★ 政府は任命しない理由いまだに明らかにせず (週刊新社会)
日本の国立アカデミーである日本学術会議の会員候補6名を、菅義偉内閣が理由や根拠を明らかにすることなく任命拒否(2020年10月1日)して4年になる。
岸田文雄政権も任命拒否を継続し、10月1日に発足した新政権がこの問題にどう対処するか不明だが、岸田政権が決定した学術会議法人化の方針を継続すると見られる。
★ 開示求め2つの訴訟
任命拒否の理由や根拠を明らかにすることや経緯に関する文書の公開・開示などについてこれまで国会でもとり上げられ、野党が政府を追及してきたが、政府は拒否してきた。
このため経緯に関する文書の不開示は違法として政府を相手取って2件の訴訟が今年2月20日、東京地裁に同時に起こされている。
1件の原告は、会員候補に推薦された加藤陽子・東大教授や宇野重規・東大教授ら学者6人で、開示請求の過程で政権が早い段階から学術会議への介入を始めていたことが明らかになったとしてさらに経緯を明らかにしたいとしている。
もう1件は、弁護士や法学者166人が不開示とした処分の取り消しを求めたもの。6人を支援する弁護士や法学者ら1162人は21年4月、国に情報公開を請求したが、不開示とされた。国はその後、6人の名前を開示したが、任命拒否の文書は「存在しない」として開示していない。
安保法制などに反対6人の学者を任命拒否した理由を明らかにすることを政府はかたくなに拒否しているが、6人に共通するのは「安保法制」や「共謀罪」「辺野古新基地」に反対する立場を次のように明確にしていたこどだ(肩書きはいずれも当時)。
芦名定道・京大教授(キリスト教学)は、「安全保障関連法に反対する学者の会」や安保法制に反対する「自由と平和のための京大有志の会」の賛同者。
宇野重規・東大教授(政治思想史)は特定秘密保護法に対し、「民主主義の基盤そのものを危うくしかねない」と批判。「安全保障関連法に反対する学者の会」の呼び掛け人にも名を連ねた。
岡田正則・早大教授(行政法)は「安全保障関連法案の廃止を求める早稲田大学有志の会」の呼び掛け人の1人。辺野古新基地建設問題を巡って他の学者らと共に政府の対応に抗議声明を発表した。
小沢隆一・東京慈恵会医科大教授(憲法学)は15年7月、衆院特別委員会の中央公聴会で安保関連法案について「歯止めのない集団的自衛権の行使につながりかねない」と違憲性を指摘し、廃案を求めた。
加藤陽子・東大教授(日本近現代史)は憲法学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」の呼び掛け人の1人。改憲や特定秘密保護法などに反対した。
松宮孝明・立命館大教授(刑事法)は「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法案について、参院法務委員会の参考人質疑で、「戦後最悪の治安立法となる」と批判した。
★ 法人化は独立性を侵し憲法と「会議法」に違反
ニュートリノの研究でノーベル賞を受賞した梶田隆章氏は、日本学術会議の前会長。昨年9月の退任会見で、「会員任命問題に始まり、自主改革の取組みや学術会議の在り方を巡る議論など大きな変革を迫られる激動の期だった」と3年間を振り返っている。
法人化に向けて検討学術会議の在り方を巡って政府の有識者懇談会は昨年12月、客観的な立場から科学的根拠に基づく助言を行うには、国から独立した組織になり、会員選考も自律的に行えることが望ましいとする中間報告をまとめた。
財政では、政府の継続支援が求められるとする一方、国費への完全な依存を続けるのは避け、将来的に一定の自主財源の確保を目指す必要性を指摘した。
政府は中間報告を受けて「国かち独立した法人格を有する組織」とする方針を決定、法制化に向けた具体的な検討を進めるとした。
★ 独立性の担保は必須
政府の方針に学術会議(会長=光石衛東大名誉教授)は4月の総会で、「法人化方針」は同会議の懸念を解消していないと指摘、政府からの独立性の担保が必須と再度強調する声明を発表。
声明は、法人化は必ずしも自律性・独立性の強化を意味しないと指摘した上で次の3点を求めた。
①政府への勧告機能などを確保するとともに、それを支える国家財政支出を中心とした安定した十分な財政基盤が保証されるべき。
②組織・制度については政府からの自律性・独立性を担保すべき。
③会員選考については、高度な専門性を備えた優れた科学者を選考するために、現会員が新会員を選出する「コ・オプテーション方式」及び会員による会長選出が不可欠であり、会員選考も自律的・独立的に行い、その方法は学術会議目身が決定すべきである。
光石会長は記者会見で「声明」について、「学術会議側として譲れない点」とし、「学術の発展と国民や世界に資する検討になるよう政府に建設的な協議を求める」と述べた。
★ 政府は不誠実な対応
また6月10日には梶田前会長ら4人の会長経験者が記者会見、「学術会議のあり方を法人化の見通しのなかに置くのであれば、日本学術会議の社会的役割が損なわれ、変質をもたらす危惧が極めて大きい」とした上で「政府主導の見直しを改め、日本学術会議の独立性および目主性を尊重し、擁護することを要望する」とする声明を発表した。
梶田氏は「6人の任命拒否についても政府は理由を説明せず、不誠実な対応のままだ。理念なき法人化が日本の学術の終わりの始まりになることを強く懸念している。法人化するか否か二者択一論ではなく、学術会議がどうあるべきか真に実りある議論を進めることが重要」と訴えた。
★ 日弁連も会長声明で
日弁連は、政府の「法人化」の決定に対して今年6月19日の会長声明で「(学術会議の)独立性及び自立性は憲法23条(学問の自由)に由来する」とし、「独立性と自立性を損なう政府の行為は、学術の世界への政治的判断の介入として極めて憂慮すべき事態であって、それは学問の自由に対する重大な脅威ともなりかねない」と厳しく批判している。
学術会議への介入は憲法違反と断じている。「独立して職務を行う」とする日本学術会議法3条違反であることは言うまでもない。
『週刊新社会』(2024年10月2日、10月9日)
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