rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 拒否できない日本

2010-10-19 19:24:22 | 書評
書評 拒否できない日本 関岡英之 文春新書376 2004年刊

当時国会でも話題になった米国の日本に対する強引な社会改造とも言える「年次改革要望書」の存在を明らかにした画期的な書で、新しい本ではありませんが、一度読みたいと思っていた本でした。「年次改革要望書」は1993年の宮沢・クリントン首脳会談において日米間の貿易障害になっている主に日本の社会構造的問題を改善するために毎年「年次改革要望書」として米国政府から突きつけられるようになった「指示書」のようなもので、政府・霞が関は翌年までにこの指示書に従って法改正をして日本の社会が米国の意に沿うようにしてきたものです。以前拙ブログでも日本の医療を市場開放するように99年の年次改革要望書に書かれてから、医療特別区の設置や株式会社の病院経営参入、マスコミで日本の医療を批判して米国医療を礼賛し、米国式自由診療を導入するためにやたらと某医療保険のCMが毎日流されるようになった経緯を紹介したことがありますが、全てこの書に書いてある通り実行されていたことが判ります。

昨年から年次改革要望書が出なくなった(公開されなくなった?)ようですが、これは政権交代の結果なのか米国の事情なのかは判りません。私はこの本を読んで年次改革要望書が作られた経緯やそれに沿って日本の政府・霞が関・マスコミなどの権力側が日本をいかに変えてきたかが良く判ったのですが、今一つ「何故アメリカ(人)はダブルスタンダードと言えるような手前勝手を平気でやって恥じる事がないのか」についての答えを得たように思いました。

それは米国が訴訟社会を日本に持ち込むことを企むくだりで、米国が英国式の「判例法」社会で、事後に弁護士や判事などの法律家によって事の善悪が決められ、しかも「エクイティ」なるその時に都合の良い解釈でその後の適法違法も決まってしまう。だから法律家である弁護士が政治家よりも力が強いことに対して、欧州大陸や日本は「制定法」社会であり基本的に市民誰もが解釈できる成文法によって予め成立している成文法や施行規則によって社会生活が成り立っているから後付けによる勝手な解釈が入り込む余地があまりない、というものです。

アメリカが第二次大戦に勝ってまず行なったことが裁判であり、後付けの法律で日本やドイツを違法であるとして罰し、その後自分たちが行なう事は良い事にしてしまいました。米国人が戦後清々しく生きるにはきっと「裁判をやって自分たちが適法であった」という結論を得ることがどうしても必要だったのでしょう。だから朝鮮戦争やベトナム戦争では国連軍という錦の御旗を背負っていましたがソ連が崩壊するまではずっと消化不良のような状態だったのだと思います。イラク・アフガンに至っては始めは911の直後で「テロとの戦争」という名目で適法感を出すこともできましたが、現在ではもう誰も自分たちが正しい戦争をしていると思えなくなっているのではないでしょうか。(何を目的に誰と戦争しているのかも判らない状態ですから、誰を裁判にかけるかさえ決められません)

本書でアメリカが日本を悪びれもせず改造しようとするしくみは理解できたのですが、判らないのは「何故日本はこのようにアメリカから強制されていることを敢えて国民に知らせないのか」ということです。いじめっ子がいじめる相手に「お前このことを先生や親に言うなよ。」と言っているのなら判りますが、年次改革要望書は私でもインターネットで読めるようにアメリカは秘密文書として日本に渡しているわけではありません。むしろ日本の政府やマスコミが国民に伏せてまるで自ら率先しているようにアメリカの意に沿う行動をしているのです。

「アメリカから便宜供与されているから」「これらの人達がアメリカのポチ」だからという説明がインターネットなどでは言われていますが、私は本当かなあ、とやや疑問に思います。「お前いじめられているんじゃないかい?」と親に心配されると「そんなことないよ。」と強がって見せて、いよいよもっと酷い状態に追い込まれてしまうイジメラレッコ的な見栄を張る心理が日本人の中にもともとあるように私には思います。本書にはこちらの謎のについては言及されていないので次回はその解明にも期待したいところです。

本書は「アメリカ的やり方がグローバルスタンダードであり世界の絶対的統一価値観である」などというのは嘘であって、アメリカのやりかたはかなりローカルなものでそれが正しいなどと騙されない方が良い、21世紀日本がより良くなるためには自分たちの価値観を発信するとともに自分たちの価値観に近い民族と連携してゆくことが大事である。それは荒唐無稽なものではなくて例えば大陸欧州などは英米の考え方とは違うよ、という提言をしています。これはかなり大事な事だろうと思います。これは私見ですが、第二次大戦前も含めた歴史的経緯を考えると英米と中国は「勝った者が正義」という共通の価値観があるからシンパシーがあるのかも知れません。本書はそのようないろいろ派生したことを考えさせる本でした。
コメント
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