《再雇用拒否撤回2次訴訟第10回口頭弁論(2011/11/21)陳述》<2>
◎ ①比例原則、②平等原則、③採用選考の判断過程、いずれの観点からみても裁量権の逸脱・濫用
原告らに対する本件各採用拒否等は、都教委の採用選考における裁量権を逸脱・濫用したもので違法であり、そして、再雇用職員あるいは非常勤教員に採用されるという原告らの期待権を侵害するため、被告は、原告らに対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償責任を負うものです。
以下、具体的に話していきます。
1 まず、再雇用職員制度の趣旨、そして、その運用実態等からすれば、原告ら採用選考申込者には希望すれば採用されるという期待権があります。
この制度の趣旨は「退職者に生きがいと生活の安定を与えるとともに、長年培った豊富な知識と技能を退職後も役立て、学校教育の充実を図る」ものです。
選考要件は、①退職等以前の勤務成績が良好であること、②職務の遂行に必要な知識及び技能を有していること、③健康で、かつ、意欲をもって職務を遂行すると認められること、という三要件でした。
選考方法は、所属校長の推薦書、及び希望者の申込書を徴し、希望者の意欲及び意向を確認する為に面接を行い、採否を決していました。
この選考要件及び選考方法からみても、再雇用職員には、通常の教職員退職者が有する以上の格別高度な能力・技能等が要求されるものではありませんでした。
事実、毎年600~1000名程の者が再雇用職員としての採用を希望し、特に本件通達発令前の平成14年度までは殆ど全員が採用されてきました。
以上から、この制度は、形式的には退職後の新たな採用ですが、退職前後の地位に継続性があるものとして機能してきたことは疑いがありません。従って、原告ら採用選考申込者の、希望すれば定年後も再雇用職員として採用されるとの期待には合理性があり、法的保護に値します。
2 次に、非常勤教員制度の導入の趣旨、そして、その運用実態等からすれば、原告ら採用選考申込者には希望すれば採用されるという期待権があります。
この制度は、再雇用職員制度が原則廃止されたのと同時に定められ、当面は東京都の公立学校教員退職者を採用の対象としています。また、職務内容は再雇用制度に係る職員が担っていた業務と基本的に重なっています。
この制度導入の趣旨について、都教委からは、「団塊世代教員の大量退職時代を迎え、ベテラン教員の多くのマンパワーが失われていく中で、様々な問題の解決と学校教育の質の維持・向上に、これまで教職を長く経験してきた者の豊富な知識と経験を生かしていくものである」等の説明がなされています。
非常勤教員選考にあたっての主な選考資料は、再雇用職員制度の採用選考と同様、申込者本人の申込書、所属校長の推薦書又は面接の結果のみであり、通常の教職員退職者が有する以上の格別高度な能力、技能等が要求されるものではありません。
そして、平成19年度から平成21年度の採用選考実施状況では、申込者数の合格者数の申込者数に対する割合がいずれも95%を超えていました。以上から、この制度は、従前の再雇用職員制度の代替的・後継的な役割を有すると言え、従って、原告ら採用選考申込者の、希望すれば定年後も非常勤教員として採用されるとの期待には合理性があり、一定の法的保護に値します。
3 確かに、都教委には、再雇用職員及び非常勤教員の採用選考においては一定の裁量が認められます。しかしながら、都教委の有する裁量権は、先に述べた申込者の期待権保護の見地から制約を受けると言うべきです。
即ち、採用拒否等の理由が著しく不合理であったり、恣意的である等、客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には、この採用拒否等については、裁量権を逸脱、濫用したものとして違法との評価を受け、採用選考申込者の期待権を侵害するものとして、期待権侵害による損害賠償の責任が生じると言うべきです。
そして、裁量権を逸脱、濫用したかの判断要素としては、
①第一の点として、「原告らの不起立等と採用拒否等との間に合理的な比例関係が認められるか」という点、
②第二の点として、「原告らと採用された者との間に不合理な差別がなされていないか」という点、
③第三の点として、「採用選考にあたって勤務成績についての判断要素の選択と判断過程に合理性があるか」という点、
を考慮する必要があります。この点、都教委の採用拒否等は、いずれの点からも違反しており、裁量権を逸脱、濫用していることは明らかです。
4 はじめに、第一の点として「比例原則に反していること」について述べます。
この点、本件の採用拒否等は、その原因となった原告らの不起立等と、結果としての採用拒否等には、合理的な比例関係が認められず、不相当に過酷な措置を採ることになり、裁量権逸脱・濫用に該当し違法となります。
