◆ 『2020防衛白書』の危険な内容 (週刊新社会)
中国封じ込め戦略
戦力の高度化へ
◆ インド太平洋の覇権を目指す日米軍事一体化の統合戦略
安倍内閣は7月14日、『2020年版防衛白書』を閣議了解した。
現下の世界の最も緊要な問題は、気候危機と貧冨の格差であり、そこに新型コロナの爆発的蔓延である。”地球の発熱”で大水害、砂漠化、生態系の激変などが急増、グローバル化で各種ウイルスとの接触も増えてきた。
その最大の被害者は世界の貧困層で、大国の横暴や覇権争い、各地の強権政治が危機を増幅させ、民衆を苦しめている。一方で世界の軍事費は米国を筆頭に204兆円(19年)に達している。
しかし防衛白書の視点は、あくまで米国中心に日米が「インド太平洋」で覇権を握り、それに挑戦する中国の封じ込めにあり、国別分析で中国に最大の34頁を充てている。
◆ 偏狭な情勢認識と中国包囲網の推進
「政治・経済・軍事にわたる国家間の『ハイブリッド戦』(国籍不明部隊の作戦、サイバー攻撃、偽情報流布など)」や「宇宙・サイバー・電磁波領域の重要性」、特に「人工知能・極超音速技術・高出カエネルギー」を強調、中国、ロシア、北朝鮮との対峙の最前線と位置付けている。
また、中国は「宇宙・サイバー・電磁波能力を強化」、「軍が人工知能を活用」、「第二列島線を越えた遠方での作戦遂行能力(接近阻止・領域拒否)」「南シナ海の軍事拠点化と力を背景とした一方的な現状変更」などと列挙し、その統治システムや人権問題も分析、コロナ対策で「戦略的に有利な国際・地域秩序の形成と影響力拡大、政治。経済上の利益増進」とも論評。
だが米国も、軍事費は中国の2倍半以上。
宇宙・サイバー・電磁波・人工知能の軍事利用で先行し、核兵器や気候危機などの国際約束、WHO、国際司法裁判所などの国際機関に背を向け、パレスチナや国内の移民の扱いでも「一方的な現状変更」を強行している。
そして安倍政権は、「中国の脅威」だけを強調して米国に寄り添い、軍事的一体化を進め、日米に「戦略的に有利な国際・地域秩序の形成と影響力拡大、政治・経済上の利益増進」に走っている。
すでに自衛隊は、電子戦や高速滑空弾、無人機、宇宙作戦などの部隊の創設・拡充や、高出力のマイクロ波・レーザーの研究開発、米英豪などとの共同演習も進めている。
安倍首相がトランプ大統領との間で進めた米国兵器の爆買いで、後年度負担は史上最大の今年度防衛費をも上回る約5兆4000億円に膨らんでいる。主には
オスプレイー7機、
F35AとF35Bで147機、
水陸両用軍52両、
イージス・アショア2基などだが、
それに伴う新基地建設や護衛艦2隻の空母化、兵器の維持補修などで今後も費用は膨張し続ける。
◆ イージス・アショアの破綻と「敵基地攻撃能力」
しかし、地元の反対や懸念が強かったイージス・アショアは、河野防衛相が6月16日、計画停止を発表、同25日には政府として配備撤回を決めた。
理由は「迎撃ミサイル発射後にブースターが基地周辺に落下する可能性があり、改修には費冊も時間もかかる」から。
イージス・アショアは、「イージス艦4隻で対応」という当初方針が8隻体制に増強された上に安倍首相が追加したもの。
強力な電磁波の被害や適地調査の測量ミスなどが問題になったが、基本的な性能で誤認していた?!
