=ホットな現場から考える『生活教育』=
◆ 国際教育のあり方が問われた「東京都オリパラ教育」でのエルサレム記述の誤り
◆ 何のため、誰のためのオリンピック・パラリンピック
国民の7割以上が反対し、アスリートにとってもコロナ禍で予選に出場できない途上国の選手がいるなどフエアではないにもかかわらずIOCはテレビ放映権という金の為に、菅政権は「不都合なことをスポーツの喧騒で洗い流すスポーツウォッシング」の為に大会を強行した。
準備から本番まで湯水のように税金が使われる一方、膨大な食品の廃棄がなされた。それは、商業主義や国家主義が利益や利権を求めて「祝賀」という「例外状態」に便乗し、通常ではありえない膨大な公的資金が投入される「祝賀資本主義」の醜悪なな姿である。更にその過程で日本社会の人権意識の歪みもあらわになった。
◆ 道徳教育として推進されたオリ・パラ教育
その中で東京都は「オリンピック・パラリンピック教育」を進めてきた。
オリンピックは今や国家のメダル獲得競争と化し、過度なな商業主義で選手は使い捨てにされている。
パラリンピックも障がい者の努力が称えられるが、装具や練習環境などの社会的格差が存在する中で、順位をつけ競うことは障がい者スポーツの意味を歪める。
しかし東京都は「オリンピズムの目的は人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の奨励」であると美化し、教育の目的と合致するとして、2016年から都内全ての公立の小・中・高・特別支援学校の2300校100万人を対象に、年間35時間ずつ5年間のオリ・パラ教育を強制した。
その目的は「社会奉仕の精神、日本人としての自覚と誇り、共生・共助社会をめざす姿勢を育む」こととされ、地域清掃などのボランティア、障碍者スポーツ観戦、アスリートとの交流、対象国についての学習などが求められた。
その締めくくりが本番の観戦だったが、感染急拡大により五輪観戦は中止。
パラリンピツク観戦は5人中4人の教育委員の反対を押し切って、都教委は強行した。しかし、直前に中止する区教委が続出し、観戦は12,000名にとどまった。
こうして混乱のうちに終わったオリ・パラ教育に何の意味があったのか、厳しく問われねばならない。
◆ イスラエルの首都エルサレムという誤った記述
その検証の一環として、都教委『オリ・パラ教育』のサイトの「児童・生徒向けコンテンツ~大会予定参加国・地職情報」に次の3点の重大な誤りがあった事実について報告する。
イスラエルは1967年の第三次中東戦争で東エルサレムを占領、その後併合し、1980年にエルサレムを恒久首都と定めた。しかし占領地区の併合は明確な国際法違反であり、1967年、国連はイスラエルに占領地からの撤退を要求する安保理決議242号を採択し、今日もなお維持している。
日本政府もエルサレムを首都と認めていない。
エルサレムをイスラエルの首都と認めることは国際法及び国際社会の合意に反する行為なのである。
一方パレスチナ自治政府もエルサレムを首都と定め、イスラエル占領下にあるため政府はラマッラにおいている。
日本政府も「エルサレムは将采の二国家の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである」としており、ラマッラを「首都」と明記することはそれを否定することである。
また「岩のドーム」は東エルサレムにあるイスラム教の聖地であり、東京都が公式に「イスラエルである」と認めることは、全世界のイスラム教徒16億人の心情を深く傷つける。
今春のイスラエル・パレスチナの軍事衝突の原因は、イスラエルが東エルサレム居住のパレスチナ人を追い出し住居を破壊しようとしたことだった。
それに対抗する八マスのロケット攻撃への報復としてイスラエルは大規模なガザ空爆を行い、250名以上が殺された。
このような国際法違反が今も続いている中で、都教委がイスラエルの一方的主張を子どもたちに教えることは、公正さが力で踏みにじられることに目をむけさせず、戦争による占領地の武力併合を容認することであり、日本国憲法の精神にも反する。
都教委が誤った記載を続けてきた背景には、人権意識の希薄さとともに、現実認識の欠如がある。
7月26日、エルサレム出身のパレスチナ人アスリートがイスラエル選手と表記されていたことに抗議しパレスチナ選手団が大会から引き上げようとし、バッ八会長が謝罪する事態がおきた。
もしオリンピツク開催都市東京がこのような誤った教育を行なっていると世界に知られれば、国際問題となる事態なのである。
◆ 都教委の国際理解教育の問題
