ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングやメールカウンセリングなどをやっています

村上春樹『辺境・近境』2000・新潮文庫-その場に立って、触れて、はじめてわかることがある。

2024年01月29日 | 村上春樹さんを読む

 2024年1月のブログです

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 村上春樹さんの『辺境・近境』(2000・新潮文庫)をかなり久しぶりに再読する。

 じーじにしてはめずらしく、少し内容を覚えているような気がしていて再読が遅れたが、いざ読んでみると、やはりほとんど覚えていなくて、またまた新鮮に読んでしまった(?)。

 本の帯に、その場に立って、触れて、はじめてわかることがある。とあるが、村上さんの言いたいことは、ずばりここなのだろうと思う。

 今は、テレビやSNSなどで、なんとなくわかったような気になってしまうことが多いが、やはり本物や本当のところは、現場に行って体感しなければわからないものなのだろうと思う。

 もちろん、現場に行ったからといって、本当のところがどれだけ理解できるかは、その人のちからや知識や出会いや時期などにも左右されるのだろうが、すべてがわからないにしても、現場に立って、現場の空気を吸うことは大切なようである。

 さて、本書で、村上さんは七つの旅をする。

 メキシコやノモンハン、アメリカ、といった海外の旅や、なぜか、村上島という無人島や讃岐うどん、そして、神戸などの国内の旅。

 シリアスな旅やユーモラスな旅がいっぱいで、深刻に考えたり、笑ったり、となかなか忙しい本だ。

 個人的には、讃岐うどんの旅に出てくる雑誌「ハイファッション」の担当のマツオさんという女性が面白かった。

 すごい美人ちゃんだったら困るが(?)、どうなのだろう。

 そして、一番印象に残ったのはやはりノモンハンの旅。

 ノモンハンの事件は、日本史ではあっさりと通りすぎてしまった記憶しかないが、ご存じのように、太平洋戦争の少し前に、モンゴルのノモンハンで、満州国とモンゴルの国境争いから、日本とソ連が戦った事件というか戦争で、日本が大敗した。

 日本はこの結果を直視せず、中国侵略やアジア侵略をさらに進めて太平洋戦争に突入するが、ノモンハンの戦争は本当に悲惨で、それが刺激の一つになって、村上さんは『ねじまき鳥クロニクル』を書いたようだ。

 この旅行記も戦場の様子などが詳しく書かれていて、参考になるし、村上さんの国家の冷酷さへの糾弾と、庶民の哀しさへの共感がすごく感じられる旅行記だ。

 正月早々、いい旅行記を読めて、幸せである。   (2024.1 記)

 

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皆川明『ミナを着て旅に出よう』2014・文春文庫-ナチュラルを大切にするテキスタイル・ファッションデザイナーに学ぶ

2024年01月28日 | 随筆を読む

 今日のEテレ日曜美術館を見ていたら、皆川明さんが出てきました。

 たぶん2016年にもテレビで拝見をして感動し、さっそく本を読み、書いたと思われるブログがありますので、再録します。  (2020 . 1 記)

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 ファッションブランド・ミナペルホネンの皆川明さんが書いた『ミナを着て旅に出よう』(2014・文春文庫)を読みました。

 実は先日、テレビを見ていたら、皆川さんの仕事ぶりを特集している番組をやっていて、皆川さんのことはその時初めて知ったのですが、最初はなにげなく見ているうちにどんどんひき込まれてしまいました。

 皆川さんのデザインやファッションについて話す内容がとても自然体で、ファッションのことにうといじーじにもいちいちうなずけることが多く、じーじにとってはそれにとどまらずに、カウンセリングや人間の生き方などにも参考になるような話が多くありました。

 じーじはファッションのことはまったくわからないのですが、たぶん女性のかたがたは知っておられるかたも多いのでしょうね。 

 本書と一緒に読んでいた皆川さんの『皆川明の旅のかけら』(2003・文化出版局)の写真を見ますと、素敵なデザインの生地や洋服がいっぱいで、思わず娘や孫娘たちにプレゼントしてあげたいな、と思うようなものも多くありました。

