パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 大阪府の「教職員の評価・育成システム」批判(第2回)

2023年01月22日 | 暴走する都教委と闘う仲間たち

  《教職員評価システムを考える》
 ★ 「給与反映賛成に誘導する不適切質問」
   ~杉浦氏講演は新勤評交流会の主張を裏付けている。

会員A

1, 自由記述では給与反映反対が圧倒的に多いのに、何故、設問では賛成が増えたのか?

 前回の投稿では、評価システムそのものに対する批判、否定的意見が設問、自由記述いずれにおいても圧倒的に多かったことを報告しました。設問においてシステムが教員の意欲や資質向上に役に立っていないという回答が三分の二を占めました。
 しかしながら、給与反映にかんしては、「意欲や資質向上につながっている」との回答(42.4%)が「つながっていない」とする回答(57.1%)より少なかったものの、前回(2010年)アンケートに比べ27.1ポイントも増えています。このことから府教委は給与反映が「概ね理解され、定着してきている」と結論づけています。
 この府教委の結論に対し、杉浦氏

「自由記述の分析からは、とてもこの結論とは似ても似つかない結果が示されている」(給与反映に肯定的48人、否定的609人と12倍)。

「結論から言うと、評価・育成システムは、目標設定と面接以外、教職員から全くといっていいほど受け入れられていないし、給与反映についても給与反映をすること自体に対しては肯定的な意見が見られるが、評価育成システムに基づいて給与反映をすることに対してはほとんどが否定的な意見を持っている」とし、

「教職員評価システムにより、給与反映を行なうことは廃止すべき」と主張しています。(4.23学習・交流会レジュメ*)

 設問への回答では、評価システムを否定しているのに、評価結果を給与に反映することには賛成するという矛盾が起きています。しかしながら、自由記述においては、給与反映に否定的な記述が圧倒的に多い。何故このようなことが起きたのでしょうか。

1)誤った認識に導く不適切な誘導質問---二つの偽装トリック
      (冊子、全国交流会ニュース15号)
 これには、府教委による不適切な設問の設定、二つのトリックがあります。

① 一つ目は、給与反映に関する最初の設問8(1)で給与反映を肯定に導く誘導質問をしていることです。
 最初に「がんばった人とそうでない人に給与差を設けるのは適当だと思いますか」という社会常識的に肯定される一般的な質問をすることにより、次の設問で評価結果を給与に反映するのは妥当だとする回答に導こうとしています。

② 二つ目は、回答者に評価システムが「がんばり」を評価するシステムであるかのように誤った認識を植え付けるトリックです。
 システムの制度設計自体が「がんばり」を評価するものにはなっていません。「業績評価」は「目標が達成したか」が、「能力評価」は「能力を発揮したか」が評価基準となっています(「教職員の評価・育成手引き」)。

 設問8(3)「貴方は評価結果が給与に反映され、どのように思いましたか」の回答選択肢「①がんばりが報われたと思った、②より一層、がんばろうと思った」も、システムが「がんばり」を評価するものであるという間違った印象を強めることによりシステムの性格を偽装し、回答者がその誤った前提に立って回答するよう誘導するものです。実際、自由記述では、"がんばっているのに評価されないのは納得できない"との声がいくつも上がっています。

 この二つのトリックにより、府教委は「がんばりに報いる給与反映は教員の意欲・資質向上に資する」との認識を植え付けようとしたのです。
 「府教委まとめ」は、このような誘導質問により前回のアンケートで他の設問に比べ「特段に低い」評価であった給与反映を「概ね理解され、定着してきている」と偽装することを狙ったものであり、真実を「隠蔽・改竄」するものにほかなりません。

 杉浦氏も、

最初に「社会的望ましさの非常に高い、不適切な質問項目が設けられている。・・・この質問によって給与反映に対して肯定的に意見を誘導しようとする意図があると思われ、その結果の信用性が疑われる」(4.23学習・交流会レジュメ)と述べています。

「いわゆる『社会的な望ましさ」の設問によって後の回答を誘導していくというやり方をとっている。これは心理学のテストや統計調査で一番やってはいけないという心理学の基本中の基本です」(冊子)

