7日、トランプ米大統領㊨との会談で、笑顔を見せる石破首相(ワシントンのホワイトハウス
)=共同
【ワシントン=坂口幸裕】
トランプ米大統領は就任後、イスラエルに次いで2番目にホワイトハウスへ招く外国首脳として石破茂首相を選んだ。
初対面の首相を招待したのは、最大の脅威と位置づける中国の抑止のため個人的な関係を超えた日本の戦略的価値を優先した判断だった。
公の場で初めて石破氏の名前を口に
「石破首相をお迎えできて光栄だ。彼はとても尊敬されている男で、日本国民は彼のことがとても好きだ」。
トランプ氏は7日、ホワイトハウスでの会談冒頭に首相と笑顔で握手し、公の場で初めて石破氏の名前を口にした。これまでは「日本の首相」と言及するだけだった。
会談前は第1次政権で「ドナルド・シンゾー」と呼び合う個人的な関係を築いた安倍晋三元首相に触れる場面が目立った。
安倍氏は第1次政権でゴルフをともにするなど親密な関係を築き、欧州など他の国のリーダーもトランプ氏との付き合い方について安倍氏に助言を求めたほどだった。第1次政権で就任前だった2016年12月にニューヨークまでトランプ氏に会いに出向いた。
外交儀礼にこだわらず批判を受けるリスクをとって面会した外国首脳は第2次政権でも厚遇している。
24年11月の大統領選前にトランプ氏の私邸を訪れたアルゼンチンのミレイ大統領やハンガリーのオルバン首相らは1月20日の大統領就任式に招待された。
最初に会談した外国首脳となったイスラエルのネタニヤフ首相も24年7月にトランプ氏の私邸を訪ねた。
2次政権に対中国強硬派ずらり
日本政府はトランプ氏の当選直後、石破首相が南米訪問後の同11月中旬に訪米して首脳会談できないか探った。
就任前だったトランプ氏側は民間人が米政府の外交問題で外国政府と交渉することを禁じた法律を理由に断ったが、ミレイ氏やイタリアのメローニ首相らとは対面で会った。
第1次政権の元高官によると、トランプ氏は周辺から24年10月の衆院選の結果「日本の与党は少数与党になった」と耳打ちされた。
「トランプ氏は弱い指導者を好まない」(同元高官)とされ、首相との面談は優先順位が高くなかったとみられる。
今回の首脳会談が実現したのは外交・安全保障政策を担う第2次政権の陣容と無縁ではない。
対中国強硬派がそろい、経済や技術などの分野も含め中国は「これまで直面した中で最も強力で危険な敵」(ルビオ国務長官)との認識が広がる。
米政府関係者は「トランプ氏も中国と取引する危険性や、中国依存を減らしたサプライチェーン(供給網)強化には日本の存在が欠かせないとの認識を強めている」と強調する。
「トランプ新政権は前政権より強い姿勢で中国に対抗する」と言う。
インド太平洋全域で「力による平和」提唱
米ハドソン研究所のケネス・ワインスタイン日本部長は「石破氏は世界で最も影響力のある人物と真っ向から対峙し、自身の存在をトランプ氏に強く印象づけた」と指摘。
「中国や北朝鮮の抑止へ協力を拡大できる大きな潜在力につながる」と語る。
首脳会談後、トランプ氏は首相と臨んだ共同記者会見で「友人であり同盟国である日本を守るために米国の抑止力を100%使う」と発言し、こう付け加えた。
「首相と緊密に協力し平和と安全を維持していく。インド太平洋全域で『力による平和』を唱える」
トランプ氏は石破氏との初の会談でインド太平洋への関与を明言した。
日本が防衛費を27年度までに国内総生産(GDP)比で2%にする方針を評価したうえで「今日の協議によって、さらにかなり増える」と語り、日本にさらなる努力を促した。
初対面では個人的な信頼関係の醸成を優先する――。7日の会談で基本認識をすり合わせた日米首脳の一段と強固な関係が威圧的な行動を続ける中国への抑止力になる。
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