この問題を東京外国語大学の黒木先生からお聞きし、京大の岡先生らと相談して、都教委に対し誤りを是正するとともに見解を社会的・国際的に公表するようを求める質問書を作成した。
そこに関わった鵜飼哲、臼杵陽.岡真理、栗田禎子、黒木英充、小寺隆幸、酒井啓子、高橋美香、長澤栄治、奈良本英佑、嶺崎寛子の連名で、そして日本国際ボランティアセンターと個人219名の賛同リストを添えて7月27日に都教委に提出した。
8月6日に次の回答(全文)が届いた。
都教委が掲げたオリ・パラ教育の目標(4)「多様性を尊重し、共生社会の実現や国際社会の平和と発展に貢献できる人間の育成」の内実が問われている。
都の「国際理解教育」が、世界の現状を追認し、各国の文化を表面的に知ることで日本人としての自覚を高めるものに歪められているのである。
教育の使命は、地球上の様々な人々の尊厳を守り、公正な世界を希求する姿勢を育むことである。
1974年ユネスコ総会は「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」を採択した。
そこでは「教育は、拡張、侵略及び支配を目的として戦争をすること並びに抑圧を自的として武力及び暴力を用いることが許されるぺきでないことを強調すべきであり、かつ、平和の維持に対する各自の責任をあらゆる人々に理解させ負担させるようにすべきである」(Ⅲ6)と明記されている。
都教委にこの姿勢が欠如していることが根本的問題なのである。
今、日本の教育に問われているのは「国内的及び国際的諸問題についての批判的理解力を獲得する」(Ⅲ5)国際教育のあり方である。
それは私たちにも問われている。イスラエルが封鎖するガザで、十分な食科も水もなく200万人が暮らす。その現実をみつめ、市民として、教師として何ができるのかを考え続けたい。
『生活教育 NO.864』(2021/12・10)
◆ 国際教育のあり方が問われた「東京都オリパラ教育」でのエルサレム記述の誤り
小寺隆幸 明治学院大学国際平和研究所研究員
◆ 何のため、誰のためのオリンピック・パラリンピック
国民の7割以上が反対し、アスリートにとってもコロナ禍で予選に出場できない途上国の選手がいるなどフエアではないにもかかわらずIOCはテレビ放映権という金の為に、菅政権は「不都合なことをスポーツの喧騒で洗い流すスポーツウォッシング」の為に大会を強行した。
準備から本番まで湯水のように税金が使われる一方、膨大な食品の廃棄がなされた。それは、商業主義や国家主義が利益や利権を求めて「祝賀」という「例外状態」に便乗し、通常ではありえない膨大な公的資金が投入される「祝賀資本主義」の醜悪なな姿である。更にその過程で日本社会の人権意識の歪みもあらわになった。
◆ 道徳教育として推進されたオリ・パラ教育
その中で東京都は「オリンピック・パラリンピック教育」を進めてきた。
オリンピックは今や国家のメダル獲得競争と化し、過度なな商業主義で選手は使い捨てにされている。
パラリンピックも障がい者の努力が称えられるが、装具や練習環境などの社会的格差が存在する中で、順位をつけ競うことは障がい者スポーツの意味を歪める。
しかし東京都は「オリンピズムの目的は人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の奨励」であると美化し、教育の目的と合致するとして、2016年から都内全ての公立の小・中・高・特別支援学校の2300校100万人を対象に、年間35時間ずつ5年間のオリ・パラ教育を強制した。
その目的は「社会奉仕の精神、日本人としての自覚と誇り、共生・共助社会をめざす姿勢を育む」こととされ、地域清掃などのボランティア、障碍者スポーツ観戦、アスリートとの交流、対象国についての学習などが求められた。
その締めくくりが本番の観戦だったが、感染急拡大により五輪観戦は中止。
パラリンピツク観戦は5人中4人の教育委員の反対を押し切って、都教委は強行した。しかし、直前に中止する区教委が続出し、観戦は12,000名にとどまった。
こうして混乱のうちに終わったオリ・パラ教育に何の意味があったのか、厳しく問われねばならない。
◆ イスラエルの首都エルサレムという誤った記述
その検証の一環として、都教委『オリ・パラ教育』のサイトの「児童・生徒向けコンテンツ~大会予定参加国・地職情報」に次の3点の重大な誤りがあった事実について報告する。
①イスラエルの首都をエルサレムと何の注釈もなく記述なぜこれが重大な誤りなのか。
②パレスチナの首都をラマッラ(西岸地区)と記述
③イスラエルを代表する風景として、イスラエルが併合した東エルサレムの「岩のドーム」を掲載