 と府教委の不適切な誘導質問を厳しく批判しています。

●自由記述例
<誘導質問への批判的意見>

・「『がんばり』を評価するシステムにはなっていないと思います。あくまで結果を問われているように感じます」(小・30代)

・「アンケートの前提がおかしい設問が多い。答えを誘導しているように感じる」(小30代)。

・「『がんばっている』『がんばっていない』だけの質問設定そのものが恣意的なものでしかない」(中・60代)。

・「毎日の生活を仕事に捧げて、頑張っても頑張っても、それが評価されない状況がある。・・・その納得いかない評価が給与額に影響するのは、納得しにくいものである」(中・40代)

<がんばり=過重労働を強いられたのに評価されなかった例 >

・クラスの三分の一がグレーゾーンにある1年生を持ったとき、授業がなかなか成立しないことがあった。・・・帰宅時間が12時近くなったり、土日出勤したりして毎日の授業に備えていた。一生懸命子どものために努力しても同僚や評価者には認められず、パワハラを受け、とうとう給食ものどを通らず、胃潰瘍になり、体重が激減してしまいました。その結果、評価は「B判定」を受け、給与が下がってしまいました。努力しても評価されず、なおかつ体調を崩してしまう結果になってしまった」(小・50代)。

・「3年生の担任をしながら急遽学年主任を任じられたが、本当に忙しく、介護や子育てもある中、学年や生徒のために力を尽くした1年であった。しかし、評価は昨年と変わらず、管理職からは、見える形で仕事をしないと評価は上げられないと言われた。・・・
 今回の経験で仕事を頑張った人を正当に評価していただけないことが分かり、このシステムに対しても大いに疑問を感じている」(高・50代)。

・「学年主任をしていたときに、乳がんになり手術・治療のために病休した。もう少し休みたかったが、文化祭前でもあり、学年主任の仕事、担任業務もあったので術後2週間で出勤した。その後、抗がん剤治療もあり、かなりしんどかったが、修学旅行にも付添い、自分なりに非常に頑張ったと思っていた。しかし、校長の評価はA。理由は病気で休んだから。病気で休み、確かにまわりに迷惑をかけたが、学年主任もやり、かなり体調も悪い状態であったが頑張ったその結果がAでがっかりした。完全にやる気をなくした。評価・育成システムとはそういうものである」(高・50代)

2)故意に「給与反映をなくす」選択肢を削除することにより給与反映の存続を図る

 設問8の最後に給与反映を「どのように改善すれば良いと思いますか」との質問において、前回アンケートでは存在した「給与反映をなくす」との回答選択肢がなくなり、給与反映存続を前提とする客観性を欠く不公正なものとなっています。その結果、無回答が多くなっています(11.6%)。
 自由記述に関する新勤評の分析及び杉浦氏らのテキストマイニングを用いた分析とも、給与反映に否定的な記述が肯定的な記述の10倍以上もあることを明らかにしています。
 府教委はアンケートでこの否定的結論がでることを避けるために、故意に「給与反映をなくす」という選択肢を削除し、給与反映システムの存続を図るという悪質な手口をとったのです。

●自由記述例

「今回の回答項目自体についても、この制度を維持したい、批判的回答を避けたいという意図が非常に強く見て取れます。まともな『学識』を持った方の作成したものとは思われない」(高・50代)。

2,自由記述の分析から
       (「質問書」、全国交流会ニュース15号、4.23学習・交流会レジュメ)

1)新勤評交流会による自由記述の分析では160名に上る回答者が、設問項目・回答選択肢の不備や設問自体の意図的誘導性を指摘しています。

2)給与反映に否定的意見が肯定的意見の十数倍
新勤評交流会の分析では、14倍となっています。 

給与反映に肯定的な意見が79人にすぎず、
否定的、疑問視する意見が1070人、14倍と圧倒的に多数を占める
(自由記述回答者中、半数弱の約1300人が給与反映に言及)。