(1)まず、原告らの不起立等は実質的に非難に値せず、一定の保護が与えられるべきことが挙げられます。
これまで主張しているとおり、原告ら教職員は、各々の信条や良心の要請という真摯な理由から起立・斉唱命令に従えなかったものです。原告らの不起立等は信条や良心に由来する真摯な動機に由来し、思想良心の自由という基本的人権にかかわるものです。
そして、原告らの信条や良心等は、社会通念上、独善的なものではないことは、多くの憲法学説、日弁連の見解、本年の複数の最高裁判決に関する報道機関の報道からも明らかです。それ故、原告らの不起立等には一定の保護がなされるべきです。
(2)そして、原告らの不起立等により、卒業式等の進行に支障が生じる等の弊害が生じた事実はありません。
原告らが「職務命令違反」とされた行為は、卒業式等における「君が代」斉唱の約40秒間、「日の丸」に向かって起立をしなかったという消極的な対応をしたものに過ぎません。原告らの不起立等があっても、式典自体は何ら実害なく進行しているのであり、学習指導要領中の国旗国歌条項の趣旨を害するような状況も存在しません。
(3)被告は、原告らの不起立等について、「職務命令違反及び信用失墜行為という重大な非違行為」である旨主張していますが、単に形式的に職務命令違反が存在するから直ちに「重大な非違行為」であると評価してしまうのは、単なる形式的法治主義に堕する思考であって、人権保障の観点から、「法の支配」原理を採用している現行憲法下において、失当と言えます。
以上から、原告らの不起立等は実質的に非難に値しません。
(4)それに比して、採用拒否等により、原告らが受ける不利益は精神的にも経済的にも甚大です。
まず、教職員という自身の職務に真摯に向き合う原告らにとっては、教壇に立つこと自体が人生の生き甲斐である為、本件採用拒否等は、原告らにとり、「教壇に立てなくなる」という重大な精神的苦痛をもたらし、また、既に述べた両制度の趣旨からすれば、採用拒否等それ自体が「不適格教員」のレッテル貼りにつながり、原告らにとっては重大な精神的苦痛になるのです。
次に、本件採用拒否等によって、原告らは、定年退職後の職を失い、生活の糧を失っています。再雇用職員乃至非常勤教員は、原則として5年間更新されるので、5年間の収入を絶たれることになります。両制度には、年金支給開始時まで、退職者の経済的な生活を支える役割もあります。この点からも、原告らが採用拒否等によって受ける経済的損失は、重大なものです。
(5)以上、原告らの不起立等は、実質的に非難に値しないものであるのに対して、採用拒否等は、原告らに対し、精神的・経済的に重大な不利益、不当に過酷な措置となります。よって、本件採用拒否等は比例原則に反し、都教委が採用選考の際に認められる裁量権の限界を超え違法となります。
5 第二の点として、「原告らと採用された者との間に不合理な差別がなされていること」について述べます。
既に述べたとおり、本件通達発令の平成14年度までは、不起立者も含め、再雇用職員申込者のほとんど全員が採用されてきました。本件通達発令後も、不起立者を除いてはほとんど全員が採用されています。原告らが申し込んだ3年間の採用結果においても、不起立等による処分歴があれば採用されないのに対し、それ以外の者に関しては、98%超の割合で採用されています。
原告らは選考要件を満たし、所属校の校長による推薦書もあり、選考資料を欠くような特別の事情はなかったと言えます。とすれば、同じ事情の下では同様な取り扱いがなされるべきという平等原則に照らして、原告らも多くの申込者同様に採用されるべきでした。
しかしながら、都教委は、不起立者のみを差別的に取り扱い、不起立者を一律に採用拒否等としました。特に、原告らの申し込んだ採用制度のうち、平成18年度(2007年3月退職者)では不起立以外の理由で採用拒否になった者が1人もいない事実、平成20年度(2009年3月退職者)では停職2回の者でも採用されている事実等からすれば、原告らに対する取扱いが差別的であることは明白です。
そして、かかる取扱いがとりわけ良心や信条による差別であることは平等権侵害の主張において述べたとおりです。
従って、本件原告らの不起立を理由に採用を拒否することは、不合理な差別であり、平等原則違反に該当し、裁量権の限界を超えて違法です。
6 第三の点として、「採用選考にあたって勤務成績についての判断要素の選択と判断過程に合理性がないこと」について述べます。
確かに、被告主張が主張する「勤務成績」という選考要件の判断には、都教委には一定の裁量権があります。しかし、判断要素の選択や判断過程において、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」場合には、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるというべきです。そして、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」か否かについては、
