日産自動車はホンダと経営統合の協議に入った。巨額投資が必要な電気自動車(EV)やソフトウエア搭載車の競争力を高めたい構えだ。
統合に向けた最大の課題は、日産の業績改善だ。ホンダが求める日産の連結営業利益を読み解くと「2027年3月期にも4000億円以上」という数字が浮かび上がる。今期見通しの約3倍を稼ぐ必要があり、ハードルは低くない。
「日産とホンダは自立した2社として成り立たなければ、経営統合は成就しない」。ホンダの三部敏宏社長は24年末の基本合意の記者会見で断言した。
日産の収益改善は「MOU(覚書)の条件に入れている」とも明かした。日産の内田誠社長は「ターンアラウンド(事業再生)は私のコミット(約束)」と決意を示した。
日産の営業利益は24年4〜9月期に前年同期に比べ90%減った。25年3月期の見通しも前期比74%減の1500億円に下方修正した。米国での商品力低下が主因で、同期間のホンダ(1兆4200億円)の1割に甘んじる。
業績悪化に伴い、日産は9000人の削減や生産能力の20%(約100万台)縮小を公表した。費用や投資を抑え、現状から固定費を年3000億円、変動費を同1000億円減らす。今後は世界各地の削減規模といった詳細の詰めが必要になる。
ホンダは日産の収益回復の確度を見極めつつ統合の最終契約を結ぶ方針だ。会見では26年8月の統合時の前提として、日産の営業利益が今期見通しの1500億円から大幅に伸びるスライドを示した。
統合時における両社の利益の目盛りに数値は記されていなかったが、27年3月期の目盛りの長さを測るとほぼ4000億円だ。
たとえ長さが参考値だとしても、スライドに併記された、
①両社合計の長期目標は3兆円以上
②相乗効果は1兆円以上
③統合時のホンダは現時点並み
――の3点をもとに読み解くと、日産に求められる利益は最大6000億円規模と類推できる。4000億円は最低ラインとみられる。
つまり日産は「27年3月期に今より3倍規模の利益が出せる」という再建策をホンダがうなずける形で示さないと、統合が延期や破談になるリスクが生まれる。
最終契約は25年6月を予定する。猶予は残り5カ月しかない。
市場は日産にさらに踏み込んだ構造改革が必要と見ている。
日産が計画している削減後の生産能力は年400万台で、内田社長は世界販売が「年350万台でも利益が出て、株主還元や成長投資もできる構造にする」と話す。
ただ販売奨励金を積極的に使う今期見通しでも世界販売は340万台にとどまる。
SBI証券の遠藤功治氏は「変動費1000億円の削減をめざすならば奨励金は絞らざるを得ず、奨励金を減らせばいっそう販売台数は落ちやすい」と指摘する。その上で日産について「生産能力はさらなる削減が必要」とみる。
ホンダが日産の収益改善を統合の条件とした背景には、ホンダが6日から始めた最大1兆1000億円の自社株買いとの関連性がありそうだ。
ホンダの株価は日産との統合協議が明らかになって以降下げ、昨年12月19日に昨年来安値を一時更新した。
SNSでは日産が重荷になるとの声が飛び交い、株主の不安払拭は必須だった。そうしたなかで発表したのが自社で過去最大の自社株買いだった。
自社株買いではホンダにとって見過ごせない事情も浮上する。
両社は基本合意前の「一定期間」の平均株価や資産査定の結果などをもとに、新設する持ち株会社との株式移転比率を25年6月に決める。
近年の上場企業では一定期間を「過去1カ月、3カ月、6カ月の3つの平均期間」とし、3期間の範囲から比率を決める事例が目立つ。
参考になる株価比率を日産を1として、統合協議を発表前の3期間でみるとホンダが3.44〜3.61となる。
比率の範囲が想定されやすい以上、自社株買いでホンダの株価が上がれば、日産株も連れ高しやすくなる。日産は業績改善の道筋を示さないと、ホンダの株主から「自社株買いにただ乗りしている」との印象を持たれかねない。日産の自助努力が欠かせなくなった。
日産の株価は少なくとも足元まで比率の想定範囲に比べやや割高に推移する傾向だった。
東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司氏は「台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業のように、第三者が日産株をより高値で狙う思惑があった」と理由を語る。
鴻海は水面下で日産買収に意欲を示す。一旦静観するとみられるが、統合手続きが滞れば動きを活発化する可能性はある。
杉浦氏は「一般的に大企業の統合契約を半年で結ぶのは難しい。最終契約を延期する可能性は50%を超えている」と話す。
日産は営業利益4000億円を過去25年で16度達成した。06年3月期の最高益(8718億円)からすれば半分にすぎず、不可能な水準ではない。
今期はリストラ策に伴う特別損失の計上で最終赤字(会社予想の最終損益は「未定」)にしてでも、速さと具体策を両立した経営基盤の再構築が問われている。
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