 皆川さんの魅力は、じーじのような人間がいうのもなんですが、ナチュラル、シンプル、やさしさ、あったかさ、などなどでしょうか。

 もちろん、デザインの美しさ、素敵さはもちろんなのですが、その底流にここち良さややわらかさみたいなものをすごく感じます。 

 努力の上でのナチュラルやシンプルが大切なのは、カウンセリングにも共通だと思います。

 いい仕事人に会えて幸せです。   (2016?記)

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 2022年夏の追記です

 今日、ある方のブログを見ていたら、ミナ・ぺルホネンの新作を紹介しておられました。

 洋服にはうといジージですが、あいかわらず素敵だなと思いました。   (2022.8 記)

 

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本多勝一『北海道探検記』1985・集英社文庫-人のいない北海道を歩く

2024年01月27日 | 北海道を読む

 2020年2月のブログです

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 本多勝一さんの『北海道探検記』(改訂版・1985・集英社文庫)を再読しました。

 この本もかなりひさしぶり。

 本棚の隅っこに隠れていたのを(?)見つけて読みました。

 探検記、ということで、観光地ではなく、人のいないところを訪ねる旅です。

 人混みが嫌いらしい(?)本多さんと意見が一致してしまい、思わず引き込まれてしまいました。

 知床の山奥、離島、根釧原野、天北の開拓地などを巡りますが、今回、わたしが印象に残ったのが、日高の奥高見部落。

 当時の5級僻地校という少人数の学校が紹介されていますが、ここがすばらしい。

 子どもたちの夢が、海を見ること、という山奥の素朴な子どもたち。

 授業は複数の学年が一緒の複式学級ですが、地元出身の先生が中心となって音楽教育に力を入れていて、日高地区のコンクールで優勝をしたりしています。

 本多さんにもすばらしい演奏を披露して、本多さんは本気で感動をされます。

 成績よりも大切なものを大事にしている先生方の努力に脱帽をされます。

 しかし、数年後に再訪をしようとしますが、部落は全員引き揚げで消滅、学校も廃校となってしまいます。

 北海道の厳しい現実と直面をする旅でもあります。

 根釧原野や天北でも同じようなケースに遭遇。

 敗戦直前の拓北農兵隊を思い出させるような、無謀な開拓の姿を見せつけられます。

 もっとも、その自然の厳しさが北海道の魅力でもあります。

 今年の夏は、本多さんの『北海道探検記』を片手に、あちこちを回ってみたいと思いました。   (2020.2 記)

 

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更科源蔵『北海道の旅』1979・新潮文庫-北海道を再発見する旅

2024年01月25日 | 北海道を読む

 2020年1月のブログです

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 更科源蔵さんの『北海道の旅』(1979・新潮文庫)をかなり久しぶりに再読しました。

 だいぶ前に古本屋さんで買った本で、150円というシールが貼ってあります。

 しかし、中身はなかなか充実しています。

 どさんこのじーじでも、へえー、そうなんだ、とびっくりするような内容がたくさん出てきます。

 特に、火山や地震など、自然関係の知識で教えられることが多くありました。

 今はまったく静かに見える山や湖が、近くは明治や江戸時代の頃に大きな変動があったりして、驚かされます。

 北海道の自然の美しさを見る眼が少し豊かになるような気がします。

 また、自然だけではなく、アイヌやオホーツク人の人々の生活やその後の和人の進出など、歴史を考える内容も豊富です。

 更科さんは道東の開拓部落の出身、その苦闘ぶりは小説『原野』などに詳しいですが、そういうこともあってか、開拓と人々の生活、近代化と自然などなど、考えさせられるテーマは多いです。

 今年の夏の北海道旅行が楽しみになってきました。  (2020.1 記)

 

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東直己『後ろ傷』2006・双葉社-『ススキノ、ハーフボイルド』の秀才くんが北大を落ちてからのお話です

2024年01月24日 | 北海道を読む

 2020年1月のブログです

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 東直己さんの『後ろ傷』(2006・双葉社)を再読しました。

