ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングやメールカウンセリングなどをやっています

梨木香歩『ぐるりのこと』2010・新潮文庫-内なる悪を見つめながら世界を見るエッセイ

2025年03月07日 | 随筆を読む

 2021年3月のブログです

     * 

 梨木香歩さんのエッセイ『ぐるりのこと』(2010・新潮文庫)を久しぶりに読みました。

 10年ぶりくらいでしょうか。

 小さな本ですが、なかみは重いです。

 あちこちを旅しながら、梨木さんにはめずらしく、たまに政治にも言及します。

 ひどい政治や社会を糾弾しますが、その時に自分の中にある同様のひどさをも必ず探る姿がとても印象的です。

 人は誰でも完全な存在ではないので、自分の内にもあるひどさや悪を見つめなければ、他人の行動をあれこれ非難しても片手落ちです。

 その往復作業はとても苦しいのですが、とても意味がありそうです。

 何か、たとえが適切かどうかはわかりませんが、精神分析の作業を思い起こします。

 精神分析は、患者さんの内なる攻撃性や破壊性を二人で探る作業だと思うからです。

 内なる攻撃性や破壊性に気づかないと、人はそれを外界に投影して、敵から攻撃をされるのではと不安になります。

 ですから、まずは内なる攻撃性や破壊性を意識化することが大切になります。

 それに似た作業をはからずも梨木さんが一人でされているような印象を受けました。

 いい文章や深い文章を書くことは、自己分析や自己洞察につながるゆえんでしょう。

 素敵なエッセイに再会できて幸せです。               (2021.3 記)

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椎名誠『カツ丼わしづかみ食いの法則-ナマコのからえばり』2017・集英社文庫

2025年02月28日 | 随筆を読む

 2017年のブログです

     *

 シーナさんの『カツ丼わしづかみ食いの法則-ナマコのからえばり』(2017・集英社文庫)を読みました。

 とってもおもしろかったです。

 シーナさんはじーじより10歳先輩。

 もう結構なじいじのはずですが(シーナさん、ごめんなさい)、実はまだまだ若く、じーじは正しいじいじのあり方(?)をいつもシーナさんから学んでいる(?)ような気がします。

 そのせいか、本書を読みながら、うんうん、そうだそうだ、などと頷く場面が多々ありました。

 シーナさんのエッセイを読むと、これまでも、そういうことが多くあったのですが、今回は特にいっぱい、うんうん、してしまいましたので、感想文を書いてみます。

 例えば、「世界遺産」という言葉。

 シーナさんは、大騒ぎをする国民やマスコミをよそに、その安易さには疑問を呈します。

 まったくだとじーじも思います。

 昔、白神山地のスーパー林道建設に反対をした人ですから、偽物の観光化には敏感です。

 さらには、「美しい日本」と叫ぶ政治家。

 そういう政治家が自然を破壊し、原発を再稼働するという矛盾を糾弾します(シーナさんはもっと、やわらかい言葉でですけどね)。

 あるいは、大雨の際の電力会社のダムから放流による人為的な洪水の問題。

 電力会社が住民の味方でないことが次々と明らかになってしまうのは、なぜなのでしょう。

 住民にとって一番大切な存在のはずなのですが、巨大化しすぎた弊害なのでしょうか。

 巨大な組織はそれ自体の存続が最終目標になってしまうという社会学の考えの通りなのでしょうか。

 大切なのは電力会社を支えている住民なのですがね。

 はたまた、コンビニでビールを買おうとすると、シーナさんのようなじいじでも年齢確認のボタンを押さなければならない問題。

 これは本当に馬鹿らしいことで、じーじなどはこの夏のひとり旅で、これがいやで、ビールは農協のスーパーで買っていました。

 その他、もろもろ。

 じーじにもうなづける諸問題が目白押しでした。

 シーナさんの文章は、日常の何気ない、うっかりすると見過ごしてしまうような問題に、時に鋭く、疑問を呈します。

 場合によっては、みなさんが疑問を持たないでいることを指摘したりもしますので、ソクラテスさんが周囲から糾弾をされたように、時に危ない目にもあいます。

 しかし、それを恐れずに書き続ける勇気に敬意を表します(それでも、以前よりはだいぶまるくなってきましたが…)。

 いつまでも元気なシーナさんでいてほしいと思います。      (2017 記)