 にもかかわらず、府教委「まとめ」は自由記述の統計的分析をせずに「現状では見直しの必要はない」と強弁しています。

杉浦氏のテキストマイニングによるKWICコンコーダンス分析では、

給与反映に肯定的記述48人に対し、
否定的記述が609人と12倍強になっています。

3)システムによる給与反映に反対・疑問の理由
●新勤評交流会の分析では
 システムによる給与反映は、評価基準が定かでないため意欲をなくすとともに、教員間の共同性を破壊する教育の場にそぐわないものであり、労働過重をもたらし教員を苦しめるだけのものであると結論づけています

①評価の判断基準の適正性が保障されず、主観的恣意的評価となっている(720人)

②給与反映は意欲につながらず、逆に意欲を挫く(230人)、給与反映によりモチベーションを与えるのは良くない(120人)。
これに対し、給与反映により意欲が向上するは2%と少数だった(26人)。

③職員間の協力を妨げたり、評価を受けやすい方向に仕事が偏る等の悪影響(230人)。

④教育の仕事に馴染まない(220人)。

⑤過重労働の促進につながる(150人)。

●杉浦氏は、分析の結果、府教委の総括が「信じられない」と結論づけています。

・ディープラーニングによる感情分析を行なった結果、最も強く否定的な意味を持つ感情値-0.9の記述数(459記述)の内、最も多かった上位二つのカテゴリーが評価の給与反映に関するもので、新勤評交流会が挙げた給与反対の理由の上位2つ①②と一致している。

「評価が適正でなく、評価されるべき人が評価されない(93記述)」、
「頑張っても評価が低いとやる気がなくなる、そのような評価をする管理職への不満(85記述)を挙げ、
「評価の適正さに納得ができず、やる気を失うとともに、管理職への不満を高めている記述が多く見られた」としています。

・また、テキストマイニングによるKWICコンコーダンス分析を行なった結果、

①について、システムが「評価基準すなわち『物差し』が定まっていないにもかかわらず、自分の能力や業績を査定され、給与に反映される仕組みであり、納得がいかないものが多いのも当然であろう。その結果、少なくない教職員(126記述)がシステムの廃止、それも多くが即時廃止を求めている。この120を超える『廃止』の意見が多いか少ないかは意見が分かれることだろう。しかしながら問題なのは、これだけの廃止意見があるにもかかわらず、大阪府のアンケート結果においてはこのような意見があったことは一切示されず、『評価者・被評価者ともに肯定的な意見が増加し、制度が適切に運営され、着実に定着』していると総括されていることである。・・・再び言うが、このような結果総括はもはや隠蔽もしくは捏造と言ってもいいほどである」と強調しています。

②については、意欲(653記述)・やる気(157記述)・モチベーション(87記述)について、肯定的記述43名に対し、否定的記述が462名と10倍強となっています。
 この原因について、「評価育成システムは心理学的観点から言って二つの要因から教職員の意欲を奪っていると考えられる。一つは、教育方法が報酬を得るための手段にすり変わってしまい、さらに報酬が得られないことで行動する理由が失われてしまって意欲が失われる内発的動機づけのアンダーマイニング現象によって、そしてもう一つは、評価基準があいまい、もしくは評価者によって恣意的に変わることで随伴性が認知されず、意欲が奪われてしまうことによってである」。

 以上を総括して、杉浦氏は「これらの結果から見ると、システムの記述にしても、給与(+給料、賃金)という記述についても、意欲(+やる気、モチベーション)という言葉にしても、・・・どれも10倍以上の者が、評価・育成システムに対して否定的な意見を持っていることが分かる。既に示したように、大阪府教育委員会のアンケート結果のまとめ(概要版)では、『評価者・被評価者ともに肯定的な意見が増加し、制度が適切に運営され着実に定着』していると総括していたが、その総括がとても信じられない結果である」と強い疑問を呈しています。

●自由記述例 

・「給与に反映するのであれば、より正確な評価ができるようにしてほしいです。できないのであれば、給与に反映しないようにしてほしいです」(小・40代)

・「がんばっているのに給料が下げられたときはやる気が下がります。評価育成システムが給料に反映されることで、やる気が上がることはありません。しかし、やる気が下がり、チーム力に影響が出ることは大いにあります。評価システムの弊害ばかりが現場には出ています」(小・30代)。

