半導体の基板となる電子回路が刻まれたウエハー
レゾナック・ホールディングス(HD)と積水化学工業が半導体の高機能化に寄与する新素材をそれぞれ開発した。
半導体産業は設計、材料、製造装置、製造と多岐にわたるが、なかでも材料は日本企業が極めて高いシェアを持つ分野だ。優位性を堅持するため、各社は技術革新に磨きをかける。
レゾナック、感光性フィルムで存在感
レゾナックHDは半導体向けのパッケージ基板に電気や情報を通す配線を描く「感光性フィルム」の新材料を開発した。
回路形成のためのフィルムの線幅を従来の10〜20マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルから1マイクロメートルに縮めた。配線の微細化や高密度化につながり、伝えられる情報量を大幅に増やすことができる。2024年内に顧客に提案し始め使用してもらえるようにする。
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同社は世界でのシェアの順位が1〜2位の半導体向け材料を8種類ほどもつ。
ウエハーに回路を描く前工程と組み立てなどの後工程向け材料の両方を展開。特に感光性フィルムといった後工程の材料は今後の伸びが期待されるため、集中的に投資を行う考え。
積水化学工業はチップを封止する工程の一部を省くことができる新製品を開発した。
半導体チップとプリント基板を接着する樹脂材料で、配合技術などを進化させ封止の機能を持たせた。
接着後に樹脂を充塡して封止する工程が省ける。
この工程に必要なチップ周辺のスペースもいらなくなる。10センチ角の基板の場合、使用面積は25%ほど減るため、新たな空きスペースに複数のチップを搭載すれば、機能を高度化することができる。
素材メーカーを中心に日本企業は半導体向けの材料の開発・投資に積極的だ。
粘着紙大手のリンテックは、半導体の回路の原版を保護する膜の「ペリクル」向けで、回路幅が微細な半導体を製造するときに発生する高熱に耐える新素材を開発した。AGCは回路の多層化で必要になる絶縁フィルムを開発し、事業化を目指している。
三井化学は名古屋市の工場のなかにある半導体関連の研究拠点を約30億円かけて刷新する。
同工場では後工程で使われる特殊な樹脂テープを生産している。性能評価設備などを集約・拡充するほか、顧客とともに新材料をつくる取り組みに力を入れる。
長年のノウハウ蓄積、擦り合わせに強み
半導体産業における日本企業の存在感は階層によって濃淡がある。
本流の設計開発・製造は1988年ごろに世界市場の5割を占有していたが、工場を持たずに設計開発に特化するファブレス企業と製造専門のファウンドリー企業の台頭という国際的な変化に乗り遅れ衰退。足元ではほとんど存在感がない。
一方、上流の材料での存在感は圧倒的だ。
野村証券が調べた材料別の22年度の売上金額ベースのシェアは、回路を微細化するために必要な「EUVマスクブランクス」でHOYAとAGCの2社で100%を占める。
回路を形成する際に使われる「フォトレジスト」(感光材)はJSRや東京応化工業など日本企業5社で91%。
主に前工程で使う研磨剤の「CMPスラリー」は富士フイルムHDなど日本企業3社で48%。いずれもデータが確認できる14年末の推定値と比べて10ポイント以上、率を高めた。
半導体ウエハーの世界生産能力のシェアでは信越化学工業とSUMCOの2社で約50%。韓国など海外勢が力をつけているが、電子機器の「頭脳」の役割を担う半導体の先端品向けウエハーは2社しか製造できないとされる。
英調査会社オムディアは主要6品目(シリコンウエハー、フォトマスク、マスクブランクス、レジスト、CMPスラリー、ターゲット材)の販売金額のシェアを算出している。22年は日本が約5割で首位となり、2位の台湾(17%)、3位の韓国(13%)を引き離す。
![](https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO4702799011042024000000-4.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=1667&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=236adb465eeb47bbffc53aeedc868f25)
一つ一つの材料の市場規模は小さいとはいえ、総じて日本企業が欠かせない存在になっているのはなぜか。
「日本が本流の設計開発・製造で先行した時代に鍛えてもらった技術の蓄積がある」と業界関係者は口をそろえる。特に化学の分野は、特定の企業以外は作り方や性能の高め方が分からない「暗黙知」が大きいとされ、参入障壁が高い。
また、日本企業は顧客とのやりとりを通じて機能性やコストの要求にこたえるという「擦り合わせ」を得意とする。先端品向けになるほど、この能力が生きてくる。
ただ、日本の材料の優位が今後も盤石だとは言い切れない。富士経済によると半導体向け材料の市場規模は23年見込みで465億ドル(約7兆円)で、27年には586億ドル(約9兆円)になる見通し。海外勢が成長市場へ攻勢をかける事態が予想される。
国際的な競争激化を見据えた動きも出ている。
材料大手のJSRは4月16日に成立したTOB(株式公開買い付け)で、政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)の傘下になった。競争力を確保するために業界再編で主導権を狙う構えだ。
半導体の戦略物資としての重要性は増し、日本は官民を挙げて本流の再興に乗り出している。
台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県の新工場やラピダスの最先端半導体の量産プロジェクトなどが始動。政府は予算を組み旗を振る。優れた材料をつくる企業が日本に集積する現状を堅持することで、強固な半導体サプライチェーン(供給網)が日本に構築される可能性もある。
(藤生貴子、岡田江美)
ビジネスビジュアル
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日経記事3024.05.02より引用