ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングやメールカウンセリングなどをやっています

伊坂幸太郎『サブマリン』2016・講談社-陣内くん、主任家裁調査官になる

2024年12月17日 | 小説を読む

 2017年のブログです

     *   

 伊坂幸太郎さんの『サブマリン』(2016・講談社)を読みました。

 名作『チルドレン』に続く、家裁調査官の陣内くんと武藤くんの物語です。

 2016年3月出版の小説ですが、家裁調査官をやめてしまって情報に疎くなっていたのか、つい最近になってようやく、このすばらしい小説の存在に気がついて、読むことができました。

 おもしろかったです。

 笑ったり、泣いたりで、忙しい小説でした。

 あらすじは書きません。

 書く能力がないせいもありますが(?)、この小説はぜひ、自分でじっくりと味わってほしいと思います。

 いろんな人物が出てきます。

 復讐に燃えていた少年、パソコンでしか世の中が見えなくなっていた少年、その家族、交通事故の加害少年だった青年、主任になったもののマイペースの陣内くん、結婚をして小さな子ども二人の父親になった武藤くん、一見冷めている女性調査官の木更津さん、さらには、盲目の永瀬さん、永瀬さんと結婚をした優子さん、などなど。

 人の憎しみと救い、助けと喜び、罪と罰、善と悪、苦しみと愛、などなど、声高ではないですが、触れられているテーマは深いです。

 家裁調査官、その組織は、じーじには少し窮屈で、在職中はやや息苦しい思いをしていましたが、しかし、この仕事はとても大変ですが、やはり素敵だと思います。

 陣内くんや武藤くんのような自由で自立した調査官が活躍できるようなおおらかな家庭裁判所であってほしいな、と外野からも応援したいなと思います。         (2017 記)

     *

 2020年12月の追記です

 同じく家裁調査官補ちゃんの活躍を描く柚月裕子さんの『あしたの君へ』(2019・文春文庫)も面白いですよ。       (2020.12 記)

 

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野沢尚『反乱のボヤージュ』2004・集英社文庫-古びた学生寮の取り壊しをめぐる人間模様

2024年12月12日 | 小説を読む

 2021年12月のブログです

     *

 野沢尚さんの『反乱のボヤージュ』(2004・集英社文庫)を読む。

 すごく久しぶり。

 当然、内容は全く忘れていて、若者小説なので、あまり期待しないで読み始めたが(野沢さん、ごめんなさい)、これがすごい面白い。

 じーじの中で、今年のベスト3に入りそう。

 ある大学の、古びた学生寮の取り壊しをめぐる人間模様。

 例によって、あらすじは控えるが、自治会の学生、ノンポリの学生、運動部、応援団、途中から加わる舎監、などなどの中で、主人公の成長が描かれる。

 ノンポリの学生も、みんな、さまざまな事情を抱えていて、それを描く野沢さんの筆はすごい。

 そして、温かい。

 それが単に甘いだけでなく、生きる切実さを伴っているので、深く、哀しい。

 なかなか深い良質の小説だ。

 以前、読んだ時には、ひょっとすると、この深さがよくわからなかったのかもしれない。反省。

 しかし、この年になってでも、こういう良さを味わえたことは幸せだ思う。

 うっかりもののじーじゆえ、こういう読み落としもきっとたくさんあるに違いない。

 謙虚に読書と勉強に励みたい。        (2021.12 記)

 

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あだち充『じんべえ』1997・小学館-血のつながらない娘を育てる中年男子とその娘の微妙な関係を描くおとなのマンガです

2024年12月08日 | 小説を読む

 2024年12月のブログです

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 あだち充さんの『じんべえ』(1997・小学館)を久しぶりに読む。

 今年の能登半島地震で崩れた本の山を積み直していると(今もなんと(!)作業継続中です)、下のほうに偶然、見つける。

 1997年の本で、その後、一度、読んだ記憶がかすかにあるが、すごく久しぶり。

 作業を中断して、読んでしまった。

 もともとは、「ビックコミックオリジナル」に連載されたらしい(「ビックコミックオリジナル」は『家栽の人』(知っているかなあ?)を連載していたことがあり、なかなかいいおとなのマンガ雑誌だ)。

