◆ 恩赦55万人に思う (東京新聞【本音のコラム】)
本日、政府が行う「恩赦」の対象者は五十五万人。一九九〇年の恩赦の二百五十万から減ったが、まだ大盤振る舞いだ。
対象者は道路交通法違反、過失運転致死傷などで、罰金を払った人の復権が中心という。選挙違反など、公民権停止になった人たちも含まれ、選挙に強い政権党に有利な施策といえる。
恩赦といえば、ロシアの作家ドストエフスキーが政治運動で逮捕されて処刑場に引き立てられ、銃殺される直前、法務官が皇帝の勅書をもって駆けつけた、恩赦の劇的場面がよく知られている。
それから六十二年後、桂太郎内閣の時、幸徳秋水、管野須賀子など二十四人に天皇暗殺計画の大逆罪で死刑判決がだされた。
が、明治天皇に拝謁(はいえつ)した桂首相が特赦を内奏して、半数が無期懲役に減刑され処刑は十二人になった。
とはいっても、死刑の罪証とは、若もの特有の「煙のような座談」(管野須賀子『死出の道艸(みちくさ)』)にすぎなかった。
恩赦は絶対的な権力者が行う「慈悲」の善政であり、国民主権の民主国家にはなじまない。たしかに憲法では、「天皇の国事に関する行為」(第七条)として定められているが、時代とともに内閣が行使を抑制すべき事項であろう。
冤罪(えんざい)で処刑、獄死、いまなお無実を叫び続けている人たちがいる。が、この人たちでさえ、ほとんどは恩赦を要請してはいない。(ルポライタi)
『東京新聞』(2019年10月22日【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
本日、政府が行う「恩赦」の対象者は五十五万人。一九九〇年の恩赦の二百五十万から減ったが、まだ大盤振る舞いだ。
対象者は道路交通法違反、過失運転致死傷などで、罰金を払った人の復権が中心という。選挙違反など、公民権停止になった人たちも含まれ、選挙に強い政権党に有利な施策といえる。
恩赦といえば、ロシアの作家ドストエフスキーが政治運動で逮捕されて処刑場に引き立てられ、銃殺される直前、法務官が皇帝の勅書をもって駆けつけた、恩赦の劇的場面がよく知られている。
それから六十二年後、桂太郎内閣の時、幸徳秋水、管野須賀子など二十四人に天皇暗殺計画の大逆罪で死刑判決がだされた。
が、明治天皇に拝謁(はいえつ)した桂首相が特赦を内奏して、半数が無期懲役に減刑され処刑は十二人になった。
とはいっても、死刑の罪証とは、若もの特有の「煙のような座談」(管野須賀子『死出の道艸(みちくさ)』)にすぎなかった。
恩赦は絶対的な権力者が行う「慈悲」の善政であり、国民主権の民主国家にはなじまない。たしかに憲法では、「天皇の国事に関する行為」(第七条)として定められているが、時代とともに内閣が行使を抑制すべき事項であろう。
冤罪(えんざい)で処刑、獄死、いまなお無実を叫び続けている人たちがいる。が、この人たちでさえ、ほとんどは恩赦を要請してはいない。(ルポライタi)
『東京新聞』(2019年10月22日【本音のコラム】)
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