『東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース第16号』から
★ 国際的な人権諸規約にてらし「日の丸・君が代」強制は違法
はじめに学校に対する「日の丸・君が代」強制が、憲法十九条(思想・良心の自由)、一九四七年教育基本法一〇条(不当な支配の禁止)に違反するということを、私たちは教育行政当局に対しても、裁判所に対しても、訴え、主張してきました。
この問題のもう一つの法的側面は、国際的な人権諸規約の視点から、その違法性を検討することです。
学校に対する「日の丸・君が代」強制にかかわっては、「子どもの権利に関する条約(一九八九年国連総会で採択、一九九四年批准)」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約〔B規約〕(一九六六年国連総会で採択、一九七九年批准)」、「教員の地位に関する勧告(ILO/UNESCO特別政府間会議、一九六六年採択)」等が主要なものです。
都教委の「10・23通達」とそれに基づく校長の職務命令に対して不服従を貫いて闘ってきた私たちは、これら国際人権諸規約についても関心を払い、各裁判の訴状でもこの点を主張してきました。しかし、力点を置いて訴えてきたかと問われれば、やや手薄であったことを認めざるをえません。
ここでは、この間の活動を報告し、国際的な視野からの運動をどう進めるか考えてみます。
一、CEART来日調査(2008)への働きかけ
全教が、「新勤務評定問題」「指導力不足教員問題」について「教員の地位に関する勧告」の遵守状況を監視するCEART(ILO/UNESCO共同専門家委員会)に申立たのが二〇〇二年でした。それ以降、文科省、全教、CEART間で書面のやりとりが行われてきましたが、二〇〇八年四月にCEART委員が来日調査を実施するということになりました。(調査を踏まえた報告書は同年十一月に出されました)
弁護団からの示唆を受け、私たちは、来日するCEART委員諸氏に「日の丸・君が代」強制問題を伝えよう、うまく運べば調査の一項目に加えて、報告書に反映させてもらおうと考えました。
実情報告のレポート作成、ILO日本事務所に出かけての要請、(「申し立て」は原則として教職員組合からという事情があるため)東京都高等学校教職員組合(都高教)への要請など、短期間にあわただしく取り組みました。
私たちの問題が調査の趣旨とはやや外れているという事情や、教職員組合側のレポートがすでにできあがっていて、それに挿入というわけにはいかない等の諸事情で、正式の動きをつくりだすことはできませんでしたが、国際機関への問題提起という新しい運動の形に触れたことは貴重な経験となりました。
二、国連自由権規約委員会審査(2008、ジュネーブ)への働きかけ
二〇〇八年一○月、国連自由権規約委員会は、規約四〇条の「定期報告制度と審査」に基づいて各国の人権状況を規約に照らして審査する会合を、日本について実施しました。(一〇月末には「総括所見」が公表され、二九項目にわたる厳しい見解が示されました。たとえば、「所見」は「公共の福祉」の厳格な定義をするよう求めています。委員会は政府が『公共の福祉=公益・政府益』と定義づけようとしているのではないかと危惧しているのです。私たちの裁判の判決でも「公共の福祉」という言葉が「思想・良心の自由」を制限する『魔法の言葉』として使われている実態を見ると、この指摘は貴重です)
審査では、政府報告とNGOのカウンターレポートが材料となりますが、その中から重点的に審査する項目の一覧(List of Issue)が、審査の半年ほど前に委員会から示されます。これに対する追加的レポートもまた重要な意味を持ちます。そして、審査が行われるジュネーブでのプレゼンテーションとロビー活動、審査傍聴も、欠かせない活動ということになります。
