詩 コワイコワイ病

阿久悠　ニュース詩　２０００年５月１６日

　このまま何もしないでいたら
　石になってしまうのではないかと
　コワイコワイ

　だから何かをしようと思うのだが
　そうすると　ひとりになってしまいそうで
　コワイコワイ

　それならそれで大勢と同じことを
　クローンのように生きると楽だが
　やっぱり自分がわからなくて
　コワイコワイ

　カラスを見ると　やがてこいつらの天下になるかと
　コワイコワイ
　ゴキブリを見ると　地球最後の生物はこれだと思い
　コワイコワイ

　信念を持つと視野が狭くなって
　脳ミソがどんどん小さくなり　これだと信じこむことさえ
　コワイコワイ
　
　やさしくしたら弱いとつけ込まれ
　強がると恐いと避けられ
　目をそらすとバカにしたと云われ
　目を見つめると何か用かと凄まれ
　とすると　街も歩けなくて
　コワイコワイ

　狼がいいか　鳩がいいか
　教科書では　鳩が誉められ
　社会では　狼がハバをきかし
　それならいっそ
　羽根のある狼になるか
　牙のある鳩になるか
　どっちも結果は抹殺されそうで
　コワイコワイ

　首相が失言を惧れてメモを読む
　それを恥じないのが失言よりも
　コワイコワイ

…５年前の詩が、より現実味を帯びている。さすが流行作詞家の目は鋭かった。