=メディアの今 見張り塔から(『東京新聞』【日々論々】)=
◆ 米トランプ大統領 マスメディアの習慣を逆手に
米大統領選は現職のトランプ大統領を民主党のバイデン候補が破ったが、選挙結果を巡ってトランプ大統領が結果を受け入れず、スムーズな政権移行は進んでいない。
そんな中、ABCやNBCなどの米主要テレビ局は、大統領選の開票が続く十一月五日に開かれたトランプ大統領の記者発表の生中継を打ち切った。
トランプ大統領は声明の冒頭から、不正投票によって「民主党が選挙を盗もうとしている」との持論を、証拠を示すことなく展開していた。現職の大統領が国民に語りかける声明をメディア側の判断で遮るというのは極めて異例の対応だ。
六分ほどで中継を打ち切ったNBCテレビでは、アンカーのレスター・ホルト氏が
「声明の途中ですが、大統領は虚偽の発言を繰り返しているため、ここで中断しなければなりません」と映像に割って入り、発言の根拠は示されていないと視聴者に注意を促し、スタジオの記者に発言内容の解説を求めた。
同じくネット中継を打ち切ったUSAトゥデー紙は、ニコール・キャロル編集長名で「われわれの仕事は真実を広めることであり、根拠のない陰謀論を広めることではない」との声明を発表した。
トランプ大統領は選挙戦の最中から、「選挙では大規模な不正投票が行われる」と断言し、現在もその姿勢を崩していない。中でも郵便投票が「不正の温床」だとの主張を繰り返してきた。
今年七月に行われた米国の世論調査によれば、七割を超える共和党支持者が「大規模な不正投票」を懸念していたという。
だがその証拠が示されたことはない。実際、過去の調査によれば、不正投票は「極めてまれ」だ。
「郵便投票は不正の温床」というトランプ大統領の荒唐無稽な主張はどのように広まっていったのか。
ハーバード大学のヨハイ・ベングラー教授ら研究チームは、この主張を「デマキャンペーン」と一刀両断にした上で、その拡散についてメディア報道やソーシャルメディアの分析を実施している。
その結果、デマの出どころはやはり大統領自身のツイッターや記者会見、テレビインタビューであったものの、それをマスメディアが取り上げることで大規模に拡散していくという構造が浮き彫りとな」ったという。
二〇一六年大統領選ではフェイクニュース拡散をめぐって強い批判にさらされたソーシャルメディアは、この郵便投票のデマ拡散に関しては二次的・補助的な役割しか担っていないという。
研究チームは、郵便投票デマの拡散はマスメディアの「バランス・中立・偏向忌避」の習慣が逆手に取られた結果だと指摘する。
トランプ大統領が不正投票をめぐる議論を「党派対立」の構図に落とし込んだことで、バランスを取ろうとするマスメディアのジャーナリストは「不正投票だという主張をデマと呼ぶことをためらう」ことになったのだという。
「バランス・中立・偏向忌避」の傾向がジャーナリズムの力を弱める現象は、近年の日本でも顕著に見られる。
日本のメディアも米国メディアのように「中継打ち切り」のような思い切った対応が取れるかどうかが問われている。(隔月掲載)
◆ 米トランプ大統領 マスメディアの習慣を逆手に
ジャーナリスト・津田大介さん
米大統領選は現職のトランプ大統領を民主党のバイデン候補が破ったが、選挙結果を巡ってトランプ大統領が結果を受け入れず、スムーズな政権移行は進んでいない。
そんな中、ABCやNBCなどの米主要テレビ局は、大統領選の開票が続く十一月五日に開かれたトランプ大統領の記者発表の生中継を打ち切った。
トランプ大統領は声明の冒頭から、不正投票によって「民主党が選挙を盗もうとしている」との持論を、証拠を示すことなく展開していた。現職の大統領が国民に語りかける声明をメディア側の判断で遮るというのは極めて異例の対応だ。
六分ほどで中継を打ち切ったNBCテレビでは、アンカーのレスター・ホルト氏が
「声明の途中ですが、大統領は虚偽の発言を繰り返しているため、ここで中断しなければなりません」と映像に割って入り、発言の根拠は示されていないと視聴者に注意を促し、スタジオの記者に発言内容の解説を求めた。
同じくネット中継を打ち切ったUSAトゥデー紙は、ニコール・キャロル編集長名で「われわれの仕事は真実を広めることであり、根拠のない陰謀論を広めることではない」との声明を発表した。
トランプ大統領は選挙戦の最中から、「選挙では大規模な不正投票が行われる」と断言し、現在もその姿勢を崩していない。中でも郵便投票が「不正の温床」だとの主張を繰り返してきた。
今年七月に行われた米国の世論調査によれば、七割を超える共和党支持者が「大規模な不正投票」を懸念していたという。
だがその証拠が示されたことはない。実際、過去の調査によれば、不正投票は「極めてまれ」だ。
「郵便投票は不正の温床」というトランプ大統領の荒唐無稽な主張はどのように広まっていったのか。
ハーバード大学のヨハイ・ベングラー教授ら研究チームは、この主張を「デマキャンペーン」と一刀両断にした上で、その拡散についてメディア報道やソーシャルメディアの分析を実施している。
その結果、デマの出どころはやはり大統領自身のツイッターや記者会見、テレビインタビューであったものの、それをマスメディアが取り上げることで大規模に拡散していくという構造が浮き彫りとな」ったという。
二〇一六年大統領選ではフェイクニュース拡散をめぐって強い批判にさらされたソーシャルメディアは、この郵便投票のデマ拡散に関しては二次的・補助的な役割しか担っていないという。
研究チームは、郵便投票デマの拡散はマスメディアの「バランス・中立・偏向忌避」の習慣が逆手に取られた結果だと指摘する。
トランプ大統領が不正投票をめぐる議論を「党派対立」の構図に落とし込んだことで、バランスを取ろうとするマスメディアのジャーナリストは「不正投票だという主張をデマと呼ぶことをためらう」ことになったのだという。
「バランス・中立・偏向忌避」の傾向がジャーナリズムの力を弱める現象は、近年の日本でも顕著に見られる。
日本のメディアも米国メディアのように「中継打ち切り」のような思い切った対応が取れるかどうかが問われている。(隔月掲載)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます