米国GM国有化に寄せて…
新自由主義 行き着く先は 国有化
「小さな政府」の国民生活 大企業には「大きな政府」
自己責任とは 経営破綻に税金注入 納税者には福祉の削減
☆ 資本主義は崩壊した
広瀬隆『資本主義崩壊の首謀者たち』(集英社新書)
「はじめに」から
…私たちは今、一九八九年十一月九日にベルリンの壁が崩壊し、ソ連で共産主義が崩れ去った時と同じように、歴史的な日に立ち会っているのです。それからちょうど二十年後に、今度は、アメリカで資本主義が大崩壊したからです。このことを忘れてはいけません。
ベルリンの壁崩壊では、共産主義社会の東側と、資本主義社会の西側を分割していた境界線が取り除かれ、全世界が“つかのまの平和”の到来を祝って、ドラマティックな事件に目を奪われ、大々的なテレビ報道が連日のように展開されました。そして地球上におけるアメリカが、政治的にも経済的にも軍事的にも、唯一の超大国として語られるようになり、とてつもなく大きな存在になりました。
ところが、今度の資本主義の崩壊では、ひっそりと静まり返って、誰も「資本主義が崩壊した」と認識していないのです。おかしなことがあるものです。
こう言えぱ、お前の頭がおかしいのだ、アメリカは今まで通り、今日も資本主義を謳歌しているではないか、と反論する人がほとんどではないでしょうか。
では、二〇〇八年にアメリカ政府が何をしたかを思い起こしてください。莫大な政府資金を金融市場に流しこんで、ガラガラと崩れる銀行や証券会社などの金融機関を救済しようと奔走し、九月七日はたんにはとうとう、経営破綻した巨大な住宅金融会社のファニー・メイとフレディー・マックの二社を二〇〇〇億ドルで国有化したではありませんか。
為替レートが日々かなり変化する時代ですので、本書では、その時々のレートにまどわされず、すべて分りやすい1ドル=100円の換算で示すことにしますが、二〇〇〇億ドルとは、二〇兆円、日本でしたら新幹線を十本も二十本も建設できる金額です。
ところがそれから一週間後の九月十五日には、その効果もなく、大手証券会社のリーマン・ブラザーズが破綻してしまい、全米にすさまじい勢いで金融パニックが広がりました。そして翌十六日には、同じく経営破綻の崖っぷちまできていた世界最大の保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)にも八兆五〇〇〇億円の大金をつぎこんで、これを国有化したのです。AIGは日本の保険会社アリコ・ジャパンの親会社です。(二〇〇九年三月には、これが二倍を超える一八兆円に達し、アリコが中央銀行に譲渡される)。
勘違いしてはいけませんが、このような国有化がおこなわれたのは、カリブ海の社会主義国家キューバではありません。一九五九年のキューバ革命で、カストロたちによっておこなわれた国営化が、あるいは一九一七年のロシア革命でレーニンたちによっておこなわれた国営化が、こともあろうに、食うか食われるかの資本の自由競争を謳歌してきたアメリカでおこなわれたのです。
さらに十一月二十三日には、株価がほとんどゼロまで暴落して、完全に経営破綻した全米一の商業銀行シティグループに対して、そのマンモス銀行の崩壊に震えあがったアメリカ政府が三〇兆円の保証をする前例のない救済策を打ち出し、ここでシティグルーブが政府に二兆円もの優先株を購入させることになりました。先ほど示した、アメリカ歴史博物館の漫画が“ニューヨーク・タイムズ”に掲載された日の出来事です。
優先株とは、一定の配当率が保証されて、優先的に配当される株式のことですから、ほかの株主の利益を食い荒らして、まず政府に利益を配当することになるわけです。こうしてシティグループは、世の中の人が思い違いしているように、救済されたのではなく、事実上、政府保護を受けて国営化されたわけです。
いいえ、シテイグループだけではありません。証券投資会社として君臨してきた第一位のゴールドマン・サックスも、第二位のモルガン・スタンレーも、九月二十一日に銀行持ち株会社に移行すると発表して、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の規制監督下に入る道を選びました。そのほか、ありとあらゆる銀行などの金融機関が、政府からお金を貰うという保護を受けねらなければ生きてゆけない企業に豹変したのです。
巨大銀行がその大金を狙う図々しい様子が、アメリカン・フットボールになぞらえて、ヒトコマ漫画に描かれました。政府の救済計画発表と同時に、一番乗りのタックルで大金をかっさらおうと待ちかまえる銀行家たちのあさましさが、表情によく出ています。
つまりどこから見ても、これは、資本主義のルールではありません。これら一連の「救済策」なるものは、まぎれもなく社会主義国家や共産主義国家のルールです。
アメリカが誇ってきた資本主義の歴史は、トマス・ジェファーソンたちが起草した独立宣言によって建国して以来二百三十余年、西暦二○○八年をもって幕を閉じたことになります。まず、この重大な史実を私たちが認めるところから、話を始めなければなりません。