①考慮すべきでない要素を考慮していないか、
②考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いていないか、
③当然考慮すべき事項を十分に考慮しているか、
によって検討されるべきです。
この点、本件では、いずれの点からも違反しており、裁量権を逸脱、濫用していることは明らかです。
まず、本件職務命令は、教育課程の実施に関し重要な意味を有するものとは言えず、また、教職員の思想・良心に極めて密接に関わる内容の為、発出すること自体の妥当性に疑問があります。従って、採用選考にあたり、本件職務命令違反を考慮要素に加えることは不適切というべきです。
また、被告は、不起立等による職務命令違反につき「重大な非違行為」と主張しますが、既に述べたとおり「重大な非違行為」とは言えません。従って、都教委は、「勤務成績」の選考要件の判断に際し、仮に、職務命令違反という事実を判断要素に加えたしても、過大に評価してはなりません。
しかし、都教委は、本件職務命令違反を「重大な非違行為」とし、これを唯一の理由として「原告らの勤務成績は良好ではない」と判断しています。それは、原告らの本件職命令違反に対する評価を誤っていることに他なりません。
最後に、都教委は、希望者に対して、所属校長の推薦書の提出及び面接を課しています。とすれば、「勤務成績」の選考要件を判断するにあたっても、これらの資料や面接結果を考慮するべきなのに、都教委は、職務命令違反のみをもって、原告らの勤務成績は良好ではないと判断し、これらを考慮しなかったのです。
以上から、都教委による判断要素の選択と判断過程は、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いており、裁量権の限界を超え違法です。
7 以上から、都教委の本件採用拒否等は、①比例原則の観点、②平等原則の観点、③採用選考の判断過程の観点、いずれの観点からみても、裁量権を逸脱・濫用したもので違法であり、原告らの期待権を侵害しています。よって、被告は、原告らに対して、国家賠償責任を負うものです。
◎ ①比例原則、②平等原則、③採用選考の判断過程、いずれの観点からみても裁量権の逸脱・濫用
代理人弁護士 田口博章
原告らに対する本件各採用拒否等は、都教委の採用選考における裁量権を逸脱・濫用したもので違法であり、そして、再雇用職員あるいは非常勤教員に採用されるという原告らの期待権を侵害するため、被告は、原告らに対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償責任を負うものです。
以下、具体的に話していきます。
1 まず、再雇用職員制度の趣旨、そして、その運用実態等からすれば、原告ら採用選考申込者には希望すれば採用されるという期待権があります。
この制度の趣旨は「退職者に生きがいと生活の安定を与えるとともに、長年培った豊富な知識と技能を退職後も役立て、学校教育の充実を図る」ものです。
選考要件は、①退職等以前の勤務成績が良好であること、②職務の遂行に必要な知識及び技能を有していること、③健康で、かつ、意欲をもって職務を遂行すると認められること、という三要件でした。
選考方法は、所属校長の推薦書、及び希望者の申込書を徴し、希望者の意欲及び意向を確認する為に面接を行い、採否を決していました。
この選考要件及び選考方法からみても、再雇用職員には、通常の教職員退職者が有する以上の格別高度な能力・技能等が要求されるものではありませんでした。
事実、毎年600~1000名程の者が再雇用職員としての採用を希望し、特に本件通達発令前の平成14年度までは殆ど全員が採用されてきました。
以上から、この制度は、形式的には退職後の新たな採用ですが、退職前後の地位に継続性があるものとして機能してきたことは疑いがありません。従って、原告ら採用選考申込者の、希望すれば定年後も再雇用職員として採用されるとの期待には合理性があり、法的保護に値します。
2 次に、非常勤教員制度の導入の趣旨、そして、その運用実態等からすれば、原告ら採用選考申込者には希望すれば採用されるという期待権があります。
この制度は、再雇用職員制度が原則廃止されたのと同時に定められ、当面は東京都の公立学校教員退職者を採用の対象としています。また、職務内容は再雇用制度に係る職員が担っていた業務と基本的に重なっています。
この制度導入の趣旨について、都教委からは、「団塊世代教員の大量退職時代を迎え、ベテラン教員の多くのマンパワーが失われていく中で、様々な問題の解決と学校教育の質の維持・向上に、これまで教職を長く経験してきた者の豊富な知識と経験を生かしていくものである」等の説明がなされています。
