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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

立川反戦ビラ論評2題

2008年05月01日 | 平和憲法
 日本は自由な国か?
山口二郎(北海道大学教授)

 自衛隊のイラク派遣に反対するビラを自衛隊員の宿舎に配布したことが住居侵入に当たるかどうかが問われていた裁判で、最高裁判所は十一日、二審の有罪判決を支持する判決を出した。
 ふざけるなと言いたくなる。日本の裁判には常識は通用しないということがよく分かった。
 我々の家の郵便受けには毎日さまざまなチラシやビラが入れられる。役に立つのはピザ屋の割引券くらいだが、関係ないと思えば捨てればよいだけの話である。配る人はチラシを入れたらすぐに立ち去るわけであり、チラシを入れるために住宅の敷地に入ってくることを犯罪とみなすのはどう考えても非常識である。
 しかも、今回の事件で.は、検察がわざわざイラク派兵反対のビラを選んで摘発したのであり、きわめて恣意的な起訴と言わなければならない。憲法では法の下の平等が保障されているのである。チラシを配る人をすべて逮捕、拘置し、起訴しなければ、法の下の平等は達成されないはずではないか。
 検察の政治的弾圧を追認した最高裁の罪は重い。今の日本では司法の独立など、うそっぱちである。市民的自由の何たるかを理解しない最高裁の下で裁判員制度が導入された時に何が起こるのだろうか。市民が司法という名の人権弾圧に加担しないよう、今から議論を起こす必要がある。
 『東京新聞』(2008/4/21【本音のコラム】)


 最高裁ビラ配布判決は国際条約に違反する

熊野勝之(くまの かつゆき・69歳、弁護士)

 最高裁判所第二小法廷(今井功裁判長)は四月一一日、自衛官宿舎ビラ配布事件の上告を棄却した。
 判決は、「憲法二一条一項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべき」であり、「管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない」から住居侵入罪(刑法一三〇条)に問うことは、憲法に違反しないという。
 しかしこのような憲法解釈は、わが国が一九七九年に批准し、現在一六〇ヵ国以上が参加する「市民的及び政治的権利に関する国際規約(略称・自由権規約)」と呼ばれる国際人権条約に違反すると思われる。
 自由権規約一九条二項は、表現の自由について「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」と定めている。
 ビラを配布した人たちの「伝える」自由だけでなく、宿舎に住む人たちがマスメディアからは得られない種類の情報・考えを「求め、受ける」権利も保障していることを忘れてはならない。
 公務員である宿舎の管理権者は、この双方の権利を妨げることのないよう慎重に配慮しなければならない。
 また規約三項は、「この権利の行使についての制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。(a)他の者の権利又は信用の尊重、(b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」と定めている。
 判決は「公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認する」というが、これは(a)(b)という限定された目的のための、しかも法律で定められた制限のみが許されるとする規約を十分に検討した上で出た結論とは思えない。
 まず住居優人罪は、表現の自由を制限するために作られた法律ではないから、法律により定められた制限という、要件に違反する。宿舎管理権はそれ自体(a)(b)に当たらない。
 他方、自由権規約一七条は「私生活(プライバシー)、住居(ホーム)を恣意的または不法に干渉されない権利」を保障しているから、これらについての「他者の権利」は尊重されねばならない。
 しかしポスティングによるビラ配布は、プライバシーやホームに対する恣意的、不法な干渉とまでは言えないのではないか。
 問題は、この一七条と一九条の権利の調整である。一九条の不履行を刑法で正当化するのは、「条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」という条約法に関するウィーン条約二七条に違反する。
 もちろん、憲法の条約遵守義務(九八条二項)にも違反する。
 『週刊金曜日』 (2008/4/25 №700 【論争】)

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