《週刊金曜日:後藤逸郞の経済私考》
★ 約20年デフレ推進された教員給与
石破首相就任で教育手当回復か?
9月の消費者物価指数は前年同月比2.4%上昇し、コメ類は49年ぶりの上昇幅を示すなどインフレが続いている。
アベノミクス以降、政府がインフレ政策を進め、石破茂首相は就任直後に日本銀行の利上げを牽制する異例の発言をするなど、物価が下がる要素は少ない。
そんな政府が20年近くデフレを推進していたのが教員給与だ。
経済政策と真逆だが、経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2006で、「文教予算については(中略)これまで以上の削減努力を行う」として、「人材確保法に基づく優遇措置を縮減するとともに、メリハリを付けた教員給与体系を検討する」と明記した。
当時の小泉純一郎首相・竹中平蔵総務相が、退任前に作成した小泉・竹中路線の置き土産で、直後に発足した安倍晋三政権も踏襲した。
以来現在まで教員給与は抑えられ、残業代の替わりとなる手当も削減されてきた。
政権を奪還した安倍首相は2013年からアベノミクスを始めたが、教員給与引き上げには動かなかった。日銀の異次元緩和によるインフレを唱えながら、消費減を招く賃金デフレを続けたアベコベぶりだ。
筆者は安倍首相が長期低成長の日本経済をアベノミクスで立て直そうとしたことは否定しない。ただ、今も続く量的緩和の副作用だけでなく、政策の矛盾を放置した責任は重い。
もともと、教員は聖職か労働者かというイデオロギー論争の対象が長く続いた。安倍首相が15年の衆院予算委員会で民主党議員に対し、「日教組!」と唐突にヤジを飛ばした場面がよみがえる。
ともあれアベコベ政策の結果、教員は不人気職となり、採用試験の倍率は低下。退職者の補充ができないので、非正規教員や再任用頼みで、見かけ上の定員充足となり、学校では教員による過労死レベルの残業時間が相次ぐ事態だ。
特にに惨(むご)いのは、実業高校の教員手当の一つ「産業教育手当」だ。
高度経済成長期のインフレ対応として、1957年から農業、水産、工業、商業の教員と実習助手に支給されている。74年には教員全体の給与を一般の公務員より優遇する人材確保法が施行された。しかし、2006年の骨太の方針で人材確保法は文字通り骨抜きにされ、地方自治体所管に移された同手当は削減が相次いだ。
農業高校が加盟する全国高等学校農場協会は今年6月、減額された産業教育手当の回復を求め、国に要望書を提出した。これに先立つ会合で、農林水産高校を応援する会の会長を務める石破衆議院議員も尽力を約束した。ただ、お膝元の鳥取県は全国唯一の産業教育手当ゼロだったのをご存じだったかは疑問だ。
そんな石破首相は利上げ牽制発言のほか、新しい資本主義の加速も掲げるなど、岸田文雄前首相の政策継承を隠さない。その岸田前首相の置き土産が骨太の方針2024で、残業代の一部にあたる教職調整額引き上げに言及。小泉・竹中路線、アベノミクスを経て、ようやくの動きだ。
石破首相は地方への交付金倍増も掲げており、ついに産業教育手当が回復かと思った矢先の総選挙自公過半数割れ。アベコベ政策の改善はいかに。
※ ごとういつろう:元「毎日新聞」記者、フリーランス記者。著書に『オリンピック・マネー』『亡国の東京オリンピック』(文藝春秋)
2024.11.1 1495号
※経済私考は、浜矩子氏、鷲尾香一氏、後藤逸郎氏、佐々木実氏のリレー連載です。
『週刊金曜日 1495号』(2024年11月1日)
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