非常勤教員選考にあたっての主な選考資料は、再雇用職員制度の採用選考と同様、申込者本人の申込書、所属校長の推薦書又は面接の結果のみであり、通常の教職員退職者が有する以上の格別高度な能力、技能等が要求されるものではありません。
そして、平成19年度から平成21年度の採用選考実施状況では、申込者数の合格者数の申込者数に対する割合がいずれも95%を超えていました。以上から、この制度は、従前の再雇用職員制度の代替的・後継的な役割を有すると言え、従って、原告ら採用選考申込者の、希望すれば定年後も非常勤教員として採用されるとの期待には合理性があり、一定の法的保護に値します。
3 確かに、都教委には、再雇用職員及び非常勤教員の採用選考においては一定の裁量が認められます。しかしながら、都教委の有する裁量権は、先に述べた申込者の期待権保護の見地から制約を受けると言うべきです。
即ち、採用拒否等の理由が著しく不合理であったり、恣意的である等、客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には、この採用拒否等については、裁量権を逸脱、濫用したものとして違法との評価を受け、採用選考申込者の期待権を侵害するものとして、期待権侵害による損害賠償の責任が生じると言うべきです。
そして、裁量権を逸脱、濫用したかの判断要素としては、
①第一の点として、「原告らの不起立等と採用拒否等との間に合理的な比例関係が認められるか」という点、
②第二の点として、「原告らと採用された者との間に不合理な差別がなされていないか」という点、
③第三の点として、「採用選考にあたって勤務成績についての判断要素の選択と判断過程に合理性があるか」という点、
を考慮する必要があります。この点、都教委の採用拒否等は、いずれの点からも違反しており、裁量権を逸脱、濫用していることは明らかです。
4 はじめに、第一の点として「比例原則に反していること」について述べます。
この点、本件の採用拒否等は、その原因となった原告らの不起立等と、結果としての採用拒否等には、合理的な比例関係が認められず、不相当に過酷な措置を採ることになり、裁量権逸脱・濫用に該当し違法となります。
(1)まず、原告らの不起立等は実質的に非難に値せず、一定の保護が与えられるべきことが挙げられます。
これまで主張しているとおり、原告ら教職員は、各々の信条や良心の要請という真摯な理由から起立・斉唱命令に従えなかったものです。原告らの不起立等は信条や良心に由来する真摯な動機に由来し、思想良心の自由という基本的人権にかかわるものです。
そして、原告らの信条や良心等は、社会通念上、独善的なものではないことは、多くの憲法学説、日弁連の見解、本年の複数の最高裁判決に関する報道機関の報道からも明らかです。それ故、原告らの不起立等には一定の保護がなされるべきです。
(2)そして、原告らの不起立等により、卒業式等の進行に支障が生じる等の弊害が生じた事実はありません。
原告らが「職務命令違反」とされた行為は、卒業式等における「君が代」斉唱の約40秒間、「日の丸」に向かって起立をしなかったという消極的な対応をしたものに過ぎません。原告らの不起立等があっても、式典自体は何ら実害なく進行しているのであり、学習指導要領中の国旗国歌条項の趣旨を害するような状況も存在しません。
(3)被告は、原告らの不起立等について、「職務命令違反及び信用失墜行為という重大な非違行為」である旨主張していますが、単に形式的に職務命令違反が存在するから直ちに「重大な非違行為」であると評価してしまうのは、単なる形式的法治主義に堕する思考であって、人権保障の観点から、「法の支配」原理を採用している現行憲法下において、失当と言えます。
以上から、原告らの不起立等は実質的に非難に値しません。
(4)それに比して、採用拒否等により、原告らが受ける不利益は精神的にも経済的にも甚大です。
まず、教職員という自身の職務に真摯に向き合う原告らにとっては、教壇に立つこと自体が人生の生き甲斐である為、本件採用拒否等は、原告らにとり、「教壇に立てなくなる」という重大な精神的苦痛をもたらし、また、既に述べた両制度の趣旨からすれば、採用拒否等それ自体が「不適格教員」のレッテル貼りにつながり、原告らにとっては重大な精神的苦痛になるのです。
次に、本件採用拒否等によって、原告らは、定年退職後の職を失い、生活の糧を失っています。再雇用職員乃至非常勤教員は、原則として5年間更新されるので、5年間の収入を絶たれることになります。両制度には、年金支給開始時まで、退職者の経済的な生活を支える役割もあります。この点からも、原告らが採用拒否等によって受ける経済的損失は、重大なものです。