 血のつながらない娘を育てる中年男子とその娘を描くおとなのマンガ。

 両者の微妙な心理がとてもうまく、丁寧に描かれていて、感心する。

 下手な小説より、心理描写が繊細で、すごいと思う。

 無理に例えるならば、荻原浩さんの小説をマンガにしたような感じ(荻原さんの小説を知らない人は、何のこっちゃ、と思うだろうが、知っている人はうなづいてくれるかもしれない)。

 中年男子の生きる辛さや哀しみ、優しさ、怒りなどと、少女の淋しさや哀しみ、喜びなどが、あだちさんの美しいマンガで、ユーモラスにうまく描かれる。

 名作だと思う。

 それにしても、あだちさんのマンガは、人間関係が複雑で、優しいが、哀しい物語が多い。

 まさか、売り上げを伸ばすためにあえて複雑な人間関係にしているわけではないのだろうが(多少、そういうこともあるのかもしれない(?)。あだちさん、ごめんなさい)、それにしても物語が哀しすぎる。

 まあ、人生は哀しいものだから(?)…ねぇ。

 こういう表現にしないと描けないものを、あだちさんがなにか人生に感じているのだろうなあ、と思う。

 いずれにしても、マンガではあるが、すごい名作だ。        (2024.12 記)

 

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堀江敏幸『なずな』2014・集英社文庫-生後2か月の赤ちゃんとおじさん男子の楽しい物語です

2024年12月01日 | 小説を読む

 2019年のブログです

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 堀江敏幸さんの『なずな』(2014・集英社文庫)を読みました。

 堀江さんの小説は、今年の夏、北海道にいる時にたくさん読みましたが、この小説はなぜか読みそびれていました(堀江さん、ごめんなさい)。

 なずなちゃん。生後2か月。

 お母さんとお父さんのよんどころのないご事情から、なんと、お父さんのお兄さんである四十路独身のおじさん男子の主人公が一時的に預かることになります。

 預かるったって、生後2か月の赤ちゃん、そのお世話はたいへんです。

 じーじも共働きだったので、子育てのたいへんさは少しだけわかりますが、まず寝不足、そして、悪魔のような赤ちゃんの要求に振り回されます。

 そう、それはまさしく悪魔のよう。

 かわいい顔をして、悪魔のような要求、最初のうちはおとなにも、そして、おそらくは赤ちゃん自身もよくわかっていない要求をします。

 おとなたちはフラフラ、じーじたち夫婦も二人いてもフラフラでした。

 それを、四十路独身男子の主人公が、周囲の応援も得て、頑張ります。

 うーん、頑張るというよりは、だんだんと手の抜き方を覚え、一緒にお昼寝ができるようになります。

 なずなちゃんは健康な赤ちゃん、いっぱいミルクをのみ、いっぱいげっぷをして、いっぱいブリブリブリとうんちをします。

 主人公はそのお世話をしながら、だんだんとなずなちゃんのこまやかな成長に気づき、喜びを感じ、楽しい時間を共有します。

 その過程がていねいに、こまやかに、情感たっぷりに描かれる素敵な小説です。

 読んでいると、なんとなく幸せになれるいい小説です。

 おすすめです。       (2019. 11 記)

 

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池永陽『コンビニ・ララバイ』2005・集英社文庫-「赦し」と「救い」を問う

2024年11月29日 | 小説を読む

 2018年のブログです

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 池永陽さんの『コンビニ・ララバイ』(2005・集英社文庫)を読みました。

 いい小説です。

 おとなの小説です。

 実は読んでいる途中で、前に一度読んだことがあるような気がしてきて、既視感も確かに感じたりもしたのですが、しかし、あいかわらず記憶があいまいで(!)、もっとも、このすばらしいラストは本当に新鮮に読めましたので、やはり初めてなのかな、と思ったりしました。

 まあ、大切なことは、1回目か、2回目か、という事実はどうであれ(?)、いずれにせよ、今の64歳のじーじにとって、初めての(あるいは、初めてと同様の)いい小説に出会てよかった、ということが真実だということでいいのではないか、と思っていますが、どうなのでしょうか。

 事実と真実の問題というのは臨床心理学的にも大きな問題だと思うのですが、これを機にじーじもこの問題にチャレンジしていこう(?)と思っています。

 さて、例によって、あらすじはあえて書きません。

 池永ワールドを堪能したい人は本書を購入して、じっくり味わってくださいね。

 ただし、性的な場面も少し出てきますので(なんせ、おとなの小説ですからしかたありません)、20歳未満の人は遠慮してもらったほうがいいかもしれません。 

 さらには、内容や伝えたいことがらがおとなの世界のことなので、精神年齢が20歳、あるいは、30歳、ひょっとすると、40歳以上でないと、しっかりとは理解できない小説かもしれません。