      *

 2021年秋の追記です

 4年ぶりに再読をしました。あいかわらず、とっても面白く読めました。

 今回、感動したのは、あやしい雑魚釣り隊のドレイ(?)で元Jリーガーの竹田聡一郎さんの解説。

 シーナさんのお孫さんの風太くんが、あやしい雑魚釣り隊に参加した時のエピソードをいい文章で綴ってくれています。     (2021.10 記)

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皆川明『ミナを着て旅に出よう』2014・文春文庫-ナチュラルを大切にするテキスタイル・ファッションデザイナーに学ぶ

2025年02月25日 | 随筆を読む

 今日のEテレ日曜美術館を見ていたら、皆川明さんが出てきました。

 たぶん2016年にもテレビで拝見をして感動し、さっそく本を読み、書いたと思われるブログがありますので、再録します。   (2020 . 1 記)

     *

 ファッションブランド・ミナペルホネンの皆川明さんが書いた『ミナを着て旅に出よう』(2014・文春文庫)を読みました。

 実は先日、テレビを見ていたら、皆川さんの仕事ぶりを特集している番組をやっていて、皆川さんのことはその時初めて知ったのですが、最初はなにげなく見ているうちにどんどんひき込まれてしまいました。

 皆川さんのデザインやファッションについて話す内容がとても自然体で、ファッションのことにうといじーじにもいちいちうなずけることが多く、じーじにとってはそれにとどまらずに、カウンセリングや人間の生き方などにも参考になるような話が多くありました。

 じーじはファッションのことはまったくわからないのですが、たぶん女性のかたがたは知っておられるかたも多いのでしょうね。 

 本書と一緒に読んでいた皆川さんの『皆川明の旅のかけら』(2003・文化出版局)の写真を見ますと、素敵なデザインの生地や洋服がいっぱいで、思わず娘や孫娘たちにプレゼントしてあげたいな、と思うようなものも多くありました。

 皆川さんの魅力は、じーじのような人間がいうのもなんですが、ナチュラル、シンプル、やさしさ、あったかさ、などなどでしょうか。

 もちろん、デザインの美しさ、素敵さはもちろんなのですが、その底流にここち良さややわらかさみたいなものをすごく感じます。 

 努力の上でのナチュラルやシンプルが大切なのは、カウンセリングにも共通だと思います。

 いい仕事人に会えて幸せです。        (2016?記)

     *

 2022年夏の追記です

 今日、ある方のブログを見ていたら、ミナ・ぺルホネンの新作を紹介しておられました。

 洋服にはうといジージですが、あいかわらず素敵だなと思いました。        (2022.8 記)

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瀬尾まいこ『ファミリーデイズ』2017・集英社-本の帯に、著者初の育児エッセイ集、とあります

2025年02月20日 | 随筆を読む

 2017年のブログです

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 瀬尾まいこさんの『ファミリーデイズ』(2017・集英社)を読みました。

 本の帯に、著者初の育児エッセイ集、とあります。

 そうなのです。

 じーじが知らない間に、瀬尾さんは結婚をされ(!)、出産をされ(!)、子育てをされていた(!)のです。

 びっくり、ぽん、です(じーじが知らなかっただけですけどね)。

 そういえば、先日、ブログで紹介せてたいただいた『君が夏を走らせる』(2017・新潮社)の子育てシーンがいやにリアルで、どこかの保育園に観察にでもいったのかな、と思ったりしたのですが、ご自分の子育てを参考にされていたのですね。

 あの小説では、赤ちゃんの「悪魔のような」困らせぶりが、本当によく描けていました。

 さて、本書。

 だんなさんとの交際から、子どもさんの3歳の誕生日、そして、幼稚園のプレ卒業式までのできごとが記されます。

 のんびり屋のだんなさんとのあれこれも面白いのですが、やはり、「悪魔のような」活発で元気な娘さんとのやりとりと、その中での瀬尾さんの成長が抜群に面白いです。

 かなり几帳面で真面目な新米ママが、だんだんとおおらかで「ほどよい」(小児科医で精神分析家のウィニコットさんの言葉です)おかあさんになっていく様子がとても楽しく描かれています。