したがって本書で言う「アメリカ資本主義の大崩壊」は、アメリカに批判的なさまざまな本が指摘している「金融メカニズムの崩壊」という表現とは、まったくニュアンスが違います。誰が見ても、公正かつ厳密な定義による「資本主義制度の崩壊」を意味します。
地球上で唯一の超大国であったはずのアメリカ合衆国の制度が、なぜこのように、不甲斐なくも白旗をあげる連戦連敗の窮地に陥ったのでしょうか。
二〇〇八年十一月十五日に、この地球規模に広がった経済危機に対処するという名目で、EU代表を加えた世界の経済トップ一九ヶ国がワシントンに集まって「金融サミット(G20)」が開かれ、この時には”史上最低の大統領”と呼ばれるジョージ・W・ブッシュが、自由主義による経済発展の栄華を誇らしげに強調してみせました。この期に及んでも、「これからもアメリカは世界の資本主義のリーダーである」と印象づけようと必死の猿芝居を演じたのですが、政府が民間企業を国営化して助けているという歴史的事実の前には、誰の目にも自作自演の狂言としか見えなかったため、日本の総理大臣・麻生太郎の腰巾着外交を除いて、ほとんど相手にされませんでした。
これに対して、新大統領オバマの政策は、大統領選挙の中で「あいつは社会主義だ」と共和党から攻撃されるほど、国民生活主体の経済社会をつくろうと訴えた内容ですから、国民がある種の社会主義的な生き方を選択したと考えてもよいでしょう。確かに、アメリカ歴史博物館を新装オープンして、それまでの生活が陳列されるべき出来事が起こったのです。
そして、わが国におけるエコノミストや経済関係者のほとんどの言葉は、アメリカ本国で「メルトダウン」と呼ばれているこの異常なパニック状態を説明するのに、ウォール街の資本主義があたかもまだ生きているかのように、見当違いの解説となっています。
そこで本書は、読者の誰もが知っているかのように思いながら、実はあまりその真相が知られていないこれら一連の出来事を、誰にも理解していただけるように、図解を柱として、新鮮なスボットライトを当てて説明し、重要な歴史のドキュメントを残すために書かれました。
ただし、ここで言う「真相」は、「何か特別な、世間に知られていない事実」ではないのです。みなが、新聞やテレビに出てくるエコノミストや評論家のなまぬるい解説で分ったように思いこんでいることが、実は、間違いだらけの解説、あるいは手抜き解説、もっと強い言い方をすれば「政治家や金持の太鼓持ち」である解説者のために誤解していることであり、大衆の正しい視線で見れば、正反対の意味を持っている、ということにほかなりません。
新自由主義 行き着く先は 国有化
「小さな政府」の国民生活 大企業には「大きな政府」
自己責任とは 経営破綻に税金注入 納税者には福祉の削減
☆ 資本主義は崩壊した
広瀬隆『資本主義崩壊の首謀者たち』(集英社新書)
「はじめに」から
…私たちは今、一九八九年十一月九日にベルリンの壁が崩壊し、ソ連で共産主義が崩れ去った時と同じように、歴史的な日に立ち会っているのです。それからちょうど二十年後に、今度は、アメリカで資本主義が大崩壊したからです。このことを忘れてはいけません。
ベルリンの壁崩壊では、共産主義社会の東側と、資本主義社会の西側を分割していた境界線が取り除かれ、全世界が“つかのまの平和”の到来を祝って、ドラマティックな事件に目を奪われ、大々的なテレビ報道が連日のように展開されました。そして地球上におけるアメリカが、政治的にも経済的にも軍事的にも、唯一の超大国として語られるようになり、とてつもなく大きな存在になりました。
ところが、今度の資本主義の崩壊では、ひっそりと静まり返って、誰も「資本主義が崩壊した」と認識していないのです。おかしなことがあるものです。
こう言えぱ、お前の頭がおかしいのだ、アメリカは今まで通り、今日も資本主義を謳歌しているではないか、と反論する人がほとんどではないでしょうか。
では、二〇〇八年にアメリカ政府が何をしたかを思い起こしてください。莫大な政府資金を金融市場に流しこんで、ガラガラと崩れる銀行や証券会社などの金融機関を救済しようと奔走し、九月七日はたんにはとうとう、経営破綻した巨大な住宅金融会社のファニー・メイとフレディー・マックの二社を二〇〇〇億ドルで国有化したではありませんか。
為替レートが日々かなり変化する時代ですので、本書では、その時々のレートにまどわされず、すべて分りやすい1ドル=100円の換算で示すことにしますが、二〇〇〇億ドルとは、二〇兆円、日本でしたら新幹線を十本も二十本も建設できる金額です。
ところがそれから一週間後の九月十五日には、その効果もなく、大手証券会社のリーマン・ブラザーズが破綻してしまい、全米にすさまじい勢いで金融パニックが広がりました。そして翌十六日には、同じく経営破綻の崖っぷちまできていた世界最大の保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)にも八兆五〇〇〇億円の大金をつぎこんで、これを国有化したのです。AIGは日本の保険会社アリコ・ジャパンの親会社です。(二〇〇九年三月には、これが二倍を超える一八兆円に達し、アリコが中央銀行に譲渡される)。