このときも、出遅れの感があったのですが、私たちはレポートをまとめ、この取り組みのまとめ役となっている国際人権活動日本委員会の援助を受けながら活動を進め、三人の原告がジュネーブに飛び、ロビー活動や審査傍聴に参加しました。なお、「日の丸・君が代」強制問題では、私たちの他に、板橋高校裁判、ブラウス裁判の当事者からもレポートが出されました。
今回の審査では、政治的ビラ配布に対する弾圧問題で人権委員会の側から「ビラ配布は民主主義の根幹ではないか」という質問も出されるなど、日本の人権の実情が国際的非常識であるということも浮き彫りになりました。
そうした異常な状況を改善し前進させることを役割とする国際機関が存在し活動しているという事実に触れることができたことは、私たちが勇気づけられる経験でした。
今回の審査では「日の丸・君が代」強制問題は「List of Issue」にも採りあげられず、もちろん審査項目にもならず、最終見解にも触れられることはありませんでした。しかし、ここでもまた、私たちは貴重な経験を積んだと言えます。
三、子どもの権利条約の審査(2010)へのカウンター・レポート作成
来年は、国連で「子どもの権利条約」の日本における実施状況の審査が行われます。
現在DCI(Defense for Children International)日本支部の呼びかけによる、「政府報告書に対する市民・NGO統一報告書」作りが進んでいます。私たちはこれにも取り組むことを決め、いま、提出レポートの検討の最終段階です。来年には、またジュネーブに飛ぶことになるでしよう。
四、学習会-「国際人権条約の視点から見た『日の丸・君が代』問題」
私たちのこの間の国際人権にかかわる動きを整理し、今後について考える機会とするため、六月一九日、文京区民センター会議室いっぱいの三〇人の参加者で、国際人権活動日本委員会議長・弁護士の鈴木亜英(つぐひで)さんの講演会を開催しました。
「B規約一八条(思想・良心・宗教の白由)は絶対的自由を規定している」
「人権規約は第二次世界大戦の深刻な経験を経て制定された。日本国憲法もまた十五年戦争の深刻な経験を経て制定された。両者は生まれは同じ兄弟である。しかし、その育ちは異なってしまった。ヨーロッパ人権裁判所が規約を発展させるような判断を積み重ねてきたのとは対照的に、日本の支配者たちが〈人権〉を軽んじ、むしろ邪魔者扱いしてきたから、憲法が健全に育たず、兄貴分の人権規約の助けを借りる必要がある」
等々、印象的なお話しでした。
鈴木さんは今後の運動上の課題として三点を提起されました。
(一)次回(五年後?)の定期報告・審査を目指し、「日の丸・君が代」強制問題を自由権規約委員会に報告し、審査の姐上に乗せ、総括所見にとりあげさせる。
(二)規約違反の人権侵害について「個人通報」を可能とする「第一選択議定書」の早期批准に取り組む。
(三)裁判で自由権規約を活用し、「起立・斉唱・伴奏の拒否」を規約上の権利としてその侵害に対する救済を求め、規約の解釈適用を求める。
日本の裁判所が国際人権規約に関心を持たず、その適用に消極的であることは、今回の「総括所見」でも指摘され、批判されているところです「すべての司法官を対象とする専門研修を実施せよ」とまで言われています。
鈴木さんの提起は簡単に実現でさる課題ではありませんが、裁判の勝利を勝ちとるためには、欠かせない取り組みの一つというべきでしょう。裁判当事者としても奮闘したいと思います。
おわりに
日本が批准・公布した条約は、国際法の誠実な遵守を定めた憲法九八条に基づき、そのまま国内法としての効力を持ちます。条約は憲法より下位ですが法令より(もちろん通達や告示より)上位であることは、判例や学説で認められてきました。
私たちは、こうした国際人権諸規約を活用して裁判を勝ち抜く展望を拓いていくことも、重要な活動であると考えています。
『エデュカシオン エ リベルテ』第16号 2009年7月4日発行
東京「日の丸・君が代」強制反対裁判をすすめる会
発行責任者 冨田浩康 連絡先〒160-0008東京都新宿区三栄町6小椋ビル401号