 昨年末に、東さんの『半端者』を久しぶりに読んで以来(ブログがありますので、よかったら読んでみてください)、不覚にも東ワールドにすっかりはまってしまい、年末年始はススキノ探偵シリーズにどっぷり浸かってしまいました。

 探偵シリーズの姉妹編(?)で札幌南高の秀才を描く『ススキノ、ハーフボイルド』(2003・双葉社)(すみません、まだ、感想文が書けていません)も面白く、当然(?)、続編の本書も読んでしまいました。

 主人公は北大合格が間違いなしと思われていたところが、まさかの不合格。

 やけになって偏差値最下位の道央学院国際グローバル大(略してグロ大)に進学しますが、そこで自他のさまざまな偏見に気づかされ、青春の悩み(!)と直面します。

 学友との交友などで新たな発見もあったりして、少しずつ精神的に成長をするわけですが、そこにススキノ探偵らの素敵なおとながからんできて、物語が展開します。

 社会問題や歴史、さらには、東さんの専門だった哲学のお話なども出てきて(東さんは北大哲学科中退です)、なかなか教養あふれる(?)いい小説です。

 主人公のガールフレンドとの交際も初々しく、青年の成長のお話でもあります(今どき、こんな男女はいなくなったかもしれませんが…)。

 蛇足ですが、裁判所の法廷の場面も出てきて、裁判所で働いてきたじーじにはとても面白く読めました。

 切ない小説でもありますが、ところどころにユーモアが散りばめられていて、ドキドキしながら読み進められます。

 読後感は悪くありません。

 いい小説を読めて、いい年末年始だったなと思います。   (2020.1 記)

 

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桂望実『ボーイズ・ビー』2007・幻冬舎文庫-小学男子と老靴職人の不思議な物語

2024年01月23日 | 小説を読む

 2020年2月のブログです

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 桂望実さんの『ボーイズ・ビー』(2007・幻冬舎文庫)を再読しました。

 面白かったです。

 12歳の男の子と70歳の靴職人との物語。

 男の子は母親を病気でなくしたばかりで、小1の弟の面倒を見ていますが、弟は母親の死がよくわかっていない様子。

 いろいろと心配事が絶えません。

 消防士のお父さんからは、お兄ちゃんだから、弟の面倒を見てやってくれ、と頼まれますが、自分も泣きたい気分を抱えています。

 一方の、70歳の靴職人。

 頑固一徹の職人ですが、年齢のせいか、納得できる靴づくりができなくなってきていて、悩んでいます。

 そんな二人が出会い、子どもの悩みに老靴職人が応じて、さまざまなドタバタ劇が起こります。

 とても楽しいですし、微笑ましいです。

 時には、喧嘩もしたり、仲直りをしたり、じーじと坊やのてんやわんやの冒険談です。

 そして、子どもの願いに周りのおとなも気づいて、おとなも成長します。

 正解はないのですが、わからないことはわからないままで進んでいこう、という物語なのかもしれません。

 読後感はさわやかです。

 いい小説だなあ、と思いました。  (2020.2 記)

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 2020年7月の追記です

 当時は気がつきませんでしたが、わからないことはわからないままに、というのは、あいまいさに耐える、という、ネガティブ・ケイパビリティ(負の能力、消極的能力)に通じているようです。  (2020.7 記)

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 2021年1月の追記です

 ネガティブ・ケイパビリティについては、「居心地」さんのブログが、2020年6月に、精神科医で小説家の帚木蓬生さんの『ネガティブ・ケイパビリティ』(2017・朝日新聞出版)という本をていねいにご紹介されていて、とても参考になります。   (2021. 1 記)

 

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樋口有介『横浜ではまだキスをしない』2018・ハルキ文庫-本の帯に「ザ・青春ミステリーの登場」とあります

2024年01月22日 | 樋口有介さんを読む

 2018年のブログです

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 樋口有介さんの『横浜ではまだキスをしない』(2018・ハルキ文庫)を読みました。

