3.フィンランドの教育はバレンタイン方式
◎先生が,日本の教育について話された1960年ごろ,日本の教育も,いいところばかりではありませんでしたよね。そちらの方の話はなさらなかったのですか。
中嶋:非行とか,能力別編成も出てきていたし,いろいろあるんだけれど,と言いましたよ。でも,向こうは,むしろ日本のいいところに学ぼうというんですね。そうそう,フィンランドでも,実はその後,一時能力別編成を採用したんです。成績でクラスを分けるやり方。
だけど,それはよくないと,1984年にぴたっ,とやめたのです。差別と偏見を助長する原一因になるという誤ちに気づいて。
それで今度は,グループによる助け合い学習を第一義とし,なおかつ一人一人のフォローを大事にして,いまや教育委員会に全部,特別支援教師が配置され,電話一本で飛んでくる。一人も落ちこぼさせないという,これは世界で一番すごいと思いますよ。
だから,フィンランドは,日本の教育基本法の,教育の機会均等の理念に学んで,はるかに追い越してしまった。とにかくすべての者に平等に教育を,ということで。
たとえば,日本は授業料と教科書代しか無償ではありませんが,フィンランドでは,給食費学用品費それから雪が降ってタクシーを電話で呼んだ代金まで,全部国が払うんです。
◎いまのフィンランドで,少年非行の低年齢化とか凶悪化は……。
中嶋:考えられないですね。でも,1960年代は大いにありました。なぜでしょう。中学に行けないというような子に,希望がなかったからですよ。そのころフィンランドに旅行された日本人,数は少ないですが,いまのフィンランドの話を聞くと夢のようだ,と。
◎いくらすぐれた教育基本法をもっていても,じっさいそれを運用するのは現場の教員ですよね。その点で,いまの日本に欠けているものは,何だとお考えになりますか。
中嶋:有能な教師とは一体なんでしょう。いまの日本では,40人の生徒に一斉に,と考えますよね。「大村はまさんのような先生ならいざ知らず」と僕は言います。女史の授業はすごいですよ。でも,彼女は天才です。
フィンランドはだいたい1クラス20人です。しかも,それを1人の教師が教えているのではない。子どもたちが教え合っているのです。
社会庁が出した1980年代の本に,「フィンランドの教育の基本はグループ学習です。」と,はっきり書いてある。つまり成績を上げるためには,教えこむのではなくて,彼らがお互いに教え,学び方を学ぶのです。
collaboradon,協働。ともに働く。co-operation,共同以上なのです。そこが日本とまるっきりちがう。日本は暗記力重視で,しかも,教えこもうとする。これでは楽しくありません。
たとえば算数の時間。先生の頭の中には,誰と誰ができるか,ちゃんと入っでいます。
「Aちゃん,Bちゃん,Cちゃん,Dちゃん,Eちゃん,算数好きでしょう。」「はい,じゃ,右手を挙げてちょうだい。今挙げている人のところに好きな子は集まって。ただし,4人だから早い者勝ち。」それで1クラスが5つのグループになって,わからない子を教え合う。
次は国語,音楽と,どんどんグループを変える。全部の者に機会を与える。
これ,バレンタイン方式。適材適所で,チャンスを与える。小林雅が昨年の日本シリーズで,4点とられて負けたでしょう。私は見ていたのですが,バレンタインさんはニコニコして迎えました。まず,「ごくろうさん。」と言ったらしい。あとは英語でしょうが,「人間は神様じゃないんだよ,小林君。」そして,「Next chance。」それで次に日本語を使ったらしいですよ。「がんばりな」と言って,ほっぺをさすった,愛撫したという。これが教育です。
4.教育をとりまくフィンランドの社会
◎さきほど,教育がすべて無償というお話がありましたが,でも,税金が高いんですよね。
中嶋:私がフィンランドに行った時の保証人は,あちらの最高裁長官なのですが,その長官のマンションの隣の住人は,ふつうの郵便局員の方です。差別も何もない国。税金も,出せる人は出す。出せない人からはとらない。当時,長官は70%以上払ってらっしゃたのではないですか。今は最高税率60%くらいですが。そして,高率の税金を払っている人は,それに誇りをもっている。格差のない社会をめざす,福祉社会イデオロギーにもとづくさまざまな政策。実質的な平等の追求で,決しで競争ではないですね。
教育の面でも,底上げが徹底してはかられ,PISAの調査結果では,下位レベルがひじょうに少ない点も高く評価されました。
◎教員はどんな感じですか。
中嶋:こんなケーススタディが出ています。地方とヘルシンキのど真ん中の小学校,生徒数は280人と320人。共通点は,校長先生が一人ひとりの生徒の名前まで覚えていることだそうです。先生方とのコミュニケーションはもちろん,だれが欠席した何人欠席した,がすぐわかる。
教員には,ただやそっとの人じゃなれないです。全部の社会階層から集まっていて,大学の学部では一番人気で,倍率は10倍。昔は医学部の看護士でしたが。その最大の理由は何だと思います?教員は3か月休暇,今は75日になりましたが,それだけの休暇があるから,というのです。
その間何をしているのかというと,ほとんどが外国に研修です。あとは遊びもあるでしょう。専門職として,社会的に高く尊敬されでいます。
(続)
じっきょう「地歴・公民科資料№63」