(5)以上、原告らの不起立等は、実質的に非難に値しないものであるのに対して、採用拒否等は、原告らに対し、精神的・経済的に重大な不利益、不当に過酷な措置となります。よって、本件採用拒否等は比例原則に反し、都教委が採用選考の際に認められる裁量権の限界を超え違法となります。
5 第二の点として、「原告らと採用された者との間に不合理な差別がなされていること」について述べます。
既に述べたとおり、本件通達発令の平成14年度までは、不起立者も含め、再雇用職員申込者のほとんど全員が採用されてきました。本件通達発令後も、不起立者を除いてはほとんど全員が採用されています。原告らが申し込んだ3年間の採用結果においても、不起立等による処分歴があれば採用されないのに対し、それ以外の者に関しては、98%超の割合で採用されています。
原告らは選考要件を満たし、所属校の校長による推薦書もあり、選考資料を欠くような特別の事情はなかったと言えます。とすれば、同じ事情の下では同様な取り扱いがなされるべきという平等原則に照らして、原告らも多くの申込者同様に採用されるべきでした。
しかしながら、都教委は、不起立者のみを差別的に取り扱い、不起立者を一律に採用拒否等としました。特に、原告らの申し込んだ採用制度のうち、平成18年度(2007年3月退職者)では不起立以外の理由で採用拒否になった者が1人もいない事実、平成20年度(2009年3月退職者)では停職2回の者でも採用されている事実等からすれば、原告らに対する取扱いが差別的であることは明白です。
そして、かかる取扱いがとりわけ良心や信条による差別であることは平等権侵害の主張において述べたとおりです。
従って、本件原告らの不起立を理由に採用を拒否することは、不合理な差別であり、平等原則違反に該当し、裁量権の限界を超えて違法です。
6 第三の点として、「採用選考にあたって勤務成績についての判断要素の選択と判断過程に合理性がないこと」について述べます。
確かに、被告主張が主張する「勤務成績」という選考要件の判断には、都教委には一定の裁量権があります。しかし、判断要素の選択や判断過程において、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」場合には、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるというべきです。そして、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」か否かについては、
①考慮すべきでない要素を考慮していないか、
②考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いていないか、
③当然考慮すべき事項を十分に考慮しているか、
によって検討されるべきです。
この点、本件では、いずれの点からも違反しており、裁量権を逸脱、濫用していることは明らかです。
まず、本件職務命令は、教育課程の実施に関し重要な意味を有するものとは言えず、また、教職員の思想・良心に極めて密接に関わる内容の為、発出すること自体の妥当性に疑問があります。従って、採用選考にあたり、本件職務命令違反を考慮要素に加えることは不適切というべきです。
また、被告は、不起立等による職務命令違反につき「重大な非違行為」と主張しますが、既に述べたとおり「重大な非違行為」とは言えません。従って、都教委は、「勤務成績」の選考要件の判断に際し、仮に、職務命令違反という事実を判断要素に加えたしても、過大に評価してはなりません。
しかし、都教委は、本件職務命令違反を「重大な非違行為」とし、これを唯一の理由として「原告らの勤務成績は良好ではない」と判断しています。それは、原告らの本件職命令違反に対する評価を誤っていることに他なりません。
最後に、都教委は、希望者に対して、所属校長の推薦書の提出及び面接を課しています。とすれば、「勤務成績」の選考要件を判断するにあたっても、これらの資料や面接結果を考慮するべきなのに、都教委は、職務命令違反のみをもって、原告らの勤務成績は良好ではないと判断し、これらを考慮しなかったのです。
以上から、都教委による判断要素の選択と判断過程は、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いており、裁量権の限界を超え違法です。
7 以上から、都教委の本件採用拒否等は、①比例原則の観点、②平等原則の観点、③採用選考の判断過程の観点、いずれの観点からみても、裁量権を逸脱・濫用したもので違法であり、原告らの期待権を侵害しています。よって、被告は、原告らに対して、国家賠償責任を負うものです。
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