パナマのムリノ大統領は「国務省の声明に驚いている」と述べた(6日、パナマ市)=ロイター
【メキシコシティ=市原朋大】
パナマのムリノ大統領は6日の記者会見で、前日の米国務省の発表内容を「許しがたい虚偽だ」と非難した。
パナマ運河の通航料について、米政府の船舶なら無料とすることでパナマ政府と合意したと発表していた。
米国務省は5日、「米国政府の船舶はパナマ運河を無料で通過できるようになり、年間数百万ドルを節約できる」とX(旧ツイッター)に投稿した。運河を管理するパナマ運河庁はすぐにこれを否定する声明を出していた。
ムリノ氏は「米国務省の声明に驚いている。パートナーである2国間関係はこのように扱われるべきではない」とトランプ政権を厳しく批判した。
運河管理の基本法にも「政府が通航料、手数料、税金の支払いを免除してはならない」と明記されており、大統領にも料金を免除する権限はないと強調した。
トランプ米大統領はパナマ運河を通過する米船舶が「法外な料金を支払っている」と不満をあらわにし、運河の返還要求をちらつかせてパナマ政府に譲歩を迫ってきた。
ムリノ氏は米国の支払う年間通航料が1000万ドル(16億円弱)未満と明らかにし、「運河の通航料は米国経済を破綻させるほどではない」とも話した。
パナマは2017年に台湾と断交し、中国と国交を樹立した。米国は運河両端の港を香港の複合企業、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)の子会社が管理し、運河周辺のインフラも中国企業が建設しようとしていることを問題視してきた。
2日にムリノ氏と会談したルビオ米国務長官は「中国共産党による運河地域の支配は容認できない」というトランプ氏の意向を伝え、早急に対応しない場合には「必要な措置をとる」と迫った。これにパナマ政府は相次いで反応した。
ムリノ氏は中国の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱を表明し、米メディアによると運河両端の港を管理する香港企業子会社との契約を解除する検討も始めている。米国船舶のパナマ運河の通航は「最適化する」と発表していた。
パナマ運河は米国が建設して1914年に完成させ、99年に返還されるまで米国が事実上の治外法権区域としていた時期もあった。
パナマ政府は返還から25年が経過したパナマ運河の所有権に「議論の余地はない」としながらも、トランプ氏の強硬姿勢を鎮めるために譲歩を重ねてきた。
パナマのアブレゴ治安相は4日にヘグセス米国防長官と電話協議し、米軍とパナマ治安部隊の協力関係を拡大することで合意したばかりだった。
パナマ運河周辺で中国の影響力を排除する狙いで、米国境を目指す不法移民の強制送還でも米政府と緊密に連携する方針はすでに確認している。