 さすが、売れっ子小説家(?)です。転んでもただでは起きません(ちょっと表現が違いますかね?)。

 子育てのたいへんさと喜びと楽しさを経験することで、教師時代の思い出や経験についても考え、当時の保護者とのできごとも振りかえられます。

 ひょっとすると、貴重な立ち位置かもしれず、これからも楽しみが増えます。

 おそらく、すごくパワフルな娘さんのことなので、ますます子育てはたいへんなことになりそうですが、そんな中でも明るく、楽しい物語が生まれていくのではないかと思います。

 今後も楽しみです。        (2017 記)

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 2019年春の追記です

 瀬尾さんが本屋大賞を受賞されました。

 おめでとうございます。         (2019.4 記)

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星野知子『トイレのない旅』1997・講談社文庫-新潟美人ちゃんの秘境探検記です

2025年02月19日 | 随筆を読む

 2019年のブログです

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 新潟美人ちゃんの星野知子さんの『トイレのない旅』(1997・講談社文庫)を再読しました。 

 去年の後半、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んでいましたが、沢木さんが泊まる安宿はシャワーが水だけだったりして、たいへんなところが多く、それを読んで、じーじは、それではトイレはどうなのだろう?と少し疑問を持ちました。

 トイレは問題がなかったのか、それともダンディーな沢木さんなので、トイレのことはあえて触れなかったのか(じーじは後者かなと思いますが…)、気になっていました。

 その点、じーじの尊敬する椎名誠さんは、トイレの話が大好きで(?)、トイレのリポートが詳しいですし(?)、トイレのお話だけで一冊の本を出している(!)ほどです。

 そんなことから、ある日、本棚を眺めていたところ、本書を見つけてしまいました。

 あの新潟美人ちゃんの星野さんの、トイレのない秘境探検記です。

 ペルー、シベリア、中国雲南省と、まさしく、秘境中の秘境の旅。

 どこも満足なトイレがないところで、星野さんはさんざん苦労をしますが、星野さん流の人々との交流がとても心地よく、読んでいて楽しいです。

 新潟美人ちゃんは意外とタフで(うちの奥さんもそうですが…)、どんな困難もものともせず、前に進みます。

 星野さんもその美しさに似合わず、かなりタフで、なかなかです。

 さまざまな困難を乗り越え、どこでもよく眠り、なんでも食べてしまう様子は本当に感心させられます。

 人間への好奇心、人生への好奇心、そして、生きていることを楽しめる遊びごごろ、それらが大切なことを教えてくれるようです。

 いい本を再読できて、良かったなと思います。            (2019.1 記)
 
 

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小澤征爾『おわらない音楽-私の履歴書』2014・日本経済新聞出版社-小澤さんの自伝的エッセイです

2025年02月16日 | 随筆を読む

 2024年2月のブログです

     *

 小澤征爾さんの『おわらない音楽-私の履歴書』(2014・日本経済新聞出版社)を再読する。

 2014年1月に「日本経済新聞」に連載されたエッセーが本になったもので、とても読みやすい。

 小澤さんの本を読んでいると、この本だけでなく、『僕の音楽武者修行』(1980・新潮文庫)や村上春樹さんとの『小澤征爾さんと、音楽の話をする』(2011・新潮社)などの本を読んでも、小澤さんの友達や援助する人々、そして、指導してくれる人々の豊かさにうらやましくなる。