勘違いしてはいけませんが、このような国有化がおこなわれたのは、カリブ海の社会主義国家キューバではありません。一九五九年のキューバ革命で、カストロたちによっておこなわれた国営化が、あるいは一九一七年のロシア革命でレーニンたちによっておこなわれた国営化が、こともあろうに、食うか食われるかの資本の自由競争を謳歌してきたアメリカでおこなわれたのです。
さらに十一月二十三日には、株価がほとんどゼロまで暴落して、完全に経営破綻した全米一の商業銀行シティグループに対して、そのマンモス銀行の崩壊に震えあがったアメリカ政府が三〇兆円の保証をする前例のない救済策を打ち出し、ここでシティグルーブが政府に二兆円もの優先株を購入させることになりました。先ほど示した、アメリカ歴史博物館の漫画が“ニューヨーク・タイムズ”に掲載された日の出来事です。
優先株とは、一定の配当率が保証されて、優先的に配当される株式のことですから、ほかの株主の利益を食い荒らして、まず政府に利益を配当することになるわけです。こうしてシティグループは、世の中の人が思い違いしているように、救済されたのではなく、事実上、政府保護を受けて国営化されたわけです。
いいえ、シテイグループだけではありません。証券投資会社として君臨してきた第一位のゴールドマン・サックスも、第二位のモルガン・スタンレーも、九月二十一日に銀行持ち株会社に移行すると発表して、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の規制監督下に入る道を選びました。そのほか、ありとあらゆる銀行などの金融機関が、政府からお金を貰うという保護を受けねらなければ生きてゆけない企業に豹変したのです。
巨大銀行がその大金を狙う図々しい様子が、アメリカン・フットボールになぞらえて、ヒトコマ漫画に描かれました。政府の救済計画発表と同時に、一番乗りのタックルで大金をかっさらおうと待ちかまえる銀行家たちのあさましさが、表情によく出ています。
つまりどこから見ても、これは、資本主義のルールではありません。これら一連の「救済策」なるものは、まぎれもなく社会主義国家や共産主義国家のルールです。
アメリカが誇ってきた資本主義の歴史は、トマス・ジェファーソンたちが起草した独立宣言によって建国して以来二百三十余年、西暦二○○八年をもって幕を閉じたことになります。まず、この重大な史実を私たちが認めるところから、話を始めなければなりません。
したがって本書で言う「アメリカ資本主義の大崩壊」は、アメリカに批判的なさまざまな本が指摘している「金融メカニズムの崩壊」という表現とは、まったくニュアンスが違います。誰が見ても、公正かつ厳密な定義による「資本主義制度の崩壊」を意味します。
地球上で唯一の超大国であったはずのアメリカ合衆国の制度が、なぜこのように、不甲斐なくも白旗をあげる連戦連敗の窮地に陥ったのでしょうか。
二〇〇八年十一月十五日に、この地球規模に広がった経済危機に対処するという名目で、EU代表を加えた世界の経済トップ一九ヶ国がワシントンに集まって「金融サミット(G20)」が開かれ、この時には”史上最低の大統領”と呼ばれるジョージ・W・ブッシュが、自由主義による経済発展の栄華を誇らしげに強調してみせました。この期に及んでも、「これからもアメリカは世界の資本主義のリーダーである」と印象づけようと必死の猿芝居を演じたのですが、政府が民間企業を国営化して助けているという歴史的事実の前には、誰の目にも自作自演の狂言としか見えなかったため、日本の総理大臣・麻生太郎の腰巾着外交を除いて、ほとんど相手にされませんでした。
これに対して、新大統領オバマの政策は、大統領選挙の中で「あいつは社会主義だ」と共和党から攻撃されるほど、国民生活主体の経済社会をつくろうと訴えた内容ですから、国民がある種の社会主義的な生き方を選択したと考えてもよいでしょう。確かに、アメリカ歴史博物館を新装オープンして、それまでの生活が陳列されるべき出来事が起こったのです。
そして、わが国におけるエコノミストや経済関係者のほとんどの言葉は、アメリカ本国で「メルトダウン」と呼ばれているこの異常なパニック状態を説明するのに、ウォール街の資本主義があたかもまだ生きているかのように、見当違いの解説となっています。
そこで本書は、読者の誰もが知っているかのように思いながら、実はあまりその真相が知られていないこれら一連の出来事を、誰にも理解していただけるように、図解を柱として、新鮮なスボットライトを当てて説明し、重要な歴史のドキュメントを残すために書かれました。
ただし、ここで言う「真相」は、「何か特別な、世間に知られていない事実」ではないのです。みなが、新聞やテレビに出てくるエコノミストや評論家のなまぬるい解説で分ったように思いこんでいることが、実は、間違いだらけの解説、あるいは手抜き解説、もっと強い言い方をすれば「政治家や金持の太鼓持ち」である解説者のために誤解していることであり、大衆の正しい視線で見れば、正反対の意味を持っている、ということにほかなりません。
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