イスラエルは1967年の第三次中東戦争で東エルサレムを占領、その後併合し、1980年にエルサレムを恒久首都と定めた。しかし占領地区の併合は明確な国際法違反であり、1967年、国連はイスラエルに占領地からの撤退を要求する安保理決議242号を採択し、今日もなお維持している。
日本政府もエルサレムを首都と認めていない。
エルサレムをイスラエルの首都と認めることは国際法及び国際社会の合意に反する行為なのである。
一方パレスチナ自治政府もエルサレムを首都と定め、イスラエル占領下にあるため政府はラマッラにおいている。
日本政府も「エルサレムは将采の二国家の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである」としており、ラマッラを「首都」と明記することはそれを否定することである。
また「岩のドーム」は東エルサレムにあるイスラム教の聖地であり、東京都が公式に「イスラエルである」と認めることは、全世界のイスラム教徒16億人の心情を深く傷つける。
今春のイスラエル・パレスチナの軍事衝突の原因は、イスラエルが東エルサレム居住のパレスチナ人を追い出し住居を破壊しようとしたことだった。
それに対抗する八マスのロケット攻撃への報復としてイスラエルは大規模なガザ空爆を行い、250名以上が殺された。
このような国際法違反が今も続いている中で、都教委がイスラエルの一方的主張を子どもたちに教えることは、公正さが力で踏みにじられることに目をむけさせず、戦争による占領地の武力併合を容認することであり、日本国憲法の精神にも反する。
都教委が誤った記載を続けてきた背景には、人権意識の希薄さとともに、現実認識の欠如がある。
7月26日、エルサレム出身のパレスチナ人アスリートがイスラエル選手と表記されていたことに抗議しパレスチナ選手団が大会から引き上げようとし、バッ八会長が謝罪する事態がおきた。
もしオリンピツク開催都市東京がこのような誤った教育を行なっていると世界に知られれば、国際問題となる事態なのである。
◆ 都教委の国際理解教育の問題
この問題を東京外国語大学の黒木先生からお聞きし、京大の岡先生らと相談して、都教委に対し誤りを是正するとともに見解を社会的・国際的に公表するようを求める質問書を作成した。
そこに関わった鵜飼哲、臼杵陽.岡真理、栗田禎子、黒木英充、小寺隆幸、酒井啓子、高橋美香、長澤栄治、奈良本英佑、嶺崎寛子の連名で、そして日本国際ボランティアセンターと個人219名の賛同リストを添えて7月27日に都教委に提出した。
8月6日に次の回答(全文)が届いた。
ホームページ掲載内容の修正を行いました。併せて、修正内容を学校へ通知するとともに、ホームベージ上に掲載しました。「オリンピツク・パラリンピック教育」のホームベージにおいては、今後も正確な内容の公表及び活用しやすいホームページの運営に努めで参ります。ここには、過去5年間子どもたちに誤った事実を教えてきたことへの反省も、その誤りが生じた原因の解明も皆無であり、到底納得しうるものではない。
東京都教育庁指導部指導企画課オリンビツク・パラりンビック教育担当
都教委が掲げたオリ・パラ教育の目標(4)「多様性を尊重し、共生社会の実現や国際社会の平和と発展に貢献できる人間の育成」の内実が問われている。
都の「国際理解教育」が、世界の現状を追認し、各国の文化を表面的に知ることで日本人としての自覚を高めるものに歪められているのである。
教育の使命は、地球上の様々な人々の尊厳を守り、公正な世界を希求する姿勢を育むことである。
1974年ユネスコ総会は「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」を採択した。
そこでは「教育は、拡張、侵略及び支配を目的として戦争をすること並びに抑圧を自的として武力及び暴力を用いることが許されるぺきでないことを強調すべきであり、かつ、平和の維持に対する各自の責任をあらゆる人々に理解させ負担させるようにすべきである」(Ⅲ6)と明記されている。
都教委にこの姿勢が欠如していることが根本的問題なのである。
今、日本の教育に問われているのは「国内的及び国際的諸問題についての批判的理解力を獲得する」(Ⅲ5)国際教育のあり方である。
それは私たちにも問われている。イスラエルが封鎖するガザで、十分な食科も水もなく200万人が暮らす。その現実をみつめ、市民として、教師として何ができるのかを考え続けたい。
『生活教育 NO.864』(2021/12・10)
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