 小澤さんの人柄なのだと思うが、すごいと思う。

 小澤さんの才能もすごいと思うが、人々に愛される力が本当にすごいと思う。

 これが小澤さんの宝物だろうと思う。

 若い時の小澤さんの話を読んでいると、結構、失敗が多い。

 世界のオザワ、も、決して順風満帆ではなかったわけだ。

 しかし、それにめげずに進むところが小気味よい。

 フランスの指揮者コンクールで優勝する前も、フランス政府給費留学生の試験に落ちて、自費で留学しての挑戦である。

 その後、世界中のあちこちの交響楽団で経験を積むが、最初はブーイングの嵐で、その中から実力を認めてもらっていくことが多い。

 そこには、小澤さんを推薦してくれる指導者や友人たちの存在などが大きいと思うし、一方、それに応える小澤さんの頑張りもある。

 小澤さんを見ていると、人と人とのつながりの大切さを教えられる。

 そして、それが年を取っても自然体なところが魅力だと思う。

 決して真似のできないことだが、少しでも見習っていきたいと思う。         (2024.2 記)

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内田樹『もういちど村上春樹にご用心』2014・文春文庫-村上春樹を読む

2025年02月16日 | 随筆を読む

 2015年のブログです

     *

 内田樹さんの本を初めて読みました。 

 村上春樹論,なかなか深い内容でした。

 村上さんにもぜひ読んでもらたいくらいでした(ちなみに村上さんはご自身について書かれた本は読まないらしいですが…)。

 村上文学の理解度が確実に深まると思います。おすすめです。

 なお,内田さんは哲学者レヴィナスさんのお弟子さんとか…。

 実はじーじもレヴィナスさんのファンで,レヴィナスさんは難しくてあまり理解できていませんが,面白いつながりでびっくりしています。

 これからは村上春樹さんとレヴィナスさんの時代です!        (2015.2 記)

     *

 2024年2月の追記です

 9年ぶりに再読をしました。

 こんないい本を9年も放っておくなんてもったいないことなのですが、村上さんの本は変に解釈をするより、小説そのものを味わったほうがいいとじーじは強く思っているので、こういうことになりました。

 しかし、内田さんはすごいです。

 こんなに的確な村上春樹論はそうありません。

 じーじがもやもやと感じていることをかなり明確に言葉にしていただいて、すごくうれしいです(2回目なのに、今ごろわかるなんて、かなりどんくさいですが…)。

 じーじが一番おもしろく読んだのが、村上さんの翻訳仲間である柴田元幸さんと内田さんの対談。

 お二人の村上さんへの尊敬や信頼が表れていて、すごくよかったです。

 次は、9年といわずに、数年うちにまた再読しようと思います。        (2024.2 記)

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加藤周一『頭の回転をよくする読書術』1962・光文社-加藤周一さんの読書論です

2025年02月15日 | 随筆を読む

 2023年2月のブログです

     *

 またまたなつかしい本を読んでしまった。

 加藤周一さんの『頭の回転をよくする読書術』(1962・光文社)。

 じーじが持っているのは1975年発行の57版。

 大学3年の時に購入したのかな?

 ちなみに価格は500円。

 加藤さんに魅かれて買ったのだと思うが、加藤さんのようにたくさんの本を読めるようになりたいと思ったのかもしれない。

 じーじは加藤さんの本は繰り返して読む本が多いが(いくつかブログを書いているので、よかったら読んでみてください)、この本はカッパ・ブックスということもあって(カッパ・ブックスのみなさん、ごめんなさい)、なんとなく再読をしないできた。

 しかーし、なぜか最近、本棚にあるこの本が気になり、ちょっと読んでみたところ、予想以上に面白く、最後まで読んでしまった。

 ほぼ50年ぶり。

 しかし、内容は豊かで、深い。

 読書術というよりは読書論。

 読書についてさまざまなことを論じている。

 例えば、わかりにくいかもしれないが、目次を見ると、急がば回れ、マルクスとマルクス主義者の違い、文学は進歩するか、その他もろもろ。

 びっくりしたのは、加藤さんもシェイクスピアのハムレットから、どうせ世の中には、哲学でわからぬことがたくさんある、を引かれていること。

 わからないことにすぐに結論を出さずに耐えて考え続けることの大切さを表す重要な言葉なんだなと再認識してしまう。

 とてもよい本で、今度は50年といわず、5年後にも再読してみたい。        (2023.2 記)