 個人的には、主人公が亡くなった奥さんの言葉に救われる場面がいいなあと思ったのですが、人が精神的に救われるということも臨床心理学的に、さらには、宗教的にも、相当に大きな、難しい問題だろうと思います。

 このあたりは、50歳、60歳になっても、理解できたとはいえませんし、永遠の課題なのでしょう。

 池永ワールドに浸りながら、ゆるりゆるりと考えたいと思います。

 なお、北上次郎さんの解説によれば、本書は「本の雑誌」が選ぶ2002年上半期ベスト1に選ばれたということで、本当に秀作だと思います。        (2018.11 記)

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 2024年11月の追記です

 6年前の文章です。

 若気の至りで、なんか挑戦的な雰囲気が漂っていて(?)、今、読んでいて、少し恥ずかしくなりました。

 問題意識は今も変わりません。

 回答は当然、出ていません。

 わからないことに耐えることが大切ですからね(?)。

 わからないことに耐えることは長生きの秘訣かもしれません。        (2024.11 記)

 

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高橋三千綱『九月の空』1978・河出書房新社-剣道に生きる高校男子を爽やかに描く

2024年11月27日 | 小説を読む

 2024年11月のブログです

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 高橋三千綱さんの『九月の空』(1978・河出書房新社)を読む。

 上の孫娘が中学校の部活で剣道をやっていて、何か参考になる小説はないかな?と考えていると、高橋さんの『九月の空』を思い出した。

 確か、高校男子が主人公の小説だったな、中学女子の孫娘にお薦めしても大丈夫かな?とチェックをしながら(?)読む。

 高校の剣道部で、ひたすら練習に励む主人公を描いていて、爽やかでいい小説だ。

 ただ、高校男子が主人公だけに、当然(?)、性のテーマも出てくる。

 それほど過激な描写はないが、やはり中学女子には少し早いか?と過保護なじーじ(?)はやや心配になり、お薦めは高校進学後にしようと決断する(?)。

 それにしても、おとなが読むには、とても素敵で爽やかな小説だ。

 高校男子の迷いや戸惑いなどがとてもよく描けていると思う。

 こんな時代があったよな、とおくてだった(?)じーじでも思う。

 男女交際の場面など、とても初々しくて、よい。

 さすが芥川賞受賞作品だ。

 孫娘が高校に入ったら、それとなくその辺に置いておいて、読んでもらえたらいいなあ、と思ったりしているじーじである。      (2024.11 記)

 

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あだち充『H2』(全34巻)2000・小学館-こちらも青春真っただ中のお話ですよ!

2024年11月19日 | 小説を読む

 2024年11月のブログです

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 能登半島地震で崩れたじーじの部屋の本の山の積み直し作業は今も継続中。

 先週は、なんと、あだち充さんの『H2』を発見してしまった。

 なつかしい!

 20年ぶり!

 さっそく、読んでしまう。

 これが名作!

 野球マンガといえば、『タッチ』を連想するが、さらに深化している感じ。

 『タッチ』は三者関係(?)のマンガだったが、こちらは四者関係(?)、と人間関係も成熟を示している(?)。

 ハラハラ、ドキドキ、で年寄りのじーじの心臓にも悪い(?)。

 まさに、青春真っただ中!だ。

 しかも、今回は、脇役への目配りも丁寧で、あだちさんもおとなになったようだ(あだちさん、ごめんなさい)。

 34巻が必要だった理由もわかる。

 主人公の幼なじみのお母さんが亡くなる場面では、じーじは久しぶりに号泣をしてしまった。

 あだちさんのマンガにおなじみの、ユーモアだけではない、生と死、喪失と再生のテーマは健在だ。

 へたな小説より奥が深い世界が展開する。

 こちらも名作として残るのではないだろうか。

 素敵な野球マンガを楽しめて、ごきげんな1週間だった。        (2024.11 記)

 

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池澤夏樹『タマリンドの木』(1999・文春文庫)-おとなの真摯な恋愛を描く小説です

2024年11月18日 | 小説を読む

 2020年11月のブログです

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 本棚を眺めていたら、池澤夏樹さんの小説『タマリンドの木』(1999・文春文庫)が目に入ったので、久しぶりに読みました。

