rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

日本の医学部進学システムについて思う

2018-06-18 23:39:16 | 医療

 医学部の学生や若い医師達に指導医として接していると、多くの若者達は「良い医者になろう」という意欲が見えるので安心なのですが、一部「この人は医者には向いていないのではないか。」と考えざるを得ない人達もいます。以前にも指摘したことがありますが、これは日本の医学部進学システムの問題ではないかと思います。米国では医学部は一般大学を卒業してからbusiness schoolや法律家になるlaw schoolのように専門家になる専門学校として進学します。だから難しい入学試験であるMCATに合格しなければ他の職業に大学卒として就く事が可能ですし、自分は医者に向いていないと気付いて医学部の途中で退学しても他の職業を選べます。しかし日本では高校の1-2年の間、15−6歳という年齢で自分が一生の職業として医者を選ぶ事を決めねばなりません。そして理系進学者の上位1%に入れば、ほぼ間違いなく医学部に入学できます。しかし医者、特に臨床医は数学や物理の素養が天才的である必要は全くなく、むしろ卒なく人付き合いができて、広く注意散漫でない、目端が利く人間であることが求められます。また他人に対して思いやりがあり、患者さんを実験台とか練習台としか考えないような人は医者失格です。ところが、高校で数学や物理化学が上位1%に相当する位よくできる人が、上に示した素養を持っている保証はどこにもありません。全く異なる素養だからです。

 

 勿論医者は理系で科学的な思考法ができねばならず、覚える事も多いので暗記が得意でなければなりません。また死ぬまで勉強を続ける必要があります。だから勉強嫌いや暗記不得意者はハナから失格です。現在の各医学部の教育シラバスはほぼ共通の内容になっていて、どの医学部を卒業しても一定の臨床医としての規準を満たす素養を叩き込む事になっています。つまり高校1-2年で医学部進学を決め、医学部に入学したらほぼ同じような規準を満たした卒業生の姿で医学部から送り出され、国家試験を受けてこれまた日本国中で同じようなしくみの初期研修プログラムに沿って2年間の臨床研修を行うことまで運命付けられています。医学部に入学したら医者以外の職業選択枝はありません。超優秀な人は司法試験にも受かって弁護士になったり、政界の道を選ぶ人もいますが、それも一度は医師国家試験に受かるというステップが必要です。臨床検査技師や理学療法士になることもできません。鍼灸やマッサージの資格も医学部では取れません。警察では検死を行う検死官が不足していますが、解剖学や生理学の知識があっても医学部で学んでいたというだけでは資格は取れません。私はどうもこの一方通行しか許されない医学進学のシステムはどうにかならないかといつも思います。他学部から医学部2年生への編入、医学部4年生から他学部への転出といった道がもっとあっても良いのではと常々思います。

 

 他学部を卒業してから医学部に入り直したり、編入して医師になる方も少数ながらいます。なかなかユニークな人が多いのですが、それなりに強く思う所があって医師になっただけの事はあると感ずることが多いです。一方、私が「この人は医者に向いてないかも」と思う人でも医者以外の職業であれば大いに成功したであろうという人が多いです。協調性に欠ける人もその押しの強さは起業などでは成功に必須のアイテムになるでしょうし、冷徹であることは物理学やある種の商品開発などでは緻密な研究に有利に働くでしょう。天才的な数学や物理の素養は将来の原子物理学や日本のエネルギー開発のために使っていたら大きな飛躍の素になった可能性があります。それがお年寄り相手の生きる上で必須と言えないかもしれない医療を遂行するために使われるのは日本国にとっても不幸としか言えないように思います。

 

 最近の医学部の学生は、10-20年前に比べると真面目で良く勉強している印象があります。授業に行っても皆良く聞いています。良い子であること自体、それは悪くないのですが、もう少し自由で人生に疑問を持って斜に構えて悩んでいそうな学生の方が、吹っ切れて医者になってから人間味のある良い医者になるような気もします。今年の医師国家試験など見ると、いよいよ一定の方角を向いて勉強していないと(良い臨床医になる心構えで学生のうちから取り組んでいないと)合格しないような内容に改変されてきていることが解ります。医学部を目指す高校生達はこういった現実を十分理解して勉強しているのでしょうか。高校の進路指導の先生達も成績のみでなく、こういった現実を踏まえた指導が必要になるように思います。

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