     *

 同日の追記です

 どうでもいいことなのだが、本書の題名、頭の回転をよくする読書術、は単に、読書術、あるいは、読書論、のほうが加藤さんらしいのではないかとじーじなどは思う。

 カッパ・ブックスだから、売り上げを狙ったのかもしれないとも思うが(カッパ・ブックスのみなさん、再びごめんなさい)、もう少し格調高いほうがよかったような気がする。

     *

 2024年冬の追記です

 宮本輝さんの『ひとたびはポプラに臥す4』(2002・講談社文庫)を読んでいたら、手塚治虫さんの大切な言葉の一つとして、ハムレットの上記の言葉が挙げられている。

 いろいろな人たちにとって、とても大切な言葉なんだな、と改めて思う。       (2024.1 記)

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加藤周一『夕陽妄語3 2001-2008』2016・ちくま文庫-「今、ここで」を冷静に視る

2025年02月14日 | 随筆を読む

 2020年3月のブログです

     *

 加藤周一さんの『夕陽妄語3 2001-2008』(2016・ちくま文庫)を再読しました。

 加藤さんが朝日新聞に連載していたエッセイ「夕陽妄語」最後の8年分。

 世界は激動の時代で、しかし、加藤さんは冷静に批評します。

 2001年は9・11の同時多発テロ。

 ブッシュ大統領が報復を宣言します。

 2003年はイラク戦争。

 日本はアメリカに追従をしますが、大量破壊兵器は見つかりません。

 その後、アメリカは戦争を反省し、2008年にはオバマ大統領が誕生します。

 ところが、日本は右傾化を強めたまま、今日に至ります(もっとも、アメリカも、その後、最悪のトランプ大統領の誕生となるのですが…)。

 こういう目まぐるしい戦争状態の継続の中でも、加藤さんの反戦、反核の姿勢はぶれません。

 さらに、「夕陽妄語」の魅力は政治のお話だけではなく、芸術や文化のお話も素敵なところ。

 その的確な批評と格調高い文章は類を見ません。

 加藤さんの思索は深く、感動的ですが、読者をも深い思索や感動に導いてくれます。

 そこが魅力です。

 一般大衆紙でこういうことができたのは加藤さんくらいかもしれません。

 何度読んでも、その深い思索に感動させられます。

 また、数年内に再読をしたいな、と思います。          (2020.3 記)

      *

 2022年春の追記です

 加藤さんが今もご健在でしたら、ロシアのウクライナへの侵略をどう評されたでしょうか。

 加藤さんの反戦、反核に立脚したウクライナの自由を護るための論陣、提言をお聞きしたかったとつくづく思います。      (2022.4 記)

 

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加藤周一『『羊の歌』余聞』2011・ちくま文庫-「今、ここで」を冷静に視ること

2025年02月06日 | 随筆を読む

 2019年1月のブログです

     *

 加藤周一さんの『『羊の歌』余聞』(2011・ちくま文庫)を再読しました。

 いい本なのに、久しぶりになってしまいました(加藤さん、ごめんなさい)。

 しかし、やはりすごい本です。

 加藤さんの本は結構読んでいるのですが、ご紹介はこれがたぶん2回目。

 『羊の歌』『続羊の歌』(1968・岩波新書)の思い出については、前回のブログにも書きましたが、わたしが大学2年生の時に授業の宿題で読んだのが最初で、もうかれこれ45年のつきあいになります(うちの奥さんより長いつきあいですね)。