 すごーく面白かったです。

 久しぶりに有介ワールドを堪能しました。

 じーじは樋口有介さんの小説が大好きですが、世間的にはどうなのでしょう。

 じーじにとっては、村上春樹さんと先日ご紹介をした東直己さん、そして、樋口有介さんの3人が現代日本の小説作家のベスト3ではないかとひそかに思っています。

 3人とも文章がうまいですし、お話は一見、軽妙ですが、なかみはかなり深いです。

 その人間観察、表現、ストーリー、内包している物語、男女のありかた、などなどは、とても読んでいて小気味よい感じがします。

 さて、本書、久しぶりに樋口さんのデビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』(第6回サントリーミステリー大賞読者賞受賞作)を思い出させるような男子高校生が主人公の青春推理小説です。

 樋口さんには柚木草平シリーズという私立探偵ものの小説があって、これもとても面白くて、いい小説シリーズですが、それにひけをとらないくらいの推理小説になっていて、あらすじはあえてご紹介しませんが、最後までどきどきしながら読み進められます。

 登場人物は、樋口さんお得意の、それぞれに魅力的な老若男女で、人間観察がなかなか深いです。

 何より読後感がすがすがしいです。

 生きることの哀しみがしみじみと胸にせまっていますが、しかし、生きることはやっぱりいいな、と思わせてくれる、いい小説です。

 若い人だけでなく、中年や老年の人生にややくだびれてきた人にもぜひおすすめの一冊です。  (2018 記)

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 2020年6月の追記です

 先日、息子がじーじの本棚から、樋口有介さんの本を何冊か持っていきました。

 息子もファンのようです。

 ちょっとだけ、うれしかったです。  (2020.6 記)

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 2021年夏の追記です

 最初の時に書き忘れたのですが、この小説の重要な登場人物(?)のひとりが幽霊と共存しているネコちゃんで、この彼女(?)がいい味を出しています。

 小説ですからね、許されますよね(?)。

 なかなか存在感のあるかわいいネコちゃんです。

 そういえば、樋口さんの『窓の外は向日葵の畑』(2010・文藝春秋)にも幼なじみのかわいい幽霊が出てきますね。

 樋口さんは若い女性だけでなく、幽霊もお好き(?)なのかもしれません。  (2021.8 記)

 

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渡辺一史『北の無人駅から』2011・北海道新聞社-北海道を読む

2024年01月15日 | 北海道を読む

 2015年のブログです

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 本棚からまた北海道の本を見つけました。

 渡辺一史さんの『北の無人駅から』(2011・北海道新聞社)。

 4年ぶりです。

 北海道の六つの無人駅にまつわるエッセー集です。

 じーじが特におもしろく読んだのは釧網本線の茅沼駅の文章。

 前回は読み方が浅かったのか,今回もまったく新鮮に読めました。

 いい本はこういう楽しみがあります。

 絶滅寸前だったタンチョウにかかわるいろいろな人々の行ないや思いなどが綴られていて,考えさせられます。

 また,いちどは絶滅をしてしまった新潟のトキなどとの対比についても書かれていて,こちらも考えさせられます。

 そして,自然保護や生活や開発,動物との共存など,表面的でない深い思索と地についた取材と考察が見事です。

 北海道新聞は北海道の地元の新聞ですが,なかなか硬派で,北海道に旅行をした時は愛読をしています。

 今後も良い記事と書籍を発行していってほしいなと思いました。      (2015 記)

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 2024年1月の追記です

 家裁調査官の仕事をしていた頃、出張で無人駅を利用することが時々ありました。

 無人駅なので、駅前からバスが出ているようなことも少なく、たいていは当事者のお宅まで歩きましたが、雨や雪などの時には苦労しました。

 仕事を終えて、無人駅に戻っても、自販機などがないところもあって、持参の水を飲んだりして、列車を待ったものです。

 しかし、そんな無人駅でも、列車通学をしている高校生が必ずいて、感心をしました。

 無人駅と通学列車は、高校生にとってはとても大切な存在であることを実感しました。

 天気が悪い時などは大変でしょうが、そういう苦労は後で必ず生きてくると思います。

 頑張れ!高校生。  (2024.1 記)