白書はその経緯と導入手続きの「停止」、「今後は国家安全殊障会議(NSA)で検討」と記すが、後には「導入」前提の文章とミサイル防衛の中該として図解まで掲載し、混乱を露呈している。
また、改修の費用と時間が理由なら、豊かな生態系を破壊し、軟弱地盤による設計変更で防衛省試算でも「9300億円と12年」もかかるという辺野古新基地建設は、なおさら撤回すべきである。
さらにイージス・アショア撤回直後から、あたかも代替策かのように「敵基地攻撃能力の保有」論が自民党国防族から沸き起こり、首相や官房長官も呼応する姿勢である。
「敵基地攻撃」は、相手国には「日本による先制攻撃」とされ、「自衛権による反撃」を呼び起すことにもなる。また、周辺国には日本への対抗的軍備増強を助長しよう。
ロシアや中国だけでなく、北朝鮮でもミサイル発射基地は分散し移動型も多い。それらへの攻撃には兵器の数も性能も飛躍的増強が必要で、相手国もさらに増強に走るーまさに「安全保障のジレンマ」に陥り、平和や安全は遠のく一方だ。
64年前、鳩山首相は憲法9条に関し「他に手段がない場合に限り敵基地攻撃も可能と思う」と答弁。
しかし歴代政権は、米軍による日本防衛という「手段=矛」があるので、日本は「専守防衛」(盾)に徹するとし、違憲の追及をかわしてきた。
その弁解さえ破り捨て、「敵基地攻撃」は刺激的だから「自衛反撃」などに言い換えるとも。
だが、いくら三百代言を重ねても、憲法、安保条約、相手国や国際社会の対応、悪夢の軍拡競争の加速などの大問題をすり抜けることはできない。
しかし、前述の自衛隊の戦力高度化が進めば、物理的には敵基地攻撃に投入可能となりうる。
そして安倍政権は、今秋とも言われる解散総選挙で「国民の理解と賛同を得た」と強弁する恐れもある。
防衛白書は自衛隊の矛盾だらけの軍拡を正当化する文書だが、事態はそれを超え重大な局面を迎えつつある。
(筑紫建彦)
『週刊新社会』(2020年8月4日)
中国封じ込め戦略
戦力の高度化へ
◆ インド太平洋の覇権を目指す日米軍事一体化の統合戦略
安倍内閣は7月14日、『2020年版防衛白書』を閣議了解した。
現下の世界の最も緊要な問題は、気候危機と貧冨の格差であり、そこに新型コロナの爆発的蔓延である。”地球の発熱”で大水害、砂漠化、生態系の激変などが急増、グローバル化で各種ウイルスとの接触も増えてきた。
その最大の被害者は世界の貧困層で、大国の横暴や覇権争い、各地の強権政治が危機を増幅させ、民衆を苦しめている。一方で世界の軍事費は米国を筆頭に204兆円(19年)に達している。
しかし防衛白書の視点は、あくまで米国中心に日米が「インド太平洋」で覇権を握り、それに挑戦する中国の封じ込めにあり、国別分析で中国に最大の34頁を充てている。
◆ 偏狭な情勢認識と中国包囲網の推進
「政治・経済・軍事にわたる国家間の『ハイブリッド戦』(国籍不明部隊の作戦、サイバー攻撃、偽情報流布など)」や「宇宙・サイバー・電磁波領域の重要性」、特に「人工知能・極超音速技術・高出カエネルギー」を強調、中国、ロシア、北朝鮮との対峙の最前線と位置付けている。
また、中国は「宇宙・サイバー・電磁波能力を強化」、「軍が人工知能を活用」、「第二列島線を越えた遠方での作戦遂行能力(接近阻止・領域拒否)」「南シナ海の軍事拠点化と力を背景とした一方的な現状変更」などと列挙し、その統治システムや人権問題も分析、コロナ対策で「戦略的に有利な国際・地域秩序の形成と影響力拡大、政治。経済上の利益増進」とも論評。
だが米国も、軍事費は中国の2倍半以上。