 その時の衝撃は強烈で、戦争中にこんなに冷静に状況を分析している人がいたんだ、とびっくりしたのを覚えています。

 以来、加藤さんはじーじの思想の「灯台」のような大切な存在です。

 本書は、『羊の歌』の頃の思い出とそれ以後の加藤さんの歩みについて書かれています。

 これを読みますと、戦争中に冷静な状況分析ができたのは、大学の教師の存在が大きかったことがわかります。

 特に、フランス文学の渡辺一夫さん。

 渡辺さんは戦争中、特高に読まれないようにと、外国語で日記を書いていたそうで、それもすごいことです。

 そういう冷静な教師のもとで、加藤さんら自由な学生も思想をていねいに育てていたんだと思います。 

 若者にとって、いかにきちんとしたおとなが大切かということがわかります。

 その時の経験と蓄積をもとに戦後の加藤さんは大活躍をします。

 しかし、その時でもあくまでも冷静に、謙虚に発言をされる姿が印象に残っています。

 加藤さんも語学力が抜群です。

 世界で活躍し、広い視野を持って冷静な判断ができるために、語学が大切なようです。

 若いみなさんへの教訓になるのではないでしょうか(語学が苦手だと、じーじのようになってしまいます(?))。

 こんな世の中の時にこそ、本書のような本が多くの人に読まれてほしいな、と思います。        (2019.1 記)

     *

 2021年4月の追記

 その後、渡辺一夫さんの本を読んでいたら、戦争中の日記はラテン語で書いていた、といいます。

 ラテン語!

 語学だけは苦手な(?)じーじには夢のようなお話。

 若者よ!語学はやはり大切ですよ。        (2021.4 記)

     *

 2023年1月の追記です

 すみません、ラテン語は引用部分で、日記はフランス語でした。

 それにしてもすごいです。        (2023.1 記)

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ステン・ベルクマン(加納一郎訳)『千島紀行』1992・朝日文庫-今から90年前の千島列島紀行です

2025年01月14日 | 随筆を読む

 2019年1月のブログです

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 スェーデンの生物学者ステン・ベルクマンさんの『千島紀行』(加納一郎訳・1992・朝日文庫)を再読しました。

 原典は1932年の本で、1929年から30年にかけての千島列島の調査紀行です。

 今から90年前の千島列島、自然が豊かです。

 動物が自由自在に駆け回っています。 

 千島列島の返還交渉が話題になっていますが、政治オンチ(?)のじーじにはあまり関係ありません。

 じーじは北海道生まれのどさんこですので、やはり北海道もそうですが、その近くの樺太や千島列島の自然に興味があります。

 北海道北部からは樺太が見えますし、東部からはクナシリ島が見えて、昔、北海道東部の斜里岳の頂上から見たクナシリ島の美しさは目に焼きついています。

 いつか行ってみたいな、と思っているのですが、生きているうちに行けるでしょうか、無理かな?

 そんなわけで、じーじの本棚には、樺太や千島列島についての本が何冊かあって、時々、取り出しては読んでいます。

 樺太ではチェーホフのサハリン紀行が有名ですし、千島列島では松浦武四郎の紀行文がいいです。

 さいわい、樺太も千島列島も、まだ本格的な開発の手が入っていませんので、時々、テレビで見る樺太や千島列島は自然豊かで素敵です。

 日本の大手開発資本が進出すると、すぐに大変なことになりそうで、やや複雑な心境です。

 これはじーじの妄想なのですが、千島列島はもともとアイヌの人たちが住んでいたところなので、アイヌの人たちに返還をして、アイヌの人たちの国にしてはどうか、と思います。

 アイヌ民主共和国、アイヌの人もロシア、日本の人も、住みたい人が住めて、自然を敬う国。

 いいじゃないでしょうか。

 きっと実現はしないでしょうが…。

 政治はともあれ、千島列島の豊かな自然は、世界の財産として大切に守っていってほしいな、と切に願います。            (2019.1 記)

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 2022年春の追記です

 戦争で奪い合ったりしないで、みんな仲良く住めるといいですね。          (2022.4 記)

 

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梅棹忠夫『実戦・世界言語紀行』1992・岩波新書-言葉を通して世界を見る

2025年01月09日 | 随筆を読む

 2019年1月のブログです

     *

 先日、梅棹さんの『モゴール族探検記』を読んで面白かったので、さらに本棚で梅棹さんの本を探してみたところ、『実戦・世界言語紀行』(1992・岩波新書)が見つかりました(梅棹さんの名著『知的生産の技術』も学生時代に読んで、どこかにあるはずなのですが、例によって(?)迷子になっていて、現在、捜索中です)。

 この本はまったく記憶になく(梅棹さん、ごめんなさい)、たまたま幸運にも見つけられたのですが、当然、中身も記憶がなくなっていました。

 しかし、今回、読んでみると、これがすごく面白い!