 おそらく20年ぶりくらい(池澤さん、ごめんなさい)。

 当然(?)、なかみは忘れていて、またまたどきどきしながら読みました。

 池澤さんにはめずらしく(?)すごい恋愛小説(池澤さん、ふたたびごめんなさい)。

 それもかなり純粋なおとなの恋愛小説です。

 66歳のじーじでもどきどきしながら読みました。

 例によって、あらすじは書きませんが、エンジニアの男性と海外ボランティアの女性の恋。

 一緒に住むことはとても難しい男女の切ない恋物語が、すごく真面目に展開をして、はらはら、どきどきしてしまいます。

 物語のちからはすごいです。

 じーじでも本当にどきどきしてしまいます。

 この男女が、真面目に自分たちのこと、そして、周囲の人たちのことを考えているからこそ、のちからなのでしょう。

 読んでいると、汚れきったじーじのこころも、少しだけピュア(?)になったような錯覚がします。

 それが良質な小説や物語のちから。

 あらためて感じました。

 いい小説が読めて、今日も少しだけ幸せです。        (2020.11 記)

 

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佐々木譲『警官の条件』2014・新潮文庫-組織の無責任さと男の生きざまを描く警察小説

2024年11月12日 | 小説を読む

 2020年11月のブログです

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 佐々木譲さんの『警官の条件』(2014・新潮文庫)を久しぶりに読みました。

 6年ぶり。

 例によって、細かいところは忘れていたので、またまた、ハラハラ、ドキドキしながら読んでしまいました。

 警察官三代目の真面目な主人公(佐々木さんの『警官の血』(上・下)(2010・新潮文庫)に登場)と、陰で「悪徳警官」と噂される派手な先輩刑事。

 この二人の警察組織における生きざまと組織の論理とのせめぎあい、そして、二人の男としての人生が描かれます。

 あらすじはあえて書きませんが、すごい小説です。

 佐々木さんは警察組織と暴力団を描かせるとぴかいちの作家さんですが、本当に詳しく、感心します。

 とてもリアルに読めます。

 そして、組織と個人の問題。

 佐々木さんの警察小説ではいつも焦点となりますし、また、マイクル・コナリーの描くボッシュ刑事などもいつも悩まされている課題です。

 もっとも、考えてみれば、これは社会的な存在として生きる人間にとっては、永遠のテーマかもしれません。

 どんな組織、会社であれ、そこで良心的に働こうと思えば、必ずどこかで直面するテーマなのでしょう。

 そこでどう振る舞い、何を大切にして生きるのかが、人生を決めるのかもしれません。

 運が悪ければ、命を落とす人もいるかもしれません。

 そういうギリギリのところで生きる人たちを描くからこそ、良質の物語になるのだろうと思います。

 せっかくの人生、後悔のないように精一杯生きていきたいと思います。         (2020. 11 記)

 

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佐伯一麦『ショート・サーキット-佐伯一麦初期作品集』2015・講談社文芸文庫

2024年11月11日 | 小説を読む

 2018年のブログです

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 佐伯一麦さんの『ショート・サーキット-佐伯一麦初期作品集』(2015・講談社文芸文庫)を読みました。

 またまた佐伯さんの小説で、このところ、じーじは(佐伯)一麦ワールドと(樋口)有介ワールドにハマってしまった感じです。

 佐伯さんが初期に書かれた小説から選ばれた作品集ですが、なかなか読み応えがあります。

 あらためて思ったのは、佐伯さんは文章がうまいな、ということ。

 丁寧で、美しい日本語です。

 誰が下手とはいいませんが(?)、佐伯さんの文章が端正なので、小説で描かれている世界が、夫婦の不和や仕事上の大変さなど、かなりヘビーな内容なのですが、気分はあまり悪くなりません。

 むしろ、悪戦苦闘をしながらも、誠実に生きている様が、丁寧な文章に乗って、淡々と、時には、すがすがしく、描かれているように感じます。

 印象的だったのは、子どもとのやりとりが描かれた場面。

 例えば、乗り物が苦手な長女が電車の中で気分が悪くなって吐いてしまった時、それを自分の洋服で受けて、子どもを守る父親の姿が描かれますが、弱い者を守る父親の姿がとてもいいです。