 

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星野知子『トイレのない旅』1997・講談社文庫-新潟美人ちゃんの秘境探検記です

2024年01月12日 | 随筆を読む

 2019年のブログです

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 新潟美人ちゃんの星野知子さんの『トイレのない旅』(1997・講談社文庫)を再読しました。 

 去年の後半、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んでいましたが、沢木さんが泊まる安宿はシャワーが水だけだったりして、たいへんなところが多く、それを読んで、じーじは、それではトイレはどうなのだろう?と少し疑問を持ちました。

 トイレは問題がなかったのか、それともダンディーな沢木さんなので、トイレのことはあえて触れなかったのか(じーじは後者かなと思いますが…)、気になっていました。

 その点、じーじの尊敬する椎名誠さんは、トイレの話が大好きで(?)、トイレのリポートが詳しいですし(?)、トイレのお話だけで一冊の本を出している(!)ほどです。

 そんなことから、ある日、本棚を眺めていたところ、本書を見つけてしまいました。

 あの新潟美人ちゃんの星野さんの、トイレのない秘境探検記です。

 ペルー、シベリア、中国雲南省と、まさしく、秘境中の秘境の旅。

 どこも満足なトイレがないところで、星野さんはさんざん苦労をしますが、星野さん流の人々との交流がとても心地よく、読んでいて楽しいです。

 新潟美人ちゃんは意外とタフで(うちの奥さんもそうですが…)、どんな困難もものともせず、前に進みます。

 星野さんもその美しさに似合わず、かなりタフで、なかなかです。

 さまざまな困難を乗り越え、どこでもよく眠り、なんでも食べてしまう様子は本当に感心させられます。

 人間への好奇心、人生への好奇心、そして、生きていることを楽しめる遊びごごろ、それらが大切なことを教えてくれるようです。

 いい本を再読できて、良かったなと思います。        (2019.1 記)
 
 

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マイクル・コナリー(古沢嘉通訳)『ブラックボックス』(上・下)2017・講談社文庫

2024年01月11日 | 小説を読む

 2018年のブログです

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 この間読んだマイクル・コナリーさんの『転落の街』がとても面白かったので、最新作の『ブラックボックス』(上・下)(2017・講談社文庫)も読んでみました。

 こちらも、ボッシュ刑事のシリーズの一冊ですが、ドキドキ、ハラハラで、すごい小説です。

 詳しくは書けませんが、ロサンゼルス暴動やイラク戦争に関係した犯罪をめぐって、ボッシュ刑事の野生の魂が叫ぶかのような刑事ものです。

 前作同様、官僚制に支配された警察組織の中で、ボッシュはただ被害者やその家族の無念さを決して忘れずに、困難さと闘います。

 現実の世の中では、つい長いものに巻かれてしまいがちなわたくしたちの目を覚ましてくれるかのような行動に、ドキドキしながらも読者は一体化してしまいます。

 ここがこの警察小説の真骨頂でしょう。 

  また、アメリカらしく、再婚同士の恋愛模様やそれぞれの家族との葛藤も描かれ、私生活でもことは楽天的にはなりえない社会が描かれます。

 何が正義で何が悪か、簡単には見極められない、時間と丁寧な生き方を貫かないとわかってこないような現代の世の中がこまやかに描かれます。

 読者も単純な判断はできず、読者は時間と丁寧さと誠実さを持って読み進めなければ、ボッシュ刑事との理解を分かち合えないような、複雑で、深い事態も描かれます。

 そこには、人々への深くて、温かで、確かなまなざしが感じられます。

 だからこそ、年寄りのじーじのような読者にも心地よい満足を与えてくれるのだろうと思います。

 組織や国家、人生や社会を深く考えてみたい人や正義や悪、救いなどを感じてみたい人などにはおすすめの小説だと思います。  (2018.1 記)

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 2020年11月の追記です

 今ごろ、気がつきましたが、ここでも、単純な二分法に陥らずに、あいまいさに耐えることの大切さが描かれているようです。  (2020. 11 記)

 

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