんまいが撤退し、11月には「千客万来」施設オープンは不可能だ。
都は、大手スーパー、外食産業のため豊洲に通過型大規模集配物流センターをつくろうとしているようだ。しかし物流と流通は異なる。流通における人間関係こそまさに流通だ。その点を軽視した計画だから、仲卸の半分以上が納得できない結果となっているのだ。
斎藤悠貴さん(豊洲用地購入・公金支出訴訟弁護団 弁護士)
石原元都知事らを相手取り2012年5月公金返還請求訴訟を提訴した。これは土壌汚染がひどいことがわかっていたのに、汚染がないことを前提にした価格で東京ガスから土地を購入し、除去費用を都が税金から負担したのは税金のムダ遣いだという裁判で、都が2011(平成23)年に購入した分を取り上げている。都の反論は2002年に「売買価格は、売買時の適正な時価とする」という東京ガスとの合意があった。また「東京ガスは合意した対策を実行した。それ以降新たに判明した汚染の分は請求できない」というものだ。
しかしこの当時すでに都の専門家会議の汚染調査で高濃度ベンゼン汚染などがわかっていた。こちらは土壌汚染に詳しい不動産鑑定士の「汚染処理は汚染者負担の原則がある。購入した当時、すでに586億円の対策費が確定していたのだから、土地代からその分を控除すべきだった」という意見書をもらい提出した。
都の反論を聞いても、なぜこんなに高いカネで買ったかという答えにはなっていない。10回以上の書面のやりとりを経て現在、裁判は証人尋問を請求する段階に来ている。2002年にだれが主体的に決済に関与したか、2011年にだれが売買の実務を担当したか、次回6月9日13時20分(東京地裁703号)の期日で都が明らかにする。その1か月後くらいに陳述書が提出され、その後証人尋問することになる。一人でも多く傍聴に来ていただきたい。都民の目が必要である。
請願署名を過半数集めた仲卸の2人の女性、山口タイさん、石塚千枝子さん
通勤の足もなく、しかも時期が年末前の商売の好機に、「毒市場」かもしれない不安な土地になぜいかなければいけないのか、先代や先々代に顔向けできない。いま守らないといけないと思い、市場のなかで仲卸業者の署名を集めた。
また移転説明会に出て、あまりにみんなが従順なのに驚いた。もっと都にものをいうべきだ。先祖だけでなくこれからの人たちへの責任も感じる。もし引っ越さないといけないにしても、お客さまに迷惑をかけないよう、また商売も立ち行けるようにしてから引っ越すようにしたい。
この日のシンポジウムはフロアからの発言に90分も時間を取り、充実していた。そのなかでわたくしが注目したものを紹介する。
●豊洲の店舗は1ユニットの間口が1m40cmしかない。マグロの冷蔵庫(ダンベ)の大きいものは1m10ある。残り30cmでは買った魚も置けない。売った魚も置けないし、客も入れない。奥行も1畳しかないので帳場を半分置くと終わりだ。前に解体機も置かないといけない。また衛生上、シンクや手洗い、掃除機を置く場所も必要だ。これではお客さまの市場にはならない。
●間口1.4mでは、マグロの解体もできない。解体には2人がかりでのこぎりを使って行うが、人間の足だけでも26センチあるのだから2人で立つこともできず、包丁を引く作業はできない。
また豊洲の床の積載荷重限度は、仲卸が700キロ/平方m、卸が1トン/平方mしかない。たとえば1m立方の水槽を置くと床が抜ける。都は70センチ立法にしてほしいという。現状1~1.5トンの水槽を使っているにもかかわらずである。
またフォークリフトをつかう場所は1.5トンが常識なのに、どうしてこんなことになったのか根拠を知ろうと情報開示請求した。すると「文書は存在しない」という結果だった。
●底面調査を90%以上やっていなかった問題について、都はどうやってこの事実を隠していたのか調べてみた。すると指定調査機関がはじめから、ベンゼンに汚染されていない区画として分類していた、つまり「偽装」していたことがわかった。
これは2005年に発覚した構造計算書偽造の姉歯事件と同じ構図だ。しかも都が指定調査機関と結託してやっていた。おそらく調査費を削減することが目的だったのではないかと考えられる。
●この問題は、住人である中央区民や江東区民にも大きな影響がある。豊洲のタワーマンションには子どもたちがたくさん住んでいる。いまでも交通量増加で大気汚染がひどいのに、ベンゼンやシアンが気化して空気を汚すという話を聞いてたいへん心配している。ぜんそくが増えて医療費がかかると、住民や働く人だけでなく、都も医療費が増えなにもよいことはない。健康を守る意味でもこの状態はなんとかしたい。
●11月まで時間も差し迫っているので、集団訴訟をして移転差止や、仮処分申請をして中止や延期を図ってはどうか。
(畑明郎さんは、高浜原発差し止めの29人の原告の1人だが「仮処分で豊洲への移転差止めをさせる方法も考えられる。大津で成功した例もあるので紹介したい」とコメントした)
●この問題を一般の従業員に自分の問題と受け止めてもらえるよう、広げる方法についてという質問に、宇都宮弁護士から次のようなコメントがあった。
ヨーロッパの国々と比較して日本では市民が声を上げていく点で弱い。憲法の「人権」がまだ定着していない。権利の行使の仕方を学校で教えていないからだ。
たとえば憲法21条(表現の自由)では、ビラのまき方、集会のやり方を、憲法28条(勤労者の団結権)では、組合のつくり方、団体交渉の仕方を教えてから子どもを社会に出すべきだ。
憲法25条(生存権)に関しては、生活保護申請方法やブラック企業に就職したときの相談窓口や闘い方を高校段階で教えるべきだ。
一方で、一般の人が参加しやすい方法を工夫することも必要だ。昨年のシールズ、ティーンズ・ソウル、ママの会の運動スタイルは参考になる。
最後に「ええじゃないか、ええじゃないか、築地でええじゃないか、築地がええじゃないか」という「築地でええじゃないか」の合言葉を、パネリストも含め、会場の人全員で叫び、閉会した。
『多面体F』(2016年05月29日)
http://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/e/1da45f962eff9627a1780a4f1ea3833a
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます