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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

編集、検定、採択の3段階で教科書に対する国の統制を強化

2014年01月12日 | こども危機
  《子どもと教科書全国ネット21ニュース》から
 ◆ 来年度検定提出の中学校教科書で「検定基準の変更」
吉田典裕(子どもと教科書全国ネット常任運営委員
日本出版労働組合連合会教科書対策部長)

 ◆ 文部科学省「教科書改革実行プラン」を発表…国の統制を強化するもの
 下村博文文部科学大臣は11月15日、「教科書改革実行プラン」(以下「プラン」)を発表し、来年度の検定申請のために現在編集が進められている中学校用教科書(2016年度から使用)から適用すると述べました。紙幅の都合上、詳しい分析をすることはできませんが、きわめて重大な制度変更を含んでいると言わなければなりません。
 「プラン」は、その目的について「バランス良く記載され、採択権者が責任をもって選んだ教科書で子どもたちが学ぶことができるよう、教科書の編集・検定・採択の各段階において必要な措置を講ずるとともに、各手続を積極的に公表していくことによって、より国民全体の理解を得られるような教科書作りを目指す」としています。
 しかしその本当のねらいは、次に見るように、編集、検定、採択の3段階で教科書に対する国の統制をいま以上に強化しようとすることにほかなりません。
 しかもこのような「改革」をいままさに来年度の教科書検定申請をめざして編集中の中学校用教科書から適用するというのです。あまりに乱暴と言うほかありません。
 11月22日には「プラン」について教科用図書検定調査審議会(検定審)が開かれましたが、文科省は年内にもう一度検定審を開いて検定基準の「改正」を正式決定する方針と見られます。
 ◆ 「教科書改革実行プラン」の危険な内容

 (1)編集段階での統制 - 予め現行教育基本法の内容を書かせておく
 編集段階では「より教育基本法の目標を意識した教科書編集の促進」を行わせます。
 検定以前に、教科書内容に現行教育基本法の「目標」、要するに伝統文化や愛国心などを書き込ませようというわけです。
 それを検定申請時に提出する「編修(引用者注=文部科学省は「編集」ではなく「編修」と表記する)趣意書等の検定申請時の提出書類」に書かせて、発行者に「証明」させるのです。
 これは教科書内容に大きな影響を及ぼさないわけにはいきません。

 (2)検定基準を変えて記述を改悪させる - 政府見解は必ず書かせる
 検定では第一に「バランス良く教えられる教科書となるよう、検定基準を見直し」するとしています。具体的には
 ①「通説的な見解がない場合や、特定の事柄や見解を特別に強調している場合などに、よりバランスの取れた記述にするための条項を新設・改正」、
 ②「政府の統一的な見解や確定した判例がある場合の対応に関する条項を新設」すると述べています。
 これらが日本近現代史、とりわけ日本が引き起こした一連の侵略戦争における加害責任をあいまいにし、あわよくば書かせないようにするねらいであることは明白です。
 ①は南京虐殺を念頭に置いたものです。「よりバランスの取れた記述」とは犠牲者数のことで、実は現在でも「少数説も書け」という検定意見が、検定に当たる調査官の判断という形で付けられています。これも問題ではありますが、教科書の原記述では加害責任にそれなりに言及し、付けられた検定意見をめぐって抵抗することも不可能ではありません。
 しかし①が検定基準として明記されることになれば、原記述でさえ被害者側の見解を載せることは困難になるでしょう。また問題を戦争加害の事実から、犠牲者数の多寡にそらせることになりかねません。
 ②がおもに含意しているのは、一つは「慰安婦」問題や領土問題でしょう。これも現在でも「政府見解」を書くよう求める検定意見がつけられていますが、検定基準となれば最初から書いておかざるをえないことになります。
 もう一つは最高裁判決が出されている「日の丸・君が代強制」などだと考えられます。
 第二には「教育基本法の目標等に照らして重大な欠陥がある場合を検定不合格要件として明記」するとしています。
 何をもって「教育基本法の目標等に照らして重大な欠陥がある場合」と認定するかはきわめてあいまいですから、どのようにでも適用できることになります。萎縮効果は絶大です。この点について詳しくは石山久男氏の別稿をお読みください。
 「プラン」を見ると、検定合格以前に検定関係文書を「検定関係文書をより具体化、HPで公開」すると読めます。そうだとすれば、検定合格前であっても、国会議員や右派勢力が検定申請時点の教科書(通称「白表紙本」)の記述を攻撃することもできることになります。これも教科書著者や発行者を萎縮させることは言うまでもありません。
 (3)採択段階 - 教育委員会「改革」とセットで現場意見を排除
 下村文科相は会見で「一つに、沖縄県八重山採択地区のように、採択地区内で教科書が一本化できない事態の発生を防止するため、構成市町村による協議ルールを法律上明確化するということ。二つ目に、採択権者に責任をもって教科書採択を行ってもらうため、採択の結果・理由など、採択に関する情報の公表を促すことを考えています」と採択制度「改革」の根拠を述べています。
 そして来年の通常国会に教科書無償措置法改正案を提出するとしています。
 このような採択制度「改革」が行われれば、実教出版高校日本史教科書採択妨害・排除のような事態がいわば「正常な姿」となってしまいかねません
 ◆ 「教科書法」制定を目論む安倍政権

 下村文科大臣自身が会見で「自民党の方の教育再生実行本部の特別部会からの提言を受けて、この教科書改革実行プランを今日発表しているわけであります」とあけすけに述べているとおり、「プラン」は安倍政権が進める「教育再生」の要求です。
 そこには教育条理に根ざす要求は微塵もありません。「自虐的」などの言葉はさすがに避けていますが、その内容は「新しい歴史教科書をつくる会」などがこれまで要求してきたことと同じです。
 だいたい「自民党の方の教育再生実行本部の特別部会からの提言」とは何なのか。記者会見の時点で公表されていたのは6月25日の「教育再生実行本部教科書検定の在り方特別部会議論の中間まとめ」です。
 政権与党とはいえ私的組織である自民党の最終決定ですらない文書に基づいて、文部科学省が教科書検定基準を変えるなどということが憲法上許される行為なのでしょうか。
 この「検定基準の改善」は、近隣諸国条項の実質的な廃止につながるものです。近隣諸国はもちろん、国際社会からも大きな懸念と批判が起こるでしよう。
 ◆ 実質的な国定教科書に

 「検定基準の改善」の先に安倍政権が展望するのは「教科書法(仮称)」の制定です(前出「中間まとめ」)。予想される内容を詳しく述べる余裕はありませんが、これが教科書の実質的な国定化につながるものであることはまちがいありません。
 「教科書法」は、教科書以外の副教材や教師用指導書も統制の対象としようとしているようです。そうであれば、それは現行憲法では不可能ですから、憲法改悪とセットで構想されているということになります。そのような企みが現実になるか、断念させることができるか、私たちの運動の如何にもかかっています。(よしだのりひろ)
 『子どもと教科書全国ネット21ニュース 93号』(2013.12)

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