 人は弱い者を守ることでおとなになっていくんだな、とつくづく感じられます。

 そういうふとした場面を大切にしている小説家なんだな、ということがわかります。

 人と人の行き違いも描かれますが、淡々とどちらにも偏らずに描いているという感じがします。

 勧善懲悪ではない世界、人と人が支えあいながらも、迷惑を掛け合い、しかし、ともに生きていく、そんな感じでしょうか。

 したがって、読後感はとてもよくて、充実した感じがします。

 また、数年後に再読したいな、と思いました。          (2018. 10 記)

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 2023年4月の追記です

 つまらないことかもしれませんが、人は弱い者を守ることでおとなになっていくんだな、という一節がじーじは自分で少し気に入っています。        (2023.4 記)

 

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朝井リョウ『世界地図の下書き』2016・集英社文庫-苦難の中にいる子どもたちの友情と希望を描く

2024年11月10日 | 小説を読む

 2016年のブログです

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 若者の世界をていねいに描き続けている小説家、朝井リョウさんの『世界地図の下書き』(2016・集英社文庫)を読みました。

 子どもたちの苦しさの状況を描いた小説ですが、感動的な小説で、一気に読んでしまいました。

 朝井さんは若いのに、人々の苦しみや悲しさ、憎しみ、いやらしさ、醜さなどなどがよくわかっているようです。

 いや、若いからこそ、救いのないようないまの世の中がわかるのかもしれません。

 物語は家庭の事情などで親と別れて暮らしている児童養護施設の子どもたちの日常。

 家庭での虐待、学校でのいじめ、進学できない絶望的な状況などなど、いまの社会の現実が描かれます。

 そんな中で、わずかな希望や楽しみ、助け合い、がんばりなどが描かれます。

 虐待家族の虐待を超えての再統合、いじめを超える希望、たしかな大人からの援助などなど、いまの社会にも希望があることも描かれます。

 決して楽観的なことはひとつも描かれません。

 厳しい、過酷な現実がこれでもかと突きつけられますが、作者は希望を失うことはありません。

 先も思いやられますが、しかし、登場人物たちは涙を流しながらも、何とか生きていくのではないか、という予感を抱けます。

 楽観的ではないものの、決して悲観はせずに、しぶとく生きていけそうな、そんな小説だと思います。              (2016 記)

 

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瀬尾まいこ『僕の明日を照らして』2010・筑摩書房-虐待に負けないユーモアの力を感じて

2024年11月09日 | 小説を読む

 2011年、じーじは当時も村上ワールドに夢中になっていたようで、そんな中で瀬尾まいこさんのこの小説にも感心をしたらしく、ブログが残っていました。

 参考までに再録します。

     *  

 あいかわらず村上ワールドを読んでいます。

 最近は『羊をめぐる冒険』(2004・講談社文庫)や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(2010・新潮文庫)などなど…。

 『羊をめぐる冒険』は久しぶりにきちんと読んだのですが、舞台が札幌だけでなく、じーじのふるさとである旭川もちょこっとだけ出てきていることに気づいて嬉しかったです。

 さて、瀬尾さんですが、こちらも村上さんに負けずに面白かったです。

 『僕の明日を照らして』(2010・筑摩書房)は虐待を扱っていて、かなりシリアスな内容ですが、瀬尾さん特有のユーモアと優しさがあちこちにちりばめられていて、読んだあとにほのぼのとした気持ちと少しの勇気とたくさんの元気がもらえる本でした。

 瀬尾さんの本は『卵の緒』にしても、『幸福の食卓』や『天国はまだ遠く』などにしても、いずれも哀しさの中に独特のユーモアと優しさと温かさとそして小さな希望が描かれています。

 このあたりは少し質が異なるものの、村上さんとの共通点があるような気がします(作風はだいぶ違いますが、何か根本にあるユーモアの感覚みたいなものが似ているような気がしますが、どうでしょうか?)。

 今後も注目をしてゆきたい小説家の1人だなと思いました。

 今日もいい小説が読めて、おいしい晩酌が楽しめそうです。       (2011. 10  記)

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 2019年4月の追記

 瀬尾さんが本屋大賞を受賞されました。

 おめでとうございます。       (2019.4 記)

 

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あだち充『スローステップ』(全7巻)1991・小学館-青春真っただ中のお話ですよ!