★ 国際的な人権諸規約にてらし「日の丸・君が代」強制は違法
宮村博(原告団・国際人権プロジェクトチーム)
はじめに学校に対する「日の丸・君が代」強制が、憲法十九条(思想・良心の自由)、一九四七年教育基本法一〇条(不当な支配の禁止)に違反するということを、私たちは教育行政当局に対しても、裁判所に対しても、訴え、主張してきました。
この問題のもう一つの法的側面は、国際的な人権諸規約の視点から、その違法性を検討することです。
学校に対する「日の丸・君が代」強制にかかわっては、「子どもの権利に関する条約(一九八九年国連総会で採択、一九九四年批准)」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約〔B規約〕(一九六六年国連総会で採択、一九七九年批准)」、「教員の地位に関する勧告(ILO/UNESCO特別政府間会議、一九六六年採択)」等が主要なものです。
都教委の「10・23通達」とそれに基づく校長の職務命令に対して不服従を貫いて闘ってきた私たちは、これら国際人権諸規約についても関心を払い、各裁判の訴状でもこの点を主張してきました。しかし、力点を置いて訴えてきたかと問われれば、やや手薄であったことを認めざるをえません。
ここでは、この間の活動を報告し、国際的な視野からの運動をどう進めるか考えてみます。
一、CEART来日調査(2008)への働きかけ
全教が、「新勤務評定問題」「指導力不足教員問題」について「教員の地位に関する勧告」の遵守状況を監視するCEART(ILO/UNESCO共同専門家委員会)に申立たのが二〇〇二年でした。それ以降、文科省、全教、CEART間で書面のやりとりが行われてきましたが、二〇〇八年四月にCEART委員が来日調査を実施するということになりました。(調査を踏まえた報告書は同年十一月に出されました)
弁護団からの示唆を受け、私たちは、来日するCEART委員諸氏に「日の丸・君が代」強制問題を伝えよう、うまく運べば調査の一項目に加えて、報告書に反映させてもらおうと考えました。
実情報告のレポート作成、ILO日本事務所に出かけての要請、(「申し立て」は原則として教職員組合からという事情があるため)東京都高等学校教職員組合(都高教)への要請など、短期間にあわただしく取り組みました。
私たちの問題が調査の趣旨とはやや外れているという事情や、教職員組合側のレポートがすでにできあがっていて、それに挿入というわけにはいかない等の諸事情で、正式の動きをつくりだすことはできませんでしたが、国際機関への問題提起という新しい運動の形に触れたことは貴重な経験となりました。
二、国連自由権規約委員会審査(2008、ジュネーブ)への働きかけ
二〇〇八年一○月、国連自由権規約委員会は、規約四〇条の「定期報告制度と審査」に基づいて各国の人権状況を規約に照らして審査する会合を、日本について実施しました。(一〇月末には「総括所見」が公表され、二九項目にわたる厳しい見解が示されました。たとえば、「所見」は「公共の福祉」の厳格な定義をするよう求めています。委員会は政府が『公共の福祉=公益・政府益』と定義づけようとしているのではないかと危惧しているのです。私たちの裁判の判決でも「公共の福祉」という言葉が「思想・良心の自由」を制限する『魔法の言葉』として使われている実態を見ると、この指摘は貴重です)
審査では、政府報告とNGOのカウンターレポートが材料となりますが、その中から重点的に審査する項目の一覧(List of Issue)が、審査の半年ほど前に委員会から示されます。これに対する追加的レポートもまた重要な意味を持ちます。そして、審査が行われるジュネーブでのプレゼンテーションとロビー活動、審査傍聴も、欠かせない活動ということになります。
このときも、出遅れの感があったのですが、私たちはレポートをまとめ、この取り組みのまとめ役となっている国際人権活動日本委員会の援助を受けながら活動を進め、三人の原告がジュネーブに飛び、ロビー活動や審査傍聴に参加しました。なお、「日の丸・君が代」強制問題では、私たちの他に、板橋高校裁判、ブラウス裁判の当事者からもレポートが出されました。
