1996年にワンボックスブームの先駆けとしてトヨタからライトエース・タウンエース/ノアが発売されて、以降日産のセレナやホンダステップワゴンなどの主力となる傑作車が続々と登場することになりました。私はほぼ発売と同時に「ノア」を購入しました。というのも小学生の頃車のない我が家で、自分にとって将来車を持つことは憧れだったのですが、その頃「こんな車が欲しい」と思いながら絵に描いていた車がまさに「ノア」だったのです。コンセプトとしては、「できるだけ広い室内を持って、窓は大きく明るく、エンジンなどはコンパクトで使い勝手が良い」という感じで、その後発売され、よく売れた車としてはホンダ・モビリオやダイハツ・タントが同じコンセプトと言えると思います。
購入前はこれもワゴンブームの先駆けとなった初代カルディナに乗っていたのですが、3年目の車検の年になって「ノア」が発売されるとその姿に居ても立っても居られない状態で近所のカローラ店に駆け込んだ事を覚えています。
ガソリンエンジン(当時はディーゼルも選べた)1998cc、4速ACの130馬力2WDで下から2番目の「スーパーエクストラ、スペーシャスルーフ(ハイルーフタイプ)」を選びました(図)。初代はデュアルエアコンで後席用に2台のエアコンが付いていました(殆ど1台しか使わなかったので後のバージョンでは1台になったようです)。ワンボックスは商用車というイメージが強かった時に、ショートボンネットを持つ乗用車感覚のワンボックスが登場し、運転感覚も乗用車的(内輪差の考慮は急ハンドル時には必要ですが)、しかも上から見下ろす見晴らしの良さは、普通の乗用車から乗り換えた人にとってはとても新鮮でした。当時は「渋滞も先が見えるから気にならない」という気分になったものです。
大きな室内ながら5ナンバーであり、1400kgと軽量で、良く走りました。その後に買ったベンツVクラスが豪華な分、戦車のような重さ(車体もドアも)であったのとは対照的です。ベンツのVに乗ってしまうと「ノア」の運転席はいかにも狭く感じますが、当時はとても斬新な作りであり、シフトノブがATなのにコラムシフト(ハンドルから出ている)というスペースユーティリティを重視した作りになっていました。
2列目はベンチシートとキャプテンシートどちらも選べて、定員が7人と8人に分かれるのですが、我が家は子供が3人だったので2列目に3人乗れるように、また母親が2列目に移れるようにベンチシートの8人乗りを選びました。当時画期的だったのは2列目を後ろ向きにして3列目と対面シートにできることで、まるで列車の一ボックスが車に移ったように何とも楽しい家族ドライブになったことを覚えています。子供が成長してからは6席全てがキャプテンシートのベンツVで良かったのですが、車は家族構成でニーズが変わるものです。
今何故十数年前にワクワクして買った「ノア」の事を書くかというと、現在のトヨタ車には残念ながらこのようなワクワクする車がないからです。当時はエスティマも画期的な車として定評があり、またヨーロッパの販売店からの要望で下から上がってきたコンセプトとして出された「初代ヴィッツ」も発売と同時に家内がどうしても欲しいというのでピンクの最も売れていた奴を購入しました。私も「初代ヴィッツ」は魅力のある良い車だと思います。
トヨタ車にワクワクする魅力的な車がなくなったのは、販売台数世界一を目指すようになった頃からです。出てくる車はどれも当たり障りのない似たような車になり、それなりに高い買い物をするに値する魅力を感じなくなりました。結果的にやや高い値段でもワクワク感のある欧州車か、実用車としてはホンダ車を買う結果になりました。特に最近のトヨタはデザインが酷い。クラウンはフロントグリルが「コマネチ」をしているタケシだし、レクサスは顎がはずれて唖然とした表情、燃費最高の小型車も両頬がたるんだ宇宙人にしか見えません。クラウンは豊田紡績機のスピンドルを象った物だったらしいのですが、さすがにあまりの評判の悪さに近々デザイン変更をするらしいです。
私は2代目(左)、3代目(右)のカムリ・ビスタの機能美が大好きだったのですが、あのような車が作れたトヨタはどこに行ってしまったのでしょう。結局「誰のために車を作っているか」をもう一度真摯に反省してやり直さない限り、トヨタの未来はないと私は思います。グローバル企業というのは世界で売れる事が大事とされます。例えば世界戦略車の「現行カムリ」はそれなりに良い性能ですが、日本のユーザーの好みを考慮して作っていません(これはトヨタ側も明言してますね)。世界で売れれば日本で売れなくても良い、という思い上がった考えでいる限り、当然ユーザーは離れて行きます。アメ車が日本で売れないのは日本の非関税障壁や軽自動車の企画があるからではなく、アメ車が日本の地域性やユーザーの希望を考慮して車を作っていないからです。買ってくれる人を大事にしなければ商売は成り立たない、という当たり前の事が「グローバル企業」になるほど解らなくなると言う事でしょう。「グローバリズム」というのは一つの価値観に「各地域で異なる世界」の方が合わせなさい、という考え方です。それぞれの地域性を尊重して手間や費用が嵩んでもその地域に合わせた商品作りをする、というのが「本来の物作りのあり方」のはずです。
良い物が世界で売れること、と始めから世界で売れるものしか作らないこと、は別です。その違いにトヨタが気づいてくれることを望みます。その意味で「ぐあんばれトヨタ」とエールを送ります。
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