・「集団内で一定の割合低位の評価を付けなければならないという理由で低位の評価とされ、それが給与の削減につながってしまうと、意欲の低下につながるのではないかと考える」(高・60代)

・「管理職に評価されるために頑張るような教員を大阪府が望んでいるなら間違いだと思います。・・・評価で差別化を図る、給料を上げるなど、いわゆる教員に対する外的動機づけは限界があると思います(高・40代)。」

<評価者からの疑問の声>

・「子ども相手の仕事で客観的でない部分も含む評価で給与にも反映するところに無理があると考える」(支援・校長)

・「公教育に現状の評価育成システムを導入し結果を給与反映しても、大阪の教育課題の根本的な解決にならない」(小・校長)

●島根県教委が給与反映をしない理由・・・教職員のチームワークを阻害する
 島根県教委は2016年8月、「人事評価を用いた給与への反映は行なわない」とした。
その理由として

①『教育活動そのものは各学校の教職員のチームワークで遂行され、・・・教職員個人の業績のみと関連づけて捉えることは馴染まない」

②「教職員が一体となって教育活動に取り組む学校現場にあって、人事評価を個人の給与に反映させることは学校現場のチームワークを阻害することになる」を上げています。

4)給与抑制システムであることへの批判

新勤評交流会の分析(130人)

①標準評価であるA評価でもマイナス査定となる総人件費抑制策である。
②中低位評価者の賃金を高評価者に回す差別賃金システムである。
他に、給与格差ではなく、給与のベースアップと労働条件の改善を求める意見が70人。

・杉浦氏は「『給与を減らすシステムであることへの不満』(6記述)はA評価でも上位区分者への配分が0.03%あり、勤務手当が下げられるという仕組みによって、がんばりを認められていないという思いを持っている者がいるのだろう」としています。

●自由記述例

・「A評価は実質給与面ではマイナスであるはずだが、設問8の説明ではプラスの様に書かれている。アンケートに答える職員の目を欺こうとしているのであれば許しがたい」(高・40代)

・「あり得ないほど不誠実な制度です。しかも、『上位』評価者に分配する賃金を『下位』評価者から吸い上げる・・・様な制度は成果主義という方法にも反しているように感じます。・・・評価育成システムを名乗るのであれば、全ての被評価者を育成し、成果を上げさせ、その成果に応じて全ての被評価者の賃金が上がっても成り立つことが可能でなければならない。そうなっていないと言うことは、『下位』評価者を一定出さなければならないということでしょう。そうであるなら、不当で不誠実な制度設計と言わざるを得ません。・・・賃金リンクを含め、この欠陥だらけで不誠実な制度はすぐに廃止すべきです」(小・50代)

●最後に

 杉浦氏は、

「そもそも教員評価システムに基づく給与反映は、公務員の総人件費削減政策の一環として提唱された」ものであり、

給与反映によって「教員の意欲が向上したり、学校が活性化したりといったプラスの効果はほとんどエビデンスが得られていない」(4.23学習会・交流会レジュメ)だけでなく、

あまりにもマイナスの面が大きすぎる。このようなシステムを使い続けることは、・・・行政犯罪と言えよう。一刻も早く改善が求められる(科学研究費助成事業報告書「これからの教員評価システムのあるべき姿をめざしたて」)

 と結論づけています。

※参考文献:杉浦氏の論文
 「教員評価システムが教員に受け入れられない根本的な理由-感情分析とテキストマイニングを使った大阪府教職員の評価・育成システムに関するアンケート調査自由記述の分析から-」

教員評価システムが教員に受け入れられない根本的な理由-感情分析とテキストマイニングを使った大阪府教職員の評価・育成システムに関するアンケート調査自由記述の分析から-(1.の第5章の初出論文。次のサイトからダウンロード可能)


『教職員評価システムを考える』(2023/1/13)
https://blog.goo.ne.jp/shinkinpyouhantai2019/e/bd59cf5e0324cacfa995b091c454239f


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