今回の審査では、政治的ビラ配布に対する弾圧問題で人権委員会の側から「ビラ配布は民主主義の根幹ではないか」という質問も出されるなど、日本の人権の実情が国際的非常識であるということも浮き彫りになりました。
そうした異常な状況を改善し前進させることを役割とする国際機関が存在し活動しているという事実に触れることができたことは、私たちが勇気づけられる経験でした。
今回の審査では「日の丸・君が代」強制問題は「List of Issue」にも採りあげられず、もちろん審査項目にもならず、最終見解にも触れられることはありませんでした。しかし、ここでもまた、私たちは貴重な経験を積んだと言えます。
三、子どもの権利条約の審査(2010)へのカウンター・レポート作成
来年は、国連で「子どもの権利条約」の日本における実施状況の審査が行われます。
現在DCI(Defense for Children International)日本支部の呼びかけによる、「政府報告書に対する市民・NGO統一報告書」作りが進んでいます。私たちはこれにも取り組むことを決め、いま、提出レポートの検討の最終段階です。来年には、またジュネーブに飛ぶことになるでしよう。
四、学習会-「国際人権条約の視点から見た『日の丸・君が代』問題」
私たちのこの間の国際人権にかかわる動きを整理し、今後について考える機会とするため、六月一九日、文京区民センター会議室いっぱいの三〇人の参加者で、国際人権活動日本委員会議長・弁護士の鈴木亜英(つぐひで)さんの講演会を開催しました。
「B規約一八条(思想・良心・宗教の白由)は絶対的自由を規定している」
「人権規約は第二次世界大戦の深刻な経験を経て制定された。日本国憲法もまた十五年戦争の深刻な経験を経て制定された。両者は生まれは同じ兄弟である。しかし、その育ちは異なってしまった。ヨーロッパ人権裁判所が規約を発展させるような判断を積み重ねてきたのとは対照的に、日本の支配者たちが〈人権〉を軽んじ、むしろ邪魔者扱いしてきたから、憲法が健全に育たず、兄貴分の人権規約の助けを借りる必要がある」
等々、印象的なお話しでした。
鈴木さんは今後の運動上の課題として三点を提起されました。
(一)次回(五年後?)の定期報告・審査を目指し、「日の丸・君が代」強制問題を自由権規約委員会に報告し、審査の姐上に乗せ、総括所見にとりあげさせる。
(二)規約違反の人権侵害について「個人通報」を可能とする「第一選択議定書」の早期批准に取り組む。
(三)裁判で自由権規約を活用し、「起立・斉唱・伴奏の拒否」を規約上の権利としてその侵害に対する救済を求め、規約の解釈適用を求める。
日本の裁判所が国際人権規約に関心を持たず、その適用に消極的であることは、今回の「総括所見」でも指摘され、批判されているところです「すべての司法官を対象とする専門研修を実施せよ」とまで言われています。
鈴木さんの提起は簡単に実現でさる課題ではありませんが、裁判の勝利を勝ちとるためには、欠かせない取り組みの一つというべきでしょう。裁判当事者としても奮闘したいと思います。
おわりに
日本が批准・公布した条約は、国際法の誠実な遵守を定めた憲法九八条に基づき、そのまま国内法としての効力を持ちます。条約は憲法より下位ですが法令より(もちろん通達や告示より)上位であることは、判例や学説で認められてきました。
私たちは、こうした国際人権諸規約を活用して裁判を勝ち抜く展望を拓いていくことも、重要な活動であると考えています。
『エデュカシオン エ リベルテ』第16号 2009年7月4日発行
東京「日の丸・君が代」強制反対裁判をすすめる会
発行責任者 冨田浩康 連絡先〒160-0008東京都新宿区三栄町6小椋ビル401号
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