 梅棹さんが民族学者として、世界各地の民族をフィールドワークした時に、その民族の言葉を覚えた体験とフィールドワークでその言葉を使った体験などが、とても興味深く述べられています。

 そのフィールドワークで身に付けた言葉は、まだ学生時代の朝鮮語から始まって、チベット語、モンゴル語、ペルシャ語、スワヒリ語、スペイン語、フランス語、などなど、数十種類にのぼるほどのものすごい数になります。

 そして、フィールドワークの対象がめずらしい民族になると、習得する言葉もすごくめずらしい言葉になり、例えば、モゴール族のモゴール語やミクロネシアの各島々の言葉、アフリカの各部族の言葉、などなど、大変な数です。

 さらに、梅棹さんは世界共通語のエスペラントもしゃべれるということで、もうすごい!としか言いようがありません。

 もっとも、これだけの言葉をしゃべれるにはこつがあって、梅棹さんのモットーは日常会話ができる程度でよいとの割り切りがあります。

 あくまでも民族学のフィードワークに必要なレベルを目指して学習し、場合によっては1か月で習得ができるといいます。

 いくら京大出の秀才とはいえ、すばらしい能力です。

 語学もまったくだめなじーじにはうらやましい限りで、今ごろになってフロイトさんをドイツ語で読んでみたいと思っても、あとの祭りです(若い時には、語学の重要性はわからずに、面倒くさいなとばかり思いがちですが、やはり若いうちに少し頑張っておいたほうがいいかもしれません)。

 年寄りにも、若い人にも、興味をかき立てるいい本だと思います。         (2019.1 記)

 

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梅棹忠夫『モゴール族探検記』1956・岩波新書-懐かしい名著を読む

2025年01月08日 | 随筆を読む

 2019年1月のブログです

     *

 梅棹忠夫さんの名著『モゴール族探検記』(1956・岩波新書)を再読しました。

 このところ、なぜか旅行記を続けて読んでいるのですが、この本も本棚の隅っこにあるのを見つけて読んでしまいました。

 1956年の岩波新書(!)、もっともじーじが買ったのは2011年のアンコール復刊という、岩波ならではの粋な企画で出た本ですが…。

 1956年というと、なんとじーじが2歳の時の本、それが今読んでもおもしろくて、ワクワクできるのは本のすごさ、すばらしさです。

 梅棹さんはご存じのかたもいらっしゃると思いますが、元京大教授の民族学者で、国立民族学博物館長を務めたかた。

 じーじのような文科系の人間でも、学生時代には梅棹さんの『知的生産の技術』や『文明の生態史観』などをわからないながらも読んだものです。

 本書は、アフガニスタンがまだ王国だった頃に、モンゴル民族の末裔を求めて調査旅行をした際の記録。

 京大の言語学者や人類学者、考古学者らがチームを組んで、幻のモンゴル民族であるモゴール族の存在の有無を調査に行きますが、難航を極めます。

 今でもそうですが、民族間の対立、抗争に阻まれ、テント生活を続けながら、さまざまな困難にめげずに調査・研究を進めるその無骨な科学者らしさには感心させられます。

 ひとつ、ひとつの仮説の積み重ねと実証、これらを読んでいると、カウンセリングや臨床心理学の世界でも共通する厳しさを感じます。

 じーじは単に趣味というか、知的好奇心から読みましたが、名著として残るようないい本とは、やはりこころを揺り動かすような部分があるようです。

 すばらしい名著を再読できて、とても幸せな気分になれました。        (2019.1 記)

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 2021年5月の追記です

 深田久彌さんの『山岳遍歴』(1967・主婦と生活社)を読んでいたら、本書の解説文が出てきました。

 本書の面白さを絶賛されています。

 おそらくユーモラスなことがお好きだった深田さんの好奇心を刺激されたのだろうと思います。

 ちなみに、深田さんの本もとても面白く、特にどさんこのじーじには幌尻岳とトムラウシの登山の文章がとても楽しく読めました。        (2021.5 記)