2024年11月06日 | 小説を読む

 2024年11月のブログです

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 今年1月の能登半島地震で崩れたじーじの部屋の本の山はまだまだ崩れたままの状態。

 少しでも整理をしようと本を積み直していると、奥のほうにコミック本を発見した。

 あだち充さんの名作『タッチ』と『いつでも美空』。

 『タッチ』はさすがに記憶があるので(少々あやしいが…)、全く記憶がないが、主人公が中学女子という『いつでも美空』をパラパラとめくる。

 上の孫娘が中学生になったので、お薦め本を、と思って一所懸命に(?)読む。

 とても面白いコミックでいいかも(!)、と思ったのだが、少しエッチな場面があったり、怖い場面があったりしたので、孫娘がもう少し大きくなってから(?)お薦めしようと判断する。

 さらに、本の山を探すと、高校女子が主人公の同じあだち充さんの『スローステップ』(1991・小学館)を発見する。

 高校女子のお話だと中学生には少し早いかな?と思いながらも、こちらも一所懸命に点検すると(?)、これが大当たり、すごく面白い。

 例によって、あらすじはあえて書かないが、青春真っただ中の物語!という言葉がぴったり。

 ユーモアが上質で、つい笑ってしまい、家族にバレないように真面目な顔をして読む(?)。

 面白くて笑ってしまうだけではなく、高校生の切なさやおとなの哀しさや、あだち充さんの世界の底流に流れている生と死のテーマも少しだけ感じられて、完璧なあだち充ワールドだ!

 もともと『ちゃお』という少女向けのマンガ雑誌に連載をされていたらしく、中学女子が読んでも安全そうで(?)、孫娘たちにお勧めするのが楽しみになってきた。

 孫娘たちに自慢ができる一冊になるといいな!とひそかに期待をしているじーじである。       (2024.11 記)

 

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宮下奈都 『静かな雨』2019・文春文庫-一所懸命に生きる二組の男女を描く

2024年10月26日 | 小説を読む

 2019年のブログです

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 宮下奈都さんの『静かな雨』(2019・文春文庫)を読みました。

 表題作の「静かな雨」は雑誌『文学界』2004年6月号に掲載されたなんと宮下さんのデビュー作。

 それから15年しか経っていませんが、宮下さんは今や本屋大賞を受賞するような作家さんです。

 デビュー作とはいえ、「静かな雨」は完成度の高いいい小説です。

 交通事故で記憶力を失った女性とそれを支える男性の物語ですが、特に、女性の姿がすばらしいです。

 おおらかで、生き生きとしていて、もちろん、哀しみを抱えていますが、めそめそはしていません。

 静かな、静寂の中に、しっかりと生きています。

 男性やその家族も温かいです。

 びっくりしたのは男性の行助という名前。

 彼のお父さんが立原正秋さんの『冬の旅』のファンという設定ですが、宮下さんも立原正秋さんファンなのかな?

 さらに、併録の「日をつなぐ」は2008年の作品ですが、こちらも若々しい小説。

 若い夫婦に子どもが生まれて、その子育ての苦労をうまく書いていますが、なかなかリアルです。

 苦闘の末に、希望を見出したように見えますが、はたして二人の行方はいかに?という感じです。

 いい小説を二つも読めて、幸せな10月です。        (2019. 10記)

 

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南木佳士『陽子の一日』2015・文春文庫-不器用に、無骨に、ゆっくりと生きる人たちを描く

2024年10月18日 | 小説を読む

 2015年のブログです

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 じーじの大好きな小説家の南木佳士さんの文庫最新作『陽子の一日』(2015・文春文庫)です。

 南木さんはじーじより三つ年上で,1989年に『ダイヤモンドダスト』で芥川賞を取っていますが,じーじはその時からのファンです。

 あまり派手ではないですが,身の丈を大切にした小説家で,なんとなく人生を闘う同志という感じがします。

 この小説も,主人公の中高年の女性内科医,同期の男性内科医,若い男性内科医,その他,さまざまな人生模様が描かれます。

 いずれも不器用に,いかにも生きづらい人生を無骨に歩む姿が大変そうですが,自分を見ているようでもあり,共感させられます。

 地道に生きていこう!とあらためて考えさせられる一冊です。      (2015.7 記)

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 2022年春の追記です

 その後の南木さんの小説を読んでいても、不器用な主人公が多いですね。

 中には、加えて、小心者の主人公もいて、同じ小心者のじーじ(?)はすごく共感してしまいます。

 そのせいもあってか、病気になったりして、なかなか大変ですが、ヒーローの出てこない小説もなかなかいいものだなと思ったりします。      (2022.3 記)

 

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