ゆうべ枕べにたれかがやってきて
しきりに何やら云ったけれど
何をいっているのかちっともわからないので黙っていたら
それはたいそう嘆いて帰って行ったが
いま思い出してみると
どうやら昨夜の月夜にミルク色にかすんでいた空から降りてきたお月様らしかった
「嘆いて帰った者」 稲垣足穂
昨夜 自分は夢に赤いホーキ星が煙突や屋根を掠めて通ってきて
物干し場の竿にひっかかって落ちたのを見た
ところでけさ起きてしらべてみると
この赤いコッピーエンピツが落ちていたのである
「赤鉛筆の由来」 稲垣足穂
ある晩 黒猫をつかまえて鋏でしっぽを切ると
パチン!と黄色い煙になってしまった
頭の上でキャッ!という声がした
窓をあけると、尾のないホーキ星が逃げて行くのが見えた
「黒猫のしっぽを切った話」 稲垣足穂