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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

派遣法の見直しに求められているのは規制緩和ではなく、派遣労働者の保護

2013年10月14日 | 格差社会
 ◆ 労働者派遣法 「常用代替防止」原則を否定
   ILO勧告にも逆行する改悪

関根秀一郎●派遣ユニオン書記長

 愛媛県松山市に本社を置く伊予銀行で13年間にわたって正社員と同様の勤務に従事してきた派遣労働者Aさんは、上司から「お前」と呼ばれ、書類を放り投げられたり、怒鳴りつけられたり、無視されたりといういじめにさらされた。さらに上司から顔に煙草の煙を吐きかけられ、給与明細に「不要」と書いた付箋を貼りつけられたため、これらのハラスメントについて謝罪を求めたところ、Aさんは派遣先である伊予銀行の子会社いよぎんスタッフサービスに雇用を打ち切られた。
 そのため、Aさんは、雇用継続を求めて裁判で争ったが、最高裁は、登録型派遣で働く派遣労働者は、どんなに長く働いたとしても雇用継続の期待権はないという判断を示したのだ。これは、有期労働契約で働く労働者に保障されている雇用継続の期待権を否定するものであり、登録型派遣で働く以上、派遣切りから逃れることはできないということを意味する。
 全国ユニオンとNPO派遣労働ネットワークは、このような最高裁の判断を導き出す労働者派遣制度は、日本が批准しているILO181号条約(民間職業紹介所条約)に定められている「雇用」の概念を否定するものであるとして、ILOに申し立てを行った。
 昨年3月、ILOはおおむね全国ユニオンらの主張を認めた。伊予銀行は当局から何ら是正指導も受けておらず、日本政府はILO181号条約が求めている労働者の十分な保護を怠っていたなどと勧告。さらに、登録型派遣を禁止する旨の派遣法改正の動きが修正された事態を踏まえて詳細な報告をするよう日本政府に勧告した。
 つまりILO勧告は、日本がILO181号条約を批准して以降、同条約が求める労働者の保護を十分に取ってこなかった日本政府に対して、雇用継続の期待権を含め、派遣労働者を十分保護するよう勧告したのだ。
 2008年のリーマンショツクが明らかにしたとおり、企業の業績が悪化すれば真っ先に切り捨てられるのは派遣労働者である。
 2008年末に一斉に吹き荒れた「派遣切り」は、多くの派遣労働者の雇用だけでなく住まいまで奪い、極寒の中、ホームレス状態の失業者を大量に生み出し、命の危機にさらした。派遣切りは、2011年3月の東日本大震災の直後にも繰り返された。
 しかし、仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ登録型派遣は、今なお維持され、派遣労働者がいつでも派遣切りされるという構造は変わっていない。
 そんな中、厚生労働省に設置された「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」(座長・鎌田耕一東洋大学法学部教授)は、8月20日、労働者派遣法見直しへ向けての報告をまとめた。
 その中身は、6月に規制改革会議が発表した報告書よりもさらに悪い内容となっている。
 規制改革会議が派遣労働者を保護するために盛り込んだ「派遣先の正規労働者と派遣された労働者の均等待遇」は削除され、派遣を使い勝手のよいものとして拡大するための規制緩和のみが残された
 報告によると、現行の派遣制度の26業務の区分は撤廃され、無期労働契約の派遣と有期労働契約の派遣に分類される。
 無期労働契約の派遣は、常用代替防止の対象からも除外して事実上無制限とする一方、有期労働契約については、現行において業務単位に定められている原則1年・最長3年の期間制限を人単位で一律3年に切り替え、労働者を3年ごとに差し替えさえすれば、永続的に派遣を活用できるようにしようというのだ。
 これでは、派遣労働者の雇用を不安定なまま放置して(26業務については雇用を現行よりもさらに不安定にして)、派遣の規制を緩和し、さらに拡大してしまうことになる。
 この内容は、日本人材派遣協会などの業界団体の要望とほぼ一致するものであり、働く者の要望は完全に無視されている。
 派遣労働ネットワークが8月末までに行った「派遣スタッフアンケート」(現在集計中)においても、平均の時給は年々低下し、「生活が苦しい」「格差を感じる」「正社員として働きたい」「無期雇用への転換を希望する」との回答がいずれも過半数を占めている。
 今、派遣法の見直しに求められているのは規制緩和ではなく、さらなる派遣労働者の保護だ。悲惨な派遣切りを二度と繰り返さないためにも、期間の定めのない雇用を原則とする派遣制度に見直していくべきである。
『労働情報872号』(2013/10/1)

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