rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

米国ぼったくり医療事情

2013-04-18 17:25:53 | 医療

週刊医学界新聞にボストン在住の医師、李啓充氏の「アメリカ医療の光と影」と題する連載コラムがあります。現在の米国医療についての良い面(あまりないですが、改善された例など紹介)悪い面などを飾らずに紹介していて、編算されたものが医学書院から同名の書籍(2000円くらい)で出版されています。

 

私も留学先のニューヨークで実際の医療現場を1年、見聞してきましたが94年当時のことであるので知識としてやや埃をかぶったものになっており、認識を新たにする意味でも多いに参考になります。4月15日の号に掲載されていたのは、Time誌米国版に34ページに渡って特集記事になっていた米国の諸外国に比べた馬鹿高い医療費についての紹介記事で、では何故そのように高額なのかを考案したものでした。その中で、薬剤や医療材料の納入価格と使用後の患者への請求額との差額(利幅)が非常識に大きく、しかもその差額が年々大きくなっていることが紹介されていました(図)。

 

この図で下方の点線で示されたメリーランド州というのは、日本と同様に診療報酬額が州で決められているために自由に利鞘の設定ができないしくみになっている場合を示し、米国医療の中でも良心的な状態を示していると言えます。しかし米国全体では1980年代に30%代であった利幅が21世紀に入ってからは100%を超え、納入価格の倍以上の請求が患者になされていることが示されています。これは自由診療が原則の米国医療においては診療報酬を病院側が自由に設定できるからであるとされています。

 

では何故このような無謀な利鞘を病院側は患者に請求するか、というと実際に医療費を支払う民間医療保険が病院の請求通りには支払いをせず、交渉により値切ってしまう(50-70%も値切ってしまう)から実際には請求の半額くらいしか医療費が受け取れないからであると言われています。その替わり交渉ができない「無保険者」には請求額通りの支払いが求められるために、無保険者や保険に入っていても高額でカバーされていない医療を受けた患者は額面通りの支払いを要求され、その多くが自己破産に追い込まれるという結果になるのです。「理不尽でも合法であれば正義」とされてしまう典型的な例です。

 

コラムでは2007年に氏がボストンの病院に入院治療を受けた際の医療費の例が掲載されていますが、8日間の総入院費用が5万ドル(うちドクターフィー5000ドル)であるところ、保険会社の査定で、実際は6400ドル(Dr.フィー2500ドル)が支払われたという記録が紹介されています。何と84%のディスカウントで500万円が64万に値引きされた(1ドル100円として)という驚きのぼったくりであったことが解ります。これが民間保険に入ってなければ500万払わなければ裁判所から差し押さえが来て破産や家屋を手放す結果になりかねないのですから恐ろしいことです。勿論この民間保険に加入している事自体が、それなりに毎月高額の支払いができないと継続不能なのですから、貧乏人は病気になれないという事実はアメリカでは昔も今もおなじであることが解ります。ちなみに日本でも医療機関からの診療報酬請求が、社会保険や健康保険の査定によって過剰請求として減額されることがありますが、せいぜい1-3%程度(私の病院では0.3%位が平均)であり、それも医学的に納得できる理由があれば再請求をして通る場合もあります。総医療費自体は年々増加しているといっても、いかに日本の医療機関が実直であるかが解ります。また現在日本では納入価格に対する販売価格の利鞘はせいぜい20%程度であり、総医療費に占める医療材料などの原価率は40%程度(以下が望ましい)でないと勤務員への給与の支払いもできない赤字になってしまいます。米国では1ベッドあたりの医師数、看護師数も日本の3−5倍はいますし、給与自体も日本の倍以上ですから、患者への請求額が高騰するのもある意味納得できます。

米国の医療は素晴らしいなどという戯言はさすがに最近メディアでも言われなくなりましたが、2000年頃の医療バッシングが始まった頃は日本の医師は米国の医療を見習えなどと実態を知らないメディアからよく言われたものです。私は「米国は医学は一流だけど医療は三流だ」と当時から言い続けていましたが、やっと米国医療の実態が理解されてきたということでしょう。

 

日本がTPPに参加して、いずれ混合診療が解禁になっても日本の医療はメリーランド州型の統一医療費の設定がなされるだろうとは思います。しかし現在の日本の自由診療(美容整形や歯科など)は米国の医療と同様それぞれの医療費をいくらに設定しても自由である形式なので、米国型の医療保険導入や解禁後の報酬額の設定についてはかなり注意して行く必要がありそうです。

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