ホワイトハウスで首脳会談に臨んだ石破首相とトランプ大統領(7日、ワシントン)=AP
石破茂首相が1泊3日の強行日程で臨んだ初の日米首脳会談を終えた。首脳会談と共同記者会見を合わせてトランプ大統領と過ごした時間は2時間半ほど。
トランプ氏に「非常に強い男」と評され、日本政府内には同氏に「組める相手」と印象づけることに一定の成果を得たとの見方が強い。
会談は7日の昼前(日本時間8日未明)にホワイトハウス内のオーバルオフィス(大統領執務室)で始まった。報道陣に公開し30分ほど続いた少人数会合の後、昼食会で1時間20分ほど意見を交わした。最後に共同記者会見でおよそ40分対応した。
日本政府側は初対面となる首脳間の信頼づくりを今回の会談の最大のテーマに据えた。3つの場面に成果をみた。
一つは冒頭の少人数会合。首相は安倍晋三元首相の昭恵夫人を通じてトランプ氏から贈られた本の紹介から話を始めた。その本に同氏の自筆で「PEACE」と書かれていたと紹介し「感銘を受けた」ともちあげた。
トランプ氏が掲げる「力による平和」の「平和」のワーディングに着目し、この部分には全面的に賛同する――。同氏の傾向と対策を練ってきた首相は今回の会談の目標の一つをこう導き出した。
首相は会談の冒頭でトランプ氏を「神様から選ばれた」とも称賛した。これは当日の朝、アイデアが浮かび、急きょ取り入れた発言だった。
耳からの効果も狙った。今回、通訳を務めたのは安倍氏が首相だった際に起用した外務省の高尾直日米地位協定室長だった。課長級が通訳として赴くのは異例といえる。トランプ氏と蜜月関係を築いた安倍氏を想起させる狙いがあった。
トランプ氏は「シンゾーは素晴らしい友人だった」と振り返り「あなたの友人だったと思う。あなたを大変尊敬していると言っていた」と伝えた。日本国内では首相は安倍氏の政敵だったとの見方が一般的だ。
二つ目に首相自身の「トランプ評」を素直に示した。記者会見ではトランプ氏に関して「テレビでみると声高で、個性強烈で恐ろしい人という印象はなかったわけではない」と話した。
すかさず「実際にお目にかかると本当に誠実で、米国と世界への強い使命感をもった人だと感じた」と付け加えた。トランプ氏は笑いながらうなずいた。
トランプ氏も首相の印象を聞かれ「非常に強い男だ(I think he's a very strong man.)」と答えた。「素晴らしい仕事をするだろう。もうちょっと弱い方がよかった」と冗談をまじえて答えた。
最後は発言にウイットをきかせ、記憶に植えつけたことだ。記者会見で米国記者から英語で「米国が日本に追加の関税をかけたら日本は報復関税をかけるのか」との質問が飛んだ。首相は「『仮定のご質問にはお答えをいたしかねる』というのが日本の大体定番の国会答弁だ」と返した。
通訳を介したため時間差で会場内に笑いが広がると、トランプ氏は「とても良い答えだ。首相は自分が何をすべきかわかっている」と絶賛した。記者会見はこの質疑を最後にトランプ氏が一方的に打ち切って終わった。
トランプ氏が首相に配慮したように見えた場面もあった。「首相への質問はあるか」。トランプ氏は共同記者会見で米メディアに首相への質問を複数回促した。4日のイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見ではなかった光景だ。
首相は9日のNHK番組で「相性は合うと思う」と振り返った。同行した政府関係者の多くが「今回の訪米は一定の成果をあげることができた」と口をそろえる。
この関係が続く保証はない。首相自身が「いかに信頼関係をつくっていくか。また話したいという関係をつくらないと。1回で終わりじゃない」と強調した。
(黒沼晋、ワシントン=坂口幸裕)
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2月7日の日米首脳会談が成果を生み出したことは、日本国内のみならず、海外の政府関係者などにとっても大きな関心の対象となっていると考えます。
トランプ大統領にとって政権二期目では、イスラエルのネタニヤフ首相に続いて二人目の首脳となり、石破茂首相との首脳会談は「成功モデル」として多くの諸国政府の関係者がその経験から学ぶことになるでしょう。
そもそも日本は、政権一期目での安倍首相との友好的な関係構築という「経験値」があり、元防衛相の岩屋外相、元駐米公使の岡野国家安保局長、高尾直通訳官などのそこでの経験も基礎となっています。
ただし同時にトランプ氏の予測不可能性を軽視することは、大きなコストに繋がります。
石破茂首相は2期目が始まったアメリカのトランプ大統領と7日に首脳会談に臨みました。アメリカは日本にとって唯一の同盟国で、日本の経済や安全保障にとっても重みのある存在です。トランプ政権とのディール(交渉)への備えは欠かせません。トランプ政権下の日米関係を巡る動きを追います。
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日経記事2025.2.9より引用