宇宙・サイバー・電磁波・人工知能の軍事利用で先行し、核兵器や気候危機などの国際約束、WHO、国際司法裁判所などの国際機関に背を向け、パレスチナや国内の移民の扱いでも「一方的な現状変更」を強行している。
そして安倍政権は、「中国の脅威」だけを強調して米国に寄り添い、軍事的一体化を進め、日米に「戦略的に有利な国際・地域秩序の形成と影響力拡大、政治・経済上の利益増進」に走っている。
すでに自衛隊は、電子戦や高速滑空弾、無人機、宇宙作戦などの部隊の創設・拡充や、高出力のマイクロ波・レーザーの研究開発、米英豪などとの共同演習も進めている。
安倍首相がトランプ大統領との間で進めた米国兵器の爆買いで、後年度負担は史上最大の今年度防衛費をも上回る約5兆4000億円に膨らんでいる。主には
オスプレイー7機、
F35AとF35Bで147機、
水陸両用軍52両、
イージス・アショア2基などだが、
それに伴う新基地建設や護衛艦2隻の空母化、兵器の維持補修などで今後も費用は膨張し続ける。
◆ イージス・アショアの破綻と「敵基地攻撃能力」
しかし、地元の反対や懸念が強かったイージス・アショアは、河野防衛相が6月16日、計画停止を発表、同25日には政府として配備撤回を決めた。
理由は「迎撃ミサイル発射後にブースターが基地周辺に落下する可能性があり、改修には費冊も時間もかかる」から。
イージス・アショアは、「イージス艦4隻で対応」という当初方針が8隻体制に増強された上に安倍首相が追加したもの。
強力な電磁波の被害や適地調査の測量ミスなどが問題になったが、基本的な性能で誤認していた?!
白書はその経緯と導入手続きの「停止」、「今後は国家安全殊障会議(NSA)で検討」と記すが、後には「導入」前提の文章とミサイル防衛の中該として図解まで掲載し、混乱を露呈している。
また、改修の費用と時間が理由なら、豊かな生態系を破壊し、軟弱地盤による設計変更で防衛省試算でも「9300億円と12年」もかかるという辺野古新基地建設は、なおさら撤回すべきである。
さらにイージス・アショア撤回直後から、あたかも代替策かのように「敵基地攻撃能力の保有」論が自民党国防族から沸き起こり、首相や官房長官も呼応する姿勢である。
「敵基地攻撃」は、相手国には「日本による先制攻撃」とされ、「自衛権による反撃」を呼び起すことにもなる。また、周辺国には日本への対抗的軍備増強を助長しよう。
ロシアや中国だけでなく、北朝鮮でもミサイル発射基地は分散し移動型も多い。それらへの攻撃には兵器の数も性能も飛躍的増強が必要で、相手国もさらに増強に走るーまさに「安全保障のジレンマ」に陥り、平和や安全は遠のく一方だ。
64年前、鳩山首相は憲法9条に関し「他に手段がない場合に限り敵基地攻撃も可能と思う」と答弁。
しかし歴代政権は、米軍による日本防衛という「手段=矛」があるので、日本は「専守防衛」(盾)に徹するとし、違憲の追及をかわしてきた。
その弁解さえ破り捨て、「敵基地攻撃」は刺激的だから「自衛反撃」などに言い換えるとも。
だが、いくら三百代言を重ねても、憲法、安保条約、相手国や国際社会の対応、悪夢の軍拡競争の加速などの大問題をすり抜けることはできない。
しかし、前述の自衛隊の戦力高度化が進めば、物理的には敵基地攻撃に投入可能となりうる。
そして安倍政権は、今秋とも言われる解散総選挙で「国民の理解と賛同を得た」と強弁する恐れもある。
防衛白書は自衛隊の矛盾だらけの軍拡を正当化する文書だが、事態はそれを超え重大な局面を迎えつつある。
(筑紫建彦)
『週刊新社会』(2020年8月4日)
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