◎先生が,日本の教育について話された1960年ごろ,日本の教育も,いいところばかりではありませんでしたよね。そちらの方の話はなさらなかったのですか。
中嶋:非行とか,能力別編成も出てきていたし,いろいろあるんだけれど,と言いましたよ。でも,向こうは,むしろ日本のいいところに学ぼうというんですね。そうそう,フィンランドでも,実はその後,一時能力別編成を採用したんです。成績でクラスを分けるやり方。
だけど,それはよくないと,1984年にぴたっ,とやめたのです。差別と偏見を助長する原一因になるという誤ちに気づいて。
それで今度は,グループによる助け合い学習を第一義とし,なおかつ一人一人のフォローを大事にして,いまや教育委員会に全部,特別支援教師が配置され,電話一本で飛んでくる。一人も落ちこぼさせないという,これは世界で一番すごいと思いますよ。
だから,フィンランドは,日本の教育基本法の,教育の機会均等の理念に学んで,はるかに追い越してしまった。とにかくすべての者に平等に教育を,ということで。
たとえば,日本は授業料と教科書代しか無償ではありませんが,フィンランドでは,給食費学用品費それから雪が降ってタクシーを電話で呼んだ代金まで,全部国が払うんです。
◎いまのフィンランドで,少年非行の低年齢化とか凶悪化は……。
中嶋:考えられないですね。でも,1960年代は大いにありました。なぜでしょう。中学に行けないというような子に,希望がなかったからですよ。そのころフィンランドに旅行された日本人,数は少ないですが,いまのフィンランドの話を聞くと夢のようだ,と。
◎いくらすぐれた教育基本法をもっていても,じっさいそれを運用するのは現場の教員ですよね。その点で,いまの日本に欠けているものは,何だとお考えになりますか。
中嶋:有能な教師とは一体なんでしょう。いまの日本では,40人の生徒に一斉に,と考えますよね。「大村はまさんのような先生ならいざ知らず」と僕は言います。女史の授業はすごいですよ。でも,彼女は天才です。
フィンランドはだいたい1クラス20人です。しかも,それを1人の教師が教えているのではない。子どもたちが教え合っているのです。
社会庁が出した1980年代の本に,「フィンランドの教育の基本はグループ学習です。」と,はっきり書いてある。つまり成績を上げるためには,教えこむのではなくて,彼らがお互いに教え,学び方を学ぶのです。
collaboradon,協働。ともに働く。co-operation,共同以上なのです。そこが日本とまるっきりちがう。日本は暗記力重視で,しかも,教えこもうとする。これでは楽しくありません。
たとえば算数の時間。先生の頭の中には,誰と誰ができるか,ちゃんと入っでいます。
「Aちゃん,Bちゃん,Cちゃん,Dちゃん,Eちゃん,算数好きでしょう。」「はい,じゃ,右手を挙げてちょうだい。今挙げている人のところに好きな子は集まって。ただし,4人だから早い者勝ち。」それで1クラスが5つのグループになって,わからない子を教え合う。
次は国語,音楽と,どんどんグループを変える。全部の者に機会を与える。
これ,バレンタイン方式。適材適所で,チャンスを与える。小林雅が昨年の日本シリーズで,4点とられて負けたでしょう。私は見ていたのですが,バレンタインさんはニコニコして迎えました。まず,「ごくろうさん。」と言ったらしい。あとは英語でしょうが,「人間は神様じゃないんだよ,小林君。」そして,「Next chance。」それで次に日本語を使ったらしいですよ。「がんばりな」と言って,ほっぺをさすった,愛撫したという。これが教育です。
4.教育をとりまくフィンランドの社会
◎さきほど,教育がすべて無償というお話がありましたが,でも,税金が高いんですよね。
中嶋:私がフィンランドに行った時の保証人は,あちらの最高裁長官なのですが,その長官のマンションの隣の住人は,ふつうの郵便局員の方です。差別も何もない国。税金も,出せる人は出す。出せない人からはとらない。当時,長官は70%以上払ってらっしゃたのではないですか。今は最高税率60%くらいですが。そして,高率の税金を払っている人は,それに誇りをもっている。格差のない社会をめざす,福祉社会イデオロギーにもとづくさまざまな政策。実質的な平等の追求で,決しで競争ではないですね。
教育の面でも,底上げが徹底してはかられ,PISAの調査結果では,下位レベルがひじょうに少ない点も高く評価されました。
◎教員はどんな感じですか。
中嶋:こんなケーススタディが出ています。地方とヘルシンキのど真ん中の小学校,生徒数は280人と320人。共通点は,校長先生が一人ひとりの生徒の名前まで覚えていることだそうです。先生方とのコミュニケーションはもちろん,だれが欠席した何人欠席した,がすぐわかる。
教員には,ただやそっとの人じゃなれないです。全部の社会階層から集まっていて,大学の学部では一番人気で,倍率は10倍。昔は医学部の看護士でしたが。その最大の理由は何だと思います?教員は3か月休暇,今は75日になりましたが,それだけの休暇があるから,というのです。
その間何をしているのかというと,ほとんどが外国に研修です。あとは遊びもあるでしょう。専門職として,社会的に高く尊敬されでいます。
(続)
じっきょう「地歴・公民科資料№63」
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