5日の東京株式市場で日経平均株価の下落幅は前週末比4451円と過去最大になった。米景気の後退懸念と為替相場の急速な円高進行を受け、日本株を売り急ぐ動きが広がり、日経平均は2024年に入ってからの上昇分がすべて帳消しとなった。先物取引が一時中断される「サーキットブレーカー」も発動されるなど、市場は売り一色となった。
前週末公表の米雇用統計を発火点とする市場のショックが覚めやらぬ5日の東京株式市場。午前9時の取引開始からしばらく、多くの銘柄で「売り気配」の状態が続いた。大量の売り注文に対して買い注文が少なく、値がつかない状況だ。徐々に値がつくようになると日経平均は下げ幅を広げ、9時14分には2000円超安となった。
「『CTA』による売りを契機に、多くの投資家が損切りの売りに動いている」(CLSA証券の釜井毅生エグゼキューション・サービス統括本部長)。朝方に売りを先導したのは、広範な金融商品の先物を売買する投資家、CTAだ。
9時16分。CTAやヘッジファンドなどによる株価指数先物の売りが膨らみ、大阪取引所は東証株価指数(TOPIX)先物の取引を一時中断するサーキットブレーカーを発動した。
株価指数先物だけでなく、個別株にも狼狽(ろうばい)売りが広がった。9時27分、三井住友フィナンシャルグループ株は、前週末比1500円(16%)安の8162円と制限値幅の下限(ストップ安水準)を付けた。みずほフィナンシャルグループや三菱UFJフィナンシャル・グループも2割近く下げた。
東京都在住の20代男性は、人工知能(AI)関連の成長期待で保有していた村田製作所株や芝浦メカトロニクス株に慌ただしく売り注文を入れた。「あらかじめ決めていた損切りラインを急速に下回った」という。
11時半。日経平均は1662円安と9時台からやや下げ幅を縮めて午前の取引を終えた。しかし午後に入ると相場のムードが一気に変わった。理由は急激な円高進行だ。
朝方に1ドル=146円台で推移していた円相場は午後1時8分に143円台を付けた。これまで円安に下支えされてきた日本株。「今までの逆流が一気に来た。リスク回避のアンワインド(巻き戻し)が加速した時の恐ろしさを痛感した」(邦銀の外為ディーラー)
円高が一段と進むにつれ、日経平均は下げ幅を広げた。午後1時47分には3000円安、2時24分には4000円安と、下落が止まらない状況に。2時53分には4753円安と5日の取引時間中の最安値を付けた。
機関投資家だけでなく個人投資家も売りを迫られた。先週からの急落で、信用取引をする投資家が追加で支払う「追い証」が発生。保証金を捻出するための換金売りが広がった。SBI証券の川合智樹デジタル営業部次長は「個人投資家から『追い証が発生したがどうしたらいいか』という問い合わせが相次いでいる」と打ち明ける。
東京証券取引所によると、7月26日申し込み時点の信用取引の買い残高は4.9兆円と約18年ぶりの高水準となっていた。急落前に日本株の先高観から信用買いに動いていた個人投資家は売り戻しが必要になった。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「市場参加者の全てが一気にマーケットから資金を退避させようとして、売りが売りを呼んだ」と話す。
マネーの逃避先になったのが債券市場だ。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時0.75%まで低下(債券価格は上昇)し、約4カ月ぶりの低水準をつけた。株安で投資家のリスクオフ姿勢が強まり、相対的に安全な資産とされる債券に資金が流れ込んだ。大阪取引所は5日、長期国債先物でサーキットブレーカーを発動した。
日本株の急落はアジア市場にも波及し、韓国の総合株価指数(KOSPI)は9%安、台湾の加権指数は8%安で5日の取引を終えた。韓国サムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)はそろって10%安となった。
5日の東証プライム市場の売買代金は7兆9674億円と過去最高を記録した。信用取引などに絡んだ「投げ売り」が目立つ一方、下値を拾う動きも活発だった。市場関係者の間では、売買代金の大きさが日本株売りの一巡を示唆しているとの受け止めもある。
ピクテ・ジャパンの糸島孝俊ストラテジストは「投げ売りは5日までにかなり広がっているとみられ、短期的にはセリングクライマックス(売りの最終局面)が近づいている」とみる。
(桝田大暉、越智小夏、荒川信一)