首位の三菱商事の法務部では海外拠点との連携が一段と重要になっている
日本経済新聞が国内の有力な企業弁護士に「法務力が高い」と思う企業を聞いたところ、三菱商事が2年ぶりに首位となった。
2位以下は伊藤忠商事、日本製鉄が続いた。いずれもスタッフの能力や経営への影響力などで評価を集めた。
各社の法務部門は成長に直結するグローバルなM&A(合併・買収)への対応に注力するほか、国内外のルールの変化への備えを進めている。
「法務力が高い企業」ランキングは、企業法務に携わる250人の有力な弁護士に聞き、200人から得た回答を集計して作成した。それぞれの弁護士が「法務力が高い」と思う企業を3社まで投票してもらった。
海外投資を全面サポート
三菱商事は国内外の弁護士資格保有者を含む法務部員全般の能力が評価されており、近年は海外駐在の法務担当者が重要な役割を果たすケースも増えている。
スタートアップから投資し成長させてきた太陽光発電の米子会社を巡っては、24年に持ち分法会社化し800億円の利益を回収する成功事例となった。
この事業では成長段階に応じ、法務部門からの出向者が各種契約や交渉などを全面的に支援した。
オーストラリアで炭鉱を共同運営する資源メジャーとともに進めた炭鉱群の集約でも、権益の売却に際し本社での戦略決定を法務部門が支援。2024年には現地への出向者が資源メジャーの法務担当とともに売却作業を完了させた。
24年秋にはM&Aのリスク対応策を新たに導入した。サイバーセキュリティーや経済制裁など、リスクや影響が高まっている8つの法務領域を特定して包括的なチェックリストを作成。
事業部門と共有し、オンライン研修を実施した。「投資や売却のタイミングにとどまらず、個々のグループ会社の事業経営で日々どういう注意をする必要があるかを伝えるツールとして浸透させたい」(法務部の渡辺義久部長代行)という。
昨年のランキングで首位だった伊藤忠商事は今回、1票差で2位だった。
旧ビッグモーターの事業継承のほか、デサントなど上場子会社の非公開化などを進めた。戦略投資案件では「専門性の高い有力外部弁護士を起用し、機動的かつきめ細やかに対応している」(同社)という。
法律事務所など外部のリソースをうまく活用するという面では、弁護士からの評価が最も高かった。
日本製鉄の法務、経営に影響力
3位は日本製鉄で、4年連続で3位内に入った。
法務関連では、国内法務、国際法務、知的財産で約50人の人員を全て東京に集中させている。反ダンピング(不当廉売)などの通商問題や立法活動への提言、ガバナンス業務まで幅広く担当する。
同社では日常的な契約審査は事業部門が自ら判断しており、事業部からの相談があれば法務部が一緒に検討するという仕組みだ。一方で特許などの知的財産が関わる契約は、全件を法務部門が審査する。
日本製鉄の法務部門は国際、国内、知財案件を本社で一元的に担う(東京都千代田区)
USスチール買収を巡る対応では、日米で過去に例のない多数の弁護士やアドバイザーを起用。
PRなど純粋な法務を超えた領域も含めて支援に当たってきた。東南アジアやインドでの成長に欠かせないM&Aにも取り組む。
仁分久弥子法務部長は「若手でも自らの意見を持ち、管理職と議論できる風土がある。レベルの高い実際の案件を積み重ね、人材や組織としての力を育てていく」と話す。
ランキングに投票した弁護士の一人は日本製鉄について「経営層から法務の問題を経営課題として強く認識している日本企業の代表だ。担当者の、法務と事業双方への理解も際立つ」と評価した。
8位のコマツは昨年の20位から大きく上昇した。22年にM&Aの法務機能を事業部門から移管し、米バッテリー企業など複数のグローバルな買収に取り組んだ。
「依頼は断らずに問題解決に取り組む」という方針を掲げ、テック導入などの業務効率化もあわせて進める。一部の契約相談は自社への理解が深い法律事務所に割り当てる形で外部委託する。
遠藤貴嗣法務部長は「マネジメント層に頼られる法務として、グローバルでさらに法務部門の存在感を高めたい」と話している。
(児玉小百合)
日本経済新聞は毎年、主要企業の法務部門や有力な弁護士にアンケート調査を行い「今年活躍した弁護士」などのランキングを発表しています。過去のランキング記事や上位の弁護士へのインタビュー記事などのまとめページです。