 

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椎名誠『孫物語』2015・集英社-孫たちと,のんびり,ゆったり,遊ぶことの豊かさ

2024年12月30日 | 随筆を読む

 2015年のブログです

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 シーナさんの最新作『孫物語』(2015・集英社)を読みました。

 とっても面白かったです。

 シーナさんはじーじよりちょうど10歳年上の71歳。

 じーじは昔から10歳年上の先輩を見習うような感じでシーナさんの小説を読んできました(シーナさんは迷惑だと言いそうですが…)。

 シーナさんのお孫さんは3人,じーじの孫は2人で,孫とのつきあいかたがこれまた参考になります。

 シーナさんのお孫さんシリーズも,『大きな約束』(2009),『続大きな約束』(2009),『三匹のかいじゅう』(2013)と続いて,本書が4作目。

 シーナじいじいが静かに,しかし,大活躍をして,あいかわらず素敵な小説です。

 じーじは2人の孫娘たちが遊びに来ると,遊戯療法の練習(?)のまねごとをさせてもらっていますが,シーナさんは自然体でとてもいい接し方をしていると思います。 

 まさに宣伝コピーどおり,「イクジイ」です。

 じーじも対抗して「イクじーじ」をめざして頑張ろうと思いました。        (2015.4 記)

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 2019年春の追記です

 4年ぶりに再読をしました。

 やっぱり面白かったです。

 孫たちの相手をすることは、シーナさんの場合は、お孫さんたちに三人三様の個性があって、それを大切にされていることがよくわかり、とてもいいです。

 弱い者をきちんと守り、楽しく遊び、そして、尊重をしていく姿が心地よいです。

 じーじの孫たちの場合も、それぞれに個性があって、発見と驚き、感心の連続ですが、とても面白いですし、相手のしがいがあります。

 孫たちが、頼ってくれたり、相手になってくれるうちが花、もうしばらく楽しみながら、つきあっていきたいと思います。        (2019.4 記)

 

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沢木耕太郎『旅する力-深夜特急ノート』2008・新潮社-『深夜特急』の魅力

2024年12月23日 | 随筆を読む

 2018年のブログです

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 沢木耕太郎さんの『旅する力-深夜特急ノート』(2008・新潮社)を再読しました。

 2008年の本ですから、ちょうど10年ぶりです(いい本なのに、沢木さん、ごめんなさい)。

 このところ、沢木さんの『深夜特急』を読んできたのですが、先日、本棚を眺めていると、下のほうの段にこの本を見つけてしまいました。

 こういう偶然があるから読書はやめられません(といっても、単に整理整頓が苦手なだけなのですが…。今も沢木さんの本はあちこちの本棚に潜んでいて(?)、時々探している始末です)。

 本書は、沢木さんの旅の記憶や体験、文章を書くことの経験やそれについて考えること、そして、『深夜特急』に繋がる旅とその文章化について、などなどが述べられていて、とても刺激的で、面白く読めます。

 テレビの大沢たかおさん主演の『深夜特急』についても書かれていて、興味深いものもあります。

 ひとつ、発見をしたのは、『深夜特急』において、沢木さんが写真を載せていない点。

 沢木さんは、写真でなく、文章で勝負をしたかった、と書きます。

 ここは、じーじのブログと全く同じです(?)(じーじの場合は、単にカメラがないというだけなのですが…)。

 表現力に大きな差がありますが、文章の力を信じている点だけは同じなのかもしれません(ちょっとおおげさですかね?)。

 しかし、じーじが、『深夜特急』以外にも、沢木さんのエッセイを好んで読んでいる理由は、この辺にもあるのかもしれません。

 学ぶことも多くあります。

 あまり意識はしていませんでしたが、家裁調査官時代にも実はこっそり文章を真似していたかもしれません(?)。

 その割に、お粗末な文章ばかり書いていますが…。

 これからも、沢木さんを見習って、じーじのひとり旅や孫娘シリーズをせっせと書いていきたい(?)と思っています。               (2018. 12 記)

 

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